Episode of Leecyun 6

 リーチュンは、マークに乗りながら、マップに印をつけた場所に向かって走り出す。

 そして、しばらくするとマークが突然止まった。


「姉さん、確かここらへんやで。ほら、目印にしていたラフレシアサボテンが見えるやろ?」



 二人の前に見えるのは、3メートルはある巨大な花を咲かせたサボテン。

 この花はとても珍しく、貴重であるため、本来ならば採取するところであったが、いい目印になるとのことで、そのままにしておいたのだ。



「あ、ほんとだ! マップも見ずによく来れたわね! 流石マーク!」


「まぁ、この砂漠は、わいの縄張りやからな。ほな、石を出してくんなはれ。」


 マークに言われて、リーチュンは、袋の中から三色の石を取り出す。

 そして、前回と同じ様に、三つの石を上空にかざすと、目の前の砂が渦巻き状に流れ始める。

 やがてそれが止まると、地下に繋がる四角形の扉が、地面に現れた。


「ここまでは前回と同じね。じゃあ、気を付けながら入るわよ。」


 そう言って扉を開けたリーチュンは、早速中に入ろうとするが、マークがそれを止める。


「待ってくんなはれ、姉さん。いつも言っとるやろ? まず最初に入るんは、わいや。その後、付いてきてくんなはれ。姉さんはおっちょこちょいやから、そのままトラップ踏みそうやさかい。」


「ぶぅーー。アタイだって、いつまでも初心者じゃないんだよ! まぁいいわ、じゃあよろしくね。」


「あいよ。んじゃ、安全を確認したら合図するさかい、それまで待っとくれやす。」


 そう言って、先にマークが入ると、しばらくしてからマークの声が聞こえてきた。


「姉さん、平気や。中に入ると暗いから、足元に気を付けて、はしごを下りてくれはれ。」


 マークの声を聞いたリーチュンは、直ぐに扉の中に入り、暗闇の中、はしごを下りていく。

 そのはしごは随分と長く、地中深くまで続いている。

 そして、数分間はしごを下り進めると、地面の方から灯りが見えてきた。


 どうやら、地下の壁には、灯りが設置されているらしい。

 ピラミッドではよくある光景であったので、特に驚くことはない。


「あれ? 道がないわ。あ、でも扉が見えるわね。あそこがスタート地点かしら?」


 通常ピラミッドに入ると、通路の先に扉があり、そこからがピラミッドの開始地点であった。

 しかしここは、今までとは違って通路がない。

 というよりも、かなり広い通路とでも言うのだろうか?


「せや、一応周りの壁を全て確認したけど、トラップ等はあらへん。あの扉に行くしかないで。」


「そうね、考えても仕方ないわね。じゃあ、さっさと行きましょ。レッツゴー!!」



 ピラミッドのスタート地点を前にする、いつもリーチュンのテンションが上がる。

 今回はどんな罠があるか、どんな敵が現れるか、それを考えるとワクワクが止まらないのだ。

 足取りの軽いリーチュンは、あっという間に扉の前まできた。


 そして扉の前に着くと、マークがそれを開け、二人で中に入る。

 リーチュンはその光景に目を疑う。



「うそ……? え? ゴール??」



 扉の先は、さっきよりも広い、円形のフロアになっており、その中央に宝箱が置かれていた。

 目を血眼にして、周りを確認するも、扉と思われるものはない。

 この光景は、今まで目にしてきた、ピラミッドの最上階と同じであった。



「せや、ここがゴールや。そして、最終試験場や。」



 そして、マークは突然そんな言葉を口にした。

 いきなりの事で、まだリーチュンは戸惑っている。



「え? どういうこと? マーク、なんか知ってるの?」



「あぁ、知ってるでぇ。なんて言ったって、わいは、この世界の神やからな。神界では闘神と呼ばれてまっせ。んじゃ、はじめましょか?」



 そういいながら、人型のまま、リーチュンに攻撃をするマーク。

 そのスピードは、今まで見せてきた速度とまるで違う。

 足が仄かに光り輝いていることから、闘気を足に纏っていた。



 ドン!!



 マークの拳がリーチュンを襲う。

 しかし、咄嗟に腕をクロスしたリーチュンは、十字ブロックで耐えた。



「いきなりなにすんのよ! マーク、どうしたの? ちゃんと説明して!!」



「なんや、まだわからんかいな。わいは、簡単に言うと、転職の試験官や。姉さんの今までを近くで見てきて、その精神は合格や。でもな、そのまま合格させられるほど、天空職は甘くなってことさかい。だから、本気でわいを倒しにくるんやな。わいも、本気だしたる!」



 突然の意味不明な説明。

 内容は何となく理解できたが、仲間であったマークを攻撃することは、リーチュンの心が許さない。



「いやよ!! なんでアタイがマークと戦わないといけないのよ! こんなの嫌!」


「問答無用や! そっちがこんなら、わいから、いかせてもらうで!」



 再び襲い掛かってくるマーク。

 今度は、ブレスを先に吐いた上で、それを避けたリーチュンに飛び膝蹴りを食らわした。



 ドガッ!!



「きゃぁぁぁぁ! やったわねぇ! もう、許さないんだから! 覚悟しなさいよマーク!」



 攻撃を食らったリーチュンは、怒りで戦闘モードに切り替わった。

 やはり、リーチュンを相手にするには、言葉ではなく行動だ。

 それを、マークはわかっていたのだ。



「その意気やで姉さん。ほな、ガチでやり合おうやないの!」



 そこから、二人の死闘は続いた。 

 本来の力量であれば、リーチュンが頭二つは抜いていたのだが、今は違う。

 今までのマークは、実力を隠していたのだ。

 本気を出したマークは、闘気全開のリーチュンと五分を張る強さだった。



「やっぱ姉さん、ええセンスしてはりますわ! わいが本気になったのは、何万年ぶりかいな!」


「あんたもやるわね、マーク。最初からその力を使ってれば、もっと早くピラミッド攻略できたのに!」


「何言うてはります。ピラミッドの攻略は、試験者が実力で突破せなあかんですわ。わいは、少しだけサポートするだけさかい。」


「その割には、随分と身を張って助けてくれたわね! 甘いんじゃないの?」


「耳が痛いですわぁ。わい、なんだかんだ言って、あいつらを気に入ってしまったさかい、少しでしゃばりすぎてもうたんですわ。まぁ、それも今日まで。ほな、次で決めまっせ!」


 マークは、両手に闘気を集め始めると、それを前に突き出す。


「これが闘神奥義、ドラゴニックバスターですわ! これを耐えれたら、姉さんの勝ちや! 死なんといてな!」



 マークの腕から、光のドラゴンが放たれた。

 それを十字ブロックで抑え込むリーチュン。



「ぐぅぅぅぅ! アタイは負けない! 絶対にサクセスのところに帰るんだからぁぁぁぁ!!」



 リーチュンもまた、全身の闘気を腕に集め、マークの攻撃を押し返す。 

 最初こそ、マークに押されていたリーチュンであるが、次第に、ドラゴンが押され始めた。



「ちょ! ほんまでっか!? そんなんで防ぐとか聞いてまへんで!!」



「とぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」



 遂にリーチュンはそれを押し返すと、逆流したドラゴンがマークに直撃する。



 ズドーーン!!



 そして、その隙を見逃さずに、リーチュンは追い打ちをかけるために、マークに接近し、倒れたマークの顔面に向けて、拳を振りかざした。



「今回もアタイの勝ちね。じゃあ、マーク。色々説明してもらえる?」


「参りましたわ。ほんま、闘神に勝てるんやったら、転職必要ないんちゃうか? まぁ、これもルールや。説明したりますわ。」


 

 その言葉を聞いて、リーチュンは拳をおさめた。

 今までであれば、その言葉を聞く前に、拳をおさめるリーチュンであったが、ここでの生活で大分変わっている。

 完全に終わるまでは、警戒を解かない。

 そこで油断することが、一番危険であると、この世界で、何度も経験したためだ。


 それを見て、マークは嬉しそうに笑った。

 どうやら、あそこで油断をしていたら、反撃をするつもりだったらしい。

 マークは、そういう細かいところまで、見ていたのだった。



「ねぇ、マーク。アタイが勝ったんだから、もう宝箱開けてもいい? それとも、いつもと同じようにマークが開ける?」



 リーチュンは、今まで宝箱を見つけても、自分で開けた事は無い。

 元の世界でのトラウマが影響しているのもあったが、この世界でも、宝箱というのは、一番メジャーなトラップだった。

 故に、今回もマークに確認する。



「あれは、平気や。なんていったって、わいが用意したもんやからな。罠はないけ、開けていいでっせ。」



 そう言われても、やはり直ぐに開けようとしないリーチュン。

 心の奥に刻まれた恐怖は、そんな簡単には解けなかった。

 でもやはり、一度くらいは自分で開けたいという好奇心もあったことから、さっきは聞いてみたのだ。

 でも、簡単にオッケーが出ると、逆に開けたくなくなる。



「やだ! やっぱ嫌! マークが開けて! 負けたんだから言う事聞きなさいよ!」


「ほんま、どないしてそんなに宝箱には臆病なんや。まぁええわ、わいが開けたるけぇ、隣で見とくんなはれ。」



 二人は戦いを終えると、元の関係に自然と戻る。

 4年という歳月で染みついた習慣や関係は、直ぐに切り替えられるほど軽いものではない。



 そして遂に、リーチュンを目的である、伝説の武器を手に入れる事になるのであった。

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