第90話 流星

「よし! ゲロゲロ、さっきシロマと一緒に見た渦のところまで案内してくれ。っと、その前に……【ミラージュ】」



 俺はゲロゲロの背に乗って飛び立つと、新しく覚えた新魔法【ミラージュ】を唱える。

 これから向かう場所では、新たに魔物が召喚されているだろうから、見つからないようにするためだ。

 とはいえ、水棲モンスターが上空を狙って攻撃してくるとは思えないから、一応念のため程度である。


 

 この魔法は、光の屈折を利用して、その姿を見えなくする魔法。

 当然、俺だけでなくゲロゲロにもかけているので、二人の姿は周りから見えなくなる。

 しかも俺達がいるのは空の上。

 まず敵に見つかる事はないだろう。



「ゲロォォ!(飛ばすから、しっかり掴まって!)」



 ゲロゲロはそういうと、一気に加速した。


 やはり空を飛ぶのは気持ちいいな。

 ビューンっと風を切って飛ぶ感覚は、地上では得られない。


 ゲロゲロの速度が速過ぎるせいか、あっという間に、さっき俺が戦っていた辺りまで来ていた。

 ここから、更に奥……いや、こっからでも見えるな。



 上空から見える災禍の渦潮。

 それは渦潮と呼ぶにはちょっと異質すぎた。

 確かに遠目からぼんやり見るなら、普通に黒い渦潮にしか見えないだろうが、俺は目がいい。



「うわぁ……なんじゃありゃ。気持ち悪過ぎだろ。シロマが反対した理由がわかったわ。なるほどな、ちょっと作戦変えるか?」



 あれは渦潮なんかじゃない。

 海に現れた、超巨大な黒い触手系モンスターだ。

 渦になって見えるのは水ではなく、太く長い黒い触手。

 渦の中央は、ピンクがかっており、そこからなんか気持ち悪いのが這い出てくる。



 あれがモンスターを召喚する口かな?

 きっしょ!!



「いや、まじ、これどうすんべ。普通に渦潮を想像してたから、中心に飛び降りればいいやって思ってたけど、正直あの中に飛び降りる勇気はないな。」



 俺は、災禍の渦潮の真上まで来ると、しばらくその場で考え込む。

 上空でシャイニングを使ってもいいのかもしれないが、そうなると海という緩衝材がないため、どの程度の被害を及ぼすのか想像がつかない。

 最悪、覇王丸まで波に飲まれる危険性もあった。



「とりあえず、まずは溜めておくか。【シャイニング】」



 俺の体の中で、光の波動が収束してくる。

 相手のデカさを考えれば、前回の2倍はチャージしておいた方がいいだろう。



「ゲロゲロ、俺が飛び降りたら真っ先に上に飛べ。わかったな?」


「ゲロ!(わかった)」



 さてと、じゃあお勧めの着地……いや着水ポイントは……。

 おっ! いいじゃん、あそこ。

 あそこなら距離も問題ないし、敵から見つからない状態ならありだな。



 俺が見つけたのは災禍の渦潮の範囲内にある、海の部分。

 触手が大きいせいか、隙間が生まれており、あの中なら入っても平気そうだ。



「ぐぐぐ……きっつうう! 焼ける痛みだなこれ。だが、もういいだろう。ゲロゲロ、降りるぞ!」



 俺はそう言うと、ゲロゲロの背中から飛び降りる。

 


 落下しつつも、チャージを継続させるのは結構しんどかった。

 凄い重力を感じるし、何よりも空気抵抗がやばい。

 口を開けば……「あばばばばばっ!」って言いそうである。



 持つか……?

 いや、持たせろ俺!

 気合だ! 子作りだ!



 ドッボォォォォォン!!



 着水と同時に、激しい水しぶきが空に舞う。



 今の敵に気付かれたかもしれない。

 でも、大丈夫!

 まだチャージは継続……がはっ!



 うそだろ!?

 消えた?

 なんで?



 なんと、水中深くに落ちた俺は、体の中にためていた光の波動が霧散してしまった。



 しまった!!

 これなら落ちながら使えばよかった!!

 くそっ!!



 すると、巨大な黒ミミズのような物体が俺に襲い掛かってくる。



 ゴォォォォ!



 ズバっ!!



 俺は、なんとかそれを斬り伏せた。

 しかし、いつの間にか俺の周りは真っ暗になる。

 


 否!!



 黒い触手に囲まれていた。



 まずいな、息もそんなには続かないぞ。

 


 焦るな。

 大丈夫、まだ方法はある。

 あれを使うぞ。



 【スターストリーム】



 これは魔法ではない。

 そう、スキルだ。

 つまりは唱える必要がないのだ。

 スキルでも唱える者も多いが、あれは本来どっちでもいいこと。

 念じるだけで、その技を使えるのであるが、声を出した方が威力が上がるとも言われている。

 故に、基本的に誰もがそれを口にしていた。

 まぁ対人戦では、あえて口にしない事も多いらしいが。



 とりあえず、俺はスターストリームを想像しながら念じると、剣を斜め上方に突き出す!!



 すると、螺旋の光が海を……触手を貫く!



  ギュルゥゥゥゥゥ!!



「かはっ! はぁはぁ! とりあえず呼吸は出来た。今がチャンス!【シャイニング】



 海が削れ、俺の前から数秒ではあるが水が消える。

 その隙に俺はシャイニングを唱えることにした。

 チャージはほとんどできないが、とりあえず海面に足をつけるだけの海は蒸発させられるだろう。



 そして、水が俺に覆いかぶさってくる寸前で、魔法は発動する。



 ピカッ!!


 ドォォォォォン!!



 前回使った時の4分の1の溜め時間。

 だが、それでも俺の能力値が高いためか、それなりの効果を発揮した。

 普通の魔法使いが使う、最上位爆発魔法の100倍クラスの威力。



 俺の半径100メートル位の海と、触手は吹き飛んだ。

 だが、肝心の災禍の渦潮はまだその体の多くを残している。



「だよな。あれじゃダメか。だが……やれる事をやる!」



 俺はそう言うと、水の無い海底から上空に大きくジャンプした。

 そして、更にもう一発、魔法を繰り出す。



 この魔法も怖くて使えなかった魔法。

 しかし、その効果や内容はシロマの本を読んで学んでいる。

 ちと、怖いが……使うか。

 だが、その前に……。



「ゲロゲロ!! 上空から船に向かって急いで飛べ! 上に気を付けろよ!!」



 俺は声に出して、ゲロゲロにテレパシーを送った。

 そう、今から使う魔法は、シャイニングと違って別の意味で危険な魔法。


 

 【スターフォール】




 俺がそう唱えると、上空が光り輝いた。

 そして次の瞬間……災禍の渦潮に破壊の波が訪れる。



 ドドドンッ!

 ドドドンッ!

 ドドドンッ!



 光り輝く隕石のような球体が、俺を中心に付近一帯に落下してきた。

 その玉は、直径10メートルくらいであろうか。

 かなりの大きさである。



 それが、何十発と連続で災禍の渦潮に降り注いだ。

 上空にいたゲロゲロが心配だったが、どうやら無事に回避できたらしい。

 ゲロゲロから何の思念も飛んでこないことから、大丈夫だと思う。



 しかし、このスターフォールの凄いところはそれだけでは無い。

 災禍の渦潮に当たる度に、その場で大爆発を起こしているのだ。



 溜めたシャイニング程の強さはないかもしれないが、十分過ぎる火力。

 気が付けば、災禍の渦潮……いや、黒い触手の集合体や、ピンク色の口も消えている。



 そして俺もまた、もう一度海底に着地すると、水が無くなった海の先を見た。

 すると、災禍の渦潮があった中心に、黒く丸い物体を発見する。

 


「あれは魔石か? いや、それとも核か? 悩むことはないか、あれがこれの元凶ならぶっ壊す!!」



 そう叫ぶと、俺は弓を構えた。

 構えるといっても、そこに弓はない。

 だがそれでいい。

 俺には、そこに弓があると感じるんだ。



 そして放つ。



 【ライトアロー】 



 魔力を十分に含んだ光の矢は、音速を超える速さで射出されると、その黒い球を撃ち抜いた。




 パァァァァン!!



 すると、その玉は粉々に砕けちり、やがて消えていく。



「おし! 色々と予定外だったが何とか倒せたな。ゲロゲロ、回収を頼む!!」



 俺はそう叫ぶと、再度上空にジャンプした。

 その瞬間に俺がいた場所は、海に飲み込まれる。



「あっぶねぇ! まじでギリギリ!」



 すると、空から何かが高速で接近してきた。



 ゲロゲロだ!



 ゲロゲロは海面ギリギリまで高度を下げると、タイミングよく、その背中に俺が着地する。



「最高のタイミングだぜ、ゲロゲロ! グッジョブ!!」



「ゲロォォ!(任せて!)」



 こうして俺は、何とか災禍の渦潮を殲滅するのであった。

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