第75話 秘密の花園

「では、どうぞお入りください。」


「お、おう。じゃあ入るぞ……。」



 ドキドキ……ドキドキ……

 


 俺は今、秘密の花園に入ろうとしている。

 そこがどんな風になっているのか、童貞の俺には予想もつかない。



 ぬいぐるみに囲まれた、ファンシーな部屋だろうか?

 それとも、花が添えられた落ち着いた部屋だろうか?



 色々妄想は膨らむが、ぶっちゃけそんな事はどうでもいいんだ。

 大切なのは


 

   狭い部屋で二人きり……



ということだ。



 若い男女が一つの部屋にしけ込むのだ、何があってもおかしくはないだろ?

 もしも何もなかったとしても、必ず戦利品(パンティ)だけは見つけてみせる。


 


「どうしたんですか? 早く入って下さい。 そこにいられると誰かに見られちゃいます。」



 俺が部屋に入らないでいると、シロマが恥ずかしそうな顔で催促してきた。



 み、みられちゃまずいんか!?

 どういう意味だそれ!

 これは、もう期待していいんじゃないか?



 し~ろまちゃぁぁ~ん!!



 と言いながら、ダイブしても許されるんじゃないか?



 と思ってみたものの、そもそも俺にそんな度胸はない。



 だって、嫌われたくないし!



 故に普通に部屋に入る。



「し、失礼します。ここがシロマの部屋か……。……俺の部屋と変わらないな。」



 いざ入ってみると、秘密の花園は殺風景な部屋で、俺の部屋と何も変わらない。

 しいて言うならば、違うのは机にいくつかの本が並んでいるところだけ。



 でもそんな事は些事である。

 こんな夜更けに男女が二人、ベッドは一つ。

 やる事は一つしかないだろ? ぐへへへ……



「あまり可愛い物とか置いていなくて、すみません。それよりも、まずは私が知った光魔法についてお話しますね。」


「へ、え……あ、うん。お願いします。」


「どうしたんですか?」


「いや……何でもない。続けてくれ。」



 俺は何をしにここに来たんだ。

 光魔法について知るためだろ?

 完全に意識がエロ仙人に乗っ取られていたわ。



 でも、まだわからないぞ。

 きっと、チャンスはある!



「では、まず初めに光魔法の性質についてお話します。知っての通り光魔法は、闇属性に対して特に効果がある魔法です。逆に他の属性に対してはそこまで大きな効果はありません。そして、同じ光属性の相手には全く効きません。」



 ふむふむ

 知っての通りと言われても初耳だ。

 まぁ闇属性に効くのはわかってたけど、光属性に無効とか知らんかったわ。



「ん? じゃあライトヒールは、俺には意味がないってことか?」


「はい、そうです。って、え? 今まで気づいていなかったんですか!?」



 驚くシロマ。

 そしてもっと驚く俺。



 今までそこまでピンチになった事が無かったからわからなかった。

 使った事もあったけど、回復が遅いなぁって思ってたくらいだし。

 つまり、あの回復はオートヒールの効果だったのか!



「そうですか。では伝えておいてよかったです。次に光魔法とスキルについて、いくつかありましたので、それをお伝えしますね。ただ、どれが使えてどれが使えないかまではわかりません。」



 キタキタァァー!

 新スキルに新魔法!

 あがるぜぇぇえい!



「構わない。わかる限り全部教えてくれ。」


「わかりました。それでは、このノートに全て書いてありますので、それをもって表に出ましょう。」



 そう言って、シロマは机に置かれている一冊のノートを手に取る。

 そして、俺は一瞬何を言われたかわからず、それを茫然と見ていた。



「……え?」


「ここだとどんな魔法かわかりませんので。どうかしましたか?」



 茫然としている俺を見て、シロマが不思議そうに俺を見つめる。

 だが、俺はまだショックから覚めない。

 だって、あそこまで期待させたんですよ?

 そんな、ただノートを取りに来ただけだなんて……そんな馬鹿な!



「ここに来たのって、もしかしてそのノートを俺に渡すためだけ?」


「はい、そうですが? あ……まさか、サクセスさん、別の事を期待していたのですか?」



 突然焦るシロマ。

 どうやら、俺が何に期待していたかわかったらしい。



 いや、つうか、散々意味深な事を言ってたよね?

 童貞故の勘違いだなんて言わせないぜ?



 っと、言いたいところだが、そんな事を言えるはずもなく……



「そ、そ、そ、そんなことないべさ! んじゃいくべいくべ!」



 ただ焦って必死にごまかすだけであった。

 俺って……情けない……。



「サクセスさんは、どうしていつもそんなにエッチなんですか! そういうのは、まだダメです!」



 シューン……。



 拒否られた。

 まぁ仕方ないよね。

 今はそんな時じゃないし……。



 ごめんな、息子よ。

 期待させてごめんな……。

 今晩沢山慰めてあげるからな……それで我慢してくれ。



 俺はしょぼくれながら、シロマの前を歩き始めると階段を上っていく。



 俺の息子もさっきまでの元気が見る影も無くなった。

 俺と同じで下を向いている。



 しかしそんな時、ボソッと後ろから何かが聞こえてきた。



「みんなが帰ってきたらです……。」



 あの後、一言も話さなかったシロマが漏らした言葉。

 その言葉を聞いて、俺達は上を向いた……粘っこい涙をほんの一滴こぼしながら。



 だが、俺はそれを聞こえない振りをしながらスルーする。

 ここで、がっつけばひかれる可能性があるからな。

 聞こえない振りをするのが男ってもんだろ。



 おっしゃ!

 みんなが戻ったら、3人いっぺんに相手してやる。

 たぎるマグマを大噴火させたるから覚悟しろ! 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る