10.51.関係


 これが、一連の話の流れだ。

 その後は人間の城を次々に襲った。

 リタニア王国、ヴォルドラ王国、デメゼーラ領。

 どれも地図に残されていない国の名前だ。


 一つ一つを攻め滅ぼすのは本当に苦労したらしい。

 数少ない戦力を分散し、策を練り続け、敵の猛攻を退けながら一つの国を落とすのだ。

 並大抵の努力で成せることはなかった。


 それをすべて話すと日が暮れてしまうので、ダチアは多大な犠牲を出しながらも、亜人とされる者たちが協力し合ってすべての領地から人間を排除し、復活を阻止したとまとめてくれた。

 最後に、日輪が悪魔以外の全員の記憶を消し去った。

 悪魔にはまた復活を企てる声を止めてもらうために記憶を残した。

 他の者の記憶を消したのは、長く共にいた鬼たちに悲しい過去を背負わせたくないからという彼らの我儘と、声という存在を邪神ではなく神として崇めている可能性のある者たちの危険性を消滅させたかったからである。

 その代償として、彼らは存在を消滅させたのだ。

 だがこれは、自分たちがいると憑りついていた声たちが、再び復活する機会を与えてしまうのではないかということで、日輪たち自身が存在の消滅を願った。

 本当の代償は、もっと軽いものだろう。


 その後、声たちは次の策を取る為に対策を取った。

 応錬たちの魔力量の上昇、人間になった時の経験値取得量の減少。

 人間の世界に溶け込むことを想定し、成長速度を著しく低下させた。

 そして魔力で魔力だまりに蓋をする為、応錬たちの魔力量を大きく増やしたのだ。


 それと悪魔の呪いと、悪鬼の幽閉。

 危険分子を隔離し、悪魔には情報を話させないようにした。

 これによって仲違いが発生するのは当然。

 あわよくば戦い合ってもらい、戦力を削るという作戦だった。


 すべての話を聞いたあと、鳳炎が呟く。


「……悪魔と鬼と日輪たちの関係は……ただの邪神復活を阻止する協力者、というわけではなかったのか」

「ああ。友達だ」


 懐かしむように、そして悲しそうにそう言った。

 長らく共に戦った戦友であり、共に酒を飲みあった仲間であり、勝利を分かち合った友だった。

 それはマナも同じで、ダチアの言葉に小さく頷く。


 人間との戦いの中で多くの悪魔が日輪たちを尊敬した。

 日輪の策略の数々は幾度となく戦況を覆し、優勢を保ち続けていた。

 夜の戦い、昼の戦い、情報の収集方法、敵軍の進行方向などすべてを把握し、最高のタイミングでの奇襲を繰り返し、更には奇策を持って城を内部から破壊させたりと様々であったと記憶している。


 奄華の斥候能力は悪魔よりも秀でていた。

 敵が通るであろう場所に罠を設置し、それが奇襲の合図となったり攻め込む隙を作ったりと亜人軍に大きく貢献した。


 漆混は後方支援に力を入れていた。

 誰だって腹が減るし、誰だって傷つく。

 土系技能で畑を耕し、回復技能で負傷者を癒してくれた。

 彼がいなければ、死者はもっと多くなり、そして前線の崩壊にも繋がったことだろう。


 泡瀬は意外にも戦闘面で活躍してくれた。

 彼女が一番得意だったのは多対戦であり、一度の攻撃で数百という数の人間を倒してしまうのだ。

 可愛らしい容姿なのに、戦いとなると鬼も顔負けの四神の一体となる。

 できれば二度と怒らせたくないタイプの女性だった。


「……そんなあいつらを奪いやがったあの野郎共だけは絶対に許せねぇ」


 ダチアの口調が変わった。

 感情が高ぶっているということがよく分かる。


 マナがダチアの手を握り、落ち着かせてくれた。

 静かに我に返ったあと、息を吐く。


「十分休めたか? 応錬」

「十分とはいかないが……戦える」

「それならいい。手伝え。弔い合戦だ」

「死ぬつもりはないからな」

「当然だ」


 ダチアが立ち上がったあと、俺も立ち上がる。

 すべての謎が一つに繋がり、なんともスッキリした気持ちだ。


 だが、まだ分からないことが一つあった。


「なぁ、ダチア。復活の阻止は魔力を持っている人間を国から遠ざけることで合ってるんだよな?」

「間違いない」

「じゃあ何で今回、声は復活できたんだ?」

「それが分かれば苦労しないんだがな」

「知っておいた方が絶対にいい。今から考えるから待つのだ」


 胡坐をかいた鳳炎が、目をつぶって今までの話と違う点を考え出す。

 こういう時の鳳炎は頼りになるんだ。

 少し待つことにしよう。


 話を聞いていた者たちも少し考えているようだ。

 そこでウチカゲが呟く。


「……すべて分かりましたが、分からないこともある……。復活の方法を変えたのでしょうか?」

「そりゃないんじゃない? もし僕が敵だったら、確実に成功する方法を捨てはしねぇけどなぁ」

「保険として何か別の方法も考えていたのかもしれないわね」

「だけど復活するための魔力だまりっすよね? それがなくなったのにどうやって復活するんすか?」

「「んー」」


 まぁ、行き詰るよね……。

 俺もよく分かってねぇもん。


「……前回と違うところなら一つある」


 鳳炎が人差し指を立てた。

 全員が鳳炎を見て、次の言葉を待つ。


「ダチア。話していないことはないのだな? 特に陸の声が復活した時の話」

「あれがすべてだ」

「じゃあ……前回と違うところは二つある。それはバルパン王国の信仰と天使の出現だ」


 関係……あるの?

 というのが俺たちが頭の中で呟いた言葉だった。

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