4.4.採取依頼


 今回の採取依頼で、集めてこなければならない素材は全てで四つである。


 一つはヒポ草。

 これはその辺を歩いていれば見つかると思うので、詳しい詳細は全て省く。


 二つ目はプラリス草という麻痺成分の含まれている毒草だ。

 これは水辺の多い場所で採取ができるらしく、川辺りに行けばすぐに見つけることができるとのことだ。


 三つめはレッドグポップという妙な名前のキノコ。

 これは高所に群生しているキノコのようで、見つかりはするが簡単に探しに行けるような距離にはないのだという。

 この辺りにある山だと、片道四時間ほどの距離を行かなければならない様だ。

 ただでさえサレッタナ王国の周囲は平地なため、一つ違う場所に向かうだけでも相当の時間を消費してしまう。

 このレッドグポップについては後で会議をして、探しに行く人を決めようと思う。


 四つ目はヒトロの実という果実らしいのだが、これは今の時期でないと採取することができない様だった。

 これのせいで期間が数ヵ月と決まっていたのだろう。


 この果実の採取場所はそんなに難しくはなさそうで、その辺でも採取が可能だという。

 これなら売っているのではないだろうかと思ったが、この依頼書にはヒトロの実だけは新鮮な状態で持ってきてほしいと書いてあるため、購入して依頼を達成するという事はできなさそうだ。


「問題はレッドグポップか……どういう意味の名前なんだよこれ」

「どういう意味かは分かりませんが、赤色のキノコで傘に文字が書かれているそうですよ?」

「……Pop?」


 気にするのはやめよう。


「ウチカゲが適任だと思うんだがどうだ?」

「問題ありませんよ。俺であれば二時間で帰ってこれます」

「流石」


 と、いう事で一番時間のかかるであろうレッドグポップの採取はウチカゲに任せるとして、残った俺たちは簡単な物を探すことになった。

 もう場所にも見当がついているし、特段苦戦するようなものではないだろう。


 とりあえず俺と零漸とアレナは一緒に行動をすることにして、目的の物を探すことにした。


「おっしゃ。じゃあ行ってみるか」

「うっす!」

「はーい!」

「では、俺は先に行ってきますね。待ち合わせは此処で」


 ウチカゲはそう言うと、すっと消えてしまった。

 一番苦労するのはウチカゲだと思うので、労いのために今晩あたりにでも回復水を作って渡しておくことにしよう。


 残った俺たちは門を通って森の中に入っていくことにした。

 門を出るとき、また何か手続きがあるのかと思ったが、ギルドでの依頼をこなすために外出するのであれば依頼書とギルドカードを見せるだけで通ることができるらしく、すぐに通ることができた。


 毎回面倒な手続きをするのも面倒くさいので、こういう配慮はとても助かる。


 俺たちはスターホースを連れだして、森へと向かったのだった。


「……森まで三十分ってくそなげぇな」



 ◆



 目的地に辿り着いた俺たちは馬車を降りてその場に止めておく。


 来る道中、ヒポ草がないか探し回っていたのだが……この辺りには一本もないようだったので、これからまた森の奥に入って探すことになった。


「うーむ、ガロット王国からサレッタナ王国に来る道中は随分あったんだがな……」

「私も見つけれなかった」

「そもそも見分けつかなかった」

「おい」


 一人は論外として……今までずっと探していたアレナも見つけれなかったのだ。

 この辺りには生えていないのだろう。


 となると……近場に薬草が無いから、依頼を達成しようにも達成することが困難になっているのかもしれない。

 薬草採取は低ランク帯の冒険者に向けられている物ではあるが、こうも薬草が無いのであれば依頼を達成することもできずに違約金を払う羽目になってしまう。

 それが冒険者の間で囁かれているのであれば、依頼を受けようとする冒険者もいなくなるはずだ。


 ふむ、ということはただ単純にヒポ草が不足しているだけなのか。

 ヒポ草が不足しているがために、薬局や医療院がヒポ草の納品依頼をギルドに出すが、そのことを知っている冒険者が安い賃金でその依頼を受けるはずもなく、あれだけ依頼書がたまってしまっていたのだろう。


 ギルドよ。原因を調べろ原因を。

 それをもし知ってるんだったら、俺があの納品書の束を持っていった時にヒポ草採取の難しさを説明しろ。


「ま、ないもんはしゃあない。地道に探していくか」

「応錬、あった」

「まじで?」

「プラリス草~」


 アレナが持ってきた薬草は、確かにプラリス草だった。

 プラリス草の見分けは非常に簡単で、茎が半分より下が黄色になっているのですぐにわかるのだ。


「おー! すごいなアレナー! 俺全然わかんなかったっす」

「水辺はないんだけどな……なんでこんなところに?」


 操り霞で周囲の地形を確認するが、この周辺に川辺や水辺はない。

 水辺に生えているのではなかったのかと思ったが、こういうこともあるのだろうと思ってと、とりあえずその辺に生えているプラリス草を採取していく。


 しかし毒草と言えど、根絶させるわけにはいかないので、若い芽だけは残して大きい物だけを採取していく。


「毒草なんだから全部取っちゃってもいいんじゃないの?」

「それはそうかもしれんが、採取したところで小さい物は高く売れん。だから大きくなってからもう一度採取したほうがいいのさ。その時にはまた若い芽も生えているだろうしな」

「なるほど……」


 アレナはそれに納得しつつ、大きいプラリス草だけを採取していく。

 その数は随分と多くあり、合計で六十本近く採取することができた。


 他の冒険者のためにも残しておいた方がよかったかもしれないが、まだ若い芽も恐ろしいくらいにある。

 それにこれだけ繁殖力が強いのであれば、簡単には根絶までにいたらないだろう。


 採取したプラリス草を魔道具袋の中に仕舞ったところで、またヒポ草を探していくことにした。


 因みに、ヒトロの実はめちゃくちゃ簡単に見つかった。

 というか、サレッタナ王国からここに来る道中に嫌と言うほど見つけたのだが、初めに採取してしまっては鮮度が落ちるだろうと思い、ヒトロの実だけは最後に採取することにしたのだ。


 なので残す物はヒポ草のみ。

 一人は役に立ちそうにないが、俺たちはきょろきょろと首を動かしながらどんどん森の奥深くに入っていく。

 日はまだまだ高いので、あと数時間は探すことができるので焦る必要はないのだが……こうも見つからないと不安になってくる。


「……!」

「……? どうしたっすか兄貴」

「なんかでけぇのがいるぞ?」


 展開している操り霞に、何か大きなシルエットが写り込んだ。

 シルエットなので読み取れる情報は非常に少ないのだが、大きさだけで言えば先日討伐したレッドボアほどの大きさがある。

 それは大きく動いているようで、俺たちの居る方向へとまっすぐに向かってきているようだった。


「どうする?」

「そんなでかいの放っておいたら、この辺に来る新米冒険者が怪我するかもしれないっすからね。討伐しましょう」

「アレナも賛成」

「……お前ら俺たちが新米冒険者だってこと覚えてるよな?」

「「大丈夫」っす」


 はて、本当に大丈夫だろうか……。

 碌に魔物の知識がない俺たちだけで迎え撃つのはあまり得策ではないかもしれないが……まあ、この二人にも大きな魔物の討伐を経験させておいた方がいいかもしれないと思ったので、俺は二人にその魔物の討伐を任せた。


 近くにいては邪魔になりそうだし、巻き添えにもあいそうだったので、俺は少し離れた場所に待機して迎え撃つ準備を整えている二人を見守る。


 アレナは小太刀を取り出して構え、零漸は仁王立ちで相手が来るのを待っていたところ、ズンズンという足音がどんどん大きくなってきているのがわかった。


「よし、アレナに身代わりをかけたから無理してもいいよ!」

「ありがとう。最初私からやってもいい? 零漸だと動かずに倒しちゃいそう」

「それもそうかぁ……よし! 頑張ってくるっす!!」

「うん」


 その会話の後、木々を倒しながら感知した魔物が二人の前に現れた。

 その姿は漫画やアニメなどで見るオークであり、しっかりとした防具や武器を持っていることに少し驚いたが、そのでっぷりとした脂肪を抱えながら歩くのは随分と大変そうに思えた。


 しかし、木々を押し倒すほどの力を有しているのだから油断は禁物だ。

 あの脂肪を抱えて歩くだけの筋力があると考えていい。


 オークは二人の姿を見ると、ギョロリと目玉を動かして目標を定めた様に大きく吠えた。

 手に持っている大きな棍棒を片手で持ち上げ、大きく振りかぶって二人まとめて潰しにかかろうとする。


「『グラビティドーム』」


 アレナがそう呟くと、アレナを中心に透明な膜が周囲に広がっていったような気がした。

 それはすぐに見えなくなり、空気と同化したようだが……不発だろうか?


 するとオークの方から大きな音が鳴り響いた。

 一体なんだと思って見てみると、振りかぶった状態のまま棍棒が地面に深々と突き刺さっていた。


 オークは何故先ほどまで持てていた棍棒を振り下ろせないのかと困惑しているようだったが、アレナはその隙を見逃さなかった。

 すぐに地面を蹴ってオークに……飛んでいく。


「飛んだ!?」


 アレナは重力に逆らって直線状に素早く飛んでいった。

 武器を持っている方の脇に向かって飛んだようで、オークはアレナが来ているのには気が付いているようだったが、対処できずにわき腹に斬撃の跡が深々とついた。


「グウウウウウウウ!」

「ほいっ」


 今度はストンと地面に着地し、すぐに跳躍して今度はオークの上を取る。

 先ほどの軌道上からみて、アレナがいた場所をオークが見るが、すでにその場にアレナはおらず何処だと探しているオークの背中をアレナはずっぱりと斬り裂く。

 鎧が割れ、オークから鮮血が噴き出すが、斬り裂いた後アレナはまた上空を飛び、零漸の隣に着地する。

 少し汚れを気にしているようではあるが、それほどに余裕なのだという事を俺たちに示してくれた。


「おおー! アレナすごいっす! それなに!?」

「グラビティドーム。ドームの中では重力を自由に操れるみたい」

「すげぇ! え、でも鎧ごと斬ってるけどあれどうやってんの?」

「斬るときだけ重加重をこの小太刀につけてる」

「力技!?」


 何それすごい。

 今までそんな技能使ってる所見たことなかったけど、何処かで練習していたのだろうか?

 でなければあそこまで優雅に動き回ることはできないだろう。


 だが今はアレナの技能に感心している場合ではない。

 オークはまだ倒れておらず、ついに武器から手を放して拳で応戦してくるようだった。


 先ほどのアレナの攻撃を見ていたが、あれでは攻撃が直線すぎるし、空中にいるため回避ができなさそうな戦い方だ。

 回避ができないというのは戦いにおいて致命的なものである。

 まだ使いこなせていないというのもあるのだろうが、これは後で注意しておかなければならないだろう。


「どうする? 交代する?」

「もうちょっと」

「はいよー」


 そう言ってアレナはもう一度武器を構える。

 そしてもう一度地面を蹴り、今度は飛ぶのではなく地面を走って攻撃を仕掛けに行った。

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