5.14.思惑
「そんな馬鹿な。流石にそんなことは無いだろう」
「そうよ応錬君。この状況で耳に入らないなんてことは無いわ」
「いや、じゃあなんで王子は何も言わないんだよ……。指示がないってことは、まだ王子は何も発言してないって事だろう? それとも誰かが王子の言伝として使いを寄越したのか? それなら話は別だが……」
「……いや、ない。そんなものは無い」
てなるとやっぱ知らないんじゃね?
王子が今何処で何をしているのかは知らんけど、城の中にいるのは間違いないだろう。
なんで王子が騎士団を動かす権限を持っているとか、誰がそうしているのとかは今置いておこう。
今やるべきことは目の前のことを何とかする事だ。
とりあえず、俺が今言っていることは予想に過ぎない。
これをまずは確かめなければならないだろう。
俺たち冒険者は城に入ることすら許されないだろうし、この辺のことはロイガーに任せるしかない。
「ロイガーはこの空気と一緒に何としても防衛に騎士団を連れて来てくれ」
「誰が空気だ!!」
「うっせぇ」
ずっと白くなってたんだから空気だろ。
この部屋に入ってようやく喋ったなこいつ。
えっと、とりあえず冒険者だけで防衛陣営は整えれている。
物資も何とか整えている様だし、後は敵が来るのを待つだけだ。
俺はまた見回りでもして時間を潰そう。
冒険者の動かし方については、皆の事を知っているマリアに任せる。
「それでいいよな?」
「貴方にはできないでしょうし、それでいいわ」
「なんっか腹立つんだよな」
一言多いんだよ一言。
まぁそんなことは置いておこう。
防衛は冒険者に任せておけば何とかなる。
その後騎士団が来てどう思われるかは知らんけど、コキ使わせてもらう。
これは決定事項である。
「団長辞めさせるとかそんなことで渋ってるお前もお前だよ」
「だがそれでこの兄が団長になると考えるとな……」
「…………」
「なんか言えよてめぇ!!」
考えてみると確かに嫌だなぁ。
まぁそんなことは知らん。
俺には関係ないからな!
「ま、これは応錬君の言う通りね。何が何でも騎士団連れて来なさい。いいわね」
「分かりました」
とりあえずやることは決まったな。
よーし、じゃあ俺も少し仕事しますかぁ。
「ちょっと城の中に忍び込んでみるわ。王子探してみる」
「ああ、そう。…………」
「「「はぁ!!?」」」
うわびっくりした。
なんですのん。
「何馬鹿なこと言ってるのよ! そんなことしてただで済むとでも思ってるの!?」
「蛇がやったと言えば問題ない!」
「蛇ってなんだよ!」
「これだ」
泥人マジ便利。
偵察には持って来いの技能ですからね。
今回作ったのは小さな小さな蛇である。
大体小さな蜘蛛くらいの大きさに設定したけど、流石にその大きさにするのは無理でした。
ネズミくらいの大きさかな?
ぱっと見ただの枝にしか見えない。
「いや待て応錬君。流石にそれを私の前で見せて、ああそうですかと実行させるわけにはいかん」
「俺がさっき言ったのは仮説だぞ。本当に王子がこの事を知らないのかどうかを聞かなければならん。お前が王子に会えるかどうかも分からないんだから」
「それでもそれは駄目だ」
「はぁ……。硬いなぁ……」
どーしましょ。
俺的には完璧な情報収集だと思ったんだけどなぁ……。
……。
こいつらが帰ったらこっそりだな。
「おい、なんだその顔は」
「いや、諦めた顔だ」
嘘だけどな。
とりあえずロイガーとツァールは城に帰って報告することになった。
俺たちはこっちのことだな。
ま、俺はやることないんだけどね……。
◆
長すぎる廊下を、一人の執事が歩いていた。
王子を部屋に連れて行った後、しなければならないことがあった為自分の部屋に行こうとしている最中だ。
自分の部屋に入り、ある物をとって騎士団の所に行かなければならない。
何故いかなければならないかはわからないのだが、しなければならない、という強い執着観念が働いていた。
「…………」
その顔は常に真顔。
何を考えているのか分からない。
傍から見れば普通に見えるのだが、よく見れば焦点が定まっていないように感じるその目つき。
執事はおもむろに部屋の扉に手をかける。
「ば、バスティ様!」
「む? どうかなさいましたか?」
「い、今すぐ王子に謁見させていただけないでしょうか!」
「私が言伝を預かりましょう。どうしたのですか?」
「魔物です! 魔物が来ております!」
「ほぉ、なるほど」
バスティ・ラックルは、ガッと男の頭を掴む。
その事に驚いた表情を見せた男性だったが、叫ぶよりも前にバスティが何かを発動させた。
男性は急に脱力し、静かに立ちすくむ。
その事を確認したバスティは満足げに頷いた。
そして声をかける。
「分かりました。ではその様にお伝えしましょう」
「……え? あれ? ……俺は何を……?」
「言伝は承りました。では訓練に励むように」
「……は、はっ! では失礼いたします!」
男性は踵を返して帰っていく。
何をしに来たのか全く覚えていないのだが、何かを伝えたという事だけは分かった。
伝えれたのだから問題は無いだろう。
そう思い、何も気にすることなく持ち場へと走っていったのだった。
バスティは男性を見送ると、スッと表情を真顔に戻す。
そしてようやく部屋の中に入っていった。
『人間って、結構簡単に操れるのねー』
扉の上にへばりついている黒い塊が声をだした。
すると、今度は床にへばりついている黒い塊がそれに返答する。
『量が量だから大変だけどな……。俺はこれからあいつの周りにいる奴を洗脳してかからにゃならん。俺とお前の労力違い過ぎないか?』
『えっへへ~。僕は楽ができてうれしいよぉ。でも君の能力ってえっぐいよねー。洗脳した人間の周囲にいる人間も洗脳できるなんて。疫病みたい』
『いい得て妙……。てかお前は何してんだよ……。一人の人間だけにそんな集中しなきゃいけねぇのか?』
『洗脳って言っても僕のは完璧な洗脳だからね! 表情とか声とか再現するの大変なんだよー? 記憶も見れるからこの人がどういった行動、言動をするのか分かるしぃ~』
『一人だけとか……もっと増やせよ……』
『一部の記憶とかしか消せない君に言われたくありませぇん』
床にへばりついた黒い塊が大きくため息を吐いたと同時に、会話は終了した。
その後、バスティが出てくる。
手に持った水晶の中にはムカデが入っていた。
それをポケットに入れて、彼は何処かへ歩いていった。
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