3.22.零漸の技能


 俺たちは何とかレクアムの襲撃を乗り切ってガロット王国に向けて馬車を走らせていた。

 今は俺が馬車の手綱を取ってスターホースを歩かせている。


 ここに来るまでに、ウチカゲから馬車の操作方法を教えてもらっておいてよかった。

 やはり何事も経験だな。

 どうせ使えないと思っていた特技や趣味も、何かの拍子でとても役立つときがある。

 この世界……いや、どんな世の中にも無駄という物はないのだ。


 先ほどの戦闘からあまり時間は経っていないが、零漸はすっかりアレナとサテラに懐かれたようだ。

 最初こそ警戒していたようだが、持ち前の頭の悪さでなんやかんや仲良くなってた。

 まぁ面白い奴だと認識されたのだろう。


 馬車の中ではやかましいくらい三人がじゃれ合っているが、まだウチカゲは目を覚まさない。

 体の傷は全て塞いだし、大治癒で疲労も回復したとは思うのだが……。

 まぁあの戦闘の後だ。

 精神的に疲れたのかもしれないな。

 目を覚ますまではゆっくりと寝かせておいてやろう。


 だが夜までには起きてほしいな……。

 実際俺も疲れてしまっている。

 休憩したいというのも勿論あるのだが、何より夜の野営を手伝ってほしい。

 情けない話だがまだ俺だけでは全て賄えないのだ。

 零漸は雑そうだしな。

 先ほどまで着ていた服を見ればそのことは一目瞭然である。


 因みに零漸は今、馬車に入れておいた余っている服を着てもらっている。

 上には丈の長いベージュ色のシャツだ。

 膝あたりまであるので、普通に着流しているとみすぼらしく見えたため、黒い腰帯でキュッと縛っておいてあげた。

 これなら多少良く見えるだろう。

 下にはあずき色のズボンを履いてもらっている。

 こうしてみるとなんだか農民のようにも見えなくもない。

 かっこいいもの好きの零漸にとってこの服装はあまり好みではなかったようだが、これしかなかったので妥協してもらった。

 ガロット王国に帰ったらいいものをアスレに揃えてもらうことにしよう。


 アレナも奴隷服のままではいけなかったので、サテラが持っていた服を着てもらっている。

 本当なら昨日のうちに着替えさせておくのがよかったのだが……浄化の事だったり子供たちの事があったりしたのですっかり忘れてしまっていた。

 失念しておりました。


 サテラの持っていた服は、ガロット王国で調達した服だったので割かしいい服である。

 どちらもベージュと肌色を合わせたような色合いの服だが、ボタンやらリボンやらが付いているので寂しい感じの服装ではない。

 お揃いに近い服なので時々どっちがどっちだかわからなくなりそうだ。

 まぁ身長差でわかるのだが……。


 しばらくすると馬車の中から声が聞こえなくなった。

 どうしたのだろうかと思い見てみると、二人とも寝てしまっているようだった。

 はしゃぎ疲れてしまったのだろう。

 寝かしつけた零漸がひょいっと飛び出してきて隣にストンと座った。


「やっと寝てくれました」

「ご苦労さん。なんだ、戸惑ってた割には慣れているじゃないか」

「そうっすか~? 二人が懐っこかったから何とかなったもんですよ」


 まぁそれはあるかもしれないな。

 だが俺よりよっぽど子供の扱いは良かったぞ。

 口に出して言うと調子に乗りそうなので言わないけどな!


「兄貴は今まで何してたんすか? なんかいろいろ巻き込まれてそうでしたけど……。転生して一ヵ月弱で敵作るって、なかなかできたことじゃないっすよ?」

「おっとぉ……痛いところついてくれるねぇ。まぁいろいろあったんだよ」

「気になります!」


 隠すことでもないのでとりあえず全部話してやることにした。

 零漸と別れて陸に上がり、家を作ったこと。

 強敵と戦って吹き飛ばされた事。

 奴隷商に捕獲されてアレナに会い、脱出を手助けしてもらった事。

 他にも鬼に会ったことや、戦争になりかけたこと。

 後はガロット王国での事と、サレッタナ王国での事。


 話の中で回復系技能の事や技能と魔術の違いも全て教えておいた。

 これはいずれ零漸も使ったりするかもしれないから、危険性などを教えておく。

 後は俺がこの世界を旅して分かったことも話しておいた。

 とは言っても教えれることはあまりない。

 教えれたのは種族の事や金銭の事、後は王族や貴族がいるという事くらいだ。

 ギルドのことについても教えておきたかったがそれはまた確認がてら、ウチカゲに説明してもらうことにしよう。


 全部教えている間にも零漸は大げさなほど良いリアクションを取ってくれていたが、これは全て素だろう。

 特に戦争になりかけたことと、アレナを救出したときの話は一人で大いに盛り上がっていた。


 ついでに今持っている俺のステータスも全て教えておいた。

 知っておけば、今度の戦闘で連携を取りやすくなるだろう。

 味方のステータスを把握しておくのは大切なことだ。


「ほぇ~! じゃあ兄貴も次のレベルに上がるには200のレベルが必要なんですね!」

「も? ってことはお前もか?」

「はいっす! めっちゃ頑張りましたよ~!」

「まずステータスを教えてもらってもいいか?」

「うっす!」


 てことで零漸は自分のステータスを俺に教えてくれた。

 零漸のステータスはこのようになっている。


===============

 名前:零漸(レイゼン)

 種族:爆硬トータル


 LⅤ :21/200

 HP :1092/1092

 MP :403/403

 攻撃力:203

 防御力:2546

 魔法力:400

 俊敏 :254


 ―特殊技能―

 『地の声』『大地の加護』『過去の言葉』


 ―技能―

 攻撃:『受け流し』『かみ砕き』『圧縮プレス』『爆拳』『貫き手』

 魔法:『決壊』『魔力吸収』『地鳴』

 防御:『盾纏い』『空圧結界・剛』『防御力強化』『エアーシールド』『エアープリズン』『ニードルシールド』『爆硬壁』

 回復:『超回復』『ハイヒール』『ヒール』

 罠術:『とらばさみ』

 特異:『身代わり』『土地精霊』

 自動:『自動結界』『自己強化』


 ―耐性―

 『孤独』『眩み』『地震』『衝撃』『毒』『火炎』『盲目』『爆破』

===============


 防御力を聞いて吹き出してしまった。

 なんだこいつ。

 てかHPも俺より上じゃねぇか!

 レベル21でそんなことになってんのかこいつ! どうなってやがる!


 ちょ、ちょっと俺のステータスと見比べたほうがよさそうだな。

 俺も今まで食料を調達している時に魔物を倒したし、それで少しレベルが上がっているのだ。

 再確認と行こう。


===============

 名前:応錬(おうれん)

 種族:ウェイブスネーク


 LⅤ :34/200

 HP :376/376

 MP :478/478

 攻撃力:555

 防御力:464

 魔法力:640

 俊敏 :476

===============


 うん。まだ俺の方が上の技能はいっぱいあるけど、HPと防御力はネジ一本外れてんな。

 半端ねぇ……。

 確かウチカゲの攻撃力って二千台には乗っかってなかったよな。

 ウチカゲの攻撃力を凌ぐ防御力……か。

 本当に歩く城になってしまうのではないだろうか?

 絶対に敵に回したくない奴である。


 でも技能がはっきりしたおかげで、自分の戦闘スタイルが決まったのだそうだ。

 ごり押しで何とかなると言っているけど、まぁ本当に何とかなってしまうんだろうな。

 零漸のステータスを見る限りそれがよくわかる。


 技能も昔に比べて随分多くなっているな。

 この世界にはなぜ漢字と英語の技能があるのだろうか……。

 俺たちに合わせているのかわからないが日本語……っていうか漢字が多い。

 わかりやすくていいけどさ。

 いや俺の技能は全部漢字だったわ。

 英語ないわ……。


 つーか零漸、とんでもない種族になってんな。

 名前からしてやばそうじゃないか。

 はー……これじゃあ俺は零漸に勝てそうにないなぁ~。

 零漸普通に強いわ。マジで。


「とんでもない防御力だな」

「そうなんすよー! だから感覚がほとんどなくなっちゃって……。何か握っててもなんも握ってない感じがするんです」

「防御力が高すぎるってのも問題だな」

「本当っす。多分俺の自動型技能の自己強化に問題があるんですよ」

「どんな技能なんだ?」

「簡単に言うと俺の防御力を二倍にしてくれます」

「……」


 何も言えなかった。

 詳しく話を聞いてみると、自己強化という技能は状況に応じて自分の硬度を上げてくれるそうだ。

 だが無意識下で発動する技能なので、どこで発動しているのか自分でもわかっていないらしい。

 意図に技能を解除することもできるそうなのだが、不意にまた発動してしまうのだとか。

 無意識下であるのに、何故発動しているか発動していないのかがわかるのか聞いてみると、発動していないときはしっかりと何かを触っている感触があるらしい。

 だが発動すると何も感じなくなったのだという。


 発動の条件は本当に不規則らしく、まだ完全に把握しきれていないようだ。

 割と技能に関して研究している零漸に俺は驚いた。

 俺は技能なんてほとんど研究してない。

 精々どれくらいMPが消費されるのかを確かめるくらいだ。

 少しだけ零漸を見直した。

 やればできるじゃないか。


「てな感じの厄介な技能です」

「へ、へぇ~」

「応錬の兄貴は随分と平均的ですよね。弱点とか無さそう」

「そうなんだよ。だからどう伸ばせばいいかわからないんだよな。さっきの戦闘でも見たと思うが、遠距離と接近どっちも行けるからな」

「両刀使いがいいのでは?」

「むずくね?」

「でもかっこよくないっすか?」


 あ、やっぱり零漸の中の基準はかっこいいかかっこよくないかなのね。

 まぁ確かに両刀と言うのは実現不可能ではない。

 遠距離では多連水槍、連水糸槍が大活躍。

 接近戦では……まだ使ったことはないが波拳が使えそうだ。

 それに自動型技能で防御貫通と言う物がある。

 一撃でも与えることができるのであれば、ほぼ確実に戦闘不能にすることができるだろう。

 喰らった相手は死ぬ可能性があるがな。


 他にも強そうな技能はあるのだが……どうにも危険そうだから使え切れていないのが現状だ。

 流石に……味方は巻き込みたくないからなぁ。


 だが遠距離攻撃、接近攻撃のどちらにも問題はあった。

 まず遠距離攻撃の場合。

 確かに安全に戦えるし援護にも適しているので、戦闘では大いに役に立つだろう。

 だが、MPが少なすぎるのだ。

 MPが切れてしまえば使えないし、無理をすればMP切れになって味方に迷惑をかけてしまう。

 今持っている技能では普通にMPを100持っていく技能もある。

 そう考えるともっとMPは増やしておきたい。

 今後あの二つの技能だけで渡り合えない敵が出てくるという事もある。

 今の状況では遠距離型の攻撃系技能はまだ過信できない。


 次に接近攻撃の場合。

 正面切って敵と渡り合うので危険が伴う。

 だが俺の場合、攻撃が入れば致命傷に持っていくことができる。

 MPの消費もほとんどないし、何かあれば他の技能で攻撃を防ぐことも容易だ。


 しかし……接近戦の戦い方をほとんど知らない。

 剣と剣を交えたこともなければ、その光景を見たことすらないのだ。

 簡単に言って今の俺はど素人。

 闇雲に前に出たってすぐにやられるのがオチだろう。


 なのでその両方を補うという事で、両刀使いになるというのは確かにアリだ。

 だがどちらも精度がまだ悪いし、両方を扱えるほど俺の頭の回転速度は速くない。

 片方を補うのはまだいいが、両方を補い合うというのは難易度が高いのだ。


 だがそう言っていても敵は待ってくれない。

 上達するほかに道はないのだが……今はどの路線で攻めようか悩むところであった。

 接近戦か、遠距離戦か……はたまたその両方か。

 悩ましい。


「応錬の兄貴ならいけるっすよ!」

「簡単に言ってくれる……。で? お前はあれからどうしてたんだ?」

「今度は俺の番っすか! えーっとですね。兄貴と別れてからは~……」


 零漸は振り返るかのように、空を見上げて楽しそうに語り始めた。

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