Episode of Leecyun 7

「ほな、開けるで! わいからの、サプライズプレゼントや!」



 リーチュンの前に立ったマークは、目の前に置かれている大きめの宝箱を開けた。

 すると、中に入っていたのは……



「あぁ! グローブと靴だ! へぇ~、結構恰好いいじゃん。やるぅ~。」


「せやろ! このデザインは500年かけて、わいが……って、ちゃうねん! 見て欲しいのはそこやないで! まぁええわ、とりあえず手に取って確かめてみぃ。」


 マークに言われて、リーチュンは恐る恐る、宝箱の中に手を伸ばす。

 そこから、いきなり宝箱が、モンスターに変わるなんて言う事は、普通なら考えられないのだが、実際ピラミッドでそのトラップはあったのだ。

 

 既にマークが開けているから、大丈夫なはずなのに、リーチュンは、かなり慎重に手を入れていく。



「姉さん、大丈夫やって! どんだけ怖がりやねん! いつもの調子でパパッと、取ってくれはります?」



 それを見て、急かすマーク。

 その姿が、じれったくてしかたなかったのだ。



「わかってるわよ! でも怖いんだから、しょうがないじゃん。ほら! とったわよ!!」



 宝箱に一瞬で手を差し入れると、瞬時に中身の装備をつかみ取るリーチュン。

 正に早業であった。



「はやっ!! ちゅうか、はよ能力みてやぁ。」



 マークは自慢の装備の能力を早く見て欲しいらしい。

 まだ、リーチュンは確認していないにも関わらず、マークの顔は既にドヤ顔だった。



「はいはい、えっと……うっそーー! めっちゃ強いじゃん!!」


「せやろぉ~。ほんま、わいのお気に入りやねん。大事に使ってなぁ!」



【オーラグローブ】 レアリティ2


 攻撃力 120


 スキル 闘神の加護、オーラバトラー、力+50


【オーラブーツ】  レアリティ2


 防御力 35  攻撃力 35


 スキル 龍脚、無属性強化、すばやさ+50



 その装備は完全に、超攻撃特化型の装備であった。

 目をぱちくりさせて、驚いているリーチュンの姿に満足したマークは、次に転職について話し始める。



「ほな、次は転職にしまっか? 準備はええか?」


「ちょっと、もうちょっとじっくり見させてよ! でも、まぁいっか。じゃあ、バシっとやってちょうだい!」



 向かい合う、リーチュンとマーク。

 リーチュンはどうやって、天空職になるのかわからず、それがたまらなく心を躍らせた。

 がしかし……



「いっくでぇーーー、はぁ食いしばってなぁ! ってなんでやねん!」



 バシッ!!



 なぜか、マークは一人ツッコミをしながら、リーチュンの頭をどつく。

 全く、意味不明の行動だった。

 流石に、これにはリーチュンも怒る。



「いったぁ! ちょっとふざけてないで、さっさとやってよ!」


「ふざけてあらへん! 今のが転職の儀式や! 冒険者カードみてみぃや。」



 しかし、そのふざけたやり取りを転職の儀とぬかすマーク。

 当然、そんなものは信じられないリーチュンであったが、一応冒険者カードを見てみた。



 リーチュン 職業 聖龍闘士 レベル1


 ちから  70

 体力   50

 すばやさ 120

 知力   15

 うん   15



「うそ! え? 本当に、今のがそうだったの!? ってか、ステータス下がってるじゃない!」


「そら当然や、よく見てみぃ。レベル1になっとるやろ。」


「あ、ほんとだ! え? じゃあ逆におかしくない、この数値? あまり下がってないわ!」


「それは、さっきまでの姉さんのステータスの半分や。ここで4年も戦ってたんやから、当然、来た時よりも強くなってたんやで。」



 マークの説明に簡単に納得するリーチュン。

 思えば、この世界に来てから、リーチュンは冒険者カードを一度も見ていなかった。

 自分の能力がどうなっていたかなんて、全く気にしてなかったのだ。



「なるほどね! まぁもっと強くなれるならいっか!」


「せや、なれるで! 今よりも圧倒的に強くな。これからはレベルが上がるごとに、今までの3倍、能力が向上すんねん。ただ、必要経験値も三倍やけどな。」



 ここでも、イーゼと同じ説明がされる。

 そこについては、全ての天空職は同一であった。



「すっご! それ、まじやばくない?」


「やばいでぇ、ほんま。でももっとやばいのは、その装備のスキルや。その服のスキルも変わってるから見てみぃ。その後、全部一気に説明したるわ。」


「あ、これね。わかった! まぁ難しい事、言われてもわからないと思うけどね!」


 そう言いながら、リーチュンは自分の服の情報を確認する。


 

【戦姫のチーパオ】


 防御力 70

 

 スキル 闘気、龍気



「ほんとだ! 龍気ってのが増えてる。」


「せや、それはドラゴニックオーラいうねん。格好いいやろ?」


「うんうん! めっちゃ恰好いい。それで、早くスキルについて教えて!」



 新しい装備やら職業で、リーチュンのテンションは爆上がりであった。

 早くスキルの内容を聞きたくて、うずうずしている。



「ほな、まずはその龍気からや。まぁ簡単に言うと、闘気っちゅうんわ、自分の体の中のオーラ使うねん。んで、その龍気ってのは体の外側。つまり、外気と呼ばれるもんや。簡単に言うと、草、虫、土、動物、周りに存在する物すべてから、その生命力を頂くことができるねん。」


「え? でも、そんな事したら、周り全部死んじゃわない?」


「平気や。いただく言うても、微々たるもんやからな。せやけど、数がちゃう。あらゆるものから一斉に受け取るわけなんで、凄い力がでんねん。しかも、闘気と合わせる事もできるんや。わかりやすく言えば、通常の攻撃力の数倍にはなるんちゃうか?」


「やば!! それやっば! もうそれだけで最強じゃん!」


「せや、はんぱないで! んで、他の説明や。オーラバトラーってのは、その闘気や龍気の形を自在に変えれるようなんねん。爪にしてみたり、剣にしてみたりな。打撃無効の敵なんかには最高や。」


「へぇ~、なんか難しそうね。」


「そやなぁ、まぁそれは使って慣れてくれとしか言えへん。後、龍脚っちゅうんわ、短い距離を一瞬で移動できるスキルや。ここぞという時に使うとええ、クールタイムあるさかい、乱発できへん。それを過信せんよう、要注意や! 最後に無属性強化は、そのまんまじゃ。普通に攻撃力上がるって考えればええ。」



「最後って! 闘神の加護は?」



 …………。



 すると、今まで流暢に説明していたマークが黙り込む。



「え? 何? そんなやばいの?」


「いや、ちゃうねん。まぁ、それは内緒や。おまもりみたいに思っててくれればええ。」


「何よそれ! 凄い気になるじゃない!? 教えてよ!!」


「すまへんが、それはでけへん。これはルールなんや。それだけは、教えることがでけへんのや。堪忍な。」



 申し訳なさそうにするマーク。

 その姿を見て、リーチュンはしぶしぶ引き下がった。

 すると、マークが話題を変える。

  


「ほな、転職も終わったさかい、元に世界に帰りはるか? わいが、直ぐに送ったるけぇ。」


「え? それもマークがやるの? ちょっと待ってよ! まだ名残惜しいじゃない! もっと悲しそうにしてよ。」


「いやいや、わいは、それでもかまへんけどな。姉さん、なんか忘れとりゃせんか? ごっつ大事なもんが待っとるんやろ?」



 マークに言われて、やっと思い出す。

 自分が何の為に、この世界に来たのかを。



「あぁぁぁぁーーー! そうだった! スキルや職業に興奮しすぎて忘れてた! でも、あれから4年も経ってるのかぁ……。サクセスは無事かなぁ? アタイ、忘れられてるかも……。」



 さっきまで超ハイテンションだったリーチュンが、急に元気を無くした。

 忘れていた事を思い出して、急に不安になったのである。



「何言うてはるの? そんなん姉さんらしくないで! 安心せぇ、ここでの時間は、元の世界より10倍速く流れとる。だから、実質、姉さんがこっちにきてから5ヵ月弱しか経っとらん。姉さんの世界が、どうなっとるかわからへんけど、そのくらいじゃ、忘れられることも、滅びることもないんちゃうか?」



 マークから語られる衝撃の事実に、リーチュンは今日で一番驚くことになった。

 その顔は、満面の笑みで溢れていた。



「そうなの!? やったーー! じゃあ、アタイ一番じゃん! だって、この試練は早くても半年から1年って言われてたし! アタイが一番乗りだ!」



「うおっ! 急に元気にならんといてや! びっくりしたわ! どうや? はよ戻りたくなってきたやろ。」


「うん……。まぁ……ね。」



 やっとテンションが戻ったと思ったら、また萎れた花のようにシュンとなるリーチュン。

 乙女の心はうつろいやすいのだ。



「どうないしたん? テンション上がったり、下がったり、せわしないやっちゃなぁ~。」


「だって……帰れるのは嬉しいけどさ、やっぱ寂しいじゃん! マークとも、ここでお別れだし……もう会えないかもしれないんだよ?」


「何言うとんのや! さっきから、らしくないでぇ。ズラー達にも会いに行く言うとったさかい、約束守ればいいんちゃうか?」



「え? できるの!?」



「そんなん、わからへん! せやけど、できる、できないは関係あらへんで! それでもやるのが、姉さんやないか。ガッツみせたりや!」



 マークの言葉に、再び闘志が燃え上がる。

 この世界に来てから、絶対に無理だと言われてきたことをたくさん、やり遂げてきた。

 それが今、リーチュンにとってかけがえのない、自信につながっている。



「そうだよね……うん! わかった、じゃあどうにかしてみる! ありがとうマーク! 本当にアンタには感謝してるわ! 4年間、どうもお世話になりました!!」



 ここで、初めてリーチュンはマークに頭を下げて感謝した。

 思えば、最初に会った時から、マークはずっと自分を見守ってくれていた。

 それが役目からなのか、なんなのか、リーチュンにはわからないけど、わかる事が一つある。

 それは、いつだってマークは、本気で自分に接してくれた。

 マークがいたから、自分はここまでこれたとわかっている。



 だから、最後くらいは素直にマークに感謝したのだ。



「ええって、わいが好きでやってんねん。ほな、しんみりした別れは苦手やから、元の世界に送くったるさかい。はよ、行ってきなはれ! わいも……短い間やったけどおもろかったで! ぎょーさん楽しませてもろぉたわ! ほな、元気でなぁ!!」



 マークがそう言うと、光の玉が、リーチュンを包み込む。

 その言葉を受けて、リーチュンの目から涙が溢れ出てきた。


 感謝と悲しみに溢れた一粒の涙が、その頬をつたって、零れ落ちた瞬間ーーその世界からリーチュンは消える。


 こうして、リーチュンの4年に渡る試練は、終わりを告げた。

 

 無事、伝説の装備を手に入れ、天空職への転職を果たしたリーチュンは、こうして元の世界に戻るのだった……。



「ばいばい! マーク! それに、みんな! 元気でね! 絶対またくるからね!!」



 その言葉が、誰かに届くことはない……。

 しかし、リーチュンが関わった全ての者の魂には、きっと届いているだろう。



 リーチュン編 完

 

 

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