10.5.協力者
ただならぬ空気についていけない零漸は、少しだけ椅子を持ち上げて部屋の隅っこに移動した。
とりあえず今は傍観に努める。
それだけを意識して話の展開を待つことにした。
「私はダチア様からこの場での多くの発言の権利を頂いております。そのことを踏まえた上で鳳炎さん、まずは貴方からどうぞ」
「うむ。悪魔の目的は邪神復活の阻止。先代白蛇、日輪との関係はその協力者。都市を破壊、人間の殺害はその目的に必要なものだが、それ以外にも方法があると私は考えている。しかしどうして都市を破壊して人間を殺さなければならないのかは不明のままだ」
「なるほど。想像力が豊かで結構ですが、意味のない考察は後に仇となります」
「予想が合っていてよかった」
間違っているというイルーザの発言を、鳳炎は肯定と捉えた。
悪魔はこう言うしかない。
素直に肯定することができないはずだからだ。
もし悪魔が肯定すれば……アトラックと同じような道を辿ることになるだろう。
言葉すらも逆手に取らなければ、この会話は成立しない。
真剣にイルーザの言葉の真意を読み解き、更に今まで頭の中で構築した憶測をパズルの様に組み合わせ、確定させる。
常に謎解きをしているようなものだ。
だんだん頭が痛くなってきそうだが、確定させた情報が多くなればなるほど脳にかかる負荷は減少する。
今の会話の中で一番重要なのは、都市を壊さず、人間を殺さなくても解決できる方法があるということ。
これが確信できたのは、大きい。
「それと、第三勢力の存在。ここに辿り着くのにはとても時間が掛かったが、人間以外の何かがいると思っている。まだ一度も見たことがない敵だ。正直今の戦力では心もとないのが実情」
「そんな存在がいたとしても、的確に獲物を見つけるのは不可能に近いでしょう。捜索は意味をなさないかと」
「やはり口止めされているか。これも予想通りであるな。第三勢力は確定……見つける術はあるがその方法を私たちは知らない……。悪魔たちと行動することでその存在を認知することはできるだろうか?」
「さて、どうでしょう」
「……無理か。分かった」
「いやなんで分かったっすか!!?」
一部始終の会話を聞いていた零漸だったが、まったく意味が分からず話が終わったことに驚いて声を上げてしまう。
鳳炎は今の内容をすべて理解していた。
何をどう解釈すればそこまで理解できるのかが心底分からない。
「簡単なことである。まぁイルーザも今回はラインギリギリを狙ってくれたようだから、ほぼ否定し続けた。否定は肯定。疑問はそれ以外となる」
「分かるかっ!!」
最後の問いにだけ、イルーザは否定はせずに疑問形で返してきた。
あの会話からとなると、疑問の使い方は限られる。
第三勢力を探すことができるのであれば否定してくれたはずだ。
本当に分からないのであれば、これは素直に発言することが可能。
そこで疑問形を使ったとなれば、これ以外の理由があるということになる。
今の会話の中で鳳炎が一番相応しいと思った答えが『不可能』だ。
「まぁこんな小難しいことはいいんだ。問題は悪魔と協力したとしても第三勢力の存在を認知することができないという点」
「えーっと……。ということは……そもそも数が少ないってことっすか?」
「いや、実態が無い可能性もある。しかし悪魔はそいつらのことを知っているから、姿を現すことはできるんだろう。これは悪魔が答えることはできない問題だ。私たちだけで何とかするしかないぞ」
「既に頭がパンクしそうなんすけど」
「君はとりあえず今の会話を忘れろ。結果だけを頭に入れるんだ」
「あ、それならできるっす」
鳳炎が最後にまとめてくれたことを頭の中に入れておけばいい。
それだけであれば零漸でも簡単にできる。
少し肩の力が抜けた零漸は、姿勢を正して二人の会話を再び待った。
「……鬼について知りたい」
「私たちは鬼についてよく知りません。なにせ交流も何もないですから」
「……これも口止めされている……?」
予想外な答えに鳳炎は自分の世界に入って考察する。
声のこと、第三勢力、復活阻止の方法、そして鬼の存在。
三つは分かるが、どうして鬼のことまで口止めするのかが分からなかった。
だが共通点はある。
「……邪神たちと戦った者たち……か」
戦争の中心に居た存在たちが、丸ごと口止めされている。
となると悪鬼についても憶測の通りになってしまうかもしれない。
「……悪鬼の力を使わせたくないのか。奴らは」
それだけ恐れているということだろう。
過去に悪鬼が何をしたのかは分からないが、声と戦う上で一番重要な要素になる可能性が出てきた。
鬼についての謎も解いていく必要がある。
とりあえず鳳炎が聞きたかったのはここまでだ。
まだ情報が足りないし、集め方も分からないが今のところは考察していたことが確定しただけでも良しとする。
「イルーザ、君の番だ」
「分かりました。では……」
パチンッと指を鳴らす。
するとイルーザの後方に二つの影がどろりと出現した。
少し驚いたが敵意は感じられない。
影はだんだんと人の形を成していき、ようやく背を伸ばした。
一人は鉄の様な角を生やし、銀色の翼を有している男の悪魔。
丈の長い服の襟には硬い魔物の毛皮が付けられており、袖にはダイスが細い糸でいくつかぶら下がっている。
若干不健康そうな顔が、こちらを睨んだ。
一人は赤い角と赤い翼の生えた女悪魔である。
細い体の割には大きな服を着ているので、服に着せられているように見えた。
魔物の毛皮で作られたコートには毛があしらわれており、赤と黒を基調としている。
長い手袋とブーツ、加えて細い体にぴっちりと合わせられた服は高貴な者であると同時に何故か若干の荒々しさも伝わってきた。
「お、お前っ!?」
「……久しぶりだな、生まれ変わりよ。魔将のダチアだ」
「魔王のマナ。よろしくね」
とんでもない顔ぶれに、二人はドン引きしたのだった。
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