第46話 射倖心

 次に女王が案内したフロアは、これまで見た中でも一番巨大な魔液晶が設置されている場所。


 その魔液晶がどの位巨大かと言えば、街のギルドの壁一面が魔液晶となっているくらいと言えばわかるだろうか。


 そう、つまりは人が30人並んでも足りない程の大きさだ。


 あまりの大きさに全員が棒立ちしてその魔液晶に映る映像に見入ってしまうが、驚くべきはそれだけではない。


 なんとその大画面の前には、豪華な一人掛けのソファーが整然と並んでおり、その一つ一つの前にも大きな魔液晶が設置されていて、それは前方にある巨大な魔液晶の画面とリンクしている。



「……これは?」


「驚いたじゃろう? これこそがこの秘密クラブで最大の魔液晶を使った遊技台。その名もスターバーニィ4じゃ」


「スターバーニィ4? 見た感じウサギのレースに思えるけど、要は賭けレースってことでいいのかな?」



 前方にある巨大な画面には、普通のウサギとは違い、モコモコとした真ん丸のウサギ達がエルフを乗せてピョンピョンと跳ねて競い合っている。


 そしてその周りにあるソファーに設置された魔液晶には、以前やったことのあるモンスターレースと同じく、それぞれのオッズと思われる数字が並んでいた。



「ふむ。賭けレースには間違いないのじゃが、それだけではないのじゃ。このスターバーニィでは、それぞれのプレイヤーがバーニィを育ててレースに出すことができ、またバーニィ同士の配合によってより速いバーニィを作ることもできる育成型賭けレースなのじゃ」


「育成型賭けレース!? そんなの聞いたことないや……すごっ!」


「ねぇサクセス? これめっちゃ可愛いんだけど!! アタイ、これに決めたわ!! あ、でもこれも他の階の方がいいのかな?」



 どうやら可愛いもの好きなリーチュンは完全にバーニィの虜になってしまったらしい。


 しかしレートについて考える余裕があったのには驚いた。


 以前までなら説明を聞くまでもなく、即座に座ってプレイしてしまっただろうがリーチュンも成長している。


 そしてその質問に対して、女王は



「スターバーニィ4であれば、このフロアでも良いじゃろう。この遊技台だけは他のギャンブルと違ってパサロの消費が激しい故、各フロアに設置されているのは同じじゃがレートは統一されておる。運が良いことにまだ席が空いているのじゃから座るが良いぞ。普段なら地下一階は満席じゃ」



 と説明するや、リーチュンは持ち前の素早さを駆使して、瞬時に席まで移動すると座った。



「はやっ!」


「ふふふ、流石はサクセス殿の仲間じゃのう。では最後の場所へと向かうのじゃ」



 意気揚々と先導する女王。


 そして一人、また一人と仲間達が減っていく。


 気が付けば一緒にいるのはシロマとイーゼだけになったが、思いの外、シロマがおとなしいのが気になる。


 女王の説明を毎回真剣な眼差しで聞き入っており、その後一人で何かをブツブツとつぶやいていた。


 唯一聞こえたのは



「ここはまだ私の戦場ではない……」



 という言葉であったが、一体彼女は何と戦おうとしているのだろうか……。


 そんなシロマに一抹の不安を覚えるものの、もう一人残っているイーゼに関しては相変わらず俺の腕に自分の腕を絡ませながら黙ってついてきている。


 いつ女王が仕掛けてくるかと警戒しているようにも見えるが、心配し過ぎだと思う。


 目の前を歩く女王様は、姿こそエロセクシーであり、歩く度にプリプリと揺れるお尻以外は俺を誘っている様子はない。


 いや、これは誘っているのか?


 ぶっちゃけ周りの遊戯台も気になるが、それ以上に目の前の女王から目が離せないのも事実。


 俺の下半身にあるレバーはいつでも叩ける状態だ。


 とそんな事を考えながら進んで行くと、どうやら最後の遊戯フロアに到着したようだ。



「ここが最後のフロアになるのじゃ。その名も……ロザーナ落とし」


「ロザーナ落とし?」


「そうですじゃ。他の者がやっているのを見ればわかるじゃろう。この遊技台は至ってシンプルじゃ」



 そう言われて周囲に目を向けると、確かに見ているだけでも理解できる。


 色んな種類の台があるものの、どれも仕様は同じっぽい。


 パサロ投入口にパサロを入れるとロザーナを飛ばす事ができるらしく、それを前後に揺れる台の上に落として、台に積まれたロザーナを押し出して手前にある穴へとロザーナを落とす。


 するとロザーナが手に入り、今度は手に入ったロザーナを直接飛ばすこともできるようになる。


 確かに単純明快だ。


 また、これは台によって違うのだが、ロザーナ落としもまた例をもれず、それぞれの機械に魔液晶が設置されており、パチンコのような性質も伴っているのか、魔液晶の数字が揃うとロザーナが台の上にパラパラと落ちてくる。


 そしてどの台にもデカデカを表示されているジャックポットという文字の横には10000とかの数字が書いてることから、それを狙っていけば大量にロザーナが手に入るようだ。


 これらを総合的に考えると、この遊技台だけは運の要素の他に知略とテクニックが求められる。


 それだけでも十分これをやる価値はありそうだが、それ以上に、他の遊戯台とは違って直接ロザーナが大量に積まれている様子には射幸心を大きく煽られた。


 案の定、隣にいるシロマは今までにないほどに目をキラキラと輝かせている。


 まぁそれはともかくとしてこれで全ての遊戯台は確認できたわけで、後はどれを選ぶかなのだが……迷うな。



「さてっと……どれにするかなぁ」


「わたくしはサクセス様が何を選んでも、常に隣にいるつもりですわ」



 俺が迷っていると、隣で俺の腕をギュッとしながらイーゼが伝える。


 そして伝わってくるのは、その意思だけではなく、イーゼの膨らみの柔らかさ……っていかんいかん! 


 俺は禁欲のサクセス! 目の前のことに集中しろ!

 


 するとそんなイーゼを見て、女王は悪戯な目を向けると



「娘よ、そなたも自由に遊んでくればよいではないか。そなたとて、ここは初めてじゃろう?」


「その通りですわ。だからこそ、お互いの初めてをここで……」


「言い方!!」



 思わずツッコんでしまった俺であるが、女王は少しだけ残念そうな表情を浮かべている。


 やはり俺が一人になるチャンスを窺っていたのかもしれないが、イーゼの頑なな防御を前に諦めたのかもしれない。



「ふむ。では妾は暫らく離れるかのう。会わなければならない者もおるし……では存分に楽しむがよい。幸運を祈るのじゃ」



 そう言って女王は立ち去ってしまった。


 あまりに呆気なく離れていく女王を見て、少しだけ驚く。



「ようやくいなくなりましたわね。しかし油断は禁物ですわ」


「あぁ……でも実際女王様が色々教えてくれて助かったよ。後はどれにするかなんだが、シロマは決まったか?」


 

 そう言って振り向いた俺だが、いつの間にかシロマの姿がない。



「あれ? シロマは??」


「先ほど、いざ戦場に参るとか不思議な事を口にしながら下の階に向かってましたわ。あの様子ですとレートの高い場所でロザーナ落としをするようですわね」


「えぇ? いつの間に? まぁシロマならこれを選ぶような気はしていたけど。なら俺もとりあえず地下四階に行くかな」


「流石ですわサクセス様」


「いやいやまだ何をやるかは決まっていないんだ。だけど、今の状況から勝負するなら一番高レートがいいと思っただけで」


「それが流石ということなのですわ。サクセス様ならばどの台をやっても大勝するでしょう」



 そう口にするイーゼの顔は真剣そのものであり、どうやら俺の事というか、俺の運を信じて疑わないようだ。


 かくいう俺も自分の運を信じている。


 むしろ俺の唯一の取り柄と言ってもいいだろう。


 スケベが関わらない俺の運は最強だ。

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