第66話 桁違いの力

 俺がボッサンを連れて宿屋に戻ると、食堂から楽しそうな声が聞こえてくる。


「待てぇ~! ちび、走っちゃダメでしょ。」


「ヤダァ、リーチュンこわーい。キャハハ! あぁ! おっちゃんだぁ! おっちゃんもあそぼー!」



 扉を開けると、走り回るちびうさをリーチュンが追いかけていた。

 ちびうさは、ボッサンに気づくとそのままこっちに来る。



「おぉ、おぉ、元気いっぱいだなぁ。ちゃんと飯はくってるかぁ?」



 ボッサンは優しそうな眼差しで、ちびうさの頭を撫でで言った。

 ちびうさも目を閉じて嬉しそうだ。

 やっぱりボッサンがずっとちびうさの面倒を見ていたのだろう。



「うん、毎日沢山食べてる! リーチュンのご飯は美味しくないけど!」


「何ですってぇ! そんなことを言う悪い子にはお仕置きよぉ!」


「やぁだぁ~ きゃははは。」


 リーチュンは、そう言いながらも笑顔でちびうさの頭をわしゃわしゃしている。

 ちびうさも楽しそうだ。

 まるで仲の良い姉妹のように見える。



「楽しそうで安心した。これなら俺は、もういなくても平気だな……。」



 ボッサンはそれを見て、少し寂しそうに呟いた。



「サクセスさん、イーゼさん、おかえりなさい。ボッサンさんを連れてきたということは色々わかったのですね? でも私たちの方はダメでした。リーチュンが色々ちびうさちゃんに聞いてくれたんですけど、全く話してくれなくて、ずっとあの調子なんです。」


 シロマは、俺に近づいてくると申し訳なさそうに話す。


 

「あぁ、こっちは色々わかった。飯を食べたら詳しく話す。隠し通路については心配しなくていい、ボッサンが案内してくれる事になったからな。」


「おう、嬢ちゃん。それは、俺に任せてくれ。それと……色々嘘をついてすまなかった。まぁ嬢ちゃんにはバレていたと思うがな。」


「いえ、確信は持てませんでしたので。話してくれてありがとうございます。立ち話もなんですから、先にみんなでお昼を頂きましょう。」


「そうだな、久しぶりにちびうさと一緒にご飯を食べるか。……これが最後にならないといいがな。」



 ボッサンは最後にフラグのような不吉な事を呟く。

 その後、俺達は全員でテーブルを囲んで楽しい昼食をとった。

 ちびうさは相変わらず元気で明るく、それを見ているボッサンもどこか嬉しそうに見える。



「じゃあ俺達は、これから大事な話をするから、リーチュンとゲロゲロはちびうさを連れて遊んできててくれないか?」



 飯が終わると、俺はリーチュンに頼んだ。



「アタイは?……ううん、なんでもない。わかったわ、じゃあちょっと外で遊んでくるわね。ちびぃ! お外に遊びにいくよぉ!」



 リーチュンは一瞬何か言いたそうにしたが、素直に言う事を聞いてくれた。

 もしかしたら仲間外れにされたか、頼りにされてないと思ってしまったのかもしれない。


 だがそれは違う。

 ちびうさを安心させられるのはリーチュンだけだ。

 だから俺はリーチュンを頼りにして任せている。


 きっと、それがわかって何も言わないのだろう。

 うん、そういう事にしておこう。

 何かあれば、DOGEZAして謝ればいい。



「やったぁ! あのね! あのね! じゃあ外で正義の味方ごっこしよ! リーチュンわるものやくね!」


「えぇ! アタイも正義の味方がいい!」


「だめぇ! あたちは、びちょうじょちぇんしちびうさなの!」



 びしょうじょちぇんしって……。

 母親がきっと教えたんだな。



「もう!しょうがないなぁ。じゃあサクセス、ちょっと行ってくるわね。ほらゲロゲロも行くわよ!」



 げろぉ(待って!)



「あんまり遠くまで行くなよ。俺達も少し話したら外に出るけど、夜には帰ってくるからな。」



 俺がそう言うと、リーチュン達は、走り出したちびうさを追って外に出て行った。

 リーチュン達がいなくなると、状況を知らないシロマに、イーゼがボッサンから聞いた事を説明する。



「そうですか、ヌーの鏡ですか。」



 シロマは、それだけ言うと何かを考え始めた。



「そうすると明日は、三つのパーティに分けたほうがよさそうですね。城に潜入するチーム、ちびうさちゃんと一緒にいるチーム、それと……ボッサンさんを守るチームです。」



 なるほど、三つに分けるか。

 確かにその方が効率的だな。



「いや、俺は一人で大丈夫だ。俺のところに誰かを付けるくらいなら、城に一人でも多く送ってくれ。城の警備は頑丈だ。それに相手はモンスターだ。どう考えてもそっちの方が危険になる。俺の事は自分で何とかする。気持ちだけもらうぜ。」



 シロマの提案に、ボッサンはすぐさま反対した。



「サクセス様、少しよろしいですか?」


「あぁ、どうした? イーゼ。」


「一つ気になる事があります。闘技場のモンスター、つまりちびうさがパパと呼んでいる存在についてです。」



 おぉ!

 そういえばすっかり忘れてた。

 あれはどういう事なんだ? 


 するとボッサンが答えた。



「多分、あれはマモルだ。正確に言うとマモルの怨念の塊だと思う。なぜかちびうさだけは、どれがマモルかわかるようだが、俺にもわからないんだ。」



 ふむふむ、ボッサンにもわからないか……。



「でも死んで魔物になる場合は、腐った死体とかアンデットじゃないのか?」


「すまねぇ、それは俺にもわからねぇ。ただ、これは俺の感だが、赤色のオーブが関係してるんじゃねぇかと思う。」



 ここで赤色のオーブね。

 それもまだ見つかってないな。



「イーゼ、何か知らないか? 赤色のオーブについて。」


「すいません、正直心辺りはあるのですが、能力等についてはわかりません。その赤色のオーブは、レッドオーブだとは思います。神秘の力を秘めていて、全て集めると伝説の竜が現れるオーブの一つですわ。ガンダッタが持っていたのはイエローオーブですので、多分こっちはレッドオーブに間違いないと思いますわ。」



 つまりわからずじまいと言う事か。

 そうなると、やはりちびうさの話が疑問に残るな。



「ちびうさは、パパが城の地下にいるって言ってたよな? でも闘技場でヘルアーマーをパパと言っている……うーん、わからん。」


「はい、ですので、一度行って確かめるしかないかと。可能性の一つとして、城の地下と闘技場が繋がっているという線も考えられます。それならちびうさちゃんが言っている事にも矛盾は少ないかと。ですが、それですと城の地下には、最低でも闘技場に出てくるような魔物がうじゃうじゃいるということですわ。」


「確かにそうだな。準備だけは怠らないようにしておこう。後、間違ってちびうさの父親を殺さないようにしないとな。」


「はい、ヘルアーマーが出てきたら、できるだけ倒さないで無力化するようにしたいと思います。」


「あぁ、まぁ何かわかったら躊躇せずに教えてくれ。」


「わかりました。それでもう一つ、これはあまり言いたくはない事なんですが……。」


「どうしたイーゼ?」


「いえ、あの雌豚……コホン、ミーニャが言っていたカジノの鏡の事です。多分、それを交換した瞬間に敵の目がボッサンに行くと思いますわ。言葉は悪いですが、ボッサンが捕まるまでは、お城の警戒が緩くなるはずです。なので、やはりボッサンに一人はパーティを付けた方がいいと思います。ボッサンが逃げる時間が長ければ長い程、城で事が運びやすくなるのと思うのです。」


「なるほどな。ヌーの鏡が罠というなら、交換するだけなら危険だが、逆を言えば交換する事で裏をつけるって訳だ。それなら、あの時ミーニャが言っていた矛盾に説明がつく。

いずれにせよ命がけには変わらないが。わかった、ボッサンにはシロマをつけよう。いや、シロマとゲロゲロだな。」


「はい。私もそれがベストだと思います。ちびうさちゃんには、リーチュンが付くとして、城にはサクセスさんとイーゼさんの二人で行ってもらいます。イーゼさんなら敵を眠らせる事もできますし、潜入するならば少数の方が逆に安全かもしれません。」



 シロマも俺の意見に賛成のようだ。

 しかし、やはりボッサンは反対した。



「気持ちは嬉しいがダメだ。多少兵士が減るとしても、お城は厳重だ。最大人数で向かってくれねぇか?」


 まぁ、確かに俺みたいな若造と魔法使いだけじゃ心配か。

 こいつは自分が死んででも、王を倒すことが目的だからな。

 仕方ない、あまり見せたくはないが……。



「ボッサン、お前はレベルいくつだ?」


「あ? いきなりなんだってんだ? 俺はこれでも43レベルの武闘家だ。簡単にくたばりはしねぇよ。」


「そうか。じゃあ俺もお前に能力を見せる。これを見てから判断してくれ。」



 俺はそう言うと、自分の冒険者カードをボッサンに見せた。

 すると、ボッサンは目を大きく開いて、プルプル震えだす。



「な、な、なんじゃこりゃ! 嘘だろおい! 信じられねぇ! つええとは思ってたが、これは異常だ! つか聖戦士なんて聞いた事ねぇぞ。」


 ボッサンは、俺の冒険者カードを手に取って見ると大声をあげて驚愕した。

 まぁこれが普通の反応だわな。



 サクセス 聖戦士(魔物つかい)

 レベル31(総1575)

 力   330(+25)

 体力  330(+25)

 素早さ 305

 知力  305

 うん  305

(聖戦士ボーナス 力+25 守+25)

 装備 破邪のつるぎ

    破邪の盾

    破邪の鎧

    破邪のかんむり

    破邪のくつ

 攻撃力   370

 みのまもり 430

 スキル 邪悪を切り裂く力 オートヒール 光の加護 光の波動



 この能力がどのくらい異常かと言うと、通常30レベルの戦士であれば平均は



 力50 体力50

 攻撃力70 みのまもり 100(強い装備有)



 といった感じである。

 つまりは、俺の強さはその4倍以上で、4倍といっても4人いれば同等の強さと言うわけではない。

 同レベル千人位が相手でも負けない強さだ。


 能力値の倍数は10の乗数であり、二倍なら10人、三倍なら100人、四倍なら1000人と同等と言われている。


 ようは、俺一人でボッサンが1000人いるよりも強いという事。

 まぁしかし、これも魔法やスキルの関係もあるため、一概には言えない。

 ただ、そうはいっても4倍は桁違いであることに変わりはなかった。



「どうだ? これを見ても信用できないか?」



 俺はボッサンにドヤ顔で言った。



「いや、これなら……これなら奴をやれる! 神はいた! あぁ、任せるとも! 俺はお前に賭けた! ただ一つ聞いてもいいか? 他のメンバーもこんなに強いのか?」



 ボッサンはこれ以上は驚きたくはないのか、恐る恐る聞いてきた。


 しかし、それにはイーゼが答える。



「いいえ、サクセス様だけですわ。ですが、私たちもレベルは40代後半ですので、そこらへんの冒険者よりは断然強いとは思いますわ。サクセス様と比べたらミジンコ以下ですけれども。」



 自分をミジンコ以下と卑下しながらも恍惚の瞳で俺を見つめるイーゼ。



「なるほどな、どうりでこんないい女ばかりにモテるわけだ。負けたよ。」



 なぜかボッサンが納得した。

 確かに最近の俺はモテている気はする。



 だがしかし!

 あえて言おう!



 【童貞】であると!



「まぁそういう事だ。じゃあみんな異論がないなら、早速隠し通路まで案内してくれ。」


「わかった。それじゃあついてきてくれ。」



 ボッサンはそう言うと席を立ち、俺達を城への隠し通路まで案内するのだった。

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