11.2.全員集合


 次第に冷静になっていく俺と、落ち着いていくアレナと姫様。

 なんとか引っぺがして静かに座らせておいた。

 ……のだが、二人は離れたくないらしく、俺の側にぴったりとくっついていた。

 狭い……。

 もう少し離れて欲しい……。


 しかしまぁ……アレナがここまで成長してると他の子たちも気になるな。

 ジグルとかどうなってるんだろう。

 普通に気になるけど……いや六年は寝すぎだろマジで……。


「これが代償か~……」

「それだけではない」

「えっ」


 鳳炎がそう言った。

 少し深刻そうな、どうしようもないような顔を見ると嫌な予感しかしない。


「まぁそれは後で話そう。皆を集めてくる」

「お、おう」


 そう言ったあと、鳳炎はすぐに外に出た。

 他の皆を呼びに行ったようだ。


「兄貴ぃ~……」

「なんだ零漸。前みたいには泣きつかないのかお前は」

「お、俺だって成長するっすよ! でも、起きてくれてよかったっす」

「すまんな……。心配かけた」

「「本当に!!」」

「ごめんて……」


 ぐいと服を引っ張られた。

 六年間植物人間状態だったら、そりゃ誰でも心配するわな……。

 諦めている人もいたかもしれないけど。

 ていうかその間、俺何食ってたんだろう。

 あ、めっちゃお腹空いた。


「にしてもアレナ、大きくなったな」

「六年だよ六年!! そうなるよ!!」

「はははは……。昔より強くなってそうだな」

「……もうAランクになったから、サテラお姉ちゃんのお手伝いしてるの」

「あらー、置いて行かれたなぁ~」


 アレナならAランクどころかSランクにまで行けそうな技量はありそうだけど……約束を守ってAランクになったらサテラの手伝いをする事を選んだんだな。

 ずいぶん昔の約束だ。

 懐かしい。


 ちなみに今も重帝という不名誉な二つ名が出回って困っているのだとか。

 軽い方がいいとか昔言ってたもんな。

 でも技能的に見れば、それが一番しっくりくるんだけどね。


 にしても本当に大きくなった。

 背は俺より少し低いといったくらいか。

 バラディムと同じローブをして、額当てをしている。

 すらっとした体型は美しく、アレナらしさを出していると思う。

 押さえているのかどうかは分からないが、胸は目立たない。


「応錬様! 私は!? 私は!?」

「姫様はなぁ~……変わらねぇな!!」

「えっへへ~!」

「褒めてねぇよ!!」


 君のホールドめちゃくちゃ痛いんだからねっ!!

 それだけでも治ってくれたらよかったんだけど……。

 まぁそれは今に始まったことじゃないか。


 でも未だに悪鬼になっていないことにほっとした。

 そういえばヒナタはどうなったんだろう。

 向こうにも一度寄ってみたいが……あまり推奨はされないだろうなぁ。


「で、一番気になってたんだけどさ。零漸、お前が抱えている赤ちゃんって誰の子供?」

「あ~、え~っとっすねぇ……」


 そこで襖が開いた。

 タイミングが少し悪いなと思ってそちらを見てみると、アレナに似た顔をしている女性が立っている。

 彼女は美しい赤を基調としたドレスを身に纏い、丁寧にお辞儀をしてくれた。


「うお!? サテラか!?」

「そうですわ! ようやくお目覚めになられたのですね! 応錬様!」

「アレナと顔が似てるからすぐに分かった……。大きくなったなぁ」

「ふふっ」


 上品にくすくすと笑う。

 だが西洋の服装はこの和室には似合わないな……。

 和洋折衷っていう言葉もあるけど、それにしたって不釣り合いすぎだ。

 まぁこれは口に出さないけど……。


「って、バミル領はどうした?」

「そのことにいついては後でお話いたしますわ」

「お前もかよー。鳳炎にも後でなんて言われたんだけど……」

「色々ありますの」

「そうなのかー……」


 なんかはぶられてるっていうか、もったいぶられている気がするなぁ。

 早く教えて欲しいんだけど。


 カタンッ、カタンッ。

 廊下を叩くようにして歩いてくる人物がいるようだ。

 なんの音だろうと思って襖を見て待っていると、目隠しを取ったウチカゲが杖を突いて不格好な歩き方で部屋に入ってきた。

 昔のような防具は付けておらず、藍色の羽織に大きな袴を履いている。

 完全な和服姿のウチカゲは初めて見た。


 そこで、俺はウチカゲの足に目がいく。

 歩き方が、変だった。


「お目覚めになられましたか、応錬様」

「ウチカゲ……? それ、どうした?」

「六年前……あの戦いでドジを踏みましてね。テキルに義足を作ってもらったのです」

「……そう、か……」


 袴を上げて、義足を見せる。

 膝から下が無くなっているようで、無機質の機械の足が姿を見せた。

 テキルの魔力接合で繋いでいるらしく、普通の足の様に動かせはするのだが技能を使えるほどの耐久力はないらしい。


 ウチカゲは畳に座り、杖を膝の上に置いた。


「どうか気を落とさないでください。もう六年も前の話です」

「気にするさ……。あ! ウチカゲ! 他の皆はどうなった!? 全員無事か!?」

「はい、大丈夫です。リゼ殿が回復魔法を所持しておりましたので、何とかなりました」

「そ、そうかー……良かった……」

「ですが、皆何と戦ったのか覚えていないのです。確かに強敵と対峙したという記憶はあるのですが……」

「ああ~、それかな……。俺が使ったやつ……」


 何をしたのかはまったく覚えていないけど、多分記憶がないのは俺が応龍の決定でなんかしたんだろう。

 考えても思い出せないと思うので……うん。

 諦めよう。


 なんにせよ、全員が生きてくれていてよかった。

 それだけで満足だ。


「なぁ、ウチカゲ。あれからどうなったんだ?」

「……後にライキ様やダチアも来ます。その時に」

「なんだよー。皆もったいぶるじゃん! アレナ教えて?」

「ダメー」

「ええー……」


 なぜなんだ……。

 まぁ、皆揃ったら教えてくれるみたいだし、ここは大人しく待つことにしましょうかね。

 あ~めっちゃ気になる。


 零漸が俺が寝ていた布団を片付けて隅に置いた。

 その隣に座り、赤ちゃんを自分の前に置く。


「で、零漸? その子だけど──」

「応錬さん!」

「お!? アスレか!!」

「僕もいるよーん」

「バルトか~」

「なんで僕に対する反応は薄いんだよう!!」


 なんとなく……。

 いや、多分一番初めにバルトが出てきてたらびっくりしてた。

 アスレが出てきたってことはバルトも付いてくるって相場が決まってるしね。


 大きな声でツッコんだバルトだったが、怒ってはいないらしい。

 むしろこの会話を楽しんでいるようだ。

 子供らしさは姿だけでなくこういうところにも反映されてるみたいだね。


 アスレはすぐに、俺に呆れたような目を向けて小さくため息をついた。


「寝過ぎですよ。六年って」

「それだけの代償を課せられるほどの願いをしたんだ。今回は魔力の供給もなかったからなぁ」

「まったく、お寝坊さんにも程があるよ君」

「んー、そいつは言い返せないなぁ……」


 それは言わないでください。

 仕方がないことだったんですから……。


 えっと、あれからガロット王国国民はどうなったんだろう。

 しばらくはテントを張って過ごしていたみたいだけど。

 あ、でもこれも後でって感じなんだろうな。

 聞くのやめとこう。


「ていうか部屋いっぱいになるんじゃ?」

「こっち開けるともう一つ部屋があるので大丈夫ですわ!」

「広いな……」


 さすが前鬼城御殿。

 部屋はしっかりと用意されているみたいですね。


 部屋が少し広くなったので、各々が少しだけ移動して距離を取った。

 そうしていると、再び襖が開く。


「心配しましたぞ、応錬様」

「すまんな、ライキ」


 車椅子に乗せられたライキがやってきた。

 どうやらシムが押しているらしい。

 優しく持ち上げ、ライキをゆっくりと座らせる。


「すまんのぉ」

「もー、ライキ様。それはなしって話だったでしょう?」

「むぅ、そうじゃったそうじゃった」

「元気そうだな」

「ほっほ、今では庭を眺めるのが日課ですがのぉ」


 そ、それは何か寂しいな……。

 まぁ自由に動けなくなったらそれが日課になっちゃうのも分かるけど。


 ライキとシムのあとに続いて、鳳炎とダチア、ティックとカルナが入ってきた。

 鳳炎が戻ってきたということはこれで全員集まったのかな?

 それぞれが好きなところに腰を下ろす。


「とりあえず、今いる者はこれで全員である」

「一つの部屋によくもまぁこれだけ集まったなぁ……」

「襖取っちゃいましょ。アレナさん手伝ってください」

「いいよー」


 ようやく二人が離れてくれた。

 広くなった……。

 が、襖を取って隅っこに立てかけた後、また戻ってきました。

 狭い……。


「両手に花とはこの事だな」

「茶化すなよダチア……」

「さ、鳳炎。さっさと話すぞ」

「そうしよう」

「あ、ちょっと待って」


 そろそろ零漸の抱えている赤ちゃんのことを聞きたい。

 それくらいなら許してくれるでしょ。


「って……え? え?」


 零漸の方を見てみると、カルナが隣に座っていた。

 カルナが赤ちゃんを抱き、揺らしている。

 その姿は傍から見れば……まるで夫婦のようだった。


「え!!?」

「あ、分かったっすか?」

「え!!? うそ!!?」

「六年ですからね……。まぁ、色々ありまして」

「んやああああ俺の中では話が飛躍しすぎて理解がああああ!! いや、そうじゃない!! おめでとうだな!!」

「ありがとうございます」

「へへ……」


 カルナは素直に受け止めたが、零漸は照れ臭そうにしている。

 はぁーーーー、この二人がねぇーー……。

 いや、確かに昔から距離感バグってたけども。


 すると、シムが何かごそごそし始めた。

 書院造の天袋から何かを取り出す。

 それを見た姫様が、ハッとしたように側を離れて何かを取りに行った。

 すぐに戻って来て、取ってきたものを俺の前に置く。


「……え? 机?」

「はい、どうぞ」

「え? 筆? 和紙? ごめん姫様、シム? これ何?」


 姫様が持ってきたのは小さな机。

 シムが天袋から取り出したのは書道道具一式だった。

 俺の隣で墨をすり始める。


 待って待って、ナニコレ理解できない。


「兄貴。この子の名前を決めて欲しいっす」

「は!? 決めてなかったの!!?」

「だって俺のネーミングセンスは壊滅的って兄貴も知ってることっすよねー!?」

「いやそうだけども! てか自覚あったんかい!!」

「まぁそれは置いておいて……兄貴に決めてもらいたかったんすよ。もう少しでライキに頼むところだったすけどね!」

「私からもお願いします」

「う、え……まじかぁー……」


 名付け親になるってことでしょ?

 ていうか目覚めたら六年後でアレナたちがめっちゃ成長してて二人が結婚して子供まで持ってるってことだけで頭いっぱいなのに、名前を決めて欲しいって……。

 俺をどれだけ酷使したいのよ。

 まぁいいけどね!


 ていうか、このことは皆が了承してたんだな。

 そうでなきゃ姫様とシムの動きの速さが説明できん。


「ちょ、ちょっと時間頂戴?」

「! ありがとうっす兄貴!! 良かったっすねカルナ!」

「うん」


 嬉しそうに頷き合う二人。

 君たちの馴れ初めが聞きたいよまったく。


 さぁ、決めるとなったら生半可なものじゃいけないな……。

 ていうか皆の前で決めろって地獄かよ。

 マジで真剣に考えなければ……!!

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