11.4.もう一つの代償
「……は?」
「すべての元凶が、お前なのだ。そしてその仲間である私、零漸、リゼは魔物だということが全人類、全種族に認知されてしまっていた」
「はっ?」
「そして今は、戦争中だ」
鳳炎は淡々と説明した。
重要なことを端的に説明しただけではあったが、その言葉を飲み込むのに時間が掛かる。
……ちょっと待って理解が追い付かない。
鳳炎がこんなことを冗談で言うわけがないし、そもそも嘘ではなさそうだ。
だが意味が分からない。
どうして俺が元凶になっているのか。
それに他にも……分からないことがある。
「……待ってくれ。少し聞いてもいいか?」
「ああ。何でも聞くがいい」
「俺は……そんなことしていないぞ? だって、いや、そうだろ!? 皆で……倒しただろ!! 何かは分からないけど……戦ったはずだ!」
「落ち着け応錬。もしお前が本当に元凶であるのであれば、私たちはとっくにお前を独房に入れているよ」
「そうかもしれないけど……。じゃあ……なんでお前らは……」
「知っているからだ。お前のことを」
鳳炎は一つ息を吐き、目をつぶった。
そのまま語りだす。
「私たちはお前と共に戦った。それは覚えている。何を倒したかは覚えていないが、お前がいなければ勝てなかった相手だということもなんとなく覚えている。記憶が捻じ曲げられているのだ。都合のいい様に。お前が応龍の決定で何をしたのかは分からないが、何かが消えた事によりその穴埋めとしてお前の存在が利用されたというところだろう。恐らく、代償の一つだろうな」
「……本当に、俺がやったということになっているのか?」
「ああ。誰に聞いてもお前がやったと回答するだろう。だが、私たちはそれを信じない」
目を開けて、こちらを見た。
「お前程度の肝の小さい男が、そんなことできるはずがない」
鳳炎の言葉を聞いたあと、アスレが頭を下げる。
「私たちガロット王国国民も、貴方のことを覚えています。国の改変、バミル領を救ってくれたこと。誰もが貴方がそんなことをする人物ではないということを知っています」
ウチカゲが、頭を下げる。
「鬼たちも、同じ意見です。姫様を助けてくれたのですから、そのご恩があります」
ダチアは、腕を組んで胸を張った。
「悪魔共もだ。生まれ変わりが、そんな事をする訳がないと知っている。なにより、俺たちは戦った。お前が元凶だと仕立て上げられる前から、魔族領は死んでいたのだからな。お前ではない」
現実と記憶に齟齬がある。
だからこそ、今記憶の中にねじ込まれて改変されている現実に異を唱えることができた。
この場にいる誰もが、その記憶を疑っている。
未だに現実を受け入れることはできない俺だったが、皆の言葉を聞いてほっとした。
鳳炎にいきなり犯人だと言われた時は心臓が跳ね上がったが……。
そんな脅すように言わないでほしい……。
「はぁー……マジで心臓に悪い……」
「だが、この記憶を疑っているのは私たちだけだ。ガロット王国、サレッタナ王国、バミル領、前鬼の里以外の国は……お前を寝ている間に始末しようと躍起になっている」
「え」
「言っただろう、戦争中だと。始まったのは二年前だが」
人間たちは、元凶とされている俺を恐れた。
しばらくはその情報収集が続いたようだが、一国を破壊し、魔族領を完全破壊した存在に怯える続けることになったらしい。
そこで弁解をしようと、三国と一つの領が声を上げて抗議した。
だがしかし、刻まれている記憶が塗り替えされることはない。
鳳炎、零漸、リゼまでもが恐れられ、ほとんど会話にならなかった。
記憶に忠実になればそうなるのは普通。
むしろ、それに異を唱える者たちの方が異端者だったのだ。
そこで他の国々は声明を出した。
『応錬さえ差し出せば、あとは何もしない』
脅威を排除しようとしているということが見え見えだった。
そんなことをさせるわけにはいかない。
全力で抵抗する構えを見せ、こうして戦争にまで繋がってしまった。
だが応錬を隠し続けることはできなかった。
始めのうちは向こうも情報がなく、数年は情報収集に精を出したようだが、居場所が分かったとたん強気に出始めたのだ。
戦争の準備や他国間との連携で攻め込む時期などを決めるのにも時間を要したらしく、戦争を開始させるのに時間がかかったとのこと。
そのおかげでこちら側も準備を調えることができたのだが……。
やはり数の暴力には敵わなかった。
ということはなく、悪魔と鬼、そして人間という三種族が強みを生かし続け、何とか前線を維持しているといった状況だ。
優勢とまではいかなかったらしいが。
「……代償……デカすぎるだろ……。俺が元凶になって、三人が魔物だと……認知されるとは……」
「サレッタナ王国の人間が私のことを慕ってくれていたから悪い方向にはいかなかったがな」
「さっすがAランク」
「因みに、私と零漸、リゼはこの戦争に参戦していない。その理由は分かるな」
「俺たちが戦ったら……完全悪になるのは避けられないもんな」
「ああ。守ってもらわなければならない……。この立場がここまで歯がゆいものだとは思わなかったがな」
鳳炎は嘆息した。
どんな状況であっても、手を出すことは許されないのだ。
それがどれだけもどかしいことか。
危険視されている存在が手を出せば、自分たちの存在を認めさせるための戦いとなってしまう。
そうなれば完全悪だ。
守ってもらう存在から一線を越えてはいけない。
「では、俺が戦況を説明しよう」
ダチアが口を開いた。
大きな地図を魔道具袋から取り出し、それを広げる。
「まず、我々は数々の攻撃をすべて返り討ちにしている。だが死傷者も多い。悪魔の特殊技能のお陰で何とか戦えている。鬼たちの力で防衛できている。人間たちの力で後方支援は問題ない」
「なぁダチア。これは……俺たちがいるから起こっている戦争なのか」
「……そんなことを言うな応錬」
だけど、そういうことだろう。
俺たちを守るために、皆戦っている。
「なぁ、零漸」
「な、なんすか……?」
「お前封印魔法持ってる?」
「……持ってるっす……。進化して、獲得したっすけど……」
「そうか」
それを聞いて少し考える。
一つの策が頭をよぎったが……それを思いついた後、大きなため息を吐く。
「はぁ~~~~……やりたくねぇなぁー……」
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