第39話 帰還

「よし、じゃあ俺の仲間のいる船に戻ろうか。」


「わかりました。仲間ですか……イーゼさんですか? リーチュンですか?」



 俺はリヴァイアサンを無事討伐したことから、シロマを抱いて仲間のいる船に戻ろうとすると、シロマが何故か不機嫌な声で聞いて来た。

 


 なんで怒ってるの?

 まぁ、とりあえずイーゼとリーチュンではないので、しっかり説明しておこう。



「いや、イーゼとリーチュンにはまだ会ってないよ。仲間っていうのは、新しくできた俺の仲間だ。すげぇ頼りになる奴だよ。」



「そうですか……頼りになる方ですか。それは良かったですね。ところで綺麗な方でしょうか?」



 シロマの言い方に、少し棘を感じる。

 どことなく冷たい感じだ。



 綺麗?

 綺麗と言えば綺麗だな。

 男の俺でも、うっかり惚れそうに……!?


 しまった!

 カリーをシロマに会わせたら……まずい!



 ここに来て、新たなラスボスの登場に焦る俺。

 そしてその様子を見て、シロマは勘違いした。


「言えないってことは綺麗な方なんですね。へぇ~、流石はサクセスさんですね。モテるんですね。」



「ちょちょちょっ! 違うって。誤解だって。確かにカリーは綺麗な顔立ちをしてるけど……。」


「そうですか、カリーさんですか……わかりました。元気そうで良かったです。」



 完全にシロマがそっぽを向いてしまった。

 まずいな……こうなると中々機嫌が戻らないんだよなぁ。



「シロマ、勘違いしているけど、俺の新しい仲間に女はいないぞ?」



「え?」



「だぁかぁら、カリーは女じゃなくて男! シロマの勘違いだよ。っというか、カリーはイケメンだからシロマに会わせたくなくて……それで……ごにょごにょ……。」



「あ、もしかして私がその人を好きになると思っているんですか?」



 ちょ!

 ダイレクト!

 あ~そうですよ! その通りですよ!



「……うん。ぶっちゃけ不安だから会わせたくない……。」


「ップ……サクセスさん。可愛いですね。」


「からかうなよ! もういい、さっさと戻るぞ。」



 今度は逆に俺がふくれっ面になって、そのまま空を飛んで船に戻っていった。



「大丈夫ですよ。私はサクセスさん以外を好きになることはありませんから。」



「え? なんだって?? 風がうるさくてよく聞こえなかった!」



「なんでもありません。それよりも、イケメンの方って楽しみですね!」



 シロマは聞こえなかったのをいい事に俺をからかう。



「くそおおおお! やっぱり男は顔かぁぁぁぁぁ!」



 シロマの言葉にショックを受けた俺は、若干やけくそになりながら、ぶっ飛ばして船に戻る。



「師匠!! 凄かったでござる! 半端ないでござる! 気違いでござる!」



 俺が船に着地すると、イモコが興奮した様子で駆けつけてくるなり叫んできた。

 


 つか、最後の言葉少しおかしくね?



「あぁ、お前は本当に凄いぜ、サクセス。正直、ここまでお前が凄いと、なんだか俺が馬鹿みたいだな。ところで、その子は誰だ?」



 イモコに続いてカリーも俺のところに来た。



「あぁ、カリー。この子は俺……の……。」



 あれ?

 なんだこれ……。

 急に力が……抜ける……。

 ダメだ、意識……が……



「サクセス! おい! どうしたサクセス! しっかりしろ!!」


「サクセスさん! どうしたんですか? 【エクスヒーリング】【ケアリック】だめです、怪我や状態異常じゃありません!」


「あんた僧侶か! どうなんだ? サクセスに何があったんだ!」


「わかりません! でも安心してください。私なら治せます。【リバースヒール】」



【リバースヒール】

 それは、対象の体を時間を遡って回復させる魔法。

 例え瀕死もしくは死んで間もない状態であったとしても、その前の状態に戻す効果がある。

 戻せる時の長さに制限はあるが、ある意味究極の回復魔法であった。

 そして、サクセスを亜空間バリアで守った後、シロマが真っ先に使った魔法でもある。



「リバースヒール? なんだそれは?」


「ちょっと静かにしてください! 集中しないとできないんです!」



 さっきまで自信に満ちていたシロマが焦り始める。

 サクセスを助ける為に、身につけた新しい力。

 それが、なぜか今になって全くサクセスに効果がないからだ。

 


「ダメです……。戻りません……。」


「おい! どういう事なんだよ! ちゃんと説明しろよ!」



 カリーはサクセスを心配するあまり、語気を強めた。


 そこにイモコが現れて、サクセスの胸に耳を当てる。



「カリー殿……大丈夫でござる。師匠の心臓は動いているでござるよ。とりあえず、一度町に戻るでござる。」



 イモコがそう言った瞬間、サクセスの体から赤と青の何かが浮かび上がってくる。

 そしてそれは、仰向けになって倒れているサクセスのお腹の上に集まると、姿を変えた。



ーーゲロゲロに。



「ゲロちゃん!?」



 死んだと思っていたゲロゲロが、全く傷のない姿で目の前にいる。

 シロマは、信じられない光景を目にして開いた口がふさがらなかった。



 そしてカリーもまた……



「どういうことだ……これは……。まさか、サクセスはゲロゲロと合体していたのか!? それであんな姿に……。」



 シロマは、カリーの言葉に思わず驚いて目を向けた。



「なんであなたがゲロちゃんを知っているんですか!?」



「なんでって。そりゃあ、サクセスとゲロゲロの三人で旅をしてきたからな。それよりも、いい加減あんた誰なんだ? 俺はサクセスの仲間のカリーだ。」



「あなたがカリーさん……そうですか……。今までサクセスさんを助けていただきありがとうございます。でも、あんな化け物を相手に、サクセスさんだけを戦わせるなんて、信じられません! これからは、私がいますので結構です! それと言い遅れましたが、私はサクセスさんの仲間のシロマと言います。」



 シロマは怒っていた。

 サクセスに仲間がいると聞いた時から、本当は凄く怒っていた。

 なぜならば、サクセスは死ぬ寸前だったのだ。

 もしも、自分が間に合わなければ、サクセスはこの世にいなかった。


 相手はサクセスが苦戦するほどの強敵であったのはわかる。

 しかしそんな相手に対して、サクセスを一人にさせたのは許せなかった。

 例え、力がなくても他に何かできたはず。


 少なくとも、自分は絶対にサクセスを一人にはさせないし、イーゼやリーチュンも同じだと思う。



 つまり、この人はサクセスの本当の仲間ではない。



 シロマはそう判断した。



「それは……弁解の余地もねぇ。そうだ、俺の力が足りないからサクセスに無理をさせた。すまないと思っている。」



「カリー殿! それは違うでござるよ!! カリー殿は頑張ったでござる! それにあの時だって……」



「よせ、イモコ! 力になれなかったのは確かだ。言い訳をするつもりはない。俺は後少しで、一生後悔するところだった……。」



 イモコが何かを言おうとしたが、それをカリーは止めた。

 実際、サクセスがヤバイ状態になった時、カリーは船から海に飛び込もうとしたのだ。

 だが、それを必死に止めたのはイモコ達。

 カリーを抑えるのに、船員全員で止めたのである。



「そうですか……わかりました。私こそ、何も知らずに酷い事を言ってしまい、申し訳ありません。ですが、町に着くまでサクセスさんと二人にさせてください。もちろんゲロちゃんもですが……。」



 カリーの言葉に、シロマは罪悪感を感じる。

 実際、シロマが駆けつけたのは、本当にサクセスが死ぬ直前。

 つまり、その前の状況等は何もわかっていない。


 そこからの状況だけを見ればシロマが怒るのも無理もない話。

 しかし、カリーの言葉を受けて、この男が何もしなかったわけではないことを察した。



「わかった。サクセスもその方が嬉しいだろう。イモコ、どこか部屋を案内してやってくれねぇか?」



「……わかったでござる。ですが……いや、何でもないでござる。」



 イモコは何かを言いかけたが、やめた。

 カリーが何も言わないのだから、自分が余計な事を言うのはまずいと思ったのだ。



 そもそも、力が足りなかったのはカリー殿だけではない。



 某も……



 そう思ったイモコも、内心複雑な思いである。

 それに、初めて会うこの女性(シロマ)に対して、そこまで信頼していいのかもわからない。

 だけど、師匠が信頼するカリー殿の言葉だからこそ、イモコは何も言わずに従ったのであった。

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