3.23.零漸の歩いた道
零漸は俺と別れた後、泳ぎ回って魚と言う魚を昼夜問わず捕食しまくったらしい。
なんでも、早く俺に追いついて一緒に旅がしたかったからだそうだ。
頑張った甲斐もあって三日後にはやっと亀になれたらしい。
既に亀。
俺はまだ蛇だというのに。
だが始めは子亀で、まだ小魚くらいしか食べれずに四苦八苦していたそうな。
そこで俺が食べなかったベドロックを何とか食って、そこそこ大きくなることができたらしい。
やっとこさ川辺から離れて捜索を開始。
しかし行けども行けども森ばかり。
さらにここがどこかもわからず、川に戻ることもできずに早速遭難。
感知系技能がないので獲物も碌に取ることができず。餓死寸前にまで何度も行きかけたそうだ。
弱っては敵に襲われて返り討ち。
高い防御力に助けられながら、なんとか進む事ができたのだという。
特に何か出会いがあるわけでもなく、襲われては返り討ちという作業を、随分長いこと繰り返していたようだ。
そして地の声からこんなメッセージが届いたのだという。
【十分な質量を検出しました。記録します】
何もしていないのにポンっといきなり言われて驚いたのだが、特に思い当たることがなかった零漸は完全無視を決め込んだ。
だがその後も様々な言葉が飛び交い、全てが検出された時に人間になれますという言葉を地の声から聞いたらしい。
零漸はそのメッセージが出現する時は、ずーっと歩いていたようなので、歩いていれば増えていく物なのだとずっと思っていたようだ。
まぁ……そりゃそうだわな。
俺もあれよくわかってねぇもん。
それから零漸は人間の姿になり、服を調達するために熊や猪みたいな魔物を狩りまくったらしい。
繋いでローブみたいにしてみたり、穴を開けて腕を通してみたりと、色々試行錯誤していたようだ。
血の匂いで魔物が寄ってきて食事は以前よりあまり困らなかったようだが……それは良いことなのだろうか……?
暇つぶしに丘に登って朝焼けを眺めていたところ、サレッタナ王国を発見したらしい。
そこに向かっている道中、大きな音がしたので急いで駆けつけると、戦っている鬼と白髪の男性がいたようなので、すぐに駆けつけてくれたとの事。
地面を殴って爆発させて空中に飛んだのだとか。
どんな登場の仕方だよ。
てか爆発音聞こえなかったぞ。
始めは俺だとはわからなかったらしいが、雰囲気で俺だと確信したらしい。
それだけで確信するなんてどうなってるんだとは思ったが、来てくれて本当に助かった。
もう一度礼を言う。
そして今に至る。
「っていうわけっす!」
「長旅だったんだな~……俺より苦労してるじゃねぇか」
「常時遭難してましたからね!」
大声で笑っているが笑い事ではない気がする。
あの皮で作った服がなければ獲物も寄ってこなかっただろうし、一歩間違えれば死んでいたことだろう。
よくもまぁここまでこれたものだ。
「そういえば零漸。お前はこれからどうするんだ?」
「どうもこうもないっすよ。兄貴についていきます!」
「まぁそうだわな。別に構わんぞ。お前が好きそうな情報もあるしな」
「え!? なんすかなんすか!?」
ずいっと顔をこちらに持ってくる。
近いんだって。
顔を抑えつけ、とりあえず距離を取らせた。
それから本題に入る。
「この世界にはギルドがあるらしい。冒険者ギルドな。俺とウチカゲは今の一件が片付いたら冒険者になろうと思うのだが……お前はどうす──」
「なります!」
即答だった。
まぁならないという選択肢は零漸の中にはないだろな。
こういう世界好きそうだし。
ウチカゲは冒険者登録をしているが俺たちはまだだ。
なのでガロット王国で冒険者登録をしようと思っている。
アレナとサテラとは暫くお別れになるな……。
この二人の事はガロット王国のアスレが面倒を見てくれるはずだ。
復興のこともあるだろうし、二人はその代表……に近い形になるのだろうか?
名前忘れたけど、アレナとサテラの父親は領主だったからな。
その子供が領地の主を継ぐのは自然なことだろう。
まだ子供で何もできないかもしれないが、今はパラディムがいる。
二人の父親の隣にずっといた人物だ。
きっとアレナとサテラを立派な領主にしてくれるに違いない。
今アスレが何をしているかはわからないが、恐らく他の国に赴いて挨拶をしているころだろう。
サレッタナ王国にももう行ったのだろうか?
サレッタナ王国にも、アレナたちの居た領土の民たちが奴隷としているからな……。
早く助けてやってほしい。
まぁアスレなら上手くやってくれるだろう。
そういえばあのクズ王とラッドは何してんだろ。
「早くかっこいい防具とか着てみたいっすねー! くー!」
「お前に防具はいらないのでは?」
「何言ってるんすか兄貴! ここは見た目が大切なんですよ! こんな格好でダンジョンとか潜ったら絶対笑われますよ!」
「ああ……それもそうか」
「俺も武器とか欲しいんすよー! 兄貴! 国に行ったときどんな武器がありました!?」
そう言われて思い出そうとする。
だが武器屋や防具屋には一度たりとも入ったことがないので、全く分からない。
しかし、奴隷商につかまった時に他の荷台を覗いたことがある。
そこには武器が沢山あったな……。
「んーロングソードや片手剣……盾とかもあったかな? 日本刀とかは鬼の里で作ってもらえるぞ」
「おおー! 日本刀ですか! んーでも俺はあえて馴染みのない武器を使ってみたいっすね~!」
「ああ。それもいいかもしれないな。俺は日本にあった武器のほうが扱いやすそうでいいけどな。零漸はどんな武器が使いたいんだ?」
「ん~~! そうっすね~。とにかく派手なのがいいっす! 変形する武器とかー、爆発する武器とか~」
「いや爆発するのはお前の拳だろ」
「そうでしたっ!」
十分技能だけで派手だとは思うのだけどな。
しかし変形する武器か……。
この世界にそんな技術があるのだろうか?
……魔法とか技能とかあるんだぞ? なくね?
いや、だがそれを口にするのは無粋だな。
夢を壊してはいけない。
見ろよこの零漸の夢と希望に満ち溢れた表情。
この顔を俺が壊していいわけがない。
将来来店するであろう鍛冶師よ。
現実を見せるのはお前だ。
頑張って生きてくれ。
とりあえず、零漸は俺たちと一緒に行動するという事らしいので、これからのことについてとりあえず話しておくことにした。
まずはガロット王国に帰ってアレナとサテラを預かってもらう。
ガロット王国の内政はバルトが整えてくれているだろうから、もう奴隷狩りに怯えることはないだろう。
で、冒険者登録をしておく。
街を少し観光してから一度前鬼の里に戻り、そこで武具を整えることにする。
後、ガロット王国に帰ったらまずレクアムのことを伝えておかなければならないな。
まぁその辺はバルトやギルドに任せる。
それからは未定だ。
とりあえず好きに冒険者ランクを上げてみることにしよう。
んー……想像してみるだけで面白そうだ。
だが……レクアムに捕まっている奴隷たちを優先したほうがいいかもしれないな。
今回は戦争の火種になるかもしれないアレナを救出しただけだ。
とんでもない場所にいたけどな……。
マジでびっくりだぜ。
よし。やっぱりレクアムに捕まっている奴隷を助けることを優先しよう。
見つけてしまったんだし、最後までやらないと後味悪いからな。
あ……ドルチェのこと忘れてたわ。
やっべ。
なんか知らない間にいろいろやらかしてる気がする。
口約束しすぎたかなぁ……いやでもほっとける状況でもなかったし、皆いい奴だし……。
うん、どちらにせよサレッタナ王国に戻らなければならないな。
「ていうか兄貴、ちょっと性格変わりました?」
「おん? マジで?」
「はい。なんか前はもう少し馬鹿っぽい感じが……」
「おい」
いや、でも確かにそんな感じはする。
なんだろう、蛇の時の方がテンション高め……?
そう言えば、意識していたわけじゃないけど、人間の姿になってから少し落ち着いたよな……。
人の姿になると何か抑制されるのだろうか?
「ま、俺はどっちでもいいっすけどね!」
「俺は少し気になるんだが……」
「ぐ……。ここは?」
「お。起きたか。ウチカゲ」
随分と復活が速かったな。
流石鬼……と言うべきなのか?
ウチカゲは目隠しがないためか、馬車の中にいるにもかかわらずとても眩しそうにしている。
馬車を一度止めてウチカゲの近くに寄って体調を確かめる。
「大丈夫か?」
「ああ、はい。おかげさまで……大治癒と言うのはやはりすごいですね」
「本当はすぐに治してやりたかったんだが……あいつの居る手前、見せるのは危険だと思ってな……。すまんかった」
「いえ! あれが最善です! もし見られていれば確実に応錬様は狙われることになりますから」
「……そうだな。ま、無事でよかった」
一度ウチカゲの肩をポンと叩いてから、また手綱を握って馬車を走らせる。
ウチカゲは俺と代ろうとしていたが、病み上がりに任せられる仕事ではないので大人しくしてもらうことにした。
「えっと……えーと」
「人見知りかお前は。いつも通りでいいんだよ」
零漸はどうやってウチカゲに声をかけようかすごい悩んでいた。
別にそんなに考えることではないと思うのだが……考えてみれば零漸はここ一ヵ月、人と話していなかった。
慣れた人物とでないといつも通りにできないのかもしれないな。
それに鬼だ。
鬼……零漸からしてみれば人外にあたる種族。
緊張もするか。
「えー……っと。零漸だ! よろしくな! 鬼!」
「おお! 貴方が零漸殿ですか!」
「うぇ!? 知ってんの!?」
「知っているも何も応錬様から聞かせていただきました! っと失礼、俺はウチカゲと言います。今は訳あって応錬様と共に旅を続けています」
ウチカゲに零漸のことを話しておいてよかったな。
うん。
これならすぐに仲良くなってくれそうだ。
「どんなこと聞いてた?」
「はい。防御力に長けておられ、素晴らしいセンスの持ち主だと!」
そこまで言ったっけ?
「兄貴~いいこと言ってくれるじゃないっすか~!」
「まぁな?」
「後、頭が悪いと」
「兄貴!!?」
「ばっかウチカゲそういうことは黙っとくんだよ!」
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