5.19.受け入れ準備
鳳炎と零漸たちが出立して二日。
俺が黒い塊を見つけたのも皆が出立した後だ。
とりあえずいろいろあった。
残念ながらあの塊をもう一度見つけることは叶わなかった。
同じ場所に行けないってのが一つ。
そしてあいつらは執事について回っているようなので、まずあの広い空間で執事にエンカウントする可能性がとても低い。
んでもって王子はいねぇ。
何処に居んだよマジで。
とりあえずこの二日間で防衛の為の柵は完成している。
魔導士部隊も配置完了。
医療準備も完了しているし、水、食料、物資も問題ない。
この二日間でよくやったと言えるだろう。
避難誘導も完了しており、教会や中央区の広い空間に一時的に避難してもらっている。
少し不便だろうが、これが終わるまでは堪えて欲しい。
そして今日、鳳炎たちの部隊が帰ってくる予定だ。
労う時間は無いかもしれないが、それでもできる限り休める様に準備は整えている。
だが休める時間は殆どないだろう。
その証拠に……今冒険者たちの空気はピリピリとしている。
それは何故か。
既に見えているのだ。
魔物の大群が。
「おいおいおい……。ティアラの報告と全然ちげぇぞ……。あれ一万じゃなくないか?」
「何処かにまたダンジョンがあったのかしら……。ていうか何処からあんなに湧いて出てるの?」
「んなこと俺が知るかよ……」
だがこれはちょっと厳しそうだなおい……。
あの数に突進されたら不味いんじゃないか?
まるで津波じゃん。
俺とマリアは城壁の上からその光景を眺めているが……。
他の冒険者も随分と青ざめている。
「あ」
鳳炎たちが帰って来た様だ。
こちらに近づいてきている馬車が何台も見えた。
鳳炎はいち早く報告をする為か、炎の翼を広げて俺とマリアの所にやってくる。
「マリアギルドマスター! 応錬!」
「おう。大丈夫そうだな」
「報告をしなさい」
「敵の総数は約四万五千。これは俺が飛んで調べたから間違いない。だがまだ増えている様だ……」
「なに!?」
まだ増えてんの!?
そんなことあんのかよ……。
「損害は?」
「人的損害は皆無だ。だが帰還途中も足止めとして罠を何度も張っている者たちがいる。それに加えて皆気を張り続けていて眠ることができていないのだ。交代しながら休息を馬車の中で取ってもらっていたが、疲労が溜まっている。少しでも安ませたいのだがいいか?」
「それは問題ないわ。帰ってきたら空いている場所で休ませて頂戴」
「助かる」
まぁ撤退して寝れる時間なんてほとんどないわなぁ……。
でも随分と魔物との距離は開いている。
あいつらの足が遅いのだろう。
それがせめてもの救いだな。
となると、始めは俺たちで何とかしないといけない感じか。
まぁ技能の試し打ちをどんどんやってしまいましょうかねぇ。
てなると全員中に入ってもらわないと……って。
「鳳炎、お前寝てないだろ……」
「わ、私は不死である! それ故に睡眠は要らぬのだ!」
「でっけぇ隈作っててよく言うぜ」
不死っつてもどこまで不死なのか俺は知らないんだ。
それに、この感じだと睡眠は必要っぽいな。
ったく無茶をする。
お前もこの防衛線に欠かせない人物なんだ。
仕方ない。
「鳳炎。これを飲め」
「おっとと! ……? これはなんなのだ?」
「エナジードリンクとでも思っておいてくれ」
「お、おお……。な、なんかエナドリって社畜を連想させるな……」
「ん? お前社畜だったのか?」
「いや、大学生だ」
「あ、そう……」
これは俺が作って回復水だ。
大治癒の効果程ではないが、おそらくこれは寝不足にも対応してくれる物だろう。
鳳炎がその回復水を飲むと、一瞬だけ体が緑色に光った。
すると、鳳炎は目をぱちくりしながら目をこする。
「む!? 眠気が飛んだぞ! 素晴らしいな! 応錬! これをもっとくれないか! 他の冒険者にも……」
「依存されたら困る。これをやるのは仲間だけだ」
「むぅ、それもそうか。これが無いと仕事ができないなんてなってもらうと困るからな……」
分かってくれたようで安心だ。
ていうかこれあんまり使っちゃいけない奴だからな。
ほいほいと人に上げて良い物じゃないんだ。
まぁ今回の防衛戦には鳳炎も参加してもらわないと困る。
俺一人じゃ対処しきれないだろうからな。
同じ範囲攻撃を持っている者として、前線に立ってもらわないと。
「よし! では冒険者の受け入れを頼む。応錬は私と打ち合わせだ。後は頼んだぞマリアギルドマスター!」
「ええ、冒険者のことに関しては任せなさい」
マリアはそういうと、城壁からぴょいよ降りて行ってしまった。
大丈夫なんだろうけど、あそこまで躊躇なく飛び降りられるとびっくりするわ……。
えっと、鳳炎との打ち合わせだったな。
俺がやることは何があるかな。
「まずは使える技能の確認だ」
「わかった」
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