第42話 恐怖の謁見
女王に近づいた俺は、美しい声がさっきよりもハッキリと聞こえる。
「面を上げなさい。イーゲ、そして人族の子よ」
そう言われて俺は顔を上げて女王を見る。
近くで見るとやはり超絶美人だ。
来ている服も豪華というよりかは、質素ながらも高級感あるもので、なんというかオシャレである。
「こちらが手紙でお伝えした勇者様であり、わたくしの伴侶でございます」
勇者? 伴侶?
いやいやいやちょっと待て。
お前手紙に何書いたんだよ!!
「ふむ。そうであろうな。だがその前にわらわに言うべき事があるのではないか? イーゲよ」
おっと、なんだか女王のご機嫌はよろしくないみたいだぞ。
まぁ家出していた娘が突然得体のしれない人族を連れてきたんだから当然っちゃ当然か。
「お久しぶりでございます母上。と言ってもまだたったの数十年しか経っておりませんが」
「ふむ、そうであるな。して、この男にお前が国を出てまでの価値があると?」
数十年はたったのではない気がするが、と思ってもこの緊張感のある雰囲気では何も口にできない。
さっきから会話の内容以上にピリピリした空気が伝わっている。
本当に大丈夫なのだろうか?
とてもじゃないが交渉できる雰囲気ではないが……
「その通りですわ……いえ、それ以上ですわね。それと今のわたくしはイーゲではなく、イーゼでございます。お間違えの無いように」
イーゼはこのひりつく雰囲気の中、そんな事を堂々と口にする。
流石と言いたいところではあるが、本当にそんな態度でいいのだろうか?
「なるほど。そなたは妾がつけた名前を勝手に変えたばかりか、性別の選定まで無断で行ったと?」
うわぁ……これやばいやつだ。
知らなかったけど、あれってエルフ的に相当やばかったのかもしれない。
イーゼの自業自得だったとはいえ、やっぱ女になることや名前を変えるのはまずかったか。
俺は話の流れを聞きながら顔を青褪めているが、イーゼの方は全然動揺していない。
むしろ女王を前にして、誇らしげな表情さえ浮かべている。
「当然ですわ。この名前はサクセス様に頂いたもの。何人たりともそれに異を唱えることなどできませんし、そもそも私にとって今の名前は誇りですわ。それにサクセス様と添い遂げる為に女性になるのは当然ですわ」
「ふむ、口調からしても完全に女になったようじゃの。どれ、では妾自らがその人族にそこまでの価値があるか見てしんぜよう。そこの人族、妾の前に来ることを許可する」
うえええ。まじかよ!
完全に空気になって存在消していたのにって、まぁ無理だよね。
諦めた俺はそこで「はい」と返事をして立ち上がると、女王の前までゆっくりと歩を進めた。
「そこで止まれ。どれどれ……」
女王に手が届く位置まで来ると、女王は目を赤く光らせて俺をじっと見つめる。
何をしているのかはわからないが、なんかこんな近くで綺麗な人に見つめられるのは恥ずかしい……というか照れる。
そしてその直後、女王の顔が驚愕で満ちていった。
「む……むむむ!! こ、これは……!!」
その状況に困惑しながらもイーゼの方を横目で見ると、何故か誇らしげに笑みを浮かべている。
すると女王は相当狼狽しながらも、ようやく口を開き、
「もう良い、下がるの……下がってくださるかしら」
!?
突然乙女な声になって命ずる女王。
一体何が……
「どうでしたか、母上? わ・た・く・しのサクセス様は?」
イーゼが挑発的にそんな言葉を女王に向けるも、女王はぶつぶつ言いながら返事を返さない。
「まさか……あんなのはありえない」
どうやらイーゼの声が耳に入らない程驚いているようだ。
「あの……すみません。一体何が?」
ここまで来たらと少しヤケになりつつ質問をするも、それにはイーゼが答える。
「サクセス様。女王様はサクセス様の力を見ることができるのですわ。それは冒険者カードにある数値ではなく、もっと根源的なもので……」
根源的なもの? 力を見られる?
確かに今の俺のステータスはとんでもないことになっているが……
そんな会話をしていると、女王は、「ほぅ……」っと小さく息を吐きながら再び俺の事を見つめてくる。
だがそれはさっきまでの得体の知れない者を見る目ではなく……頬を赤らめ、潤んだ瞳。
そう。恋する乙女の目だ。
「サクセス……殿といいましたわね?」
「は、はい!」
「これからも末永くよろしくお願いしますわ。とりあえず婚儀は明日で……」
「えっ?」
突然そう口にしながら、俺に深々と頭を下げる女王。
まったく意味が分からない。
なぜそんな話になっているのか?
イーゼとの婚約を認めるということなのだろうか?
あれ? 俺ってそもそもそんな事の為にここに来たんだっけ?
そんなことっていうのもあれだけど、目的が……
「母上!!」
すると突然イーゼが声を荒らげた。
どうやらイーゼもちゃんとここに来た意味を理解していたらしい。
突然変な方向に話がそれたことを諫めようとしたのだろう……と思っていた俺が馬鹿だったよ。
「サクセス様はわたくしの伴侶ですわ!!」
「えっ??」
見当違いな言葉に思わず目が点となる俺。
しかし……
「いいえ、イーゲ。いえ、イーゼでしたわね。この方は今より妾の夫となる男。妾はこの方と結ばれる為に生まれてきたのだと今理解しましたわ」
「はい???」
あまりにぶっ飛んだ話に思わず声が漏れ出る。
まさかとは思うが、さっきの婚儀って俺と女王のこと!?
「何度も言いますが、サクセス様はわたくしの伴侶。たとえ母上でもこれだけは譲れませんわ」
「なるほど、わかりましたわ。今よりあなたを女王としますので、妾はサクセス殿と人族の国へと参ることにしますわ」
いやいやいや、女王ってそんな軽いものなの!?
つか、全然話通じないじゃんこの女王様。
話がかみ合わないどころか、完全に別方向へと爆進しているし……
どうすんのよこれ。
「あの……御取込中のところ失礼ですが、本題に入ってもよろしいですか?」
いつの間にか女王に接近したイーゼがバチバチにメンチをきり合っている中、俺は意を決して口にした。
すると、イーゼと睨み合っていた女王は振り向き、乙女の笑みで答える。
「はい、なんなりと。あ、そうですわね、新婚旅行の場所をまだ決めていませんでしたわね」
「いや、あの、そうではなくてですね。俺達がここに来た理由は……」
「そうでしたわね。まずはサクセス殿の両親に報告をしてからですわね。妾としたことがつい舞い上がって……では今から向かいましょう」
「いや、だから違うってばよ! 話を聞け!!」
目の前にいるのが女王であるにも関わらず、思わず大きな声を出してしまう俺。
すると、シュンっとしながらも「はい」と返事をする女王。
絶世の美女にそんな表情をさせてしまった事に少ならからず罪悪感を感じながらも、俺は本題を口にする。
「俺達はこれから大魔王と戦わなければならないのです。その為に、この国にあるゴールドオーブを探しに来ました。ですので、ゴールドオーブをお持ちでしたら譲ってほしいのです」
俺は真剣な口調でそう口にすると、女王もハッと我に返ったようだ。
「そうでしたわね。しかしながら人族の為にサクセス殿が大魔王と戦う必要があるのでしょうか? 仮に倒す事が出来たとしても、待っているのは悲劇ですわ。それよりも妾と余生を過ごした方が……」
そう口にする女王は、多分だがパサロの伝承を信じているからなのだろう。
だけど、申し訳ないがこれは……これだけは譲れない。
「勘違いしないで欲しい。俺は人族の為にだなんて大層な事は考えていません。ただ、大切な者を守る為、そしてこれ以上悲劇が起こらない為に、俺は大魔王と戦うのです。だから……俺達にゴールドオーブを譲ってこれないでしょうか? お願いします!!」
俺は想いを伝えながらも、精一杯の誠意として頭を深く下げる。
それと同時、イーゼも頭を下げ
「わたくしからもお願いしますわ。どうかサクセス様にオーブをお渡しください」
と口にする。
そして俺達の想いを聞いた女王は……
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