3.36.冒険者ギルド
ガロット王国に来てから一日が経過した。
昨晩はアレナ達を寝室へと連れていき、寝たのを確認してからバルトに今のガロット王国の現状について聞かせてもらった。
まずはアスレの行動だ。
あれからすぐに他国へと赴いてガロット王国の現状を伝えに行ったそうだ。
帰ってくるのにはそれなりの時間がかかってしまうらしいが、王が不在だとしてもバルトが全て何とかしてくれるので全く問題はない。
頼りになる兄だ。
アスレを見送ってから、バルトとバラディムはアズバルが治めていた領地の民を開放し始めたのだという。
それと同時にバラディムが奴隷狩りに参加していた奴隷商たちをひっ捕まえて、完全に国の膿を出し尽くしたらしい。
それに伴い採掘場は一気にその労働力を失っており、採掘量は著しく低下した。
だがその代わり冒険者ギルドのE-ランクの依頼として採掘の仕事を持ちかけた様だ。
そうすることによって採掘量は増え始めているらしい。
だが採掘は奴隷がやる物だという認識がまだ抜けていないらしく、本当に金に困っている冒険者が安定してお金を稼ぐためにしか使われていないのが現状。
これは時間と共に解消される問題なので、あまり深く考える必要は無いようだ。
まだまだ安定した政策はできていない様だが、これから時間とかけて基盤をしっかりを作っていくとのこと。
これからが楽しみである。
朝起きてからは、城の中で食事をとった。
それから、前から言っていた冒険者登録をするために冒険者ギルドに向かっている最中だ。
アレナは冒険者になることを俺たちに伝え、そして全員が了承してくれた。
サテラだけが復興に当たり、それをサポートするのがバラディム。
そんな形で復興に当たることになったらしい。
だがアレナがずっと冒険者をしているわけにはいかない。
なのでサテラとアレナは話し合って条件を決めた。
まずアレナがAランク冒険者になったら絶対に帰ってくる事。
そしてサテラの護衛をするため、復興した領地を守るという事だ。
つまりアレナがAランク冒険者になった時、俺たちのパーティーから抜けてバラディムのように、サテラを護衛するために故郷に帰るという事になる。
その日を境に冒険者稼業は終わり。
故郷を守るため、しいてはサテラを守るためにサテラ直属の護衛騎士になる。
という事になった。
Aランク冒険者であればそんじょそこらの冒険者には負けはしないだろう。
アレナもそれに賛同し、Aランク冒険者になったら故郷に帰って村を守ると宣言した。
そうでなくてもピンチの場合は、故郷に帰って助けに行く事も約束していたようだ。
Aランク冒険者になるまでは永住はしないが、助けに行くことはするらしい。
そうなることがないように祈りたいが……まぁその時は俺も手助けするとしよう。
その時はまだパーティー組んでるだろうしな。
そんなこんなで冒険者ギルドについた。
冒険者ギルドの建物は大きい。
パット見た感じだと教会とも見て取れる建物だが、銅像もなければ鐘もない。
ちょっと詳しく見ようとすればここが教会ではないことにすぐに気が付くだろう。
受付のある広間に入るまでにも冒険者たちが入り浸っていた。
柄の悪そうな冒険者だったり、明らかに魔導士ですよと言わんばかりの服装をした女性、中には同じ防具を着て統一感を出しているパーティーもあれば、獣人と思わしきパーティーもちらほら見えた。
そういえば獣人たちのことをあまり知らないなと思い、少し見ているとすごい怪訝そうな顔をして離れて行ってしまった。
少々失礼だっただろうか?
中に入ると受付カウンターらしき場所が五つほどあり、その一つ一つに受付の人が三人体制で事に当たっていた。
他にも何カ所かそういった場所はあるが、人が良く集まっているのは五つのカウンターだけだ。
この場だけはとても広く作られており、机や椅子といったものも用意されていてそこに冒険者達は腰を下ろして雑談をしている様だった。
壁にはボードが多く取り付けられており、そのボードには溢れんばかりの紙が貼り付けられている。
恐らくあれば依頼ボード的な物だろう。
こなしたい依頼の紙を引きちぎって受付に持っていくとその依頼を受けれる。そんな仕組みだろうな。
「うへえー。すっごい人ですね」
「ああ。これはすごい」
「皆さんは冒険者ギルドに来るのは初めてでしたね。まずは冒険者登録をしましょう。俺は持っていますので、応錬様と零漸殿と、アレナですね」
ウチカゲがあまり人の居ない受付カウンターへと歩いていく。
俺たちはそれに続いてついていった。
歩いているとやけに視線が刺さる。
アレナを連れているためか……それとも鬼であるウチカゲが珍しいのか……。
なんにせよちょっと居心地は悪かった。
受付カウンターにつくと、そこには秘書、というに相応しい格好をした老婆が書類整理をしていた。
紫の服に三角眼鏡……ここまで的確だと狙っているのではないだろうかと思ってしまう。
老婆は俺たちに気が付くと、手に持っていた書類を静かに置いて対応に当たってくれた。
「冒険者ギルドへようこそ。こちらは新規冒険者登録者のための受付となっております」
「ええ。こちらの三人の方に冒険者カードを発行していただきたいのです」
「わかりました……っと、そこのお嬢さんもでしょうか?」
「はい」
ウチカゲが対応してくれるおかげで話はスムーズだった。
だが老婆がアレナを見た時だけは少し心配そうな表情をした。
それもそうか。子供だからな。
「……」
それから老婆は俺達のことをまじまじを見始めた。
カウンター越しではあるが、なんだか眼力がすごい。
それに零漸も若干引いているが、アレナだけは微動だにしなかった。
「すごい!」
「……ん?」
突然老婆が顔をほころばせて興奮気味に詰め寄った。
カウンターから乗り出しているため少し書類がばらばらと地面に落ちる。
だがそれを気にすることなく老婆は言葉を続けた。
「白い髪の君と黒い髪の君はどっちもBランクくらいにはなれる素質があるね! 鬼の君はCランクくらいかな。でもそこのお嬢さん! 君はAランク冒険者のになれるくらいの素質があるよ!」
「おお……おうっ……?」
「ああ、でも私の見立てはそんなに信じなくていいよ。最低でもそこまでは行けるだろうってことだからね。頑張ればもっと上も目指せるからね!」
いきなりそんなことを言われてキョトンとしてしまった。
ウチカゲも驚いているようだ。
てかこんなこと急に言われれば誰でも驚くだろう。
ほら見ろ、他の冒険者だってこっち見て驚いてんじゃねぇか。
……ん? いやちょっと待て。
なんでお前らまで驚いてんだよ……。関係ないだろ。
だが耳を澄ませてみると、何故驚いているのかがなんとなくわかった。
声を潜めて話してはいるが、結構聞こえる。
ある人は「あのばばあにあそこまで言われるなんて」とかまたある人は「あの子供が? 嘘だろ」などと言っている。
このばばあは一体何者……。
「ああ、あたしゃこの冒険者ギルドの秘書……まぁギルドマスターの右腕、ロズだよ。よろしくね」
「あ、ああ。応錬だ。こっちは零漸。この鬼はウチカゲ。で、この子がアレナだ」
「ふふふふ……。最近生きが良いのがいなかったからねぇ~。冒険者登録だね? ちょいと待っておくれよすぐに終わるからね」
そういってロズは三枚の紙を俺たちに渡してきた。
なんだか履歴書みたいな紙だ。
とは言っても俺は書くこともないし……字も書けない。
ここはウチカゲに書いてもらうことにした。すまんな。
だがアレナは普通に文字を書くことができるらしい。
そりゃすごい。
書類に書いたのは名前だけだったが別に問題は無いらしい。
ロズはすぐにその書類を回収して奥に持って行ってしまった。
だがすぐに帰ってきて一つの水晶を持ってきた。
「これは?」
「ん? これかい? これはギルドカードを作るのに必要なものなのさ。まぁ本人だと証明する物でもあるかね。これがないと依頼を完遂したりランク昇格をすることができないから、なくさないように。」
どうやら指紋認証機能みたいなものらしい。
この水晶を通してカードに本人の情報を移していくのだとか。
とは言っても種族と名前とレベル、後はHPとMPくらいしか書かれることは無いらしい。
勿論それも見せようと思わない限りは隠匿されるものなので心配はいらないとのことだ。
説明を聞いた俺達は一人一人順番に水晶を触っていく。
すると一瞬だけ光って隣に置いていたカードも少し光った。
ロズはそれをすぐに渡してくれたので、早速見てみることにする。
ギルドカードにはこのようなことが書いてあった。
===============
名前:応錬(おうれん)
種族:ヒューマン
LⅤ :39/200
HP :386/386
MP :484/484
===============
種族がウェイブスネークではなくヒューマンになっていた。
見られることはないといっても少し心配していた部分なので少し安心した。
これでもし見られても疑われることはないだろう。
零漸も同じことを想っていたのか、ギルドカードを確認するとほっと息を吐いていた。
「これで冒険者登録は終了だよ。これであんたたちはFランク冒険者さ。じゃ、ちょっと長いけど冒険者ギルドのことを説明するよ」
説明されたことは予想通りというか……ウチカゲから聞いたものとほぼ同じだった。
依頼の受け方は受けたい依頼の紙を千切って持ってくればいいだけらしい。
これは予想通りだ。
だが、受付には担当してくれるランクがあるらしい。
なので場所を間違えないようにとだけ注意された。
受付は五つ。
F~Eの依頼を受け付けてくれるカウンター。
E+~D-依頼を受け付けてくれるカウンター。
D~D+依頼を受け付けてくれるカウンター。
C~B依頼を受け付けてくれるカウンター。
A~S依頼を受け付けてくれるカウンターの五つがあるらしい。
他のカウンターは素材を売るための場所だそうだ。
後は簡単な買い物ができる。
まぁ大体こんなところだ。
「で……あんたたちはパーティー名は自分たちで決めるかい?」
「勿論っす!」
真っ先に反応したのは零漸だ。
こいつにパーティー名を考えさせると碌なことにならない気がするのだが……。
零漸は俺の方をガン見して「名前決めていいっすか」みたいな眼差しを向けてくる。
まぁ悪ければ俺が少し訂正させておこう。
とりあえず頷いて好きにさせ見ることにする。
零漸はぱーっと笑顔になったすぐにロズにパーティー名を伝える。
「じゃあ! 龍帝で!」
まんま俺じゃねぇか馬鹿野郎。
チームだっつってんだろ。
俺だけのパーティーにしてどうするんだ。
「零漸ちょっと待て。それ俺だけじゃねぇか」
「え、でも応錬の兄貴がリーダーだからいいじゃないっすか」
「リーダーどうこうじゃなしに、チームなんだから俺だけのことをあげてもダメだろ。ていうかリーダー俺かよ。別にいいけど」
「うーん……じゃあどうしましょうか……」
零漸はうんうんと首を傾げながら、新しい名前を考えていた。
だが零漸の龍帝というのはなかなかにゴロがいい。
なので帝と言う文字は使ってもいいと思うので、それを軸に考えてみることにする。
……龍、亀、鬼、人……。
あ、そういえば四霊っていう幻獣がいたな。
いや霊獣か。
その中に龍と亀がいたはずだ。
俺と零漸みたいだな。
で、確か四匹いた。
今のパーティーメンバーは四人……。
うん。これでいいんじゃないか?
鬼と人はいないけどそれも交えようとすると名前が長くなりそうだ。
「零漸。霊帝と言うのはどうだろうか?」
「霊帝……ですか?」
「おう。四霊っていう霊獣がいてな。そいつらは四匹合わせてそう呼ばれていたらしい。俺と零漸はそれに似たところがあるし、全員違う種族だから……いいんじゃねぇか?」
「おお! いいっすね!」
零漸はウチカゲとアレナに顔を向けてそれでいいかどうかを聞いていた。
ウチカゲは大きく頷いていたが、アレナはよくわかっていないようで、とりあえずコクコクと頷いていたように思う。
と、いうことで俺たちのパーティー名は『霊帝』になった。
すぐにギルドカードに追加でパーティー名を記入。
これで全ての手続きは終わった。
「いやーいい名前だねぇ。霊帝かい」
「そんなにいいか?」
「それはそうさね。最近のパーティー名なんて酷いよ? 『竜殺し』とか『殲滅隊』とか……『ゴッド』、『デビルイーター』とか……本当に名前に見合う奴らなんてそうそういないのにね~」
ああああっ。
痛い……痛いよその名前……。
俺の考えた名前もそうだけどさ。
でもまぁ本当に竜を殺したことのない奴らが竜殺しって名乗るのは普通に痛い。
俺たちのパーティー名はそんなことないから大丈夫だ。
うん、そう信じたい。
「そういえば……あんたらはどんな武器を使うんだい?」
俺たちは迷うことなく順番に自分の得意な武器や技能を言ってく。
「水」
「拳」
「足と鉤爪」
「……ま、魔法……」
すると、一泊おいてから周囲で大きな笑いが巻起こった。
何だと思い見渡してみると、俺たちを指さして笑っている者が何人もいた。
なんだなんだ。
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