3.10.サレッタナ王国
山賊から襲撃されたが無傷で生還することができた。
だがそのおかげで、土地精霊の技能を確かめることができたのは大きかったな。
どうやら土地精霊はMPを100も消費するようだ。
あの時操り霞を三秒以上使っていたら、確実にMP切れになってしまっていたことだろう。
だがMPを100も使っているので、その能力は非常に有能だ。
まず分かったことは、一度使ってしまえば土地精霊の中にある技能を暫くの間好きに使えるという事だ。
壁を止めるのにMPを100使ったが土を沼に変えるとき、MPの消費は一切なかった。
どれくらいの時間使い続けれるのかはわからなかったが、少しでも分からないことが分かっただけでも儲けものだろう。
俺たちは落ち着いた時に、スターホースに水をたっぷりやってブラッシングをしてやった。
本当によくやってくれたぞスターホース。
だがあの速度を何とか操り切るウチカゲもすごかった。
よくやったと褒めてやったが、舌を噛んで痛いのか頭を下げるだけで喋ることはしなかったな。
サテラにはブラッシングを手伝ってもらった。
自分より大きな生き物にたじろぎもせずにブラッシングをできるとは……なかなか肝が据わっている。
流石だな。
少し休憩した後また馬車を動かして森に進むことにする。
ようやくヤグル山脈を抜けたようで、少しずつだが緑が増えてきたように思う。
俺も休憩することができたので、操り霞を使って魔物を捜索。
そして狩った。
この辺は手慣れたものだ。
今晩の夕食を手に入れたので、俺たちはサレッタナ王国に真っすぐ向かうことにした。
まだもう少しかかるがしばらくは襲われるなんてことはないだろう。
因みにウチカゲにもう一度俺のランクを聞いてみたところ、Bランクになるのは容易いとのことだった。
ちょっと自信が持ててきたぞ。
◆
あれから四日が経った。
もうサレッタナ王国は目と鼻の先だ。
既に城壁が見え始めている。
どうやらサレッタナ王国はガロット王国と同じ城郭都市のようで大きな城壁が街を囲っているようだった。
そしてガロット王国よりも広大だ。
これはアレナを探すのは骨が折れそうだな。
城門前にはびっくりするくらい人が並んでいた。
コミケかよ。
これ何時間くらい並んでいたらいいんだ。
そう思うと気が遠くなってくる。
しかしそうは言っていても列が短くなるわけじゃないので素直に待つことにする。
「すごい人だねー」
「これ全員入国待ちの人の列だろ? すごいよなぁ」
「サレッタナ王国はそろそろ祭りの時期ですからね。それででしょう」
「祭り?」
「はい。王子の誕生日に毎年祭りごとをするのですよ」
「へー。王様じゃなくて王子なんだな」
「そうですね。大人になるとこういったことは楽しめなくなるから、若い頃に楽しませようっていう計らいらしいですよ?」
「ふーん。ここの王はいい王様かもな」
多分楽しめなくなるのではなく、楽しむ時間が無くなってしまうの間違いだろう。
響が良いからそう言っているのかもしれないけどな。
貴族とか王族とかは休む暇なんてないだろう。
権力争いとか絶対めんどくさそうだし。
……そういえばアスレから貰った金一切使わなかった。
使い場所がなかったと言ってしまえばそれまでなのだが……。
こんだけの大金隠して何してんだよ。
とりあえず街に入ったらいい宿を探して風呂に入ろう。
……風呂あるかな……。
しかしどうやってアレナを探し出そうか。
サテラの時はジルニアと一緒に話を聞いていたから何とかなったけど、ここでは伝手は使えない。
ガロット王国より広い国から一人を探し出すのは難しすぎる。
…………こういう時は……直接聞き出したほうが良いな。
自分の中で方針が決まったので、後は順番が来るまで馬車の中でゆっくりしておくだけだ。
どれくらいかかるんだろう。
◆
数時間経ってやっとサレッタナ王国に入国することができた。
俺たちはただの旅人で、食料を確保しにこの街に来ただけだという設定を押し通して入国した。
割とそれだけであっさりと入れてしまったので、少し肩透かしを食らった気分だ。
まぁいいけど。
サレッタナ王国は基本的に赤レンガを使っている家が沢山あった。
勿論木造と石を組み合わせて作ったような家もあるのだが、赤色は良く目立つ為、一見するとすぐにそう言った感想が出るだろう。
馬車を預けて俺たちははぐれないように町の奥へと進んでいく。
まずは宿を探しておかなければならないからな。
拠点が決まってから動いたほうが後々便利だ。
という事で俺たちはまず宿を探した。
ウチカゲがこの国に来たことがあるようで、良い宿を知っていた為宿はすぐに決まって部屋に荷物を置いて腰を落ち着けた。
長旅で流石に疲れてしまったからな。
少し休んでおこう。
因みに風呂がなくて普通に落ち込んだのは内緒だ。
「はぁ……なんかこうしていると動けなくなりそうだな」
「長旅で疲れてますからね。疲れている状態で探しても見つかりませんし、今日はゆっくり休んだ方が良いですよ」
「そうだな……」
確かに疲れている時に探しても碌な成果は出ないのはわかっている。
しかし……サテラは随分不機嫌だ。
ここまで来たのに、探すのは明日にしようと言っている俺たちに少し腹を立てているのかもしれないな。
だがそうは言っても体は休めたほうがいい。
サテラも疲れているはずだ。
無理はしてはいけない。
「サテラ。ゆっくり探そうな」
「ぶー……」
「気持ちはわかるさ。アレナは俺の命の恩人だ。俺だって早く助けたい。だが俺たちが疲れている状態で助けに行っても駄目だ。万全な状態でなければ助け出すことは難しい。だから今はゆっくり休んで疲れを取るんだ。わかってくれるな?」
サテラはまだ納得しきれていないかもしれないが、ゆっくりと頷いた。
それを確認してからガシガシとちょっと乱暴に頭を撫でてやる。
「よし、まずは飯だ! 宿の店主に聞いてくるわ」
「あ、もう頼んでおきました」
「流石」
食事を食べてから寝室に戻ると、サテラはすぐに寝てしまった。
流石にサテラを一人で寝させるわけにはいかないので、今回は一部屋だけしか取っていない。
安全のためにはこれが最善だろう。
少し窮屈だが子供が一人だから何とかなる。
俺も流石に疲れていたのか一気に疲れが押し寄せてきた。
目をつぶればすぐに意識を手放してしまっていた。
◆
Side―??―
「ぜぇ……ぜぇ……」
森の中で一人の人物が立っていた。
獲物を狩って皮を剥ぎ、皮を繋いで作った粗末な服を着ている。
あまり器用でないのか、継ぎ接ぎがよく目立つ。
黒い髪の毛に黒い眼玉。
短髪の髪型は水を含んでもすぐに乾く。
この人物は何故か全身びしょ濡れだった。
そして肩で息をしている。
「ま……まさか……滝壺に……落ちるとは……」
服を脱いで皮の服を絞る。
毛皮に含まれた水がびしゃびしゃと落ち、少しけばけばになった。
バサバサと払うと毛が少し立ち、見ためは少しましになる。
濡れているままだが、流石に何も着ないのは不味い。
なのでそのまま羽織って紐で縛る。
紐と言ってもツタをねじねじとねじりこんだものだが、これがまた頑丈なのだ。
意外と長持ちしている。
それに、もし千切れたとしてもその辺に素材はあるので替えがすぐに効く。
意外に便利だ。
だが文明人には程遠い。
何とか人を見つけて服を貰いたいのだが……そもそも遭難していて森から出ることができない。
町は何処?
ここは何処?
私は……何処?
そんなことを呟きながら歩いている。
だが決して口には出さない。
それはなぜか。
先ほど上機嫌でそんなことを喋りながら歩いていると、川に落ちたからだ。
生憎かなづちなので泳げないのが本当に辛い。
そのまま流されて行って滝壺に落ちたのだ。
本当に死ぬかと思った。
だが何とか這い出して一命を取り止めた。
これは技能とステータスのおかげだろう。
だが感知能力が全くないので、全て目視で確かめなくてはいけない。
それで何度先制攻撃を仕掛けられたことか……。
「うなぁ~~。腹減ったぁ~~」
昨日から何も食べていないのだ。
腹はぐぅううと大きな音を鳴らすが、その腹に入れるものを一切持っていない。
だがまだ動ける。
動ける限りは別に食べなくてもいいかなと軽い気持ちでいるのだが、流石に腹まで痛くなってきたので、体が本当に食事を求めているのは確かだった。
何とか獲物を見つけたいのだが……。
そう思った矢先、巨大な爪がその人物の体に突き立てられた。
ザギャッ!
嫌な音を立てながらその人物は吹き飛ばされる。
その爪は大きな熊のものだったようで、爪には血がべっとりついていた。
熊は獲物を狩ったと思い、吹き飛ばした方へと進んでいく。
その人物の匂いを嗅いで、何処から食べようかと悩んでいると、その人物がすごい勢いで起き上がって口の中に腕を突っ込み、素手で頭蓋骨を突き破った。
熊は抵抗すら出来ずに力尽き、その場にドサッと倒れる。
「痛いじゃん。やめろよ……。あーあー服が……なんてことしてくれるんだよ。お前の皮頂くぞ」
そう呟きながら素手で皮を剥いでいく男は、服が破れた程度で怪我はしていないようだった。
あの熊の手にあった血は、他の動物を狩って付いた物のようだ。
熊の皮を剥いでみたが、これは結構重い。
鎧ならまだしも、重い服ってどうなんだろうと思い、ペッと皮を投げ捨てた。
その後は、嫌な音を立てながら簡単に肉を抉ってそのまま口に運ぶ。
随分と荒い食べ方だが、この男はまた暫く動けるだけの食料を手に入れて満足していた。
「んー! くそ不味い! 血不味い!」
そう叫ぶが、食べる手を休めることはない。
とりあえず食べるだけ食べて、後の肉は適当に放り投げて放置した。
だが無理やり皮を引き千切って肉を食べた為、服が血まみれだ。
このままでは人に会っても驚かれるだけだろう。
「……だけど血って固まると茶色になるよな……。いい感じなるんじゃね? このままでいいか」
よいしょと言いながら立ち上がって、熊から手に入れた背骨の骨で、背の高い草を薙ぎ払いながら、一体人にはいつ会えるのかと考えながら適当に歩いていった。
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