2.4.試し撃ちの強敵


 はーい。不機嫌だった応錬です。

 あれから夜が明けまして、天の声に対する愚痴をこぼしていたら寝てしまっていました。

 今は滝の上に移動中。

 そしてマジで便利な技能がありました! 不機嫌さも吹っ飛ぶような技能がな!


 その名も! 『無限水操』でーす!

 水を生成するときのMP消費がちょっと激しいのだが、水さえ出してしまえばMPは消費しなくなる。

 なんとこれ、俺が出した水の中に入って空中を移動することができたのだ!

 顔も出せるから呼吸は問題ありません!


 なので滝の上には簡単にいくことができました! 超便利!

 だけど……MP消費が意外と馬鹿にならない。

 水を生成するだけで30MPも持っていかれる。

 まぁその後の水操作でのMP消費がないだけまだましかもしれないが……この水は大事にしておかなければならない。


 なので今も俺の後ろをついてこさせている。

 荷物持ちにもできるので今度大きな獲物を狩ったらこいつに持って行ってもらおう。


 こうしてみていると可愛いな。

 ルンバみたいな愛着が持てる。

 掃除機じゃなくてカバンみたいになってるけど……これで中に入れたものが水で濡れなければ最高なのになぁ~。

 無理だけど。


 そういえば俺……ルンバとかそういう記憶はあるんだな。

 自分が何者だったーとか、どんなことしてたーとかは全く思い出せないけど。

 料理の仕方とかも知ってるしー……計算の方法も知ってるし。

 ていうか日本で生活するには困らない知識はあるな。


 なんだろう……俺に関することだけがすっぽりどっかに吹き飛んでる。

 まぁ転生してるから死んでいることは間違いないんだろうけどさ。

 病死? 殺害された? それとも寿命?

 いやいや寿命だったらこんな性格じゃないでしょ。


 自分のことは気になると言えば気になるんだけど……まぁ思い出せないものは仕方がないしな。

 何かの拍子に思い出すかもしれない。

 今は今を生きることを考えようか。


 ということでふわぷか~。

 あー……体がでかくなったから水の量を結構多めに出さないといけないんだよなぁ。

 蜷局を巻いてすっぽりと水の玉の中に入っているけど、全長は大体二・五メートルくらいかな。

 体の太さは五百ミリリットルのペットボトルくらいある。


 水蛇ってもう進化できないのかな。

 てなると今度は種族変更進化しかなくなるわけだけど……あんまり大きく骨格は変化しないよね?

 あれめちゃくちゃ痛いの。

 まぁどちらにせよレベルをあげないと始まらないんだけどね。


 で、今いる場所は滝を登ってさらに上流に行った家から結構離れた場所なのだが……森ですね。

 どんだけくそでけぇんだよこの森! 集落とかないの!? ないんですか!?

 ていうか広い空間もなさそうですね。

 唯一開けている場所はこの川の周囲だけで、他は手つかずの魔境と化していますね。


 ん~。獲物もいないなぁ。

 これだけ目立つ動きをしているのに敵が来ないとは何事か。

 まぁ飛んでいる蛇とかわけわかんないんだけどさ。

 俺もこんなの見たら逆に逃げるわ。


 水の玉から頭を出して呼吸をする。

 水の中にいても数十分は息継ぎをしなくても問題はない。

 流石水という字を名前に付けるだけあるな。潜水能力が優秀だ。


 獲物を上空から探しているが、やはり見つからない。

 下ばかり気にして索敵をしていた俺は、さらに上空にいる敵に気が付くことができなかった。


 無限水操で出現させた水の玉に何かが突っ込んできた。

 上を気にしていなかった俺は奇襲を容易く受けてしまう。

 蜷局を巻いていた体に大きなかぎ爪が食い込んできた。

 一拍遅れてその状況に気が付いたあと、体に激痛が走る。


 ぎゃああああ!? な、なんだ!?


 確認をしてみると、俺の体にがっちりと爪が食い込んでいた。

 めちゃくちゃ痛い。

 相手を確認すると、それは大きな鳥だった。

 翼を広げた状態で五メートルほどになるのではないだろうか。

 焦げ茶色の翼と、灰色の嘴……黄色い眼球には一線の黒い筋が入っており気味が悪かった。


 俺は全力で振りほどこうとするが、逆に自分の肉を引き裂いてしまうだけに終わった。

 どうやらかぎ爪が骨にまで届いているらしく自力では振りほどけない。

 とっさに俺の十八番である剛牙顎を発動して体に噛みつこうとした。

 噛みつく場所はどこでもいい。

 絶対に相手を殺すには喉元に噛みつくのが良いのだが、首は動いて回避される可能性があったので胸に噛みつくことにした。

 狙える場所が大きいため、外すことはないはずだ。


 激痛を堪えながら発動した剛牙顎で胸に噛みついた。

 今までこいつで噛み切れなかったものはない。

 口を大きく開いて狙いやすい胸に噛みついた……が、その攻撃は届かなかった。


 ふぐあ! な、なにぃ!?


 噛みつこうとした瞬間、もう片方のかぎ爪で俺の首元を押さえつけられたのだ。

 首のほうが細いためかぎ爪が首の肉を抉ることはなかったが、力強く掴まれており息がしづらい。


 鳥は水の玉から俺を引き出して上空へと飛んでいく。

 自分の体を鳥の体に巻き付けて機動力を落とそうとも試みたが、まともに動かせる部分がほとんどないため体を巻き付けることは不可能だった。


 ちょちょちょちょ! ちょい待ちやがれこのくそ鳥!

 あああああああマイホーム! マイホームが遠くなる!

 ってか早いなこいつ! 車かよ! いだだだだだ!


 ええい! 今そんなこと考えている場合じゃねぇ!

 体が動かせないなら魔法系技能だ! 何がいいんだこれ!?

 この状況を打破するのなら何でもいい!

 『無限水操』! 『連水槍』!


 水を生成して連水槍を発動させる。

 焦っていたのでとにかく沢山の槍を出現させてみた。

 その合計二十本。

 あまり熟練度が高くないせいか、竹槍のような姿になったが……これで十分だ。


 突然現れた水に驚いたのか、鳥は少し高度を下げて滑空体勢になった。

 速度を上げて振り切るつもりだろう……だが逃がさんぞ!

 

 後ろから全力で二十本の槍が追いかけてきた。

 逆に俺まで巻き添えになりそうで恐いが背に腹は代えられない。

 とにかくこいつの機動力を落とさなければならないのだから。


 槍は鳥に向かって連続で攻撃を仕掛けるが、鳥は五メートルもある巨体で危なげなく躱していく。

 さながらプロの戦闘機パイロットのようなアクロバティックな回避だ。


 くそったれムカつく!

 今そんなの求めてないわ!

 槍じゃダメか! ならこいつでどうだ! 『水流剣』!


 口元に水を生成して小型ナイフのような形を作る。

 そして羽ばたいている羽に向かって思いっきり投げ飛ばした。

 鳥にその攻撃は見えていなかったようで簡単に大きな翼に当たる。

 しかし、刺さることはおろか切ることすらもできなかった。

 精々体勢をちょっとばかし崩した程度だ。

 滑空しているのですぐに軌道修正が行われる。


 弱いな!? 水鉄砲かよ!

 くっ……MPがゴリゴリ削られていく! 連水槍二十本は多かったか……。

 ていうか水流剣は使い物にならない。

 連水槍の下位互換だからな……連水槍は使用MP次第で少し攻撃力が上がる。

 今の要は連水槍だ。だがこれ以上はMPが持たない。


 一度解除しよう……。

 だがヤバイ! やばいぞこれ!

 い、今のステータスはどうなってる?


===============

 名前:応錬(おうれん)

 種族:水蛇


 LⅤ :1/30

 HP :29/69

 MP :58/121

===============


 あっかーーーーん!

 てか俺レベル1か! そりゃあ弱いわな!

 ぐぬぬ……想像以上にHPが削られている。

 これゲームとかで言う状態異常とかあるんじゃないの? 出血とか! そんなことない?

 てか俺の防御力とりあえず98はあるんだよ?

 もし状態異常とかなくて、一番初めにもらった攻撃で40もHPが減ったってことだったらこいつ強敵なんじゃないの!?


 おい天の声! こいつは何だ!?


===============

―レキハック―


 大型の鳥類。強靭な爪で獲物を切り裂いて弱らす。そして巣に持って帰る習性がある。

 雑食で、自分が狩れると思った獲物を見境なく狙い、巣に持って帰ってしまう。

 ときには群れで人にも襲い掛かることがある。

 一匹でも狼の群れを崩壊させるほどの力を持っている。

 飛行能力が優れており、撃ち落とすことはプロでも困難。

===============


 人まで襲うのかこいつ!

 つーか一匹でもやばい奴じゃねぇか!

 なんで優先討伐獣類に入ってねえんだよ!


 ちくしょう! 残りMPでは連水槍を使うのは厳しい……考えろ! 考えろ応錬!

 操り霞はどうなんだ……?

 んー使ったことがないからわからんけど、攻撃系技能じゃないことは確かだろう。

 何で確かめてないのこのポンコツ!

 ぐぬぬ……どちらにせよ無限水操は発動させないとだめか。

 これからの派生技だもんなこれ……。

 おん? 派生技?


 あ、ちょっと待てよ?

 俺、攻撃系技能に執着しすぎて忘れてたことがあるぞ?

 そうだよ、無限水操で倒せるんじゃね?

 こいつも生き物だし息はしてるでしょ!

 だったらこいつを覆うくらいの水をだせばいいじゃねぇか!

 俺は数十分は潜れるしな!

 おっしゃ『無限水操』!


 俺を中心にして水が生成され始める。

 使用MPは30だ。

 とにかく沢山、できるだけデカい水の塊を生成する。

 それは簡単に鳥を覆い尽くした。

 水のせいで羽を思うように動かすことができなくなった鳥は外に出ようともがくが、俺はそれを追いかける形で水を操る。


 逃がすか!


 さらに暴れる鳥を抑え込むように水を圧縮させていく。

 見る見るうちに鳥の動きが鈍っていくのを見るに、やはり俺のように長く潜水はできないらしい。

 そしてようやく動きが止まった。

 だが肉に食い込んでしまっている爪だけは放せなかったらしい。

 まだくっついたままだ。


 …………とりあえず下に降りてこれ取るか……。

 いでぇええ! あだだだだだだ!

 

 必死すぎて気が付かなかったが……冷静になった瞬間思い出したかのように痛みが襲ってきた。

 勘弁してくれ……。

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