第45話 謎のマシーン
「サクセス殿、この先が秘密クラブじゃ。そして目的のすごろく会場は地下五階じゃよ」
女王は豪華な装飾が施された金の扉の前で立ち止まると、俺に視線を向ける。
「地下五階? えっと、よくわからないけどそうなるとここは何階なんだろう?」
「ここは地下一階でありんすえ。ちなみにじゃが、最下層が地下7階で地下5階から下に行くにはすごろく入場許可証が必要になるのじゃ」
地下7階……思ったより深い。
だがそれよりも許可証が問題っぽいな。
「その許可証ってのはどうやったら手に入るんですかね?」
「それは簡単じゃ。一人に付き一万ロザーナで手に入るのじゃ」
こともなげにそう口にする女王であるが、実際はそこまで簡単ではないだろう。
事前に聞いている話から、パサロを使って遊ぶことはできるが、パサロとロザーナは交換できない。
ロザーナを稼ぐには、あくまでここのギャンブルで儲けなければならないのだ。
しかもロザーナは持ち越しができず、貯める事が出来ないらしいので、最低でも毎日一万ロザーナを手に入れなければならない。
そして俺たちは五人パーティな訳だから、必要なロザーナは五万。
言うほど簡単でない事は窺い知れる。
「すごろくってのは、会場に入るだけでも大変なんですね。ちなみにすごろく券は一枚いくらなんですか?」
このエルフの国、というよりかは秘密クラブにおいて、すごろくがどれだけ敷居が高いかはわかった。
会場に入るだけでもVIPカード以外に入場許可証が必要なくらいなのだから、すごろく券を手に入れるのは相当大変かも知れない。
「ロザーナではすごろく券は交換出来ないのじゃ」
「!?」
手に入れるのは難しいだろうとは思ってはいたが、まさか入手すらできないとは……
あれ? でもそれだとプレイする人がいなくなるし、会場の意味なく無いか?
そんな疑問を顔に浮かべていると、女王は説明を続ける。
「心配は無用じゃよ。交換は出来ない代わりに許可証を持っている者は、月の初めに回数券を一枚貰えるのじゃ。つまり本来であれば、許可証を手に入れて一ヶ月後に初めてすごろくができるという訳じゃな」
その説明を聞き、今度はイーゼが質問をする。
「母上、サクセス様は既にすごろく券をお持ちですわ。その場合は一ヵ月待たなくてもよろしいので?」
「勿論問題無いのじゃ。会場さえ入れればすぐにでもできるでありんす」
それを聞き、ホッと息を吐く俺。
流石にここに来て一ヶ月は厳し過ぎる。
「まぁ兎にも角にも、まずはカジノで勝ってロザーナを集めるしかないな。じゃあみんな……行くぞ!」
俺のその号令と同時に女王が扉を開ける。
女王様に扉を開けさせるのは如何なものかとも思ったが、開けてもらってしまったのだから仕方ない。
そして扉の先……
そこで俺たちが目にしたものは……
※ ※ ※
「うわっ……なんだこれ?」
扉の先にあったのは、未だかつて見た事がない光景。
カジノと聞いて思い浮かべるのは唯一行った事があるヒルダームのカジノであるが、この秘密クラブとは何もかもが違った。
まず初めに大きさだ。
ヒルダームのカジノも巨大であり、ワンフロアの広さには初めて訪れた時に驚いた程である。
しかしながらここと比べてしまうと、あの巨大なカジノも見劣りしてしまうと言わざるをえない。
実際に比べたわけでは無いが、体感的には十倍くらいの差がありそうで、しかもそれが地下7階まであるというのだ。
正に言葉通りケタ違いというやつだろう。
次に驚いたのは、秘密クラブ……いや、ここはあえて闇カジノと呼ばせてもらうが、全体の雰囲気だ。
ヒルダームのカジノは眩いほどに明るいフロアであったが、ここは逆だ。
全体は少し薄暗い感じであり、クラブというのが正に当てはまるような落ち着いた雰囲気。
更にフロア全体に余分な調度品等が置かれておらず、あるのはなんらかの遊戯台だけ。
少しだけ薄暗い灯りに、それぞれの遊戯台が光り輝きその存在感を表している。
そして最後に何よりも俺を驚かせたのは、ここに置かれているもの全てが見た事もない物だという事。
俺はヒルダームのカジノしか知らないが、一般常識的にもカジノと言えば、ポーカー等のカードゲームや、スロットマシン等である。
だがここにあるものは、そういうものとは大きく異なるものだろう。
唯一理解できる物として、ここにもスロットマシンと同じような物が存在するが、それであっても全く別物と言える。
もはやここにあるもの全てが意味不明だ。
俺が周囲を見渡しながら言葉を失っていると、女王は、
「サクセス殿。妾が一つ一つ案内してさしあげるのじゃ」
そう言って微笑みかける。
女王としても自慢の場所を見せられて喜んでいると言った風な感じだが、是非も無い。
むしろ経験者の女王がいる事は本当に心強い。
「頼みます」
「では、まずはこちらへ」
俺がそう口にすると、女王は巨大なスロットマシーンが百台以上置かれているフロアへと案内する。
そこで客があまり座っていないスロット台の前まで来ると説明を始めた。
「ここにあるスロットマシーンは、通常のカジノスロットとは違い、そのほとんどに魔液晶と呼ばれる映像表示画面がついておるのじゃ」
そう説明されて初めて理解した。
さっきからずっと気になっていた魔液晶と呼ばれたもの。
そこにはとても上手く書かれた人の絵等が浮かび上がっていて、それがなんとまるで生きているかのように動いていたのだ。
普通のカジノスロットよりここのスロットが三倍ほど大きいのは、この魔液晶があるからなのだろう。
こんなのを見て驚かない者はいない。
「凄いな……魔液晶。この世界にこんな凄いものが存在したなんて……」
俺たちが立ち並ぶ様々なスロット台に目を奪われていると、女王は説明を続ける。
「このスロットは、カジノスロットと違いボーナスと呼ばれる当たりでメダルを出すのじゃ。魔液晶が様々な演出を表示し、ボーナス確定と出たら7を揃えることができるようになるので、それ以外ではいくら揃えようとしても7は揃わないのじゃ。台ごとに仕様は異なる故、やる前に台の横にある冊子に目に通すとよいのじゃ」
なるほどね。
ちょっと複雑そうで難しそうだけど、めちゃくちゃ面白そうだわ。
これを知ったら普通のスロットなんてできなそうだな。
色んな種類が置いてあるし、後で是非やってみたい。
「では次のエリアを案内するのじゃ」
そう言って女王が次に案内したのは、さっきのスロット台と似たような形の箱型の機械が並ぶ場所。
スロットと同じように台の中には魔液晶がついているが、スロットとは全く別のものだ。
しかし俺はなんとなくこれがどういうものであるか理解できる。
なぜなら……
「これはスマートボールか?」
そう、目の前にある台は玉の大きさこそ違うが、玉を飛ばして穴にいれるもの。
他の客がやっているのを見てわかったのだが、玉が中央下の穴に入ると魔液晶内で数字が回転し、その数字が三つ揃うと大当たりだ。
「流石はサクセス殿じゃ。しかしながらスマートボールと違って穴に入れば当たりというわけではなく、まぁそれは他の人のを見ればわかるじゃろう。ちなみにこの遊戯台はパチンコと呼ばれておる」
「なるほど。さっきのスロットも面白そうだけど、これも凄いやってみたい」
俺がそう口にすると、女王は何かを閃いたように拳を手のひらにポンと乗せ俺の方に向き直ると……
「では実践する前に、忘れないように10回程パチンコと言ってみなんし」
ん? 忘れないように?
よくわからないけど、なんか勝ちやすくなるおまじないかな?
俺は女王に言われるがまま、その言葉を10回口にする。
「パチンコパチンコパチンコ……」
「もっと早くじゃ!」
ええ!?
「パチンコパチンコ…チン」
「ん……ふぅん…んんん」
何故か目の前の女王が蒸気をあげながら悶え始める。
「サクセス様。間に受けなくいいですわ。」
「イィ……いいですわぁぁ」
………。
そこでようやく自分が何をさせられていたか理解した。
「⚪︎んこって聞きたかっただけかいっ!!」
目の前にいる変態(女王)に対し、思わず素でつっこんでしまった。
なんというくだらないことを……つか、普通逆じゃね?
確かに俺もシロマあたりに卑猥な言葉を言わせてみたいけどって、違う違う!
俺たちがそんな馬鹿なことをやっていると、一つの台をじっと見つめていたカリーが口を開く。
「決めた。サクセス、俺はこれやるわ。」
カリーはそう言うと、そのまま台の前の椅子に座った。
その台の魔液晶には、さまざまな魚や亀とかエビに数字がついている台で、台には新海釣り物語と書いてある。
するとそれを見た女王は、
「ほほぅ。中々良い台を選びおった。この台は特に人気の台じゃが……」
「ん? 何か問題でもあるんですか?」
「まだここの説明が終わってはおらぬのじゃ。この秘密クラブは階によってレートが違うのじゃ」
「どういうことだい? 女王さん」
席に座ったカリーだったが、その言葉を聞くと立ち上がって女王に質問する。
「ふむ。この地下一階はパチンコなら1球1パサロ、2階3階と下がるとそのレートが倍になり、当然ロザーナの交換率も違う。そなたらの予算は如何ほどじゃ?」
えっ? って事は、地下4階だと八倍!?
「えっと、一応イーゼからは10万パサロづつ渡されているけど……」
当初は軍資金的に充分だと思っていたが、今の話を聞く限り地下4階でプレイしたら一瞬で10万パサロが溶けそうな気がする。
「ふむ。であればもう少しレートの高い階でも良さそうじゃの。この階は初心者向け故、交換率が一番低いのじゃ。急ぐのじゃろ?」
確かに女王が言う通り、俺たちはできるだけ早くゴールドオーブを手に入れなければならない。
それもあってイーゼは一人10万パサロという大金を用意してくれたわけで、最悪使い切ったところでまだまだ金はあるのだから、思いきって最初から高レートで勝負するのもありだろう。
「なるほどな。よし、とりあえず俺は地下3階あたりから試す事にするわ。じゃあ先に行くぜ」
そう言ってカリーは中央に設置されている螺旋階段へと歩いていった。
まぁカリーならそれなりに稼いできそうだけど、やはり俺は一通り説明を聞いてから選びたい。
「行っちゃったか……まぁいいや。女王様、残り二つも案内してもらえますか?」
「勿論じゃとも! ついて参るがよい」
そして俺たちは女王の後に続いて、残り二つの遊戯台の下へと向かうのであった。
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