7.11.あとで


 鳳炎を殴りたい衝動に駆られるが何とか耐え、白虎の姿をもう一度見る。

 急に足を止めたことに付いていた二人が首を傾げているが、今それは置いておこう。


 なんせ、四人目の転生者なのだ。

 まさかサレッタナ王国で出会えるとは思っていなかったので驚いた。

 これは話をしておかなければならないというものだ。


 何を話すとか特段決まってはいないが、ここで逃がしてしまえば次いつ話せるか分からない。

 とりあえずここに留めようと考えてみるが、それより先に白虎の方が口を開いた。


『悪いけど、夜にしてくれないかしら。貴方たちのことは気になるけど、今はメリルを家に送らなきゃ』

『メリル? そいつか』

『ええ、私の恩人。夜になったら貴方たちの所に向かうから』

『そんなことできんの……?』

『できないの?』


 いやそういう言い方はないんじゃん……。

 まぁ常に操り霞を展開させて追いかけるのであれば可能だけど、結構疲れるんだよ。

 ていうか他の行動しながら操り霞で他人を監視するのは無理です。

 そんな器用なことできませんからね。


 だがこいつ的に、今の発言に悪意は一切ないらしい。

 それはそれでたちが悪いが、まぁこの際置いておこう……。


「はー、はー……はははははは!」

『てめぇはいつまで笑ってんだよ!! 行くぞアレナ!』

「……あれ? え、どこ行くの? 鳳炎ーいくよー?」

「ちょ、ちょっと待って……フフフフッ……!」


 こいつ本当にどっかでぶっ殺そうかな。

 殺しても死なないし一回くらいいよね?


『じゃ、後で』

「リゼ? どうしたの?」


 少女の言葉を聞いて、首を横に振って歩きだす。

 急に大爆笑し始めた鳳炎に、歩いていた人々の目線が集まっているのでさっさとこの場を逃れることにしよう。

 向こうもあとで会ってくれると言ってくれたのだし、夜に人気のない場所で会うことにしよう。

 あまり聞かれたくはない話かもしれないからな。


 でも俺たちあの防衛戦で結構有名になっちゃってるし、なんなら鳳炎のせいで俺目立っちゃったし。

 実は魔物でしたーなんて知られたらどうなるか分からないので、マジで慎重に話し合いをする場所は考えよう。

 鳳炎も今更実は鳥ですとか言えるはずないからな。


「はー、落ち着いた……。あいつなかなかセンスがあるな!」

「あいつって?」

「ああそうか。アレナは分からないんだったな」

『そういうのは後にしろっての。ほら、まずはギルド行くぞ。依頼書を確認くらいしておきたいからな』


 夜まで時間はまだある。

 それまでに俺の経験値となる魔物の依頼書を確認しておきたい。

 この先が不安過ぎるんだよマジで……。


 ていうかまだ進化先ってあるよね?

 希少種の加護があるっていうのに全然レベル上がらないんだもんなぁ。

 これ飾りか? 飾りなのか?



 ◆



 そんなこんなでギルドに戻って来た俺たちは、早速依頼を確認してみることにした。

 が、残念ながら俺は地面よりちょっと上くらいに目があるので、ぜーんぜん見えません。

 頭持ち上げてもそんなに起き上がらないだよなぁ。

 翼が邪魔です、はい。


 ここはアレナと鳳炎に任せることにしよう。

 二人は暫く依頼を眺めて、それぞれが一枚ずつの依頼書を手に取った。


「「これにする!」しよう」


 そーんなことありますぅ?

 どっちか一つしか受けれないと思うぞー……?

 俺たちはCランクだから、Aランクの依頼は受けれないし……。

 それにCランクとは言え強い魔物はいるだろうからな。

 こっち行ってすぐあっちっていうのは難しいだろう。


「こっちだよ鳳炎!」

「いや、この依頼の方が絶対いいぞ?」

「そんなことない!」

『あーはいはい、なんだ見せてみろ』


 魔物の俺が依頼書を覗き込むとかよく分からないけど、まぁ置いておこう。

 内容を見てみると、それはどちらも討伐依頼。


 アレナの持っているのは、討伐数によって報酬が増えるもの。

 対象は洞窟にいると言われるバディッドという蝙蝠らしい。

 あのくそデカい声を発してくる奴ではないようだが、体が大きく繁殖能力が高いので見つけた場合は速やかに処理しなければならないようだ。

 一匹見つけたら十匹はいると思えと書いてある。

 ゴキちゃんかな?


 一方鳳炎の持っているのは大きな魔物を討伐するというものだ。

 人の背の丈を優に超えるワルフルという可愛らしい名前の狼が対象らしい。

 名前の割に依頼書に書いてある絵が極悪すぎて怖いんですけど。

 めっちゃメンチ切ってるやん……こわ……。


 えーと、つまりアレナは数を食べてもらって経験値を多く獲得してもらうという意見で、鳳炎は強い魔物を食べてもらって経験値を多く獲得してもらおうという考えか。

 俺のためにしっかりと考えてくれるのはありがたい事だが、今回の場合は鳳炎の依頼に行くのがよさそうだな。


 弱く小さな魔物を何匹食べても、経験値にはならない。

 であれば強い個体を食べなければならないからだ。


 とは言えバディッドはCランクの魔物。

 これもどうなるかは分からないので、今度受けることにしておこう。

 結構急な依頼だしな。


「ということだそうだ」

「えー!」

「まぁ今日の夜は予定もある。長い時間がかかる依頼より、短時間で終わる依頼の方がいいもの事実なのだ」

『悪いなアレナ』

「だが目的地まで距離がある。私が運んでいけば問題ないが……」


 ああ、それなら大丈夫。

 アレナは飛べるし、俺は無限水操を使って浮遊して行けば問題ないからな。

 移動自体はすぐにできるぞ。


「……何故サレッタナ王国に入る時私に運ばせたのだ」

『忘れてた』


 ごめんて。

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