10.60.地上部隊
鳳炎とダチアが悪魔と合流した頃、地上を走るウチカゲとリゼの部隊は大量の魔物にその行く手を阻まれていた。
どれもが大型の魔物であり、空を飛ぶ小型、中型の魔物も相まって戦いにくい。
とはいえ、彼ら全員は実力者。
魔物の群れを何とか捌きながら、ゆっくりと前進している最中だ。
大型の魔物が前に出て来た瞬間、空を飛んでくる魔物と一緒にティックがトルネイドですべてを吹き飛ばす。
何とかその攻撃を耐えた魔物には、リゼが広範囲雷魔法で攻撃して絶命させた。
応錬たちの部隊の近くにいくまではできるだけ魔力を消耗したくないので、今はこの二人をメインにして戦闘をしてもらっている。
二人の攻撃をかいくぐってきた魔物だけは、後方に控えている者が対処して事なきを得た。
一体や二体であれば問題はない。
道ができたことを確認し、全員がその道を走り抜ける。
目的地まではまだ距離がある。
騎竜の足で十二分くらいだろう。
それくらいの距離であればここにいる者たちならすぐに到着できるのだが、普通は馬車で数時間の道のりだ。
騎竜が速いので勘違いしやすい。
「はぁー……。よし! いいよー!」
「いいわね! リック! お願いねー!」
「ガルルッ!」
サンダーウェーブを使って雷を地面に走らせ、敵が倒れて行く所を確認したリゼは一つ息をついた。
こういうのは慣れないが、それでも戦えているということが彼女に自信をもたらした。
すぐにバトルホースに跨って手綱を握る。
道が開いたことで、騎竜やウチカゲ、カルナも走り出す。
大量の魔物はまだ奥にいるようだが、先制攻撃を空中にいるティックがしてくれるためこちらは何処に敵がいるのかがよく分かった。
派手な技能も時には違う方面でも役に立つらしい。
とはいえここまで派手に暴れてしまっているので、声には存在がバレているかもしれなかった。
悪魔の増援かとも勘違いされるかもしれないが、攻撃の仕方が違うのだ。
新たな援軍を向かわせてくるに違いない。
そのことを頭に入れつつ、ウチカゲとカルナは集中して気配を辿る。
いつどこから敵が来ても反応できるように、警戒をしているのだ。
今のところは問題ないらしいが、空からの敵が厄介なのでそちらは特に気を配る。
「おっ、なんかいっぱい来たな……」
空中にいるティックが遠くを見る様にして敵を発見した。
どうやら空を飛ぶ魔物の軍団らしい。
ウチカゲもそれに一早く気付いたようで、そちらの方向を見ている。
だがティックがすでに気付いているということが分かったのでそちらは任せることにして、再び足を動かして走った。
ティックはクルクルと器用に杖を回し、その魔物の軍団に向かって杖を向ける。
距離、移動速度を目視で確認してこれくらいかな、と首を傾げながら杖を振った。
「『空砲』」
ドンッ!!!!
空気の塊を空飛ぶ魔物の軍団に向けて発射させた。
不可視の攻撃は見事軍団の横っ腹を突いたらしく、ほとんどの魔物が体勢を崩して地面に落下する。
落下した魔物は地上を蔓延る大型の魔物が食べてしまうので、こちらに再び飛んでくるということはないだろう。
「……連携は取れてない。ただ大量の魔物を出現させて、向かわせる方角を指示しているだけ……かな?」
腕組をしながら、ティックはそう呟いた。
どう見ても連携はしているようには思えない。
味方を食べるなどもっての他だ。
となると、陸の声の魔物を操る能力はそう高くはない。
ただ大量に出現させ、進行方向を決めてそこに居る生物は腹の足しにして良いぞ、と指示を出しているだけに過ぎないだろう。
上手いこと操れば、同士討ちをさせることも可能かもしれない。
今は他の魔物軍がどこにいるか分からないので、それは難しいが。
近づいてきた中型の飛行する魔物を風で吹き飛ばしたあと、目的地を見る。
あともう少しだが、まだ遠い。
近づくにつれて魔物が多くなってきているので、方角はこちらで間違いないだろう。
天の声を休めるために、防衛線を張っているというのが見て取れる。
「ふぅ、味方はまだか……。僕の魔力も、無尽蔵じゃないんだけどなっ! 『トルネイド』!」
杖を構え、増えてきた魔物の軍団に向かって技能を使う。
高火力の風魔法は大型の魔物といえど無事では済まない。
何匹かは耐えるらしいが、それも硬直状態になってしまうので、そこをリゼが雷魔法で仕留めてくれる。
これ程にまで効率のいい殲滅方法はないだろう。
そこで、カルナが何かに気付いた。
ぴたりを足を止め、地面を触る。
「どうした!」
「……何か来る……」
「何か?」
「後ろだ!! 雷弓!! 気をつけろ!!」
その瞬間、地面が持ち上がって中型の魔物が大口を開けて襲い掛かってきた。
狙われているのはユリーとローズだ。
「「わっ!!?」」
「「ギャギャギャッ!!」」
急加速した騎竜がその攻撃を何とか躱す。
地面を掘る音なども何も聞こえなかったため、奇襲を許してしまった。
そんな厄介な敵までいるのかと、初めてその姿を目にする二人は武器を構える。
ローズが魔法を発動しようとした瞬間、今度は大量の魔物が地面から湧きだした。
「うっ!!? なんですかこれー!!」
「挟み撃ちね……。リゼー!」
「分かった!!」
リゼは右手に雷の球を作り出す。
始めは小さいものだったが、次第にバヂバヂと弾けてその威力を増しているように思える。
少しばかりチャージをした後、バッと腕を伸ばして攻撃を放つ。
「『雷砲』!」
ヂュンッ!!
薙ぎ払う方にして発動させた雷砲は、レーザーカッターの様に大量の魔物を両断した。
回避できた魔物はいなかったらしく、新しく出現した魔物はすべて動かなくなった。
「よしっ!」
「いいわね! 範囲攻撃はやっぱりリゼに任せる方がよさそう!」
「私もそう思います!」
「へへへー」
照れ臭そうに頭を掻いているリゼ。
褒め慣れていないのだろう。
リゼに合流した二人は、一度周囲の警戒をする。
とりあえずこの辺の敵はすべて倒すことができたらしい。
前方ではまだ魔物軍がいるので早急に合流しなければならないだろう。
「にしても……リゼ、魔力は大丈夫?」
「なんとか。サンダーウェーブと雷砲は消費魔力が少ないから」
「あれだけの範囲攻撃なのに、燃費はいいのね」
「二人とも。お話してる場合じゃないですよ」
「そうね」
上空で音が鳴る。
ティックが右方向に技能を使ったらしい。
「やっべ……」
ティックが見ている方角には、陸の声がいたのだった。
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