第22話 乱れた服とおっぱい

 ぺろぺろぺろ……。 



「ん、んん~~。ふぁぁあ。お、おはようゲロゲロ!」 



 翌朝俺は、ゲロゲロのペロペロで目を覚ます。 


 あれ? 

 なんで俺は床で寝てるんだ? 

 昨日何があったっけ? 


 魔石交換して……

 みんなで宴会……。 


 そうだ! 

 昨日は宴会していたんだった。 

 少しづつ記憶が戻ってきた。

 あれぇ? でもいつ寝たんだろ? 


 俺は上体を起こして周りを見渡すと、部屋の中はかなり散らかっており、みんな凄い恰好で寝ていた。


 だが、イーゼだけは見当たらない。 



「あれ、イーゼはどこだ? ん? なんだこれ? 手?」 



 気付くと俺の腰に、誰かの手が回っている。 

 誰の手なのか当然直ぐにわかった。イーゼだ。 


 振り向くと、そこには完全に上半身裸の変態が俺に抱き着いている。 

 これがイーゲのままだったなら、俺はすぐさま逃げたであろう。 

 しかし、今は違う。 

 せっかくだからじっくり鑑賞しようではないか、誰も見てはいないし。 


 げへへへ。ねぇちゃんエエ体してまんなぁ~。 


 その時、イーゼの目が開く。 

 そして俺と目が合った。 

 そう、完全にエロイ目で眺めていた俺の目とだ。 


 しまった!! やはり罠だったか! 



「おはようございます、良い朝ですね。」 



 イーゼは何事も無かったように上着を羽織って挨拶する。 

 どうやら全て計算通りだったみたいだ。  

 俺は、イーゼの手のひらで踊らされていたらしい。 


 なんか悔しいぞ! 

 あれだけ興味がないような事を言ってガン見していた俺。 


 多分イーゼは、心の中でほくそ笑んでいるはずだ。 

 しかし、まぁもういい。


 英気もエロ気も養ったことだし、準備をして新たなる旅に出発しようじゃないか! 


 その後、俺は全員を起こすと、俺は自分の部屋に戻り旅立つ準備を始めた。 



「よし、じゃあ予定通り今日から旅の祠へ向かう。シロマ、地図は持ったか?」 


「はい、ここにあります。旅の祠まで、馬車で2週間くらいはかかると思います。その間に村はありませんので、必要な物はここで買い揃えておいてください。皆様、買い忘れている物はありませんか?」 



 シロマが全員に確認すると、俺は思い出した。 



「あっ、そうだ。リーチュン! 武器が壊れただろう。ここで買っていくか?」 


「ん~、あたいはまだいいや。素手でも戦えるし! 昨日見たけど、この村にあんまり強い武器は売ってなかったわ。それなら素手と変わらないから、まだいらないわね。」 


「そっか、それならアバロンでいい武器を探して買うとするか。」 


「やった! 楽しみ! じゃあ今度は二人で買いに行こうね! 約束だよ!」 


「サクセス様。よろしければ私の装備もお願いします。体つきが女性になったため、少々今までのとサイズが合わなくなっています。まだ我慢はできますが、どうせアバロンに行くならお願いしとうございますわ。主に、シ・タ・ギとかは、サクセス様に……。」 



 ゴクッ……。 

 し、下着か……。 


 黒の紐パンとかどうだろうか、ってそうじゃねぇ。 



「わかったわかった。じゃあとりあえずアバロンに着いたらみんなの装備を見直そう。」 


「さんせーー! 一番最初はアタイね! アタイがサクセスと行くからね!」 


「シロマは欲しいものとかないのか?」 


「私は今のところございません。ただ防御力が弱いので、もう少し強い防具がほしいとは思います。」 



 防具か。 

 確かにレベルも上がっているし、そろそろレベルに見合った装備が必要だな。 



「わかった。じゃあ早速向かうぞ! 目指せアバロン!」 



 こうして俺達は、テーゼの町を出発し、旅の祠に向かい始める。 

 道中出会うモンスターは、今まで出会ったモンスターと同じであり、当然今では雑魚でしかない故、あまり倒す意味もない。 

 レベルが高いせいか、この大陸のモンスターだと俺達のレベルは上がらなくなっていた。 

 沢山倒せば上がるのだろうけど、そんな無駄な時間は勿体ないので、戦闘は必要最小限にして進むことにする。 


 それから一週間が経過したころ、俺達は山岳地帯を通って、岩場だらけの場所に辿り着いた。 

 ここは地面が凸凹過ぎて馬も馬車を引きづらそにしていることから、ここからは全員が馬車から降りて歩いて進んだ。 



「サクセスさん、ここから出現するモンスターが変わります。レベル的に私達の敵になるモンスターはいませんが警戒だけはしておいてください。」 


「わかった、注意すべき敵はいるか?」 


「そうですね。サソリボアの毒には気を付けたほうがいいかもしれません、一応解毒魔法は使えますが、刺されると痛いですからね。」 


 サソリボアか。ようチェックや! 



「サクセス様。それよりも私は、ボマーズロックの方が危険かと。この大陸には合わない位レベルが高いモンスターで、とても危険です。ほとんど見ることはないと聞いていますが、以前この岩場で目撃したとの情報がありましたわ。」 


「ボマーズロック? それはどんなモンスターだ?」 


「こういった岩場に現れる魔物で、見た目は岩ですが目と口があります。攻撃するまでは魔物だとわからないことも多く、誤って攻撃をすると自爆します。これがとにかく危険です。サクセス様くらい強ければ死ぬ事はないかもしれませんが、サクセス様以外が直撃すれば間違いなく死ぬでしょう。」 


 

 えええええ? 

 こんな駆け出しの冒険者しかいないような大陸にそんな危険なモンスターがいるのかよ。 

 やべぇじゃん。 



「ヤバイなそいつ。それで、どうやって見分ければいいんだ?」 


「盗賊がいないと無理ですね。あと、向こうから攻撃してくることはないので、万が一見つけても距離をとれば平気かと。ただ、間違えて攻撃してしまったその時は……。」


「その時は?」 


「猛ダッシュで逃げます! 攻撃しようとは絶対に思わないでください。中途半端な攻撃が一番危険です。どうしても倒すしかないなら、遠距離から強力な呪文を放つか、サクセス様に一撃で倒してもらうしかありません。特にそこの野蛮な女だけは攻撃しないように、厳しく注意しておいてくださると助かります。」


「なによ? 野蛮な女って誰の事よ! 大体アタイがそんなへまするわけないじゃない!」 


「それはどうですかね。うっかり気付かない内に攻撃してしまうのがあなたでしょう? 今回だけは本当に死ぬからやめてくださらないかしら。」 


「ムキーー!! 何よ、少しくらい頭いいからって偉そうに!!」 


 リーチュンはそういうと両手で目の前の岩を叩いてあたり散らす。  



 バン!! 



「あ……。」 



 全員が一斉にその場から離脱した。 

 だが何も起きない。 



「だからあんたは危険ですのよ。その岩はボマーズロックじゃなくてよかったですわ。」 



 イーゼがそういうと全員が胸をなでおろす。 


 びびった! 

 フラグかと思ったぜ……。 

 まぁそうそう簡単に現れるはずもないか……。 



 ゲルルルゥゥゥゥゥ! 


 

 その時、突然ゲロゲロが吠えだした。 

 ゲロゲロの視線の先にはシロマが転んでいる。 

 どうやらシロマはさっきのあれで、急いで離れようとした際に転んだらしい。 

 そして現在真っ青な顔をして目の前の岩を指差している。 



「あ……。あ……。すいません。ボマーズロックです!」



 シロマの前にある丸い岩は微妙に動くと、目と口が開き、不気味な笑みを浮かべた。



「うわぁぁ! こわ! あいつか!? あいつがボマーズロックか!?」 


「サクセス様! 落ち着いて下さい! それとシロマさんは、絶対動いちゃいけませんよ! まだ平気ですわ、攻撃さえしなければ平気ですから! 焦らず、ゆっくりと! 押さない! 駆けない! しゃべらないです!!」 



 そういうイーゼが一番焦っているように見えるが、その声を聞いて俺は逆に冷静になる。 


 大丈夫、まだ大丈夫。 


 そう思った瞬間、何かが目の前を凄い勢いで横切ってシロマの方へ向かった。 



「ゲロゲロ! まずいぞ、あいつは何にもわかってない!」 



 すると、やはり一番最初に動いたのはリーチュンだった。 

 ゲロゲロが動いたのを見て、すぐさまシロマを助けにいく。 



「待っててシロマ! 直ぐに抱きかかえてあげるから! そのままでいて!」 



 リーチュンも焦っている。 

 俺は……俺はどうすればいい? 

 くそ! 


 その時俺は、さっきのイーゼの話を思い出す。 


 俺が一撃で倒せばいい……。

 俺なら死なない。 


 よし、リーチュンがシロマを抱きかかえたら俺が奴を倒す! 


 そして、ゲロゲロは勢いよくボマーズロックに飛びつくと爪で攻撃を開始した。 


 やばい! 

 間に合わないか? 


 俺もすぐさま駆け出す。 

 すると、突然ボマーズロックの笑みが消える。 

 なんかやばい気がする。 

 しかしぎりぎりリーチュンが間に合い、シロマを抱きかかえて退避した。 


 そして、ボマーズロックの体が赤みを帯び始め、オレンジ色に変わっていく。

 

 間に合わないか!? 



「げろげろおおお!! にげてくれえぇぇ!」 



 俺がそう叫んだ瞬間、ボマーズロックの周りが凍る。 

 どうやら、イーゼが氷魔法を放ったようだ。 



「サクセス様! 少しだけ時間を稼げました! お願いします!」 


「ナイスイーゼ!! 後は任せろ!」 



 その隙に俺は、赤くなるのが止まったボマーズロックに接近すると、大振りで銅の剣を叩きつける。 



 ドン!! 



 辺りに凄い衝撃音が響き渡る。 

 一瞬間に合わないで自爆されたかと思ったが爆風はない。 

 見ると、ボマーズロックは真っ二つに砕けて、ボロボロと岩が剥がれ落ちて塵に変わった。 



「はぁ……。焦ったわ。今回はマジで焦った。いや今回もか。ここはやばいな……。」 


「すいません……私がドジなせいで……。」 


 

 シロマは申し訳なさそうに謝るが、イーゼはシロマではなく、リーチュンを睨んでいた。 



「シロマさんではありませんわ。もとはと言えばリーチュンが驚かすから悪いのです。あなた少しは反省しなさい。」 


「アタイはちゃんとシロマを助けたからいいでしょ。これでチャラよ!」 


「そういう事言ってるんじゃないわ! 少しは緊張感を持ちなさいよこの暴れ馬! サクセス様に何かあったらどうするつもりですか!」 


「サクセスなら心配ないわ。だって強いもの。アンタこそ、何かある度にサクセス、サクセスって……仲間はサクセスだけじゃないのよ! あんたこそ、少しは考え直したほうがいいわ!」 



 険悪なムードが辺りに漂う。 

 これがまさにパーティの不和……。 


 全滅する時はこういった時だと聞いたことがある。 


 ここは、俺が止めねば! 



「いいかげんにしろ! 二人ともやめろ! 今回はリーチュン、お前が悪い。シロマを助けたのは感謝する。だけど、そもそも不用意な事をしたのはリーチュンだろ。俺だってこんな事は言いたくはない。だって俺達は全員仲間じゃないか。仲良くしてくれ、頼む!」 



 最初の口調こそ荒かったものの、俺はリーチュンに頭を下げてお願いする。 

 こういう時、怒ればいいってもんじゃない。 

 ただ怒りをぶつければ、更に溝が深まってしまう。 



「それとイーゼ、お前の忠告は正しいし、言ってることは間違っていない。けどな、仲間は俺だけじゃないんだ、パーティを組んだならば全員の安全を第一にしてくれ。当然、そうやって行動してくれているのは知っている。だけど、口でそういうことを言えば仲間からの信頼がなくなるだろ。イーゼも頼むから俺だけを特別にするような言動は控えてほしい。その気持ちは伝わってるし、俺は嬉しく思う。だからこそ、頼む。」 



 俺は、イーゼにも頭を下げる。 

 俺が頭を下げて二人が仲直りするならいくらでも下げるさ。 



「わかったわ、今回はアタイが悪かった。謝るわ、イーゼ。」 


「私の方も言い過ぎましたわ。ごめんなさい。でもやっぱり一番大切なのはサクセス様なのはかわりません。これだけは譲れないですわ。」 


「わかってる。アタイだってサクセスは大事よ。それと同じくらい全員大事だけどね。」 


「そう、あなたはそれでいいわ。まぁ私も、もう少し周りに配慮するつもりですわ。その方が……サクセスが私の事を振り向いてくれそうですし。」 



 ふぅ、何とか無事におさまりそうだ。 

 こんな危険な場所で仲違いとか、やばすぎんだろ。 

 するとシロマが俺に近づいてくる。



「サクセスさん、本当にありがとうございます。私じゃ二人を止められそうもありませんでした。本当にサクセスさんはいい人、いえ、いい男です。」 


「お、おう。なんかそう面と向かって言われると照れるんだが……。まぁこれからも仲良くやってこうよ。せっかく出会った仲間なんだからさ。」 


「はい! そうですね。私もサクセスさんを見習いたいと思います。」 


 こうして俺達は、なんとかパーティ離散の危機を逃れた。 

 違う人間が一緒に行動しているんだ、またこういう事もあるだろう。 

 しかし、何度でも俺達は仲直りしようと思う。 


 それが、仲間の絆だと思うから……。

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