第88話 幸せ家族計画

「お、まじか!? やっぱカリーはあいつを倒しちまったか。」


「あたぼうよ、俺を誰だと思ってんだ。お前の教官だぞ?」


「はっ! これは御見それしました! 教官!」



 カリーの言葉にビシッと敬礼を決める俺。



「うむ、素直でよろしい。んじゃ、おふざけはこのくらいにして、船に戻るか。サクセスの方も取りこぼしは無いんだろ?」


「あぁ、一応確認したけど、敵の気配は感じられなかったよ。それより、そのでっかい魔石は……。」



 カリーが持っているのは、水色の巨大な魔石。

 冒険者になったばかりの頃、俺がスライムを倒した時に出た魔石と色は似ているが、大きさは桁違いだ。

 ちょっとした岩……そう、ボマーズロッククラスの大きさである。



「いいだろ? これは売ればいい金になるぜ? あのデカブツは結構おいしい魔物かもしれねぇな。ってなわけで、こんなでっかい石っころをいつまでも持っていたくねぇし、さっさと船に戻るぞ。」


「サー! イエッサー! 教官!」



 俺は再度綺麗な敬礼をすると、そのまま覇王丸のところまで戻っていく。

 そしてどうやら、俺の作った結界はまだ切れておらず、船も無事のようだ。



「今戻った! 船に問題はないか? イモコ。」


「おぉ! 師匠! それにカリー殿! 遠くからでも見えましたが、相変わらず凄まじい戦闘でござるな! 某、未だに興奮冷めぬでござるよ。」



 大興奮といった様子で詰め寄ってくるイモコ。

 まるで、念願のスターに出会えた少年のように、その目をキラキラと輝かせている。

 だが、そのイモコの肩を掴んでカリーが止める。



「おいおい、それよりもサクセスは問題ないか聞いてるんだぞ。まぁ、その様子だと何も無かったようだな。」



 イモコの返答につっ込むカリー。

 その言葉に、イモコは俺の質問に答えていなかった事に気付き、今度は焦った様子で弁解した。



「申し訳ないでござる。某としたことが……。船は一切攻撃を受けておらぬでござるよ。それに、もしも攻撃を受けたとしても、シロマ殿とゲロゲロ殿がいれば問題ないでござる。しかし、あれほどの厄災を……散歩の如く蹴散らすその姿……正に神の所業!!」



 収まったと思ったら、再度興奮し始めて俺に近寄るイモコ。

 むさいとは言わないが、ちょっと怖いぞ。

 


「ちょっ! どうしたんだよイモコ。ちょっと落ち着け。それより、シロマとゲロゲロはどこだ?」



 気付けば二人の姿が見当たらない。

 どこにいるんだろ?



「先ほどまでは、こちらにいたでござるが、何か気になる事があると言ってどこかに行ってしまったでござる。直ぐに戻ると思うでござるよ。」


「なるほど。シロマが気になるっていうんじゃ、何か嫌な予感がするな……。」



 その時、突然上空から羽ばたく音が聞こえる。



 バサッ! バサッ! バサッ!



「ちょっ! ちょっとゲロちゃん!? きゃぁぁぁぁぁ!」



 すると今度は、上空からシロマが悲鳴が聞こえてきた。

 視線を上げると、空に古龍狼状態になったゲロゲロが見える。

 どうやらシロマは、ゲロゲロの背中に乗っているっぽいな。



「げろぉぉ!(サクセスお帰り!!」



 ゲロゲロは、俺が船に戻ったのを見つけて、船に急降下してきたようだ。

 それに焦ったシロマは、既に船に舞い降りているのにも気づかず、目をギュッと瞑りながら、必死でゲロゲロにしがみついている。



ーーそして



 ドンッ!



「キャッ!!」



 ゲロゲロは船に降りると、元の可愛い姿に戻り、俺の胸に飛び込んできた。

 俺の顔をペロペロ舐めるゲロゲロは、やはりとんでもなく可愛い。

 どうして、もふもふってこんなに癒されるんだろうなぁ……。



 だが逆に、突然変身を解除されて、地面に落とされたシロマは災難だった。

 その小さく可愛いお尻を甲板に打ちつけると、痛そうに摩っている。

 


 俺も摩りたい……。



「もうっ! ゲロちゃん!! メっですよ! ちゃんと、私が降りてから元に戻ってください!」



 俺がゲロゲロを抱きしめて可愛がっていると、シロマが頭をプンプンさせて近づいてきた。



「だってさ、ゲロゲロ。ダメだろ、ちゃんと注意しなくちゃ。メッだぞ? でもよくシロマを乗せられたな、言葉がわかってきたのか?」


「ゲロロン?(よくわからなかったけど、乗せて欲しい感じだったから乗せた!)


「そうかぁ~。偉いぞゲロゲロぉぉ~。お~よしよし。愛い奴め、愛い奴め!」



 俺はそういうと、更にゲロゲロの頭をゴシゴシと撫でて可愛がる。

 完全に孫を溺愛するお爺さん状態の俺。

 魔物を愛するムッツ氏の気持ちが、俺にはわかる。



 だが、シロマはそんな俺を見て、目をキッとさせて睨んできた。



「ちょっとサクセスさん! ちゃんと叱って下さい! 子供のしつけはちゃんとしておかないと、後で苦労しますからね!」



 教育ママのように、叱るシロマ。

 だが、その言葉に俺はうっかり口が滑った。


「大丈夫だって。俺達の子供にはちゃんと厳しくしつけるからさ。」



 なんとなく、勢いで既に子作り後の話をしてしまう俺。

 そして、それを聞いてシロマは顔を真っ赤にさせている。



「もう! サクセスさんの馬鹿! ってそんな事よりも大変です。直ぐに動かなければいけません!」



 すると、シロマは何かを思い出したかのように焦りだした。

 もう少しイチャラブしたかったが、その様子をみて俺も態度を改める。



「どうしたんだ? 何があったシロマ?」



「実は、以前話した時空の図書館で、災禍の渦潮について書かれた文献があったのを思い出したのです。あれは、召喚した魔物が消えると、また同じ数だけ……いえ、それ以上に数を増やして召喚するのです。ですから、元を断たないとキリがありません。」



「え!? でも、もしそれが本当なら、100年前から海は魔物だらけになってないか? ちょっとそれはおかしいと思うぞ?」



「はい。その通りです。しかし、災禍の渦潮は際限なく魔物を召喚するわけではなく、召喚した魔物が減らないかぎりは、新たに召喚することもなく、更に渦潮そのものも、1年ほどでパタッと消えてしまうそうなのです。」



 どういうことだ。

 また難しい話を……。

 つまりは、1年待たなければならないと?

 もしくは、今の内に離れるか……。



「んで、シロマちゃんは気になって、俺達が戦っている間に、その災禍の渦潮を探してたってわけだ。」


「はい。その通りです。そして、見つけました。先ほどサクセスさん達が戦闘していた海域よりも、少し離れた場所にあります。」



 カリーの推察をシロマが肯定する。

 シロマの行動が速くて助かった。

 とりあえず今なら、どうとでも対応ができそうだ。



 うーん、ぶっちゃけ逃げた方が良さそうに思える。

 正直、俺にはどうすればいいかわからん!



「しかし際限はないとはいえ、倒す度に召喚されちゃ、近づくのも難しいな。それにどうやって、渦潮を壊せばいいかもわからない。なぁ、サクセス。ここは、もう逃げておくか?」



 カリーもどうやら逃げるに一票のようだ。

 だけど、逃げられるのか?

 いや、多分逃げられるだろうな、俺達なら。


 だけど、これを放置すれば一年は、この付近を通った船が全滅するぞ。

 それを放っておいていいのか?



「なぁ、イモコ。一つ聞いていいか? この付近まで船が来ることってあると思うか?」


「言いにくいでござるが……あると思うでござる。ここから後3日でサムスピジャポンに到着するでござる。つまり、ここはまだ漁業範囲内でござるよ。」



 あちゃ~。

 やっぱそうきたかぁ。

 だよなぁ、何となくわかってた。

 仕方ない、やはりここは俺達がなんとかしなくちゃいけないな。



「なぁシロマ、カリーも聞いてたが、その渦潮を破壊する方法ってあるのか?」


「正直に言いますと、文献には載っていませんでした。しかし、属性だけは書いてありました。災禍の渦潮の属性は……闇です。」



 闇属性……。

 つまり、俺のスキルなら効果があるかもしれないってことか。

 ん? なら……。

 そうだ! 

 俺には、あれがあるじゃないか!!


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