第41話 エルフの王城
翌日イーゼに案内されながら、俺はゲロゲロを連れてエルフの王城前に来ている。
「おぉ! 遠くから見るのと全然違うな。これが一本の大木だなんて信じられないや」
目の前に聳え立つのは、木目調の巨大な塔。
俺が今まで見てきたどのお城とも異なり、それはどちらかというと以前ガンダッタが住処にしていた【いにしえの塔】に近い。
だがしかし、そこはやはり王城であるため塔とは違い、周囲は様々な花で彩られ、城の外壁もただの木目調の壁ではなく、全体が白を基調とした色で統一されながらも、そこに落ち着いた色で描かれた紋様などによって風情のある華やかさを見せていた。
「ふふ、わたくしは生まれた時から見慣れているので特に感じることはありませんが、そうやって驚いていただけるとなんだか嬉しいですわ」
俺がほぇ~と感心して王城を見上げている姿を見て、イーゼはどこか誇らしげな表情で口にする。
「そりゃ驚くさ。やっぱどこの国もお城は立派な作りだけど、ここはまた一味違うな。中に入るのが楽しみだよ」
「中は比較的落ち着いた雰囲気になっておりますわ。それでは行きましょう。と言いたいところですが、その前にお手を失礼します」
そう言いながらイーゼは俺の手を取ると、恋人つなぎで俺の手を握る。
「え? いや、ちょっと恥ずかしいんですけど? これから会う女王はイーゼの親なんだよね?」
「はい、ですからわたくしが手を握る事で、この方はお会いしても良い人間であると示す必要があるのです」
そういえばパサロの関係で、エルフの王族は人間との接触が御法度だったけか?
だからといって別に手をつなぐ必要があるのだろうか?
しかしそんな疑問を口にする間もなく、イーゼはそのまま前へと進んで行く。
ふとゲロゲロに目を向けると、可愛いフォルムからは似合わない牙を見せていた。
昨晩リーチュンに言われた通り、イーゼが俺に変な事をしたら噛みつくためだろう。
だが牙を見せながらもまだ噛みついていないのは、ゲロゲロの中でも悩んでいる証拠だ。
俺はそんなゲロゲロに一応テレパシーで
「これは必要なことみたいだから抑えて」
と伝えると
「わかった。けど、次なんかしたら噛む!」
と威勢の良い言葉が返ってきた。
思った以上にゲロゲロは嫉妬深いのかもしれない。
まぁそんなこんなで俺はそのまま王城の扉の前まで歩いていくと、門番と思われるエルフがイーゼを見て頭を下げ、何も言わずに扉を開く。
すると中は広いエントランスとなんており、中央には巨大な螺旋階段があった。
この塔のような王城を見る限り高さは相当なもので、これを階段で一番上まで上がるのはかなり辛い。
それでも俺のステータスならば疲れを感じることはないだろうけど、流石に汗はかきそうだから嫌だな。
「サクセス様。安心してください。あれはブラフです」
するとイーゼが俺の心配に気付いたのかそっと耳打ちする。
別に顔を近づけて耳打ちする必要はない気もするのだが、もしかしたらこの場にいる王族以外の者に聞こえてはいけない秘密なのかもしれない。
そう、城に入ってみると想像以上に歩いている人が多いのだ。
お城の中にいると言うよりも、大きな冒険者ギルドの中にいるような錯覚する覚える。
それなので俺も小さな声で
「ブラフ?」
と尋ねると
「はい。この階段は王城の天井まで繋がっていますが、女王のいる一番上の部屋までは繋がっておりません。ですので、こちらに……」
そういってイーゼは俺の手を優しく引っ張って歩いていくと、螺旋階段の後ろにある扉を開けた。
そこからはまるで迷路のような通路を進み、行き止まりの壁の前で止まる。
そしてイーゼは繋いでいない方の手を壁に当てて呪文を唱えると、そのまま俺達は壁をすり抜けて小部屋へとたどり着いた。
「ここはエルフベータ―と呼ばれる自動昇降機で、行き先の階まで上に運んでくれます」
俺が質問をする前に説明してくれるイーゼ。
エルフベーターという言葉は初めて聞いたが、自動で上に昇ってくれるならありがたい。
「ほんと凄いなエルフって。それでどうすれば上に上がるんだ?」
「はい、この壁にある数字の書かれた丸いボタンを押すだけですわ。今回は女王の間ですので77階ですわね」
そう言いながらイーゼはポチっとボタンを押す。
そうか女王がいるのは77階か……って、77階!?
高すぎだろ!!
どんだけデカいんだよ。
するとゆっくりと床が上がっていくのを感じる。
どうやらさっきのボタンを押すと上昇するようだ。
しかし昇っていく速度はそこまで早くないため、77階までとなるとしばらく時間がかかりそう。
「なぁイーゼ。この城ってさ何人位が住んでるのかな?」
時間もありそうなので素朴な疑問を尋ねてみると
「そうですわね。ざっと三千人位でしょうか? 2階から70階までは平民の居住区で、70階から75階までが王族の部屋、76階は会議室などがあり、77階には女王の謁見の間等がありますわ」
「え?」
今の説明だけで色々とツッコミたいところがあったが、何から聞けばいいのかわからないくらい濃い内容だ。
だが俺が疑問を口にする前にイーゼが説明を続ける。
「この街に住むエルフのほとんどがここに住んでいますの。街にある家のほとんどは違う種族の家ですわね。」
「お、おう」
「それとこのエルフベータ―は王族使用ですが、一般エルフ用のエルフベータ―もございます。当然そちらは70階までとなっておりますが」
「あぁ、だからボタンの数字が1から7までだった訳か。7を押したのに77階とか言うから驚いたよ」
どうやらこの王族専用のエルフベータ―は、1から7の数字が71から77という意味のようだ。
なんにせよ話を聞く限り、この王城は城というよりも巨大なエルフの居住区に城がくっついているようなものらしい。
どうりで馬鹿でかい訳だ。
そんな話をしていると、チーンという音がどこからか聞こえてくる。
「着きましたわ。扉はありませんが、そのまま壁をすり抜けて下さい」
いつの間にか77階に着いたらしい。
結構長い間昇っていたような気もするけど、イーゼの話に驚きっぱなしであったためかあっという間な感じもした。
そして言われたとおり壁をすり抜けて小部屋から出ると、目の前にレッドカーペットが敷かれた通路に出る。
通路は一本道であるが、ところどころ左右に扉があった。
しかし一番奥に見える扉は一際豪華であるため、あそこが謁見の間であることは一目でわかる。
案の定イーゼは真っすぐ奥の扉まで進んでいき、その扉を開けた。
そこにエルフの女王がいると思うと少し緊張してきたのだが、そんな気も知らず躊躇なく扉を開けるイーゼ。
すると、やはりそこは謁見の間というだけあって、豪華な調度品などで華やかに装飾された大部屋となっており、奥の玉座には見た目麗しい女性が鎮座している。
エルフの女王というくらいだから、かなり高齢のおばあちゃんを想像していたのだが全然違った。
イーゼとそんなに歳が変わらない位だろうか?
いや、そういえばイーゼも200歳を超えていたな。
であれば見た目はあてにならないな。
そんな事を考えてぼ~っと突っ立っていると、
「前へ」
という女王の声が届く。
その声と同時にイーゼは俺の手を引っ張って玉座へ向かって歩き始めたのだが、そこで俺はハッと気づいた。
女王の前にも関わらず、俺はイーゼと恋人つなぎで手を握り合っている。
焦って手を放そうとするが、イーゼが力を込めて離さない。
いや、これは逆に失礼だろ。
イーゼは良くても俺の立場が……
そんな不安を前にしながらも、玉座から5メートルほど離れたところでイーゼが膝をついて頭を下げたため、俺も同じ様にした。
もうなるようになれ!!
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