11.11.決定するまで


 一晩が経った。

 俺は布団から出て、それを畳む。


 敷布団というのはいいですね。

 普通に気持ちがよく寝られる。

 まぁ六年これで寝ていたわけだしな。


 というか、また数年寝ていたりとかしないよな……。

 まだ代償終わっていませんとかやめてほしい。

 恐る恐る廊下を出る。


 すると、良い匂いが漂ってきた。

 朝食を作っているのだろう。

 女性の鬼たちは朝早くに起きて朝支度をするんだったな……。

 すごいなぁ。


 そんなことを思いながら、匂いのする方へと歩いていく。

 俺が顔を出したら絶対に驚かれるので、操り霞だけでその場の様子を見ることにした。

 もう既に多くの朝食が完成しているようで、お膳に乗せられている。

 あとは運ぶだけのようだ。


 だったら昨日夕食を取った場所に向かうとしますかね。

 最初に座っておこう。


 そう思い、すぐに歩いていった。

 襖を開けて、囲炉裏の前に座る。

 昨日座っていた場所だ。


 にしても、昨日の夕食は美味しかったなぁ……。

 俺がこの世界に来て初めて日本食を食べた時と同じくらいの感動があった。

 お米ってとても美味しいんですわ……。

 あと味噌汁。


「おや、おはようございます応錬様。お早いですね」

「おはようウチカゲ。俺何日寝てた……?」

「ご心配なさらず。大丈夫ですよ」

「良かったー……。いやぁ、やっぱり怖いもんだな」

「はははは、怖いものなどなさそうですのにね」


 ウチカゲは笑いながら座布団を敷いて座る。

 脚が義足になったとはいえ、意外と上手く動かせている。

 ここまでできるようになるのに長い時間をかけたのだろう。


 杖を隣に置いて、囲炉裏に火をつける。

 今日はそんなに寒くないのだが……。


「火はいるのか?」

「ええ。今日は寒いですから」

「……? 寒いか?」

「おや? 寒くないですか? 俺は布団から出るのに苦労しましたが」

「んー?」


 いや、全然寒くないなぁ。

 進化してなんか変わったのだろうか?

 耐性にそういったものはないけど……。


 まぁ別に火がついていても大丈夫か。

 趣があっていいしね。


 ウチカゲは火をつけた後、座り直した。


「応錬様。これからのことを一つ」

「お、なんだ?」

「今現在、応錬様たちの封印の準備を向こうにさせるように手配している最中です。アスレ殿、バルト殿、サテラ殿がこの事を伝えるために兵を出しています。交渉に時間もかかるでしょうし、その日は遠くありませんが今ではありません。それまでは、何も考えずにご自由にお過ごしください」

「ああ、そうなるよな。分かった。では準備が整うまではそうさせてもらうよ」


 まぁ確かに時間はかかる。

 それまでは、自由に過ごすことにしましょうかね。

 最後だし、好きにさせてもらってもいいでしょう。


 そう考えると日輪ってすげぇな。

 速戦即決って感じ。

 決めたことは速攻でこなしてるもん。

 俺にはそこまでの度胸はないわ……。

 まぁ今回の件は、できるだけ早く済ませたいんだよね。

 俺の気が変わらない内に……いや変わる予定はないんだけどさ。


「あ、そうだ。ウチカゲ」

「はい」

「カルナと宥漸を送り届ける場所を決めておきたい。この近くに何処かいい所はないか?」

「ありますよ。先代白蛇様の祠です。洞窟の中にあるので、そこに呼んでくだされば俺……もしくは俺の後継者に必ず迎えに行かせます」

「んじゃ、それで頼む」

「はっ」


 ウチカゲは頷いた。

 とりあえずこれであの二人の安全は確保できるな。

 あとはウチカゲに任せよう。


 そこでウチカゲは真面目は表情を崩し、少し笑った。

 今は目隠しがないからそれがよく分かる。


「では、これから何をしますか? 何かあればご協力いたしますよ」

「んー……」


 そう言われると少し悩む。

 さすがにこの前鬼の里を出て何かするっていうのは難しいから、ここで何かできないかを考える。

 そこで、ふと懐かしい光景を思い出す。


「……祭り……」

「お?」

「祭り。あの太鼓演舞……もう一回見たいな……。時期は違うけど……」


 そこでウチカゲがにこりと笑った。


「応錬様。今が、その時期なのですよ」

「え!? そうなのか!?」

「はい! もう少しで稲刈りが始まります。アレナと姫様に連れられている時は城下の外まで見る余裕はなかったでしょう。知らないのも当然です」

「ていうことは今秋か~」


 全然寒くないのは本当に何でだろうか。

 ていうかあれなんだよな。

 俺のステータスって多分龍になった時のステータスなんだよ。

 人間の場合は結構弱体化されてるんだろうな。

 攻撃力とか魔法力とかは別っぽいけどね。


 いやぁ、それにしても祭りが近いのか。

 もう一度見れるな!

 多分それまでには封印はされないだろうし、楽しめるぞ!


「では、少し稲刈りの時期を早めましょうか。やはり米がなければ祭りは始まりませんから」

「い、いいのか? 米の品質とか大丈夫?」

「心配には及びません。もう穂も熟しておりますので、あとは様子を見て刈り入れようという話になっています。戦争もあってなかなか皆の時間が合わなかったのですが、戦争は終わるので大丈夫なはずです」

「ならよかった。祭りかぁ~。楽しみだ……。あの魚とか食べられるかな?」

「宝魚ですね。もちろんご準備いたしますよ」

「おお~!」


 あれ美味しかったもんなぁ~!

 またベドロックが発生したりしていないよな……。

 大丈夫だよな?


 まぁ何かあったら俺が何とかしますかね。

 あ!

 今は龍だから水の中に潜るとかはできそうにねぇ!

 無理ぽいですね。


 すっと襖が開く。

 今度は鳳炎が入ってきたようだ。


「おはよう。早いな」

「おはようございます」

「おはよう鳳炎。聞いてくれよ! 祭りが始まるぞ!」

「祭り……?」


 あ、そう鳳炎はあの時いなかったか!

 ……いや、いないわけではなかったな。

 俺が蛇になって鳳炎にマナポーションを飲ませた記憶があるぞ……。

 思い出されても面倒なので、この事は黙っておくとするか。


 まぁそれは置いておいて。

 今回の祭りは稲刈りから参加してみたいなぁ。

 なんせあの時は何もさせてもらえなかったからね。

 できる事なら体験させてもらおう。


 そこでまた襖が開いた。

 姫様がびっくりした様子でこちらを見ている。


「わぁ、皆さんお早いですね!」

「あら、姫様が料理作ってたの?」

「はい! 昨日は応錬様とずっと居たかったので任せていましたが、今日は私も作りました! どうぞ召し上がってください!」

「おお~」


 そうして俺たちの前に膳が置かれる。

 その上には朝食に相応しい食事が並んでいた。

 食べてみれば、とても美味しい。


 姫様もこの六年で大きく変わったようだ。

 ただの我儘姫ではなくなったらしい。

 変わっているところはないと思っていたけど、変わっているところしかなかったようだ。


「では、私は他に皆さんを起こしにいってきますね!」


 元気よく声を張り上げ、姫様は廊下を走っていった。

 最後にドタンッとこける音がするまでがワンセットである。


「変わらないなぁ~」

「はははは、確かにそうですね」

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