第43話 秘密クラブ
「頭を上げて下さい。話はわかりましたわ。あなた様の心が揺らがないことも理解しました」
その言葉を聞いて、喜色を浮かべながら顔を上げるも、目に映る女王は申し訳なさそうな表情をしていた。
「しかしながらゴールドオーブを渡すことはできません」
「なぜですか!? ではどうすれば?」
「母上!!」
「勘違いしないで頂きたい。お渡しできないのは、妾にゴールドオーブの所有権がないからですわ。確かにゴールドオーブはこの国……いえ、王城にあります。しかしながら、その所有権は誰にもないのです」
悲しそうにそう伝える女王は、嘘を言っている訳ではなさそうだ。
しかしながら、今の言葉の意味を俺は理解できない。
所有権が誰にもないってどういうことだろうか?
「母上。もう少し詳しく教えてくださいませんか?」
「そうでしたわね。あなたは知らないでしょうが、ゴールドオーブはこの王城の地下にあります」
「地下!? この王城に地下なんてありませんわ!」
「あるのですよ、イーゼ。しかしそこは女王である私か、資格を有する者のみが入れる場所」
「王城にそんな場所が……」
ここで生まれ育ったイーゼすら知らない秘密の場所。
そこにゴールドオーブはあるらしい。
そしてそれは女王の物ではないということだが……
「つまりそこに行くことができれば、ゴールドオーブを手に入れることができるということですか?」
「申し訳ございません、サクセス殿。例え愛するあなたであっても、こればかりは答えることができませんわ。ただ……」
そう言いながら女王は胸の谷間に手を入れて何かを取り出すと、それを俺に見せる。
「このカードを有することができれば……」
女王が持つその金色のカードに俺は見覚えがある。
というか、持ってるわそれ。
俺は服の内ポケットに入れっぱなしになっていたそれを手に取り、女王に見せた。
ーーすると
「まさか……それは!? サクセス殿は持っていらしたのですね、VIPカードを!」
そう、これはリヴァイアサンを倒した時にアバロン王であるセンニンから報酬としてもらった闇カジノのカードだ。
センニンも場所がわからなくて行けなかったと言っていたが、まさかエルフの国にあるとはな。
そりゃみつからないわけだ。
「流石サクセス様ですわ!」
そんな事情を知らないイーゼは、ただただ素直に俺を持ち上げる。
なんかちょっと照れるな。
ーーしかし
「それをお持ちということであれば、少しは話すことができますわね。それさえあればゴールドオーブがある会員制地下カジノにも入れますが……」
そこで言葉を詰まらせる女王。
どうしたんだろうか?
と思っていると、女王は話を続ける。
「そこで珍しいギャンブルはできますが、それだけではゴールドオーブを手に入れることは不可能ですの」
「まじか……他にも必要な物があるのか。あと、俺が持っているものといえばこれくらいしか……」
そう言って俺は、VIPカードをもらった時にそれと関係があるものと言われた【すごろく回数券】を取り出す。
これはセンニンからではなく、ボウサム王ことボッサンからあの時もらったものだ。
すると、それを見た女王は目を開いて驚愕した。
「それです!! それがあれば……あぁ流石は妾の伴侶……」
恍惚とした表情で俺を見つめる女王。
嬉しくないと言えば嘘だが、二人の間にイーゼが割って入って俺の姿を遮る。
「何度言えばわかりますの? サクセス様は私の夫ですわ!!」
「いや、もうそれいいから! それよりも話の続きをしてくれ!」
「そんな……サクセス様……」と言いながら項垂れるイーゼを無視し、俺は女王から話の続きを聴取する。
「ふふっ。では、わ・ら・わが教えてあげますわ」
勝ち誇った表情で答えようとする女王だが、別に女王の夫になるつもりはないですからね?
嫌と言うわけではないが、他のメンバーに殺されそうだから無理。
「はい。詳しく教えて下さい」
「もちろんですわ。資格を有しているならば何のためらいもありませんので」
そして俺は女王から闇カジノ……というか会員制秘密クラブについて色々聞いた。
分かった事は、秘密クラブでは普通にこの国の通貨であるパサロを使って様々なギャンブルを楽しむことができ、そこでロザーナと呼ばれるコインをゲットすることで珍しい景品と交換できるそうだ。
まんま伝承にあるパサロとロザーナの名前が使われていることから、もしかしたらパサロがこれを作ったのかもしれない。
とそれはともかくとして、肝心のゴールドオーブについてだが、この景品だけはロザーナで交換することはできないようだ。
ゴールドオーブを手に入れる為には、
【すごろく】
とよばれるギャンブルでラスボスを倒す事でそれを得る資格が貰えるらしい。
すごろくというのは、1から6まであるルーレットを回し、止まった数字の数だけマスを勧めることができるボードゲームのようだが、普通のボードゲームとは違う。
というのも、どういう原理かはわからないが、自らがそのボードという世界の駒となり、そこでは仮想戦闘もあるらしいのだ。
それだけ聞くと今の戦闘力なら余裕かと思われるが、そうではない。
まず第一にルーレットを回せる数はステージごとに限られており、無事にゴールできるかは運の要素が強いためだ。
そして第二に、その世界では固有の職業になってしまうらしく、それもルーレットで決まる。
第三に、その世界では今の俺のステータスはまんま反映されない為、人によってはかなり弱体化するらしい。
と言っても、今のステータスを参考に色々決まるみたいなので、最初期のステータスにはならないということだけが救いではあるが……
そして最後にステージは5まであるらしく、最低でもすごろく券は5枚必要ということ。
ステージをクリアすることで、次のステージに行ける資格を得るのだが、次のステージに入るには、またすごろく券が必要なのだ。
ボッサンから貰った回数券は束になっていたので、その数を確認すると5枚綴りが10枚なので、俺が所有するチケットは50枚。
つまり50回分になる訳だが、ゴールドオーブを手に入れる為にはグループ入場が必要らしく、5人一緒に入らないといけないため一回の入場で5枚のチケットが消える。
となると、順調に進んだとしてゴールまで25枚。
失敗は5回まで。
かなりリスキーだな。
そして肝心の秘密クラブに入る為のVIPカードについてだが、これ1枚で招待メンバーとして他に4人まで連れていくことができる。
そう考えると女王は俺を連れていくことができたのではと思ったが、招待メンバーは初めに登録した者だけなので、俺を連れていくことはできなかったらしい。
まぁそんな訳で人選が必要になるが、すごろくに魔物は参加させることができないようなので、今回は残念ながらゲロゲロは御留守番だ。
後は俺とイーゼ、リーチュン、シロマは確定として、残り一人を母さんにするかカリーにするかというところだけど、一緒に戦ってきたカリーの方が連携を取りやすいので、最後の一人はカリーに決めた。
その間、母さんにはゲロゲロと一緒に遊んでもらうことにしよう。
ゲロゲロは拗ねそうだけど、こればかりは我慢してもらうしかない。
その代わりと言っては何だが、すごろく以外のギャンブルで珍しい物を手に入れてお土産にしよう。
そして最後に秘密クラブの場所であるが、それは螺旋階段で10階まで上がったところにある小部屋が入口らしい。
入ってみると何もないようだけど、VIPカードを持っているとそこから地下に転移するらしい。
ということで一通りの説明を聞いた俺は、女王に感謝の言葉を伝えた。
「色々教えてくれてありがとうございます。これで光が見えてきました」
「いいのですわ。愛する男の力になれただけで妾は幸せですの」
おっと、また変な雰囲気になってきたな。
とりあえずこれ以上は色々面倒だから、やんわりとお断りしなければ……
「えっと、こんな事を言っていいのわかりませんが、イーゼを生んだということは女王様は既に夫がいるのでは?」
エルフの貞操観念が人族と同じかはわからないが、旦那がいればそうやすやすと俺と結婚させるようなことはないだろう……と思っていたのだが……
「あら、子持ちとバツ付きは嫌かしら? 今は独り身ですので気にしなくても平気ですわよ。むしろ長年培ってきた高等テクニックでサクセス殿を快楽の……」
「母上!!」
妖艶な振舞いでそんな事を言われ下半身が見事に反応した俺だが、イーゼの言葉でハッと我に返る。
「えっと、それでは失礼します」
※ サクセスは にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!
これ以上ここに引き留められたらどうなるかわからないと判断した俺は踵を返すが、女王は俊敏な動きで回り込んできた。
「帰しませんわ!!」
「させますか!!」
※ イーゼは ラリパッパ をとなえた!
しかし じゅもんは かきけされた!
「ふふふ、ここでは魔法はつかえませんわよ」
「サクセス様! 逃げて下さい!!」
えぇぇぇ!? 何この状況?
イーゼは両手で女王と掴み合っている。
そして俺は……
「任せた!!」
※ サクセスは にげだした!!
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