第23話 旅のほこら

 無事リーチュンとイーゼのわだかまりも消えたところで、俺たちは足場の悪い岩場を進んでいく。 

 一部、崖になっているところがあり、慎重に進まなければならなかった俺たちは、周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいった。 



「最初はビビったけど、モンスターも少ないし思ったよりも危険は少なそうだな。」 


「はい、サソリボアやヒールスライムなど、少し強めのモンスターもいましたが、今の私たちからすれば弱いモンスターですからね。」 



 俺の言葉にシロマが返す。 



「アタイはちょっと暇かなぁ、これじゃなまっちゃうからちょっと周り見てきてもいい?」 



 リーチュンは戦闘が少ないせいか、張り合いがなく暇を持て余していた。 



「ダメです。最初に話し合いましたよね? 勝手な行動は謹んでください。」 



 そんなリーチュンを間髪入れずに注意するイーゼ。 

 しかし、以前のようにここで喧嘩とはならない。 

 二人とも口を開く度に喧嘩するのは変わらないが、前よりはソフトになっている。 

 故に、リーチュンはイーゼの言葉に素直に従った。 



「はいはーい、わかってますよーだ。大人しくしてればいいんでしょ。」 



 どうやら二人の関係についての心配は、杞憂に終わったようだ。 

 道中に現れたモンスターは、イノシシクラスの大きさのサソリや、ギャッピーという毒を吐くイモムシ、それからスライムの進化系のヒールスライムであったが、苦戦するはずもなく、俺が戦う前にリーチュンとイーゼのタッグが一網打尽とする。 


 口では言い争っていたが、息はピッタリで、いいコンビネーションだった。 


 素早い動きで的確に急所を狙うリーチュン。 


 相手と仲間の動きを見て、的確に必要な魔法を使うイーゼ。 


 補助魔法で、二人をサポートするシロマ。 


 そして、何もしない俺! 



 何というかヒモだな、うん、これヒモ男だわ。 

 こんな姿を他のパーティに見られたらなんと噂されるかわかったもんじゃない。 



「あそこのパーティ、綺麗な女性にだけ戦わせるクズがいるわ。」 


「うらやましい、夜だけ攻撃してんじゃねぇだろうな」 



 等と言われるのが目に見えてくる。


 だが仕方ないんだ! 


 だって俺が戦うとつまらないから、ピンチになるまで俺には来るなと言うんだ! 


 俺だって戦いたいさ! 

 自慢じゃないが、俺はステータスこそ高いが、戦いの経験は少ないし、動きは素人だ! 


 俺だって、色々と練習したい! 


 そういうわけで俺は、とりあえず暇な時にひたすら素振りやシャドーチャンバラをして一人寂しく訓練をしている。 


 まぁ、そうは言ってみたけどさ、このポジションって案外悪くないんだよね。 

 美女の戦う姿を眺めている俺。 

 大きさの違う果物が風に揺れるのを見るのもまたイトオカシ! 


 まぁ個人的には、お尻の……ゲフン! 

 桃を眺める方が好きですが……。 


 一度リーチュンの細い足が伸びるチャイナ服の隙間から、パンチラをどうにか見れないものか考えた俺は、みんなが戦闘中に、必死で腹筋をしている振りをしながら覗こうとしていた。

 だが、それがシロマにばれてしまったようで白い目で見られてしまう。 


 せっかく積み上げてきた好感度が急降下してしまった。


 逆にイーゼは、そんな俺を見て、嬉しそうに自分から見せてくる。 


 だが断る! 違うんだ! そうじゃない! 

 あいつは全然わかってない! 

 見えちゃダメなんだよ! 

 見えそうで見えないのがイイんだ! 


 そんなことばかり考えている今の俺。 

 何をやってるんだか……。 

 人間暇だと碌な事をしないと聞いたことがあるが、まさに今の俺がそうかもしれない。 


 そうこうして岩場を進み続け、はや5日。 

 やっと目的の旅の祠が見えてきた。 

 パッと見は、なんていうかな、石作りの遺跡って感じである。 



「イーゼ、あれがそうか?」 


「はい、サクセス様。どうやらたどり着いたようです。」 



 目の前の遺跡には、扉などはなく、そのまま中に入れそうだった。 



「なんか普通に入れそうだな。入っても平気か?」 


「はい、中に入ってそのまま真っ直ぐ進むと行き止まりにぶつかります。そこでこの魔法の玉を使うと壁が壊れて先に進めるようになるのです。」 



 そう言って、いつぞやのダンジョンで手に入れた魔法の玉を取り出すイーゼ。 



「へぇ、なんかそれだと誰かが入れば、次の人からは普通に入れそうだな。」 


「いいえ、壊れた壁はしばらくすると元に戻ります。それに、仮に進めたとしてもワープの泉が起動しなければワープはできませんから意味がないですわ。」 



 イーゼから詳しい説明を聞くが、俺にはよく理解できない。



「ワープの泉?」 


「はい、旅の祠には全てワープの泉があり、魔法の玉を動力にして、繋がっている旅のほこらに飛ぶのです。サクセス様は初めてかと思いますが安心して下さい。私がずっと手を握っててあげますわ。」 



 そう言いつつ、イーゼは俺に手を伸ばす。 


 おい、そこは手じゃねぇだろ! 

 どこを握ろうとしているんだ、この変態エルフは! 


 イーゼはどさくさに紛れて、またしても俺のお股をニギニギしようとするが、そうはさせない。 



 パシっ! 



 そんな事をしている場合ではないのだ。 



「触るな、変態。」 



 俺が蔑んだ目でイーゼを睨むと、何故かイーぜの息が荒くなる。 



「イイ、その目でもっと罵ってください!」 



 だめだぁ、相変わらずこいつはダメだ! 

 さっきまでの理知的な姿が嘘のようだ。


 そんなふざけたパーティだが、初の祠という事で緊張感が漂っている。 

 これもまぁ、緊張をほぐすのに丁度いいのかもしれないな。 


 俺たちは、馬車を引っ張りながら旅の祠に入る。 

 祠の入り口はかなり広く、そして当然中も広くなっており、天井も高い。 

 これなら十分に馬車も通れる。 

 そのまま俺達は、しばらく一本道を歩いて行くと、言われていた通り行き止まりになった。 

 聞いていなければ引き返してしまうだろう。 

 そこでイーゼは、魔法の玉を掲げて魔力を玉に注ぎ始めた。



 ドガン! ドガン! ドガン! 



 激しい音をたてながら壁が爆発すると、道ができていった。


 ちょっと予想とは違う。

 魔法の玉が綺麗なので、もう少し神秘的に道が開くかと……。 

 目の前の道は、何重にも壁で塞がれていたようで、どんどん奥に向かって壁が破壊されて行く。 



「すげぇな、魔法の玉。これ攻撃にもつかえんじゃね?」 


「いいえ、この玉は一定の場所でしか発動できませんのでそれは無理ですわ。しかし、私が賢者に転職すれば、これよりもっと凄いのを見せられます。なんなら、サクセス様から白い爆裂魔法を出させることも出来ますわ! いいですか? いいですよね?」 


 イーゼは血走った目で俺に向かってくる。 

 大分溜まっているようだ。

 まぁ俺もだが。 



「アンタこんな時に何言ってんのよ! サクセスもバシっと言ってよ! もう!」 



 いや、俺は白い爆裂魔法が何かを少し考えていただけで、決してやましい気持ちは……。

 

 すみません、あります。 



「そ、そうだべ。TPOをわきまえたまえ。」 



 俺はリーチュンに言われて注意しようとするが、ちょっとテンパって変な言葉になってしまうのであった。

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