第44話 大好物

 翌日俺達は女王から聞いていた通り、王城の螺旋階段を10階まで上がった先にある扉まで来ている。


 今回は昨日と違って、シロマとリーチュン、そしてカリーも一緒だ。


 昨日は思わぬハプニングからここから逃げ出すことになってしまったが、あの後イーゼは女王と殴り合いと呼ばれる対話に勝利したことで、現在大手を振るってここにいられることになった。


 天空職のイーゼに女王が勝てる訳もないのだが、それでも結構食らいついてきたらしい……それも凄い執念で。


 あの見た目麗しい女王がどんな表情をしていたのかは想像もできないし、したくもないけど、昨日の女王の様子からイーゼの俺に、というか強者に対する執着は遺伝のようだ。


 いや、もしかしたらエルフ全体がそういう感性を持っているのかもしれない。


 そういえばそんな事をイーゼが以前言っていたような気もする。


 いずれにせよ、自分の能力についてはあまり知られないように注意しておこう。


 それはそうとして俺が一番懸念していたのは、王城への出入り禁止を言い渡されることであったが、そうならずに済んだのは幸運だった。


 イーゼ曰く、



「そんな事はありえませんわ。むしろ王城にずっといてもらえるように今頃画策していますわよ」



 とのことだ。


 どんな手を使って俺達をここに留めようとするかはわからないが、少なくとも今日ここに来た感じでは特にかわったこともないので、それは頭の隅にでも置いておけばいいだろう。



ーーてなわけで



「とりあえず罠とかはないとは思うが……開けるぞ」



 昨夜のうちに女王の事はみんなに説明してあるため、一応警戒するように伝える。


 そしてドアノブを捻ってみると施錠はされておらず、そのままガチャっと回して扉を開いた。




ーーすると



「待っていたのじゃ、ダーリン」



 という声と同時に女王が飛びついてきて、そのまま俺の腰をギュッと抱きしめてくる。



「じょ、女王様? なぜここに?」


「それはダーリンの行くところは、妾がいるべきところじゃからな」



 …………。



 昨日初めて会ったばかりなのに、既に女王の中で俺はダーリンにまで昇格していたようだ。


 なんとなくだけど扉を開ける瞬間、こういうことになるような気もしていたが、まさか本当にいるとはな。


 とはいえ女王はやはり女王な訳で、今後も秘密クラブに通う必要がある以上、下手に機嫌を損ねることもできない。


 好意を向けられること自体は凄く嬉しいのだが、それ以上に扱いに困る相手だ。


 そんなわけでどう対応したのかいいのか困っていると、イーゼが動いた。



「女王様……いえ、母上。そのようなお姿で行くつもりですの?」



 女王の後ろに回り込んだイーゼは、そのまま俺から女王を引き離すと予想外の言葉を吐く。


 てっきり一緒に行かせないように注意するかと思っていたのだが、今の言葉からは、むしろ知っていた上でそれを許容しているかのような言い回しだ。


 しかしそれよりも、今の言葉で咄嗟に視線を下げた俺はとんでもないものを目にした。


 なんと女王が身に付けているのは、レオタードと呼ばれるくそエロい服だった。



 全体が薄いピンク色の生地は、胸の形がはっきりわかるほどピチピチ。


 大切なところがほとんど隠されていないⅤライン。


 そして細長く美しい美脚を艶めかしく彩る黒タイツ。

 

 それは正に俺の大好物。


 これはやばい。

 まじでやばい。

 何がヤバイって、既に俺のキカンボウは……



「あら? ダーリンったら、もうこんなにさせて。では今日のところは先に寝室へ……」



 女王は膨れ上がった俺のイチモツに気付くやいなや、手を下からすくい上げるような感じで息子に触れようとするも……



「サクセス!!」

「サクセスさん!!」



 割って入ってきたリーチュンとシロマに阻まれた。



「いや……ちがうっちゃねん。これは、ほんと、なんというか……すんません」



 言い逃れが不可能だと悟った俺は謝るしかない。


 でもさ、これって生理現象な訳でさ……少しは理解して欲しいよ……。



「馬鹿な事をやってないで先に行かねぇか?」



 すると、呆れた顔をしてそんな事を口にするカリー。


 お前他人事だと思って! っと言いたいところだが、これはナイスだ。


 このまま勢いで有耶無耶にしてしまおう。



「そうだな。よし! じゃあさっさと行こうか。時間は有限だし!」


「そうであるな。ではそのVIPカードをそこの壁の四角い穴にはめるのじゃ。そしてその棒は妾のここにはめるのじゃ」



 俺がそう口にすると、女王が秘密クラブへの行き方をレクチャーする。



 この人(女王)は公衆の面前(仲間達の前)でなんっつうことを口にするんだ。


 見ちゃダメだ。


 凄くエロい気持ちになりそうだから絶対見ちゃダメだ!


 せっかくいい感じに流れた雰囲気を戻されたらたまったもんじゃない!



 必死に女王からは目を反らし、卑猥な言動をスルーする俺。



「んっと、ここか。うぉっ!! カードが光った!!」



 無事、穴にカードをはめた俺は突然発光したカードに驚く。



「今度はそのカードを押すと、部屋が移動するのじゃ。そしてそのままの流れで妾のここもポチっと押すのじゃぞ」


「んじゃ、ポチっとな」



 再度、最後に言われたことはスルーしつつも、言われた通りにカードを押し込んでみる。


 するとカードから光が消え、部屋が緩やかに下へと降りていくのを感じた。


 どうやらここも、エルフベータ―であったらしい。


 しばらくすると、またチーンという音が鳴り、目的地にたどり着いたことを知らせる。


 今回は77階に行った時とは違い、ちゃんと両開き扉が目の前にあった。


 そして扉を開いた先には、



    黄金に光輝く通路



が真っすぐと奥の扉まで伸びている。



「すっげ……なにここ……」


「うわぁ~! キンキラキンだね!」


「この光が私を戦場へと導く……」



 通路だけでこれだ。


 驚くのは無理もないだろう。


 俺とリーチュンは素直に感動しているが、後ろから聞こえたシロマの言葉だけはちょっとおかしい。


 なんにせよ、どんな場所なのかワクワクしてくるな。



「さ、こちらですわ。ダーリン」



 そういって手を取ろうとした女王だが、その手をイーゼがパチンと叩く。



「母上、昨日の話し合いで決まった事をお忘れで?」


「わかっているのじゃ。安心せぇ、ちょっとつまもうとしただけじゃ」



 決まったこと?

 つまむ?


 なんか嫌な予感がするんですけど。


 つうか今更だけど、女王の話す語尾が色々とおかしい……


 そしてその言動はとても女王とは思えず、なんというかイーゼを更にパワーアップさせたというのが正しいだろうか。


 イーゼの母親なだけあるわ、まじで。



「何よ? イーゼ、また隠し事?」


「イーゼさん、聞いていませんよ?」



 当然今の会話はシロマ達にも聞こえていた為、追及は免れられない。


 実際イーゼもわかってて口にしたんだろうけど、その意図は不明だ。


 

「昨日、母上と話し合った(殴り合った)結果、サクセス様と二人の時だけは触れていいけど、それ以外では触れないという決まりを作ったのですわ。先ほどサクセス様に抱き着いた時は、部屋に入っていたのはあの瞬間二人であったためグレーとしましたが、今は違いますわ」



 ふむふむ、なるほどっておい! 勝手に決めるなよ。


 つまり二人になったらヤバイって事じゃないか!


 ん? やばいのか? やばくはないけど、今は禁欲のサクセス。


 何かあったらいい訳できねぇ!



 と不満の表情を俺は浮かべるのだが、俺と違いリーチュン達は普通に納得している。



「なるほどねぇ~。じゃあアタイらはサクセスを一人にしなければいいってことね」


「わかりました。絶対にサクセスさんを離しません」



 そういって両側から俺の服を掴むリーチュンとシロマ。


 つかいいのそれで?


 二人になったら何でもありってことじゃないの?



 俺の不安を他所に、イーゼもまた俺の後ろから服を掴む。



「その通りですわ。わたくしも離しませんわ」



 これは一体どういう状況なのだろうか。


 以前はハーレムに憧れていたが、なんだか凄く窮屈だぞこれ。


 だがそれでもこの状況を少しだけ……いやかなり嬉しくも感じるのは俺が童貞だからだろうか……



 そんな事を考えていると、顔をにやけさせながら俺を見ているカリー。


 

 くそ、あのやろう……楽しんでやがる。


 いや、待てよ。


 むしろ俺は本来羨ましがられる状況なのでは?


 ははーん、なるほどな。


 カリーは悔しいからあんな顔をしているんだな。



「大変だな、お前も」


「嫉妬すんなよ、カリー。まだ前が空いてるぜ」


「あほか」



 そんな軽口を叩き合いながらも、俺達は遂に秘密クラブまで辿りついたのだった。


 

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