3.26.情報収集
零漸を連れ戻した俺は、情報収集の大切さを小一時間程教えてやりたかったが、流石にそんな時間はない。
なので、連れ戻してからすぐに宿に泊まっている冒険者たちに話を聞きに行くことにした。
しかし……今ここにいる冒険者たちは怪我を負っていて療養中だ。
そんな人たちの場所に簡単に行っていいかどうか迷ったのだが……パーティーで来ている冒険者がほとんどなので無傷の人もいるらしい。
それに例え死にかけであろうとも、情報は次の冒険者に伝えるのが冒険者の務め。
これも全て被害者が出ないようにする為の配慮らしいが……五組もやられて帰ってきてるんじゃなぁ……。
情報だけを頼りにするととんでもないことになりそうだ。
てなわけで、五組の冒険者全てに話を聞いてみた。
しっかしこれがひどいのなんの。
これが本当に情報か?
ってほどの適当なものだった。
まず一組目。
だが一組目は何もわからない状況から手探りで調べていくわけだから、集めている情報は少なかった。
にしても……にしてもだ。
調べ上げたことが『何処から魔物が来たか』ということだけだった。
いや聞いた時は馬鹿にしてんのかと思ったけど、一組目の冒険者は大真面目で「何か変なこと言っていますか?」みたいな顔をしていた。
他にもっと調べることあるだろ!
来た方角は勿論知っておきたいけどさ?
どの作物を食べてるとか、数はどれくらいきただとか、周辺の地形とかいろいろあるでしょ!
魔獣が来た方角だけ聞いて、その方角に進んだだけなのかこいつらは!?
で、まぁニ十匹ほどの犬型魔獣に襲われて退散したのが一組目。
とりあえずこいつらが向かった方角に行けば確実に魔獣と出会うことはできるらしい。
これは他の冒険者にも聞いているので間違いない。
しかし二組目と三組目もまぁ碌な情報を持っていなかった。
それに加えて戦った場所での行動を全く覚えていないらしい。
何考えてるんだ。
目印もつけず、只々真っすぐに突き進んでいたらしいが、仲間が襲われてすぐに撤退。
慌てていたため方向感覚もおぼつかなくなり危うく遭難しかけたそうだ。
冒険者は命あっての賜物と言って笑っていたが、違約金のことをぼそっと呟くと急に押し黙った。
元はCランクの依頼だとは言え、違約金は高額なのだろうか?
まぁここは自己責任だ。
後は頑張れ。
そして四組目。
この組が一番冷静に行動をしていたようで、他の組とは違う情報を多く持っていた。
これは素直に称賛したい。
だけど情報の代わりに金を取ろうとしてきたのはいただけなかった。
違約金のことを真っ先に考えているのは明白だったが、この情報共有は冒険者の義務なのだ。
金銭でやり取りしていいものではない。
とまぁ半ば強引に情報を聞き出した。
とは言っても零漸がデコピンで小さな爆発を起こさせただけなのだが……。
相手の恐怖心を煽るにはこれで十分だったようだ。
これは隠す方が悪い。うん。
四組目の情報によると、このコシュ村から西に行った方角に、アシドドッグと言う犬型の魔獣の住処を見つけたそうだ。
他の三組から魔獣の名前が出てこなかったのは何故だろうと思ったが、大方知らなかったという所だろう。
名前を知らなくてどうするんだ……。
アシドドッグは繁殖力が極めて高く、ゴブリンにも並ぶと言われている。
なので見かけたら間引きをしていかなければならないのだが、この村に間引きできるほどの強い人間はいない。
それに小さな村なのでアシドドッグの発見が遅れたというのも問題だった。
住処に行ってみたところ、見ただけでも既に数百と言うほどのアシドドッグが住み着いていたのだという。
これは自分たちの手に余るという事で撤退しようとしたのだが、犬はこの世界でも鼻が良いようですぐに襲い掛かってきたのだとか。
アシドドッグは酸攻撃をしてくる犬だそうだ。
恐らくとめどなく垂らしている涎が酸なのだろう。
絶対に触りたくない。
住処にしている場所なのだが、起伏が激しく道も凸凹としている。
人が通るには難儀するような場所ではあるが、魔獣には関係ない。
なので進むにも逃げるにしても、進む速度は非常に遅くなると助言してくれた。
まぁ俺たちは魔物の類だから別に関係ないと思う。
もっとも元の姿に戻るのであればだが……。
と、まぁ聞きたいことは聞いたので、最後の五組目に話を聞くことにした。
こいつらは四組目の任務失敗報告を聞く前に、依頼を受けてこの村に来た哀れなCランク冒険者だった。
引き返したほうがいいと、この村で療養している冒険者たちが注意したのだが聞く耳持たず、碌に情報を集めずに出発して返り討ち。
お前ら本当に何しに来たんだ。
真面目に仕事しているの四組目だけじゃないか。
なんだ? Cランク冒険者ってそんな無鉄砲な奴らの集まりなのか?
まぁだからCランク止まりなのかもしれないけど……。
「とりあえず……居る場所はわかったっすね」
「ああ。しかし……数百匹か。何とかなるかね?」
「兄貴の多連水槍なら余裕じゃないっすか? 俺はただ突っ走っていくだけですし」
「盾になるやつが味方放置して突っ走ってどうする」
と、頭に軽くチョップを入れておいた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
「うわびっくりした!! ど、どうした零漸!」
軽くチョップを入れた瞬間、零漸は頭を両手で押さえて悶え苦しんでいた。
地面に倒れ伏してゴロゴロと転がっている。
あの零漸が。
レクアムの攻撃を片手でぺしっと弾き返す零漸がめちゃくちゃ痛そうにしているのだ。
一体どうしたというのだ!?
「痛いっす! めっちゃくちゃ痛いっす!」
「ああ!? も、もしかしてさっきのチョップか?」
「そうっす! がああああ……」
そこで俺は自分の技能について思い出す。
『防御貫通』。
すぐにこの技能が頭をよぎった。
だがこれではない。
この技能は相手の防御力が俺の攻撃力を遥かに上回っていた場合には発動しないのだ。
零漸の防御力は2000を超えている。
対する俺の攻撃力は約500だ。
四倍の差がある。
なのでこの技能が発動したというのは考えにくい。
となると『波拳』だ。
これは衝撃波、骨波、内乱波を組み合わせた技能で全ての攻撃力が三倍になるという物だ。
『衝撃波』は防具の装甲を無視する攻撃。
『骨波』は相手の骨を打ち砕く攻撃を繰り出す。
『内乱波』は内臓をかき乱す衝撃波を打ち込む技能だが防具があると攻撃が通らない技能だ。
この中で今零漸を攻撃した技能を考えると、『内乱波』が妥当な線だろう。
防具は着ていないし、骨を砕くほどの攻撃を出したつもりはない。
しかし『内乱波』はもしかすると、軽い攻撃でも内臓にダメージを与えることができるのかもしれない。
だが何故自動的に発動したのだろうか?
使わない限り技能は発動しないはずなのだが……。
「と、とりあえず、すまん。大丈夫か?」
「だ、大丈夫っす……。しかしまさか俺に攻撃を喰らわせることができるなんて……どうなってんすか」
「多分だが……お前が硬いのは外だけで、中は非常に脆い。って所だろう」
「内臓なんてどう守るんすか……」
言われてみて気が付いたが、確かにどうやって守ればいいのだろうか。
こういう技能があるのだから、もしかしたら俺に似た技能を持っている奴がいてもおかしくはない。
今度研究しておくことにしよう。
それかサレッタナ王国に戻った時にイルーザあたりに聞いておこうか。
「まぁそれは何とかしろ。よし、じゃあそろそろ行くぞ。情報も揃ったしな」
「う、うっす……」
頭を押さえながら零漸はよろよろと立ち上がる。
まだ痛むのだろうか?
まぁ脳天に直撃してしまったのだから仕方がない。
これ以上馬鹿にならないように祈りながら、俺達はようやくアシドドッグを討伐するため、森に入っていくことになった。
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