第89話 畑に種を、枯れ木に水を

「おし! わかった! 俺に考えがある。今回の作戦は、俺とゲロゲロの二人で行う。みんなは、この場所で引き続き防御を固めてて欲しい。」



 俺はシロマの話を聞いて、一つの作戦を思いついた。

 ゲロゲロには少しだけ危険が及ぶ可能性はあるが、俺の予想では大丈夫なはず。

 正直、この方法でダメなら、多分どうすることもできないだろう。



「ちょ、お前! また一人で無理するつもりじゃねぇだろうな? ダメだ、俺も行く。」


 

 しかし、カリーが真っ先に反対してきた。

 その気持ちは嬉しいが、違うんだ。

 カリーがいても、危険が増えるだけ。

 これは、俺とゲロゲロにしかできない作戦。



「カリー。心配ありがとう。でもな、無茶をするつもりもなければ、当然死ぬ気もない。カリーも自分で言ってただろ? 自分には無理な事でも、案外それを簡単にできる奴がいるってな。今回、それが俺とゲロゲロなだけだ。信じてくれ、勝算は高い。無理だったら、またすぐ戻る。」


「本当ですか? サクセスさん。私が見た限りですが、今回の災禍の渦潮は、私が見た文献のものよりも大分大きく凶悪なものです。如何にサクセスさんとゲロちゃんが強くても、二人ではどうすることもできないと思います。」



 俺の言葉に、今度はシロマが反対する。

 だがーー



「あ~。なんだ、その……あれだ。シロマちゃん。俺が先に反対しておいてなんだが、ここはサクセスに任せてみないか? サクセスは、この船旅で心身共に多くを学んだ。そして、今のサクセスの言葉を聞いた俺は、正直それだけで信じるに値すると思った。まぁ、だが一応作戦を聞いてから判断したいとは思うがな。シロマちゃんが心配する気持ちはわかる。でも、とりあえず話を聞いてみようか。」



 ここにきて、カリーが俺の言葉を信じて、受け入れてくれた。

 まだ作戦内容を話していないのに。

 あぁ、これが仲間の信頼ってやつなんだな。



「わかりました。まだ私は賛成はしかねますが、とりあえず作戦を聞いてから判断したいと思います。」



 ちょっとまだ腑に落ちない表情であるが、なんとかシロマも話を聞いてくれそうだ。

 じゃあ、話すぞ!

 俺のこの殲滅作戦を!



「ありがとうシロマ。そして、カリー。じゃあこれから話す作戦についてだが、正直簡単な作戦だ。」


「もったいぶらず、さくっと話してくれ。時間は有限だ。」


「わかってる。じゃあ、伝えるぞ。まずは、俺はゲロゲロの背中に乗って災禍の渦潮の真上まで行く。そこで俺は【シャイニング】という魔法を使って、渦潮そのものを消滅させるつもりだ。シャイニングはチャージすればするほど、その威力も範囲も大きくなる。だから、渦潮を完全に消滅できる程に溜めたら、俺はゲロゲロから災禍の渦潮に向かって飛び降りて、それを使う。」


「え? でも、それじゃあサクセスさんは……。」


「心配するな、シロマ。前に試しに使ってみてわかったんだが、この魔法はマジで半端ない。俺がそれを発動した瞬間、周りの海ごと消滅するだろう。特に闇属性の渦潮ならなおさら、効果覿面なはずだ。ゲロゲロは、俺を下に落とした瞬間、できるかぎり上空に逃げてもらう。そして光が消えたら、俺を回収してもらう。どうだ? これが俺の作戦だ。」


「なるほどな。あの時のあれを使うってわけか。確かにあれはやべぇな、俺が近くにいたんじゃ使えねぇだろうな。わかった…………行ってこい! サクセス!」


「え? でも、もしサクセスさんが魔法を発動できなかったら……それにゲロちゃんだって……。」


「大丈夫だシロマ。ゲロゲロは光属性だから、もし被弾してもダメージはそこまで大きくないだろう。それにゲロゲロのスピードがあれば、俺が落下している間にも相当上空に逃げられるはずだ。問題はない。」


「問題あります!! さっきから、サクセスさんの危険が消えていません! もし、魔法が発動しなかったら……。もし災禍の渦潮に飲み込まれたら……もし、それでも倒せなかったら……。」



 カリーと違って、シロマは中々折れてくれなった。

 その心配する気持ちは凄く嬉しい。

 だけど、これは俺がやらなければいけないことだ。

 シロマには悪いが、俺はなんとしてでもやる。



「シロマ。もしって、話したら何もできないだろ? 俺は今できる最善の手を打ちたい。その結果、悪い方に転んだのであれば、またそこで最善手をとる。それだけだ。だから、俺を信じてくれ。大丈夫、俺は必ず帰ってくる。シロマと子供を作るまでは……俺は死なない!!」


「ちょっ……こんな時にふざけないでください。ダメといったらダメです!」


「まぁまぁ、シロマちゃん。こうなったサクセスは止められないぜ。それにな、俺は絶対に大丈夫だと思ってる。それこそ、命を懸けてもいい。俺はサクセスに命を預けた。そして、シロマちゃんも……サクセスを愛してるなら信じてやれ。こいつは、やる時は必ずやる男だ。散々見てきたんじゃないのか?」



 カリーの言葉に、少しだけシロマは落ち着きを取り戻す。



ーーしかし



「ですが……。わかりました! それでは私もサクセスさんを信じます。でも、もしもサクセスさんに何かあったら、私も死にますからね! 私もこの命をかけます! サクセスさんの子供が産めないなら、生きていても仕方ありません!!」



 シロマが言いきった!

 そう、言いきったのだ!!



 俺の子供を産むと!



 つまりは、幸せ家族計画を認めたという事だ!

 それは、夢の儀式を俺と望む覚悟があるという事だ!



 これは死ねねぇ……。

 絶対死ねねぇよ!

 死んでたまるか!

 一発やるまで死ねるかよ!!



 いや待てよ……。

 なら、先に今から種を……ってそんな時間はないか。

 いいだろう、言った言葉は戻らないからなシロマ!



 覚悟しておけ!!



「よっしゃーーーー!! めっちゃ気合入ったぜ!! シロマ! 今の言葉忘れるなよ! 俺は絶対、シロマという畑に種を植えるからな! おし! ゲロゲロ! 行くぞ! さっさとあんなのやっつけて戻るんだ!」



 シロマの言葉に超テンションが上がった俺は、猛る思いが抑えられずに叫んだ。

 そして俺の言葉を聞いて、頭が冷静になるシロマ。



「あ……。私は、え? 今、私は何を……。」



 シロマは我に返ったのか、混乱している。

 そして、その真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠してしゃがみこんだ。

 


 そんなシロマの肩をポンっと叩くカリー。

 


「元気な子……産めよ。頑張ってな、シロマちゃん。」


 

 カリーがそれを面白そうにからかう。。



「ちょっと、もう! もう絶対に許しません! 帰ってきたら、一杯言いたいことがありますからね!!」



 そして、既にゲロゲロに乗って上空に飛び立った俺に、シロマは叫ぶのであった。

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