4.43.実力披露宴


 はい。始まりました模擬戦大会です。

 ていうか実力披露宴とか鳳炎は言ってます。


 場所は冒険者ギルドの中にある訓練場。

 そこに先ほどまで鳳炎の演説を聞いていた人たちがひしめき合うようにして観戦をし、そして俺と戦う順番を待っている最中です。


 どうしてこうなった。

 俺の前にはすでに三人の冒険者が、武器を構えて意気揚々としている。

 随分余裕そうだな。


「っしゃああああ! 鼻っ面へし折ってやんよぉおお!」


 あらやだ威勢がいい。


「私が雷で先制するわ!」

「次に俺が出るぜ!」

「っしゃ勝てるぞおお!」


 作戦を俺にまで伝えてくれてありがとう。


 因みに審判は鳳炎がやってます。

 あとで殺します。


「では一回戦……始めぇ!!」


 はい。ぶち転がしまーす。


 水を圧縮して、それを横に伸ばし板状にしてそのままぶつける。

 これは無限水操で作れる簡単な物なので、消費MPもほとんどない。


 只の水と侮ることなかれ。

 水は場合によってはコンクリートよりも固くなる。


「えっ」


 雷を使おうとしていた女性は、いきなり出現した水の塊に驚いたようで、技を撃ちだすことが出来なかったらしい。

 そのまま三人に水の板が直撃する。


「がっ!」

「へばぁ!」

「なっ……!?」


 ゴゴゴンという鈍い音がして、三人は場外まで吹き飛ばされる。

 水をどのようにも扱えるこの無限水操はとても強い。

 使い勝手は自分で決めれるからな。


「場外! 勝者応錬! ハイ次ぃ!」

「休ませてはくれないのか!」

「逆に休む必要があるのか!」


 ないですはい。


 ていうか実際にやってみて思ったのだが……これ手加減めっちゃ難しくない?

 だって俺の技能すぐ人死んじゃうよ?

 多連水操は反対側の柄頭じゃないと、武器も切り落としちゃうかもしれないし、連水糸槍なんて足飛んでいっちゃう。


 殴ろうったって、俺には防御貫通っていう自動技能があるから、普通に殴っただけでもやばそう。

 波拳もあるしな……。


 安全に相手できるのって、まじで無限水操くらいしかない。


 あ、でも泥人とか罠系技能とかは使えるかな?

 水捕縛はちょっとやばそうだけど……。


 あーでも泥人使うと長期戦になるなぁ……。

 よし、俺だけ勝手に技能を縛ろう。

 無限水操縛りで、さっさと勝ってさっさと終わらす!


 次に出てきたのは五人。

 鳳炎の野郎……数撃ち込む気だな。


「ハイはじめぇ!」

『うっぉおお!』


 全員接近武器かよ!

 ハイ無限水操!!


『へばぁ!?』


 全員の足を水でからめとって転倒させる。

 そして、そのまま場外へ……。

 ずるずるずるずる……。


「勝者応錬! ハイ次ぃ! 冒険者諸君気合を入れろ! 応錬を一歩でも動かしてみるのだ!」


 鳳炎の言葉に気合が入ってしまったのか、静観していた奴らも我先にと俺に挑むようになってきた。

 これを捌き終えるのに一体どれくらいの時間がかかるのだろうかと考えながら、俺は無言で無限水操を発動させる。


 まーるい水を~つくりまぁ~して~。

 それをーひゃっこ~つくったら~。

 ぶち込む。


『ぎゃあああああ!!』


【新しい技能を開発しました】


 おおおおおお!!?

 お久しぶりです! 新技能さん!

 なんだなんだ!? 何貰った!?


===============

─水弾(斬)─

 水弾の上位互換。刃物のような切れ味の水弾を撃ち込む技能。

===============


 あっかああああああん!


 ばっと冒険者を見てみると、血まみれでした。

 ごめん。

 マジごめん。


 だが、幸いにして致命傷は受けていないようで、自分の足で歩いて医務室へと歩いていった。


「勝者応錬! ハイ次ぃ! 応錬は傷つける技能禁止!」

「分かっとるわ!」


 誤爆もいい所だぜ全く……。

 まじで天の声仕事しねぇ。

 あのクソ辞書めぇ。


 次に出てきた冒険者は四人。

 どうやらどこかのパーティーのようで、陣形が既に決まっている。

 これは期待できそうだと思ったが、俺はもう早くこの模擬戦大会を終わらせたいので、開始と同時にウォータースライダー形式で場外へと流した。


 次は十人。

 水を網目状にしてそのまま押して場外。


 次は十五人……次に……とどんどん続いていき、模擬戦が終わったのが夕方だった。


「嘘だろ……こんな強いなんて……」

「でもほとんど場外だろ?」

「馬鹿やろう……鳳炎さんが手加減してやれってことで殺傷能力のある技能は使わなかっただけだ」

「なん……だと……」


 方々から俺を称賛する声が聞こえてくるが……今はそれどころじゃない。

 今俺は、地面に倒れています。


 えーっとですね。

 すごく簡単に説明しますと……。

 1000以上あったMPがなくなりました。

 お久しぶりですMP切れ。


 でも姫様に上げた分の水の玉は維持しているぞ……!

 切れる前に魔力を維持するように設定してよかった……。

 こういうのってできるんだな。

 いつまで持つか分からんけど。


「応錬大丈夫?」

「……」


 しゃ、喋れん……。

 指一本動かせん。

 なんとか模擬戦の最後まで持ったのを褒めて欲しいまじで。


「応錬様……お疲れ様です。宿までお運びいたします」


 ウチカゲは俺を背負って冒険者ギルドを後にする。

 だが、訓練場を出る前に、数人の冒険者が俺たちの前に出てきた。

 先ほどまで俺たちに突っかかってきていた冒険者たちだ。


「何か用ですか?」

『さっきはすいませんでしたぁ!』


 冒険者たちはすぐに頭を下げて謝ってきた。

 俺はもう目が開けれないのだが、その冒険者たちの声はしっかりと聞こえる。


「俺たち……勘違いしてたみたいです」

「ああ、すみませんが、それは応錬様が起きてからにしてください。もう眠ってしまわれているので」

「わ、わかりました」


 ウチカゲはそっと冒険者をあしらって宿に向かう。

 俺はそのまま死んだように眠りについたのだが……これだけのMPが回復するのは非常に時間がかかるようで、丸二日寝込む結果になってしまった。


 その二日間、冒険者の間で俺が水帝の応錬という二つ名が付けられていたのだが、それを知るのは体調が万全になった三日後の事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る