7.2.もらえない経験値
五時間が経った。
あれから操り霞を維持しながら卵を百個ほど食い破った。
勿論、その間に魔物と遭遇することもあった。
こんな森の中を闊歩しているんだから、見つけれない方が異常だ。
だが異常は俺自身に起きていた。
おかしい……。
何がおかしいって、今卵を百個以上、そして魔物を三十体くらい食べた……。
なのに、なのにレベルが一個もあがりゃしねぇ!!
おいどうなってんだ天の声ぇ!!
【経験値を獲得できません。魔物が弱すぎます】
先に言えやごらああああああああ!!!!
お前あれだろ、ぜってぇあれだろ!
お前も知らなかったんだろ!!
この種族ではどのレベル帯までの魔物の経験値を獲得できるか、貴様知らなかったんだろ!!
ふっざけやがって俺は貴様の実験台か!?
このくそ辞書がああああ!!
ていうか普通気が付いた時に言わない?
なんで俺が聞くまで黙ってんの??
お前それを楽しんでるだろ。
絶対に貴様自分だけ楽しんで俺が苦しんでる所見て笑ってんだろ!
もういいよ!
あーもう知りませんからね俺!
この五時間の無駄すぎるとも言える労力帰していただかないとなぁ!?
おら貴様出てこいや!!
上からニヤニヤしてんじゃねぇえええぞごらああああああ!!
…………。
はぁ、帰ろう……。
とりあえずあの卵はできる範囲で潰しまわることに成功した。
卵の状態だったら簡単にやっつけれるからな。
まだ残っているかもしれないが、後は他の魔物が始末してくれるだろう。
今は夜だ。
まだ人が寝る時間には早いのだが、それでも報告だけはしておこう。
俺は鳳炎が持っているはずの水の玉を破壊した。
後は、俺がダンジョンの所に行くだけだ。
場所もそんなに遠くない。
周囲を警戒しながら、スルスルとその方向へと向かって行った。
◆
辿り着いた時には、既に鳳炎が待ってくれていた。
遠目から居るという事は分かったが、俺が出て行くと周囲にいる冒険者に叩かれかねないので、こっそりと小さな泥人を作って、それを鳳炎の所に走らせていく。
泥人はツンツン、と足を突いた。
鳳炎はすぐにそれに気が付いたようで、ひょいと手に持ち上げて凝視する。
俺は泥人で鳳炎にあっちに行けと指示を出し、歩かせていく。
人気のない所に入って来たのを確認し、操り霞で周囲には誰もいない事も確認したのち、俺はようやく姿を鳳炎の前に表す。
「どうだったんだ? こんなにも早く連絡を寄越してくるとは……」
『駄目だった……。この辺の魔物はレベルが低くて話にならん……』
「レベルは少しくらい上がったのか?」
『経験値が手に入らないんだ。無理だったよ』
「災難すぎる」
普通に同情された。
くそう、まさかこんなことになるとは……。
「で、どうする? 応錬をサレッタナ王国の中に入れるのは、それ相応の理由が無いと厳しいぞ」
『そうだよなー。従魔とかそう言うのは無理なの? ファンタジーの世界ではそう言うのあるし、ほら、ティアラもやってたじゃん』
「できないことは無いが……悪目立ちが過ぎる」
『この姿なのにそれを言うか?』
「それもそうだが、サレッタナ王国でそれなりに名の通った私だ。そんなのが従魔を連れていれば噂を通り越してニュースになるぞ」
『ご勘弁!』
鳳炎としては普通に心配して言ったんだろうけど、どうしてか自慢に聞こえてしまう。
まぁ事実だし、知れは仕方のないことかもしれないけど。
あ、そうだ。
『それなら、預かっている従魔っていうのはどうだ?』
「……ふむ、それならまだありなのかもしれないな……。応錬を隠して国を歩くのは、空を掴むほど難しいからな」
『それ無理って言ってんじゃねぇか。それとそこは雲を掴むじゃねぇのかよ』
あ、という表情をした鳳炎だったが、すぐにその表情を隠した。
普通に間違えたのね。
「だが、そもそも応錬がサレッタナ王国に入る必要はあるのか?」
『酷いこと言うな。仲間外れかよ……』
「しかし、外にいた方がバレないし、見つかっても逃げて対処できる」
『見つかった場合は面倒くさいぞ? 得体のしれない見たこともない魔物が国の近くにいるってなったらどうする?』
「んぐ……。確かにそれなら大衆の目に晒しておいた方がましか……」
『言い方よ』
まぁもしもの話ではあるけどね。
その場合は研究員とか冒険者がこぞって俺のことを探しに来るだろうし、俺のことを知らないローズやユリーだって真っ先に狩りに来ることだろう。
勝てる自信はあるけど、戦いたくはないからな。
しかし、バレなければどうという事もない。
その場合は鳳炎に情報を収集してもらいつつ、俺は魔物を狩りまくってとにかくレベル上げに勤しむだけだ。
見つけられる前に俺の存在を周知させておくか、それともこのまま隠し通すか。
どっちが安全かと言われると、どっちも同じ程度だと思う。
余程の事が無い限り、俺の存在を周知させても襲ってくるような奴はいないだろう。
鳳炎が預かってる従魔って事にしておけばね。
「ううむ……」
『そんな悩むところか……?』
「いや、私の側に今のお前を置きたくないのだ」
『よし、決定だな。行くぞサレッタナ王国』
「!? おいちょっと待て話を聞いていたのか!?」
勿論聞いていましたとも。
俺はお前を困らすために一肌脱いでやろうと言ってるのさ!
本当に酷い言われようだ。
『じゃあ口裏合わせをするぞ』
「嘘じゃん……。マジか……」
『マジだ』
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