2.26.鬼人
二人の進んでいった道を同じようについて行く。
勿論気配は消して、一定の距離を保っている。
こういう追跡はやってて少し楽しいな。
いくつになってもこの高揚感は堪りませんね。
慣れればそれまでなんだろうけどさ。
今になっても楽しむことができるというのは、まだ子供心がなくなっていない証拠だな。
多少遊び心がある方が人生楽しく生きられるしな!
俺の前世わかんねえけど!
鬼二人は狭い廊下を歩いていき、一つの扉を開けて部屋の中に入った。
流石にもう一度扉を空けるのは堂々としすぎているので何処か侵入できそうな場所を探してみる。
壁は外に出るか違う部屋に行くかしかできないので使えそうにないな。
この部屋に続く道がない。
だがしかし! こう言うのは屋根裏だよね!
あ、でも天井どうやって行こうかな……。
家の作り自体がボロボロとは言っても俺が通れそうな穴はないしな……。
まあいいや。
まるでクッキーのごとく簡単に天井に使われていた板を食べることが出来た。
がしかし非常に不味い。
不味すぎる。
味覚がほとんど無いにも関わらず不味いと察知してしまったぞ?
まぁ埃とカビが混ざった木なんだ。
不味くて普通だろう。
ぺっ! ううぅう……吐きそうだわ。
だが体が通れるくらいの穴は作る事が出来た。
するすると入って、鬼二人が入っていった部屋の上辺りで待機する。
だが見えないのは少しあれだな。
多分こういう部屋には押入があるはずだ。
間取りからして……どの辺りだこれ?
分かんねぇ……。
まぁとりあえず部屋の端っこをもう一度剛牙顎で空けてしまおう。
今度は顔が出せるくらいで良いかな。
もう一度剛牙顎を使用して穴を空ける。
空いた穴に頭を突っこんでみると、部屋の角だと言うことが分かった。
押入は反対側にあるようだ。
完全に目測を見誤ってしまったようだな。
まぁ仕方が無いか。
ここでも見えないことはないし、暗殺者を発動させていれば気づかれる心配は無いだろう。
部屋は先ほど居た場所と同じで、全て木材で作られている。
ここには茣蓙の代わりに布団が敷かれていた。
ここで寝泊まりをしているのだろう。
だが布団もそれなりにボロく、姫様と呼ばれていた鬼の着ている服と見比べると、やはり姫様は浮いている。
この部屋の全ての窓、扉は固く閉ざされている。
赤角の鬼は座禅を組んで耳を澄ませているようだ。
だが俺には気が付いていないみたいだな。
もう少し精進しなさい。
「テンダ」
「何でしょうか姫様」
「何も感じないの?」
「……と、言われますと?」
「さっきからずっと何かがこの家の中にいるの。私とテンダ以外のもう一人が」
それを聞いたテンダという鬼は静かに立ち上がり目を開く。
この部屋を一周ぐるりを見渡して異常がないかを確かめている。
だがやはり俺には気が付いていないな。
護衛役がそんなので大丈夫か……?
そうなると姫様のほうがすごいのかもしれないな。
まぁ姫様が言っているもう一人ってのは俺ではないのかもしれないが……俺は操り霞を使用して周囲を警戒している。
だがやはり俺とこの二人以外に人は近くにいない。
姫様の言うもう一人とは、十中八九俺のことになるだろうな。
すごい索敵能力だ。
「……そういえば先ほど、殿様方が帰ってこられたと言ってこの部屋を出ておりましたね……もしや……」
「ええ。誰かが入ってくる気配を感じ取ったからよ。ここに入ってくるのは父様と母様だけと聞いていたので……気配がして飛び出したの」
「そうでしたか。わかりました……『反響探知』」
テンダは片手を顔の前に出して拝むポーズを取った。
一度防具が全て波を打ったかのように揺れる。
それは足元に流れていき自身を中心に波紋が部屋に広がっていった。
波紋は天井まで到着すると今度は逆再生のようにテンダの元へ戻ってゆく。
だが戻っていく波紋は、一部だけが歪んでいた。
その部分は、丁度俺に当たった場所だった。
波紋が全てテンダに戻ると目をカッと開いて俺のほうに手を伸ばす。
「そこかっ! 『念動捕縛』!」
技能を叫んだと同時に俺の体に異変が起きる。
まるで体全体が何かに包み込まれたような感覚が襲ったのだ。
気持ちが悪くて動こうとするが……動けなかった。
!? なんだこれ!? ぬぉおおお!!?
俺はそのまま引きずり出されてしまい、床に叩きつけられる。
だが妙な感覚はなくなり体は動くようになっていた。
体を動かして前を見てみると、二人は何もせずに只々呆然とこちらを見ていた。
あ、ばれましたね。
どうしよう!
盗み聞きして情報を得るつもりだったのだが……これはまずいぞ?
最悪の状況じゃないですかやだー!
逃げ出そうにも逃げれそうにないなこれ。
え、どうしよう。
相手の動きを待つ?
そんな暇あったら動いたほうがいいと思うけど、ここ部屋の隅っこ!
詰んだ。
「白蛇……様……?」
わっつ?
「な……何だと……?」
二人は開いた口が塞がっておらず、俺の姿を見て驚いているようだった。
俺の姿がそんなに珍しいのだろうか?
まぁ珍しいんだろうな。
白色だしなんていったって希少種でございますからねぇ!
元は魚だけどな!
で? え、これどうしたらいいの?
なんか逃げるタイミングを完全に逃してしまったんですけど。
てかこれどういう状況なの?
するとテンダが防具を脱ぎ始めた。
正座をして刀を右に置く。
そして小刀を自分の腹に向けて息を整えていた。
「…………切腹!」
なんでや!!!
「テンダ! ちょっと待ちなさい!」
おう! そうだちょっと待てテンダって野郎!
俺の姿見て切腹とかふざけんな!
俺の何が気に食わなかったんだよごらぁ!
初めてだわ! 目と目が合って切腹しますとか宣言した奴初めて見たわ!
姫様はテンダを止めようと腕にしがみついている。
だがそれでもテンダは小刀を腹に突き立てようとするのをやめる様子はない。
「止めないでくださいませ姫様! 俺は! 白蛇様を手にかけてしまったのです! けじめはつけねばなりませぬ!」
死んでないわ!
はたき殺すぞ!
「およしなさいってば! 貴方がいなくなったら私はどうなるのよ!」
「それは……それは……!」
「えいっ!」
「ぐおはっ!?」
一瞬の隙をついて姫様がテンダの腰に蹴りを入れた。
腰に付けていた武具は粉砕してテンダは押し入れの中に突っ込んでいく。
そして姫様の手には小刀が握られていた。
なんていう早業なのだ。
しっかし……やっぱり鬼だな。
あんな軽そうな蹴りで大人がふっ飛んでいくとは……それに防具は粉砕って……。
やっべ、俺こいつらと関わりたくなくなってきたぞ?
子供でこの威力だろ?
いや、見た目が子供なだけで実年齢はもっといってるかもしれないが。
大人のテンダだとどうなっちまうんだよこれ。
想像しただけで恐ろしい地獄絵図が広がりそうだな。
「ほっ」
ポキンッ。
姫様は小刀を鉛筆を折るかの如く簡単にへし折った。
その光景を見た瞬間、俺は頭から血の気が引いていくのがわかった。
今すぐにここから逃げたい。
興味本位で近づいてすいませんでしたマジで!
「えっと……すいません。後できつく言って置きます」
ありえない光景とは裏腹に姫様の対応は物腰が柔らかく丁寧だ。
ギャップがすごい。
テンダは……起きてこないな。
気絶しているのだろうか……あれだけで?
いや、俺でも気絶する自信がある。
人のことをとやかく言うのはやめておこう。
というより……今の状況が一切わからないので説明してほしいのだが……。
いや無理だろうなこれ。
俺質問できないもん。
姫様は俺の前に正座して一礼をしてから話始める。
「白蛇様、初めてお目にかかります。私は鬼人の巫女、ヒスイと申します」
あ、ご丁寧にどうも……。
……え?
てかこの人たち俺が言葉理解できることを知っているわけじゃないよな?
何故にこんな丁寧に接してくれるの?
今回俺は無限水操で絵文字も作ってないし、頷いてすらいないぞ?
そういう技能なのか?
……ど、どうなんだ!?
「私達の村の伝承では、白い蛇は神の使いとして、信仰する対象となっているのです。それに白蛇様は言葉を理解なさるとされています。本当にご理解なさっているかどうかは分かりかねますが……」
ああ、そういうことね。
白い蛇は言葉を理解すると言われているから、白い蛇である俺に普通に接してきてくれたというわけか。
まぁ間違っていないけどさ。
にしても俺が信仰対象かぁ~……。
想像つかねぇな。
白い蛇の逸話とかは沢山あった気がするけど、まさかここでも同じような伝承が伝えられているとは思わなかったなぁ。
そういえば水神としても有名なんだっけか……だから俺水系の技能しかないんじゃねぇの!?
土地関係の技能もあるけど、その地を聖地として作り替えるための技能だとしたら……完全に白蛇由来の技能に集中してるじゃねぇか……!
てことは俺、火……使えない?
マジ?
でも……でもそうだよな?
水使えて火が使えるっておかしいもん……。
こ、これ進化先考えておけば回避できたのかな?
ああ……でももう考えてもしょうがないな……。
いや! だが諦めるのはまだ早い。
龍といえば雷……俺は雷属性の技能を手に入れる可能性は十分にあるぞ。
火とまではいかないが、これだけでも肉を焼いたり火を付けたりすることはできるはずだ。
俺はそれに期待してこれからも進化を続けようと思う。
「テンダの先ほどの行いですが……白蛇様に手をだせば呪われるという伝えがあるのです。その呪いは自分だけには与えられず、周囲の者達に降り注ぐと言われていまして……その呪いを解くのが自害であるとされているのです」
誰だよ俺をそんな奴に仕立て上げた奴。
確かに俺の耐性技能に『呪い』ってあるから、そういう技能もあるんだろうなとは思っていたが……まさか俺がかける側になっているとはな……。
初代白蛇碌なことしてねぇな。
だが安心してほしい。
俺は呪い系技能を一切持っていないぞ。
ていうか姫様に俺が言葉をわかるってこと伝えておいた方がよさそうだな。
無限水操で水を作り出して大きな丸を描いておこう。
あ、でも話の流れ的にバツマークのほうがいいかな?
うん、バツマークを書いておこう。
俺はそんなことしねぇしできないって意味で。
「……え?」
水でバツマークを書いたらヒスイは困惑してしまったようだ。
まぁそりゃそうだよな。
ふふん。
こういう時のために俺は最強の顔文字という技を持っているのだ。
これを見せれば警戒心を解くことは容易いはずだ。
いくぞ! 『(`・ω・´)』。
「ええ……?」
うっそだろおい。
この顔文字の可愛さがわからないというのか!?
は! 待てよ……この鬼たちにとって俺は信仰対象なんだろ……?
ってことはこんなにかわいらしい物をつくってしまった俺に対して相当なギャップを覚えているのではないだろうか。
伝承で語られる偉人って大体貫禄あふれる人物ばかりじゃないか。
そんな人物がかわいい物が好きでこんな顔文字を書いているのを知ったら信者たちはどう思うのだろうか。
んー失敗したかこれ?
「こ、言葉が……感情があるのですか?」
いやそこ信じてなかったんかーーい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます