第65話 ミーニャとマネア

「面白そうな話をしてるわね。私も混ぜてくださらない?」


 俺たちがカフェの端っこのテーブルで話していると、どこから来たのか、突然褐色肌のセクシーな女性が俺の隣の椅子に座って言った。


 その女性は踊り子のような、とてもエロ……いや、魅惑的な服装をしており、紫色の髪には銀色のティアラが光っている。



 うっわ! 

 えっろ!


 ってそうじゃない、不味いだろ部外者は。

 

 俺は、そう思ってその謎の女を見るが、どこかで見たような気がする。

 


 誰だっけ?



 すると突然ボッサンがビックリしたような声で話しかけた。



「あ、あんたは! あの時の占い師! という事は、あの時の言っていた事は、やはりこの事だったんだな。」


 そう言うと、何故かボッサンは一人で納得している。


 占い師?

 そういえば、路地裏であったマネアに似てる気がする。

 フードで素顔は見えなかったが、確かに似ている。


 でもなぁんか違うんだよな……。

 うん、声が違う。


 というか、この声は……?

 そうだ!

 ヌーウだ!


「美少女戦士ヌーウ?」



 俺はうっかり声が漏れた。

 すると、謎の女はニコッと俺に微笑みかけて言った。


「正解よ、ボクゥ。劇場で見ててくれたのを知ってるわ。ずっと私の足ばかり見てた子よね?」



 ギクッ!

 何故バレた?

 いやいや、違う。

 そこじゃない。



「それより、今大事な話をしているんだ。話したいのは山々だが、今はどこかに行ってくれないか?」


「そうですわ、部外者の虫は、早く消えて下さい。」



 イーゼが怖い。

 なるほど、同族嫌悪か。

 確かに話し方も似てるな……。



「あら、そんなにこのボクが取られるのが嫌なの? ふふふ、確かに可愛いわね……。」


 謎の女は俺を見て舌舐めずりをしている。

 すごい魅惑的だが、ちょっと怖い。

 貞操の危機か!?

 でもこんなエロいオネェさんにリードされるのも……。



「いい加減にしなさい! サクセス様は誰にも渡しませんわ!」



 イーゼはそう言うと俺を抱きしめて、俺の顔を胸で挟む。



 こ、これが……

 ぱふぱふなのか!?

 おっふ……

 さ、最高だ。



「ちょ、イーゼ! 離してくれ……なくてもいいかな? いやだめだ。離してくれ。」


「あん、いいんですわよ、無理しなくても……。ああん! もう。仕方ないですわね、続きは帰ってからですわ。」



 俺は、なんとか欲望を振り切ってイーゼを離す。

 それをボッサンは、羨ましそうな目で見ていた。



 続きは……か。

 楽しみだ、って今はそれどころじゃねぇだろ。

 真面目にやれ、俺!



「という事です。お引き取り下さい。」



 俺がそう言うと、予想外な事にそれをボッサンが止めた。



「ちょっと待ってくれ。アンタ、何を知ってるんだ? この間みたいに中途半端な事じゃなくてちゃんと教えてくれ。」



 う~ん、どうやらボッサンはこの女の事を知っているようだ。

 前に何かを言われたのかな?



「いいわよ、でも、前にあなたと話したのは私じゃないわ。姉のマネアよ。私はミーニャ、マネアの妹。姉が何をあなたに言ったかはわからないけど、私から言えるのは、ヌーの鏡だけは交換しちゃダメって事。」



 この間の占い師と姉妹か!

 なるほど、だから似てたのか。

 でもなんでダメなんだ?

 というか、この女どこから話を聞いていたんだよ。



「理由を教えてくれ。いや、教えて下さい。今は何でもいい、情報が欲しいんだ。」



 ボッサンは頭を下げてミーニャに頼んだ。



「仕方ないわね、じゃあ教えるわ。あれは……ヌーの鏡は罠よ。それに本物じゃないわ。あれを買った人は、みんな殺されたわ。そして翌日には、またカジノに置かれるの。」



 ふむふむ、つまりあれは国王の秘密に気づいた奴を誘き寄せる罠であると。

 ヤベェな、この国。



「そ、それは本当か? そこまでして、奴は……。クソ! じゃあ今までの苦労は何だったんだ! クソ!クソ!クソ!」



 ボッサンは悔しさのあまり、周りを気にする事なくテーブルを叩いている。



 ガン! ガン! ガン!



 ボッサンの手には血が滲んでいる。



「やめろボッサン! もうやめろ。お前の気持ちはわかった、俺たちが協力するから。」


「俺の気持ちがわかっただと? 知ったような口を聞くんじゃねぇ! 俺の三十年はそんなに軽いもんじゃねぇんだよ!」



 確かに失言だった。

 こいつはそれこそ、三十年間悔しい思いをしてきたんだ。

 それを昨日今日知ったばかりの俺が慰められるはずもない。


 するとミーニャは、ボッサンの肩に手を乗せて言った。



「あなたは十分頑張ってきたわ。わたしにはわかる。だからいい事を教えてあげる。本物のヌーの鏡の在処よ。」



 その言葉にボッサンは顔を上げた。

 ボッサンの顔は涙と鼻水で顔面ぐちゃぐちゃだった。



「ほ、本当か? 頼む……教えてくれ……俺は、あいつを殺れるなら何でもする。だから頼む……。」



 ボッサンは、必死だった。



「わかったわ、大丈夫よ。だから少し落ち着きなさい。あなたの探し物は、城の地下に眠っているわ。姉からそれを伝えるように言われてここに来たのよ。それと矛盾している話になるけど、カジノでヌーの鏡は交換しなさい。そこの坊やならできるはずだわ。」



 え? 何で?

 いや、それよりも城の地下か。

 いずれにせよ行くつもりだ、迷う事はない。



「ちょっといいかしら、あなたは何を根拠にそんな危険な真似をサクセス様にさせようとしているのかしら? あなたこそ、国王の手先じゃないの?」



 ミーニャの言葉にイーゼが質問する。

 その目は氷のように冷たい目だった。



「まぁ、カジノで女優をしていたのだから疑うのもわかるわ。でも、それには答えられない。私は、そう伝えるように姉に言われただけだから。私にはわからないわ。」


「白々しいわね、それなら姉のマネアさんが言いにくればいいのではないかしら?」



 イーゼは更に追及する。



「姉は今この街にいないから無理ね、勇者のところに向かっているから。私は仕事の関係で少し遅れたけど、私もこれから姉のところに行かなければならないの。だから、信じる信じないはあなた達に任せるわ。それでは頑張って下さいね。」



 ミーニャはそれだけ言うと席を立ち、その場から立ち去っていった。



「サクセス様、あんな女のいう事を聞く必要はないですわ。サクセス様を危険な目に遭わせようとしているだけです。」



 う~ん……。

 イーゼがそう言うなら、間違いない気もするんだが……。

 なんか気になるんだよなぁ。

 嘘ついているようには見えなかったし……。



 俺が黙って考えていると、突然ボッサンが話し始めた。


「なぁ、その役目。俺に任せちゃくれないか? 五万枚ものコインを俺に渡すのは嫌かも知れねぇが、ミーニャは別ににぃちゃんじゃなきゃダメとは言わなかった。だから俺にやらせてくれ! さっきあんだけ酷い事を言っちまってムカつくのはわかるが……頼む! この通りだ。そしてにぃちゃんには本物のヌーの鏡を探して欲しい。」


「いや、怒ってはいない。それよりもミーニャが言ったのが本当なら、お前死ぬかもしれないぞ?」


「構わねえ! 例え俺がくたばっても奴を殺せるなら問題ねぇ! ……ただ、ちびうさの事だけは心配だ。」



 ボッサンは覚悟を決めた目で言った。



「わかった、ならお前に任せる。ちびうさの事は心配するな、俺たちが責任をもって面倒を見るつもりだ。じゃあ後は、隠し通路の場所だけだな。後で教えてくれ。それとやるなら明日だ、こっちも準備が必要なんだ。それでいいか? イーゼ?」


「……わかりましたわ。どの道隠し通路に行くのは決定していた事ですし。サクセス様が狙われないなら、異論はありませんわ。」


「ありがとう、イーゼ。じゃあそろそろみんなも宿屋に戻っているはずだ。俺たちも一旦戻るぞ。ボッサンもついてこい。」


「すまねぇ! すまねぇ! こんな事に巻き込んじまって……。俺にできる事なら何でもする。だから頼む! マモルとヌーウの仇をとってくれ!」



 ボッサンは涙を流しながら言った。


 そして、俺たちはボッサンを連れて、仲間の待つ宿屋に戻るのだった。

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