第37話 致命的油断
遠くに聳え立つ(そびえたつ)7つの巨大な首。
見るだけならば、7色の竜首があるのは格好いいと思うし、ちょっとワクワクする。
強そうで格好いい生物というのは、男心をくすぐるのだ。
まぁ、見るだけならね……。
実際、こいつの相手を一人でするとなると、かなり厄介だ。
斬った首は直ぐ再生するわ、一つ一つの首はそれぞれ別の意思を持って動いて攻撃してくるわ……。
しかもその攻撃はどれも今まで出会った魔王級……いやそれ以上と来たもんだ。
正直、できるならば死にたくないし、白旗をあげたい気分。
まぁ、そういうわけにはいかんよね。
「さて、どうしたもんかな。弱点とかないもんかなぁ~、ガンダッダの首を落とせば終わりとか……。」
幸いな事に、さっき赤い首に吹き飛ばされた事で、リヴァイアサンとの距離はかなり稼げている。
少しだけならば、考える余裕ができた。
といっても、既にあいつは俺の場所を把握しているし、十数秒位しか余裕はないが……。
「まぁ、考えてもしゃあないか。とりあえず、あのガンダッダの首を落としてみるか。」
俺はそう決めると、こっちに凄い勢いで迫ってくるリヴァイアサンに、こっちからも向かって飛んで行った。
ガンダッダの首を落とす事。
それは、こいつと相対した時から考えていたことだ。
だが、実際に俺が落とした首は、ガンダッダではなく、赤、黄、白の首。
本当は最初からガンダッダの首を狙っていたのだが、他の首が邪魔をして中々近づけないのであった。
結果として、俺は他の首を落とす事しかできていない。
つまり、あれだけ堅固に守っているガンダッダの首は急所である可能性が高いという事。
だとしても、攻守共に万能の他の首を避けて、ガンダッダの首に到達するのは容易ではないんだけどね。
「消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろぉぉぉぉ!」
リヴァイアサンは俺に接近してくると、ガンダッダの首が同じことを連呼しながら叫んでいる。
「うっわぁ~。俺、マジで恨まれてるな。っつか、そこまで恨まれる覚えはないんだけどなぁ……。」
お互いが凄い勢いで急接近する。
もうすぐ、リヴァイアサンの射程距離だ。
そして、俺は奴の射程距離に入った瞬間、急停止をした。
我に秘策あり!
俺が射程圏内で止まった事で、リヴァイアサンはガンダッダの首以外が一斉に襲い掛かってくる。
ガンダッダの首は、その奥でブレスの準備をしていた。
つまり、俺の動きを完全に封じたところ、そのブレスで他の首ごと吹っ飛ばすつもりらしい。
参ったね……こりゃ。
万事休す……
なんちゃって!
この時を待ってたんだよ!!
その場で停止している俺に、6方向から一斉に襲い掛かってくる6色の首。
俺に逃げ場はない……。
少なくとも上下左右、そして後方には。
そう、前だけは隙間が開いているんだ。
ガンダッダが俺の場所捉えるための隙間が。
あれのリキャストタイムは終わっている、今だ!!
【ドラゴニックブラスター】
俺の速度が早いか、お前のブレスが早いか……勝負だ!!
6本の首は俺に向かって一斉に攻撃した
ーーが、そこに俺はいない。
ガツン! ガツン! ガツン!
6本の首は、それぞれ「頭ごっちんこ」して、少しピヨった。
「なぁぁにぃぃ!?」
続けて、何かが急に接近してくるのに気付いたガンダッダは驚き、目を大きく開いて叫んだ。
「俺の勝ちだな、ガンダッダ! 遅いんだよ! 」
【ドラゴニックロスラッシュ】
龍特攻の十字斬りの必殺技。
他の首を斬った時とは違い、首を横一閃で斬り落とすだけでなく、中央を縦にも両断する。
「い、いでぇぇぇ! おぉのぉでぇぇぇぇ!!」
ザバァァァァン!
リヴァイアサンは、激しい水しぶきを上げながら断末魔をあげ、海に沈む。
ガンダッダの首を斬り落としたことで、俺は安堵した。
「ふぅ………。今回は今までで一番手強かったな……。」
これでやっと、ゆっくり休める……。
思えば、1日徹夜で動き続けてきたのだ。
正直、疲労困憊(ひろうこんぱい)である。
さっきまでは、アドレナリンがドバってたから疲れを感じなかったが、終わったと思うとそれがドット押し寄せてきた。
「さてと、んじゃ船に戻るかな……!?」
その時、俺の後方が光る。
ピュン!!
「だはっ!!」
何かが俺の背中を貫いた。
左翼と左肩に手拳大の穴が開く。
俺の肩から噴き出す、大量の血しぶき。
突然の痛みに、俺の頭は混乱した。
「何が……う、嘘だろ? そんなんありかよ!!」
パニックになりつつも、俺は後方を振り返ると、そこには完全無傷のリヴァイアサンが7つの首を海から出していた。
うかつだった。
ガンダッダの首を落とした事で、勝手に勝ったと思い込んで、塵に変わるのを確認していなかった。
奴は、俺に斬られたと同時に海に沈んだ。
それ故に、完全に倒したと思い込んでしまっていたのだ。
7つ首の内、黄色の首が口を開けている。
どうやら俺を攻撃したのは、黄色のブレス……そう、防御力無視の貫通攻撃だった。
更に最悪な事に、他の首も口を開けて、次の攻撃を発射寸前である。
咄嗟に俺は上空に飛んで逃げようとするが、左翼が損傷しているからか、速度が上がらない!
「残念だったな……こぞおぉぉ! これで終わりだ!!」
そして、再度6つの破壊の光が俺に襲い掛かってきた。
万事休す……。
もう俺に回避することは不可能。
あれを食らえば、いくら俺でも耐えきれるわけがない。
「みんな……ごめん。約束守れそうにないや……。」
迫りくる6色のブレス。
走馬灯が俺に走る。
子供の頃の思い出。
旅を始めてからの楽しい日々。
「あぁ……童貞のままか……。トンズラもこんな気持ちだったのかな……。」
俺は目を閉じた。
悔いはあり過ぎるが、もう過去には戻れない。
最後くらいは仲間達の顔を思い出しながら死にたかった。
カリー……イーゼ……リーチュン……シロマ……そしてビビアン。
ビビアン……助けられなくてごめん。
そして遂に、俺を破壊の光が包みこむ。
ドォォォーン!!
6色の破壊の衝動はその場にあるもの全てを塵に変え、葬りさった。
「がっはっはっは! やった! やったぞ!! 遂にやったぞ! これでこの世界は俺の物だ! 俺のものだああああああああああ!」
破壊の鼓動が鳴りやむと、辺りにガンダッダの叫びが響き渡る。
リヴァイアサンのブレスにより、辺りは紫の毒の煙に覆われてよく見えないが、そこに何もない事をガンダッダは確信していた。
聖戦士サクセス
彼は遂に童貞のまま……
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