2.60.国民たちの反応


「「「「「わああああああああ!」」」」」


 国民達の歓声が国中に響き渡る。

一体何が起こったのかと思えば前鬼の里にいた兵士たちが完璧なタイミングで帰ってきたのだ。

 それに気が付いた国民たちは一体何が起こったのかわからなかったようだが、死んだとされていた兵士たちが帰ってきたという事がだんだんと広まり、今では再会を喜び合っている最中だ。


 親や子を持つ兵士たちは家族を泣かせてしまったとバツの悪い顔をしている。

 場所によっては喜ばれるのではなくて怒られている兵士たちもいるようだが、その辺は家族会議で解決してほしい。

 家族を持たない兵士たちは、友人や同じ兵士たちに様々な言葉をかけられている。

 これも褒められていたり喜ばれていたり、怒られていたりと様々ではある。

 だがそんな中でも兵士たちはアスレから言われていたことを忘れてはいなかった。

 兵士たちは口々にアスレが無駄な戦いを避けてくれたと言い回っている。


 誰も彼もが再会を様々な形で迎えていることに俺は安堵した。

 それはジルニアやターグも同じようで、どこだか満足したような表情でその光景を見ている。


「何とかなったなぁ~……」

「ああ。全く飛んだ大仕事だったな」

「おいおい。これからもっと忙しくなるんだぜ? あんまり気を緩めないほうがいいかもしれないぞ?」

「流石に五日間寝れないなんてことにはならないんだろ」

「え、は? え、お前……何やってんの……大丈夫なのか?」

「この通りだ」


 ジルニアは胸を張りながらドンと胸をたたく。

 誰のおかげでここまでそんな無理ができたと思っていると言いたかったが、後で物理的に眠らせる予定なので今くらい好きに言わせておくことにした。


 しっかしよくもまぁここまで上手くいったものだ。

 随分兵士たちや家臣たちが協力的だったことが一番の要因だろうが……王とラッドはそんなに嫌われていたのか?

 一体何をしていればそこまで嫌われるのかがわからないが……。

 国民全員を敵に回すなんてなかなかできることではない気がする。

 逆に才能があるのではないだろうか。


 国民たちはだんだんと静かになっていき、映像水晶に写された映像を見ている。

 これからの事の顛末が気になるのだろう。

 映像を見てみれば丁度王とラッドが連れていかれるところだ。

 どうやら見ていないうちに話はまとまったらしい。

 アスレが王座の前に立って演説しているところだった。


『諸君。私は今日王となりこの国をより良くして行く為に動いていくつもりである。見苦しいところを見せてしまって申し訳なかった。すまない。そして兵士たち。この数日間よく動いてくれた。お前たちがいなかったら私はこの場にいないだろう。国民たちよ。お前たちの家族は戻ってきたか? よければよくやったと労ってやってほしい。明日にでも全ての兵士に報酬を与えよう。無論、その家族にも』


 アスレはカメラ目線で国民に語り掛けるように言葉を続けていた。

 謝ったり労ったり少しせわしないように感じるが、アスレらしいなと思う。

 国民達はその映像を静かに見守っている。

 アスレは一呼吸おいてもう一度カメラ目線で言葉を続けた。


『今までの父親と兄の振舞い……これは私から謝罪しよう。今まで苦労をかけた。だがこれからは私とバルト兄様でこの国を支えていく。だが私たち二人の力では到底無理だ。そこで家臣たち、兵士たち、そして国民たち。さらに言えば冒険者諸君。是非とも私たちに力を貸してほしい! 共にこの国を! ガロット王国を繁栄させていこうではないか!』


 映像の奥で歓声が轟いた。

 それに呼応するように国民達も大きな歓声を上げる。

 ジルニアとターグも歓声を上げているがサテラだけはおろおろとしていた。


 どうやら国民もアスレに協力してくれるようだ。

 歓声はしばらくの間続き、配信が終わってようやく静かになり始めた。

 この騒動……とりあえずやっと終わったようだ。

 長かったような短かったような……何とも言えない時間だったが、無事にアスレが王座を奪うことができた。


 とりあえず俺はもうここには必要ないかもしれないな。

 今度はアレナを助けに行く為に動くことにしよう。


 騒ぎは既に落ち着き、国民はいつも通りの日常を過ごしている。

 ジルニアとターグも城に戻ってアスレの手伝いをしなければならない。

 それに正式に王になるためには即位式をしなければならない様だ。

 本来ならば王が即位式をしなければならないのだが、今は王がいない。

 なので教会の神父を呼んで即位式をするらしい。

 まだまだ王都は騒がしくなりそうだと思いながら、俺達は王都に向かうことになった。


 何故俺まで……。



 ◆



 城の中の騒動もやっと静かになり兵士たちは持ち場に戻って警備をしている。

 俺はサテラに抱えられながらジルニアとターグの後ろをついていく。

 ジルニアとターグは警備の厳しい門を通り抜けて城の中に入っていく。

 サテラは煌びやかな城の中を目を輝かせながら見て回っていた。


 随分豪華に飾られた廊下を歩いていく。

 廊下は広く城自体も大きいため迷子になりそうだ。

 だがジルニアとターグは何の躊躇いもなしに歩いて進んでいく。

 時折メイドや兵士達が横を通り過ぎるのだが、全員が全員一礼をしてジルニアとターグが通り過ぎるまで待っている。

 流石家臣……と言うより貴族?

 対応が違う。


 しばらく歩いていると、どうやら目的地にたどり着いたようだ。

 そこにはこれまた豪華な門があり、無駄に装飾のついた燭台が両隣に置かれてあった。

 豪華すぎてその扉に手をかけることすら躊躇われるのだが、ジルニアは迷うことなく取っ手に手をかけて扉を開けた。


 その中には机とソファが部屋の中央に置かれていた。

 その上には小さな燭台が置かれていて明るいのに蝋燭に火が灯っている。

 壁には絵画かけられており、部屋の窓は解放されていて涼しい風が中に入ってきている。

 そして中にはアスレ、テンダ、ウチカゲともう一人背の低い人物がいた。

 アスレは二人の姿を見ると立ち上がった。 


「ターグ! ジルニア!」

「アスレ様、只今戻りました」

「よくやってくれました! 本当に助かりましたよ……」

「ちょちょ、アスレ様。王になるのですから私達に敬語はだめですよ……」

「おっと……そうだったな。癖になってしまっているなぁ」


 ジルニアの言葉にアスレはポリポリと頬を掻いてはぐらかす。

 確かに敬語を使う王と言うのは国民には好かれるかもしれないがあまり威厳はないな。

 こういうのは威厳が必要なことが多いだろうから直していかなければならないことだろう。


 テンダとウチカゲも俺の姿を見つけると立ち上がって近づいてくる。

 サテラはそれに物怖じすることはなく俺を抱きかかえている。


「応錬様。こちらは何とかなりました。これで戦争は確実に避けられるでしょう」

「しかし……まだアレナという少女が向こうに捕らえられたままだろう。今度はサレッタナ王国に行って助け出さねばならない」

「お、もうそこまで話進んでるんだね~。流石だ!」


 背の小さい男性が頷きながら感心したようにつぶやく。

 本当にこの人が誰かわからないから自己紹介をしてほしいのだが……。

 その人物は俺の方を見て興味深そうに見つめてきた。


「で、その蛇はなんだい? 白い蛇なんて初めて見たけど……」


 その言葉にテンダとウチカゲが反応する。

 随分殺気を込めて睨もうとしていたので何か言う前に取りあえず尻尾で強烈な一撃を与えておいた。 今回は力加減を間違えたようで頭を押さえて悶絶しているが気にしないでおこう。


 それを見て背の小さい男性は驚いたように見ているが、取り乱したりはしなかった。

 その光景を見ていたアスレ達は何とも言えないような表情をしていたが、アスレが何かに気が付いたようで俺に向かって説明をしてくれた。


「あ、バルト兄様と応錬殿は初めてでしたね。応錬殿、ご紹介いたします。こちら、私の兄であるバルト兄様です。バルト兄様、この白蛇なのですが人の言葉を理解する応錬という名前の蛇なのです」

「へー! 面白い! 初めまして応錬君。僕はアスレの兄のバルトだよ。こんななりだから子供に間違われることが多いけどちゃんと成人しているからね!」


 ああ、バルトってアスレの兄のことだったのか。

 道理でどこかで聞いたことがあったんだ。

 だが随分とラッドとは雰囲気が違うな。

 よほど良い教育を受けたと見れる。

 俺もとりあえず頭を下げて礼をしておく。

 それにバルトはまた興味深げに俺を見た。


「おおぉ……言葉を理解するというのは本当なのかぁ。すごいね」

「ば、バルト殿……お言葉ですが応錬様は寛大なお方です。しかしくれぐれも鬼のいるところではその言葉使いを直していただぁ!」


 テンダがまた何か言っていたのでもう一度尻尾で殴っておく。

 別にいいんだって。

 そんな大層な存在じゃないんだからさ。

 なんかテンダの扱いが雑になってきた気がしたけど、俺が寛大であったとしても鬼達が広い心を持っていなければそれも意味をなさないだろう……。

 全く。


 バルトはそれを見てくすくすと笑っていた。

 バルトは外見もそうだが言葉使いもどこか子供っぽいな。

 しかし、こうしてここに呼び出されたという事は何か話があると思うのだが……。

 まだそういった話をしないな。


「ああ、とりあえず立っていてもなんだから座って話をしよう。さ、座ってくれ」


 アスレは全員に席に座るように勧める。

 ジルニアに言われたのを気にしているのか敬語を極力使わないようにふるまい始めた。

 サテラは大人達に囲まれて何処か浮いてしまっている。なんだか居づらそうだ。

 全員が座ったことを確認したアスレは一度全員を見てからゆっくりと口を開いた。


「よし。先ほどウチカゲ殿が言っていたようにアレナを助け出さなければまた問題が大きくなっていく。だが表立っては行動できない。これは全員が理解してくれていると思う」


 どうやらアレナ救出のための算段を考える為の会議だったようだ。

 これはちゃんと聞いておく必要がありそうだ。


 やっと助けに行けるな。待っていてくれよ。


【十分な善行を確認しました。記録します】


 お前マジで何なの。てか全部揃ったっぽいけどこれ何。


【人の姿になることができます】


 …………は?

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