第40話 イザナミの祠

 皮肥城を出て三日。


 現在俺の目の前には、大きく赤い鳥居が見える。


 そしてそれを潜った先には、人が一人入れるような岩で造られた洞穴があった。


 ここがイザナミの祠であることは間違いなさそうであるが、一応俺はセイメイに確認する。



「セイメイ。ここであってるか?」


「はい。地図と場所が一致しておりますし、外観も書物に記載されていた通りでございます。」



 どうやら間違いないらしい。


 

 地図の位置と違うかもしれないと聞いていたが、杞憂に終わったようだ。

 

 とりあえず目的地に辿り着いた事で、俺はホッとする。


 その後、全員で馬車を降りて鳥居に近づいたのだが、ふと俺は隣にいるイモコを見ると、心無しかイモコの足が震えて見えた。



 イモコにしては珍しいな。



「イモコ、大丈夫か? 足が震えてるぞ?」


「だ、大丈夫でござるよ。これは武者震いでござる。」


 

 イモコはそう言うが、足だけでなく、声も若干震えている。


 どうやら試練を前に、緊張しているようだ。



「あのなぁ、気負うなって言っても無理かもしれないけどさ、肩の力抜こうぜ。」



 俺はそう言って、イモコの肩を両手で揉む。



 そしてイモコは深く深呼吸をすると、震えがおさまったようだ。



 だがしかし、それがいけなかった。


 ここでイモコがまさかの行動に出る。



「かたじけないでござる。では、行くでござるよ!」



 イモコはそう言うと、一人で鳥居を潜り始めた。



 精神を落ち着けて覚悟を決めたイモコは、その勢いのまま進んでしまったのである。



「お、おい。ちょっと待てって! イモコ!!」



 突然の行動に焦った俺は、直ぐにイモコを引き留めようとするが、イモコはその鳥居を潜った瞬間……



ーー俺達の目の前から消えてしまった……。




「まじかよ? どういうことだ?」



 俺はその現象に驚いてセイメイに確認するも、セイメイは首を横に振る。



「申し訳ございません。このような事は書物には記載されておりませんでした。ですので、お気を付けください。私どもは慎重に進みましょう。」



 セイメイは険しい顔をしている。


 確かにこんな訳の分からない事が起きたならば、油断は禁物だ。


 様子見のつもりが、とんだトラップがあったもんだよ。



 そして俺達はイモコを追うため、慎重に一人づづゆっくりと鳥居を潜るが……



「あれ? あれれ? みんな、俺の事見える?」


「はい、見えますよ。サクセスさん。」



 どうやらみんなには俺が見えているらしい。


 俺はイモコと同じように鳥居を潜ったのだが、特に何の変化もなく前に進めた。



 どういうことだ?



 不思議に思いつつも、安全を確認した俺はみんなを呼ぶ。



「とりあえずみんなも来てくれ。」



 俺の声に応じた仲間達は、ゆっくりと鳥居を潜っていく。


 しかし、誰一人消えることは無い。


 普通に祠の前に辿り着いてしまった。



「みんな無事か? 何か変わった事はないか?」



「はい。特に異常はありません。」


「俺も平気だぜ、サクセス。」


「俺っちも何ともないでがす。」



 どうやら全員問題はないようだ。


 しかし、それであればイモコはどこに行ってしまったのだろう?


 

 俺がそんな疑問を浮かべていると、シルクが口を開く。



「多分、イモコは試練の間に飛んだでがんすね。あの剣を持ち、レベルが99の者は転移させられるしかけかもしれないでがんす。」



 あの剣とは、城主の間でシルクが渡した呪われた剣の事だ。


 確かにそれしか考えられないだろう。



「他に何か言い伝えとかないのか? シルク。」


「ないでがんすね。そもそも、試練を受けた者がいるという話も聞いた事はないでがんす。」



 シルクがそう答えた瞬間、今度は祠に近づいたセイメイが叫んだ。



「サクセス様!! 見て下さい、この祠……行き止まりです。」


「何!?」



 その声を聞き、俺も岩でできた洞窟に近づくと、開いている穴の先は岩で塞がれていた。



「まじかよ。じゃあ、やっぱり試練の間は……」


「そのようですね。ここはあくまで転移場所に過ぎないという事かと。」



 俺の予想をセイメイが口にする。



 なるほどな。

 

 しかしこれは困ったぞ。


 これだとイモコに何かあった時、助けに行くことができない。


 本来は、今日は様子見のつもりだった。


 試練にどの程度の日数が必要か謎だったし、ある程度調べてから試練を受けるか決めるつもりだったのに……。



 しかしこうなると、イモコも心配だが、いつ帰ってくるかわからないイモコを、いつまでもここで待つわけにもいかない。



 どうするか……。




 俺がこの状況に悩んでいると、カリーが言った。



「サクセス。悩んでも仕方ないぜ。イモコを信じて待つだけだ。一応予定通り、三日くらいはここで待つとして、それでも戻らなければ……。」


「行くしかないよな。」



 カリーの言葉の続きを俺が言う。



 そう、進むしかないのだ。


 イモコには悪いが、俺達にはやるべき事があるし、いつまでもここにいる訳にもいかない。


 ただそうなると、ハッタリハンゾウと会えなくなるが……仕方ないか。



「みんな、聞いてくれ! 今話した通りだ。とりあえず俺達はイモコを信じて、ここで3日間待機する。だが、もしもその間にイモコが戻らなかった場合、俺達は先に進むぞ。」



 俺がみんなにそう宣言すると、全員が少し不安な顔をしながらも頷く。



 不安に思う気持ちは俺も同じ。


 それでも納得するしかないという事を、全員わかってくれたみたいだ。




「頑張れよ……イモコ。お前ならきっと……。」



 俺は空を見上げながらそう呟いた。

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