6.17.突撃
ウチカゲが戻ってくる前に、天守閣で怪我をしていた奴らには回復水を与えておく。
暇なときに作っていた分を全部渡そうとすると、全力で拒否されてしまった。
だが今そんな事言っている場合ではないと思うので、ランに全部預けて俺は外に出て行くことにする。
どうしようかと固まっていたランだったが、結局深くお辞儀をして怪我人のもとに行ってしまった。
あれは内側の怪我を治すのに有効な物。
外傷はあまり効かないかもしれないが、その方が良いと思う。
今はガロット王国の兵士もいるのだし、外傷が一気に治ってしまう所を見られると後々厄介だ。
なので今は回復水だけの方が良いだろう。
俺が外に出てみると、未だに鳳炎が空を飛んでいた。
太鼓の音には気が付いていたようだが、俺たちがその方向へと行ったので継続して捜索を続けていてくれたらしい。
「鳳炎ー!」
俺の呼びかけに気が付いたのか、すぐに空から降りてくる。
降りてきた鳳炎の顔は、何処か優れない。
「ど、どうした?」
「田んぼが……畑が……。全滅だ……」
「あ、ああ……。そ、そうだな……」
そこかよ。
でも一番重要なところかもしれないな。
食料が無ければ永らえることもできないし、良い所に目を向けていたと見るべきだろう。
……まぁ本音は違うんだろうけど。
「一体……誰がこんな事を……っ!」
「悪鬼だよ。今からそこに行く」
「カチコミか! 良いぞやってやろうではないか! 応錬! 私にも手伝わせてくれ! 食べ物を粗末にしやがったその悪鬼とやらに引導を渡してくれる!!」
「……お、おう」
こいつ本当に食べ物のことになるとやばい奴になるな。
カチコミとか久しぶりに聞いたわ。
でもまぁ、やる気になってくれたのであればいいか……。
「そう言えば応錬。悪魔のことについてだが……」
「後にしてくれ。今はこっちに集中したい」
「それもそうであるな」
鳳炎の仕事はテンダを連れて行く事。
それと、できれば悪鬼との戦闘に加わって欲しいという所かな。
聞いてみると二つ返事で了承してくれた。
今鳳炎は相当頭に来ているらしいので、冷静な判断ができているのかちょっと不安だ。
戦力としては申し訳ないんだけどね……。
あ、そうだ。
「テンダ」
「はっ」
「『大治癒』」
本当は早い事治してあげたかったのだが、ガロット王国の兵士たちもいたので、人気のない所に来てからの治療だ。
深すぎる傷は時間をかけて治さなければならないと聞いていた大治癒は、想像よりも早く治療を終えてくれた。
だが眼球が再生されることは無いようだ。
しかし、瞼までは治すことが出来たようなので、後は眼帯をしてもらっておけば誰にも怖がられることは無いだろう。
急に治療されたことに驚いていたテンダだったが、すぐに頭を下げて礼を言ってくれた。
「かたじけない……!」
「万全な状態でな。再生は出来ないみたいだ。すまん……」
「いえ、これは俺の失態。身に刻むことにより永久に忘れぬ教訓といたす所存」
「そうか」
そういう考えであれば、俺から言う事は何もない。
ポジティブ過ぎるとは思うけどね……。
「
「あ。ラック、お前ちょっと俺とライキを運んでくれるか?」
「
「死なないようにね」
「!!?」
まぁ空ずっと飛んでたら大丈夫だと思うから……。
てか死んでもらったらマジで困るので俺は全力でお前を守るからな。
あ、ライキも守らんとだった……。
兎にも角にも、鳳炎はやる気になってくれたようだし、テンダも回復した。
一番心配なのはライキだが、まぁ何とかなるだろう。
アレナはウチカゲが来るのを待っている。
二人はペアだからな。
「テンダ君! 共に悪鬼を討とうぞ!」
「ぬっ……? う、うむ。よろしく頼む……」
そんなに顔を近づけるんじゃない。
距離感掴めない友達かお前。
テンダが困ってんだろうが……。
「アレナは本当に来るのか?」
「行く! お姉ちゃん助ける!」
「ほっほっほ。頼もしいのぉ」
いや本当にね……。
その年で本当によくやりますよ……。
まぁアレナだからな!
ていうか一番心配なのはライキ、あんたなんだよ。
あれがどれだけ強い技能か分からないけど、ステータスが絶望的に低いですからね?
歩くのでさえ……ていうか走るの無理でしょ貴方。
ラック、お前に重要任務を与える。
この爺ちゃん絶対に背中から降ろすな。
俺がそう念じてラックを睨みつけると、大きく頷いて了承してくれた。
これだけで意思疎通できるのかと思ったが、そんな訳ない。
ただ適当に頷いただけだろう。
ちょっと遊んでしまったことを謝りつつ、俺たちは準備を整えて行った。
そうしていると、ようやく天守閣からウチカゲとシムが出てきた。
シムは既に落ち着いている様で今はキリッとした表情に戻っている。
うん、やはりシムはこうでなくては。
「皆様、準備はよろしいでしょうか」
シムの言葉に、全員が頷いた。
それを確認した後、再度説明するように口を開く。
「この技能は一時間しか持ちません。その間私は動けないので援軍には行けません。皆さま、ご武運を……」
そう言った後、拳を目の前で合わせて音を鳴らす。
次に合わせた拳を腹の位置まで持っていき、一つの技能を叫ぶ。
「『
周囲が黄昏色になり、空気が重たくなる。
一見美しいとも見れるその光景だったが、次の瞬間それは恐怖へと変わった。
現れた門には、骸がいくつもへばりついていたのだ。
何かを叫んでいる者もいれば、泣き叫ぶような声を上げる者もいる。
どす黒い霧が門からあふれ出て、地面を凍らすような冷気が流れて行った。
現世と常世の境界線。
お互いが不可侵を守る為、己が恐ろしいと思う物の姿門となる。
俺が見ているのは何かの塊。
鳳炎が見ているのは親鳥。
アレナが見ているのはダトワーム。
鬼は総じてみる物は同じ。
自分が、悪鬼になった時の姿。
誰もが一度一歩下がってしまう。
これ以上近づきたくはない。
そう思ってしまう程に、恐ろしいと感じてしまっていたのだ。
ただ、一人を除いて。
「行こうかの」
「ガ、ガルゥ……」
「これは幻覚。幻など、食べてもなんともないわ」
そう言って、ラックに乗る。
ライキの言葉を聞いて、確かに、と思う俺がいた。
別に害はない。
見てくれが悪いだけの、悪趣味な門があるだけで、それはただの門なのだ。
怖がらなくてもいい。
ライキの言葉に誰もが気が付かされたのか、一度頷き合って、その門に目線を向ける。
通ってしまえば、後はこっちの物。
全員が引いた足を戻し、今度は前へと送り出す。
「行くぞアレナ!」
「うん!」
一早く突撃したのはあの二人だ。
どう頑張っても俺たちでは追いつけないので、先行と索敵は任せる。
その後にラックが飛び立ち、鳳炎もテンダを持って飛び上がった。
一定の高さまで上がった後、狙いをつけるようにして門へと突撃していく。
全員が中に入ったところを見届けた後、シムが願うようにして目を瞑る。
「ご武運を……」
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