3.21.共闘


 零漸と再会した。

 だが再会を喜んでいる暇はない。

 状況はまだ大きく変わってはいないのだ。


 零漸が来てくれたので俺は攻撃に集中できるかもしれないが、まだ零漸の技能を把握できていないのが少し心配だ。

 だが零漸はレクアムの熱線を素手で受け止めた。

 全く痛くなさそうだし、やはり防御力は恐ろしいほどありそうだ。


「兄貴、あいつなんですか?」

「現状では俺たちの敵だな」

「兄貴の敵は俺の敵っすね!」


 嬉しいことを言ってくれる。

 あれだけ短い時間の中でそこまで信頼されているとはな。

 ここは素直に感謝しておこう。


「零漸。あいつは魔法系技能であれば攻撃は通る。何か持っているか?」

「すいません、俺は防御系技能のほうが高いっす。なんで兄貴と後ろの鬼と馬車を守ります」

「おいおい……欲張るなよ? そんなに任せていいのか?」

「問題ないっすよ! 『空圧結界・剛』!」


 零漸が技能を詠唱すると、俺たちの後ろに分厚い透明の壁が現れた。

 驚くほどでかい。

 俺が持っている空圧結界の上位互換だろうか?

 言うだけのことはあるようだ。


 そうしている間にもレクアムが熱線を零漸に打ち込んできたが、零漸はハエを叩き落とすが如く、熱線をぺしっと叩いて軌道を逸らした。


「ちょっと! 準備してんだから赤い棒飛ばしてくんじゃねぇよ!」

「あ、あか、赤い棒だと!?」


 理解が浅すぎる!

 って言っても今の零漸にとっては熱も何も感じていないだろうからこんな感想しか出てこないんだろうな。

 まじか……。

 本当にこいつの防御力どうなってやがる。


「えーっと、応錬の兄貴にはこれっす。『身代わり』」


 零漸がそう言って俺に手を当てると、体が白色に光った。

 しかしそれは一瞬のことですぐに光は収束した。

 体を確かめてみるが特に変わったことはない。

 この技能はなんだ?


「兄貴、この技能は兄貴のダメージを俺が肩代わりする技能っす。アイツの攻撃は全然痛くないし何千発撃ち込まれようと、俺にダメージは与えられないっすからごり押しで勝てますよ!」

「ほんとにお前の防御力はネジ一つ飛んでんな」

「はっはっはー!」


 とりあえず、これで戦える準備は整った。

 ふとレクアムのほうを見てみると顔を真っ赤にしながらワナワナと震えて怒りを露わにしていた。

 俺たちが一体何をしたというのだろうか。


「赤い……赤い棒……!? 赤い棒だと……!? 二十年かけて研究し続けてようやく編み出したこの魔術をただの赤い棒呼ばわりだと!?」


 いや、そこかよ。


「お、おまえ……貴様ぁ! わしの研究を侮辱しおって! 許さんぞ黒髪ぃ!!!」

「うるせぇな! かっこいいの魔法陣だけだろ! 魔法陣のでかさの割りに撃ち込んでくる棒がしょぼいんだよ!」


 馬鹿野郎!

 お前、お前これ以上怒らすな!

 あーあー、だーめだこりゃ。

 完全にブチギレてますね!


「殺す!」


 レクアムは魔法陣を再形成して熱線を連射してくる。

 俺は少し身構えたが、俺の前に零漸が飛び出して片手を熱線に向けた。


「『空圧結界・剛』! そんでもって~放出! 行ってこい!」


 零漸の前に俺たちと同じ大きさの結界が出現する。

 暫くの間熱線を凌いでいたが、零漸が結界を放出させると、レクアムに向かって真っすぐ進んでいく。

 勿論全ての熱線を受け止めながらではあるのだが、勢いは弱まることなくどんどん速度を上げていった。


 カーン!


 そんな音を立てながらレクアムに直撃した。

 レクアムは大きく吹き飛ばされ、地面を転がった。

 すぐに起き上がったが忌々しそうにこちらを見ている。

 あらやだ怖い。


「なんだ、零漸攻撃できるじゃねぇか」

「違うんすよ~。これだと致命傷にならないんです」

「ロックガン……いやあの時はロックキャノンだったか? それはどうした?」

「消えました!」


 ああ、俺もそんなことあったわ。

 俺の場合は光合成って技能が消えただけで別に痛くも痒くもなかったけどな。


 攻撃技能がなくなるとは……零漸は随分頑張ってきたんだな。

 どうやってここまで生きてこれたんだろうか。

 ま、いいか。

 今ここにいるわけだし。


 と思っているとまた熱線が飛んできた。

 それに零漸は反応できなかったようで、全ての熱線を体に受けたようだが、全く動じていない。

 まさに不動。

 痛がるそぶりを見せるどころか、煙たそうに手をぶんぶんと振っているだけである。


 数発俺にも当たったのだが全く痛くなかった。

 衝撃すら伝わってこなかったのだ。

 これが身代わりの効果なのだろう。


「ぶへ~。鬱陶しいっすね。兄貴、さっさとやってくださいよ」

「そうだな。お前のすごい所も見れたことだし、俺の良い所も見せてやんねぇとな」

「お! それでこそ応錬の兄貴っす! 頑張れー!」


 気の抜ける声援だ。

 だがまぁ悪い気はしない。

 今回は身代わりもあることだし、本当にごり押しで戦ってみることにしよう。

 勿論極力避けるがな。


「『多連水槍』、『連水糸槍』、『鋭水流剣』」


 片手に日本刀を模した鋭水流剣。

 前まではロングソードの形にしか変形できなかったのだが、鍛錬していくうちに剣の形も変えれるという事がわかったのだ。

 日本人に一番馴染みのある形の刀。

 これは想像がしやすく、すぐに作り出せた。

 因みに切れ味はロングソードの二倍以上はある。


 そして空中に多連水槍を十五本出現させる。

 先ほどMPを結界で使いすぎたため、安全に戦える範囲であればこの辺りだ。

 その中の四本を連水糸槍に変換させている。


「うぉおー! なんすかこれー! かっこいいじゃないっすか!」

「かっこいいのは見た目だけじゃないぜ?」


 そう言ってから走り出す。

 レクアムの熱線攻撃は未だ続いているため接近するのに時間がかかりそうだ。

 しかし連水糸槍と多連水槍は一足先にレクアムに攻撃を仕掛けに行った。


「舐めるな!」


 レクアムも負けじと、先ほど出現させた炎の剣を出現させて多連水槍を何とか凌いでいる。

 だがそのすべてがレクアムの近くで弾き合っていた。

 レクアムは炎の剣を防御に回したようだ。

 だが遠隔操作型の技能はそのすべてを把握しておかなければ上手く使う事はできない。


 俺のようにただレクアムを刺し殺せと言うように、簡単な命令であれば無視していてもいいのだが、防御に回るというのであればその攻撃をすべて見ておかなければならない。

 多少は技能の補正として自動的に動いてくれるかもしれないが、それでも性能は数段劣る。


 まだ俺はレクアムに近づけていないが、連水糸槍を操ってまた切り飛ばそうと考えていた。

 幾重もの剣の弾き合いのなか、二本の槍が同時にレクアムの横を通った。

 レクアムは自分を攻撃してきていないことに違和感を覚えたようで一瞬首を傾げる。

 するとその瞬間、レクアムは一本の炎の剣を自分の目の前に出現させる。

 すると剣は見えない何かに引っ張られるようにレクアムのほうに近づいて止まった。


 失敗だ。

 糸をレクアムの体に当てようと思ったのだが剣に防がれた。

 ほとんど見えない糸だが先ほどの攻撃を喰らって警戒していたのだろう。


 だがまだ俺の攻撃は終わらない。

 先ほどレクアムの左右を通り過ぎた槍をレクアムの方に交差して戻す。

 これで今、レクアムは糸に周囲を囲まれている状態だ。

 このまま槍を引っ張っていけば体を切り飛ばせる。


 槍の速度を上げて糸をレクアムに絡めていく。

 レクアムの杖に糸が当たった瞬間、レクアムはしゃがんで糸の攻撃を回避した。

 これまた失敗だ。

 恐らく杖を通して手に伝わった感触で糸が迫ってきていることに気が付いたのだろう。

 だが杖と炎の剣は切り飛ばすことができた。


 流石、素晴らしい切れ味だ。


「で? しゃがんでよかったのか?」

「!!?」


 あの攻撃の間のなかで接近するには十分すぎる時間だった。

 既に刀を振り上げてレクアムを狙っている。

 周囲の炎の剣が防衛をやめて俺に集中してくるが、それを易々させるような多連水槍ではない。

 今度は俺が防衛に回ってしまったが槍は長い。

 その長さを生かして炎の剣を弾き飛ばしていく。


 しゃがんだばかりのレクアムは逃げることはできない。

 とっさに横に飛ぶこともできると思うが態勢は崩してしまうだろう。

 そこを狙わないほど俺は甘くない。

 しかし横に飛ぶ時間をやるなどもってのほかだ。

 俺はそのまま刀を振り下ろした。


 せめて少しでも体を守ろうと腕で刀を防ごうとするが、こいつの切れ味は連水糸槍をも凌駕する。

 綺麗にスパッと腕が飛んでそのまま顔から胴体にかけて切り伏せた。


「っぎゃあああああああ!?」


 レクアムが悲鳴を上げる。

 しかしまた再生するかもしれない。

 そうなってしまえば面倒だ。

 なのでこのまま畳みかけようと足を踏み込んだ。


 しかし、何かの壁に阻まれて接近することができなかった。

 見えない壁なので思いっきり体をぶつけてしまった。

 非常に痛い。


「っ!? なんだ!」


 見てみるとレクアムの周囲に魔法陣が一つ浮かんでいた。

 それは光を纏いレクアムを包んでいた。


「貴様らはぁあ! 絶対に殺ぉす! 覚悟しとけ! いいなぁ!」


 激痛に顔を歪ませながら消えていくレクアムを俺は見ていた。

 逃がさまいと壁に刀をぶつけるが切れなかった。


 そうしている間にもレクアムは白い光に包まれていき、光で完全に見えなくなると一瞬で白い光は消えた。

 そしてレクアムの姿もなくなっていたのだった。


 直感でわかった。

 逃げられたのだと。

 しかし俺たちはSランクの冒険者と戦うことができた。

 零漸が来てくれなかったらどうなっていたかわからないが……まずまずの戦績だろう。

 落ち着いてきたところで怪我人がいたことを思い出す。


「! ウチカゲ!」


 まだ重傷を負ったままだ。

 早く手当てしてやらなければならない。

 技能をすべて解いてウチカゲの元に走っていく。

 零漸の隣を通り過ぎると声をかけられた。


「あ、応錬の兄貴ちょっとま──」

「ごはっ!?」


 壁にぶつかった。

 それも全力で。

 超絶痛い。


「す、すいません。まだ技能解いてないっす」

「~~っ早くしろ馬鹿!」


 零漸が技能を解いたのを確認すると、俺はすぐにウチカゲに近づいて『大治癒』をかける。

 体の傷は全て塞がって火傷もなくなったが、気絶していた。

 脈を測ってみるとちゃんと脈打っていたので生きている。

 そのことに胸をなでおろしてとりあえず馬車に入れた。


 中に入るとアレナとサテラが身を寄せ合って片隅で縮こまっていた。

 外からは激しい剣の打ち合いや罵声が聞こえたはずだ。

 怯えてしまうのも無理はない。


 因みに……ウチカゲが作った影媒体の分身は消えてしまっていた。


「ウチカゲ大丈夫?」


 だがすぐにアレナとサテラがウチカゲを心配して近づいて来てくれた。

 微力ながらもウチカゲを運び入れようとしてくれている。

 中に入れて毛布を枕にして寝かせて、様子を見ることにした。

 とりあえずしばらくすれば起きるだろう。


 アレナとサテラに看病を任せようと思い、そう提案すると二人とも元気よく頷いてくれた。

 しかし、二人の目線はウチカゲではなく、俺の後ろにいる零漸に向けられているようだ。


「え~っと……」

「ほれ、零漸。挨拶しろ」

「こ、子供じゃないんですから! でも子供って……どうやって接すれば!?」


 お前もか。

 その気持ちわからんでもない。

 俺もアレナに初めて会った時はどうしていいものか迷いに迷った。

 まぁアレナが俺が言葉を理解してくれると早く気が付いてくれたおかげで何とかなったのだが……。

 でも今回は言葉が喋れるんだ。

 ひよるな零漸。


「応錬ー」

「ん? なんだサテラ」

「その人臭い」


 零漸に電撃が走った。

 膝をついてなんか嘆いている。


 だがそう言われるのも仕方がないだろう。

 着ている服は何かの血にまみれた動物の皮。

 その血は頭とかにもこびりついている。

 風呂なんか入っていなかっただろうしな。

 サテラの言う通り確かに嫌な匂いがする。


 だが零漸は俺たちの恩人であり、俺の親友なのだ。

 少しフォローしておこう。


「サテラ、アレナ。この人は俺の親友だ。それに助けてくれたんだぞ? そんなこと言っちゃだめじゃないか。わかるけど」

「そこわかっちゃうんすか!?」

「いいから水浴びろ! ほれ! あとその服は捨てろ。こっちで用意しとくから」

「あ、あざっす! やっと文明人になれるぅー!」


 何か言っているけど無視でいいだろう。

 無限水操で水を出して零漸を洗っていく。

 すぐに真っ黒になってびっくりしたけど、こうして零漸は綺麗になったのだった。

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