第8話 軍師の影

 山と森の間の広場。

 そこが今回の作戦における決戦場だ。

 しばらくすると、俺達を追ってきたモンスター達の姿が見えてくる。


「ん? どういうことだ?」


「どうしましたか? サクセス様。」


「いや、今見えているモンスター達は、さっき俺が釣ってきたモンスターと違う。周りから引き寄せられたか?」


 今、俺の目に映っているモンスター達は、主に獣系と呼ばれるモンスター。


  バーンリザード

  フロッグウルフ

  ソードタイガー

  ブラックパンサー


 どれもモンスター闘技場で見た事があるモンスターで、素早さが早いモンスター。

 そしてさっき戦ったモンスター達よりも弱い。


「足の速いモンスターが先に追いついてきたのではないですか?」


 見えている状況からシロマは推察した。

 確かにその通りかもしれない。

 だが、何か引っかかる。


「まぁいいか、あれならイーゼとシロマの魔法で一掃できるだろうしな。」


「ええ! アタイの出番は!?」


「リーチュンはステイだ。敵が近づくまでは待っててくれ。」


「ぶぅーー。」


 戦闘狂のリーチュンは不貞腐れている。

 早く戦いたくてウズウズしていた。

 そうこうしている内に敵が広場中央に到達する。


「射程に入りました。シロマさん、いきますわよ。」


「わかりました。【ギバタイフーン】」


 ブオォォ!!


 広場に集まったモンスター達は、真空の竜巻に襲われて、一斉に切り刻まれる。


「ちょっと! ずるいですわ!【ギガナゾン】」


 ドガン! ドガン! ドガン!


 今度はイーゼの魔法で辺り一帯が大爆発に巻き込まれた。

 今の二発だけで、前方に集まっていたモンスター達が塵になって消える。


「爽快ですわ!」

「楽しいですね! イーゼさん。」


 イーゼとシロマはまとまったモンスター達を一気に殲滅できた事に興奮し始めた。

 普段、敵を倒さないシロマは猶更である。


「油断するなよ、まだドンドン来ているぞ!」


「わかりましたわ。【ゴンベギラ】【ブリザック】」

「あ、ずるいです! イーゼさん! 【ギバタイフーン】」


 二人はまるで競争するかのように、次々と湧いて出てくるモンスターを倒していった。


 しかし、やはりなんかおかしい。

 余裕過ぎるんだ。

 作戦が良かったから、こんなものなのか?

 

 あまりに張り合いのない戦いに、なぜか俺は不安に襲われた。

 敵は断続的にこちらに向かってきているのだが、その数が少し少なく思える。

 まるでこちらの精神力を削るために、数を調整しながら敵を向けているような……。




「はぁはぁ……敵はもう見えませんね。思ったより簡単にいきました。」


「そうですわね。シロマさんは少し休んで下さい。大分精神力が減って見えますわ。」


 イーゼ達は総勢700体程のモンスターを殲滅しきった。

 さっき俺達が倒した数を考えると、当初の目標の500匹を大きく上回る。

 敵は波のように押し寄せてきて、徐々に強くなっている感じがした。

 その為、後半は一撃で倒せないことも増えて、イーゼとシロマは予想以上に魔法を連発してしまう。

 だがそれも遂には終わり、森から出てくるモンスターはもういない。


「二人とも頑張ったな。とりあえず、少し休…… !? みんな散開しろ!!」


 突然、俺達の上空だけが暗くなった。

 俺は2回目だったから、これが何かすぐわかる。


 ギガントスライムだ!


 俺がそういうと、パーティはすぐに反応して、急いでその場から緊急離脱する。

 まさに危機一髪。

 なんと山の上から30匹程のギガントスライム、そしてブスが落下してきたのだった。


 ドスーン! ドスーン! ドスーン!


 結界の場所が岩場ごと潰される。


 今回の結界は


   聖域の巻物


というアイテムで作った結界。


 それは、一時間だけであるが、モンスターからの攻撃を防ぐ結界を張る巻物。

 その結界は、こちらは攻撃ができるが、敵は攻撃できないという優れものである。

 イーゼが、ヒルダームの町で売っていたのを見つけて、買ったレアアイテムだ。


 油断した。

 まさか、巻物の効果がきれたタイミングをピンポイントで狙ってくるとは……。

 やはり、なんかおかしいぞ。

 敵の攻め方も不自然だった。

 

 敵は頭がキレるというレベルではない。

 まるで、歴戦の軍師のがいるような戦い方だ。

 モンスターにこんなことがきるはずがない。


「みんな無事か!?」


「アタイは平気よ! 遂に来たわね、アタイの出番!!」

「私は大丈夫ですが、シロマさんが大分消耗していますわ。」

「まだ、平気です。ですが、少し下がります。」

 ゲロォゲェロ!(僕が守るよ!)


 ゲロゲロは既にベビーウルフに戻っている。


「よし、じゃあ俺とリーチュンで、このでかいスライムたちを相手にするぞ。イーゼとゲロゲロはシロマを守って下がってくれ!」


「ヨッシャアァァ! いくわよぉぉ!」


 俺の掛け声に、リーチュンが素早い動きでスライムたちの間を掻い潜ると、連続で猛攻撃を始める。

 俺もそれに続いて、スライム達を斬り刻んだ。


「シロマさん! 広場の方に逃げますわよ。走れますか?」

「はい、大丈夫です。二人の邪魔にならないところまで行きます。」

 

 ゲルゥゥゥ!


 すると、突然ゲロゲロが低く唸る。

 なんと、いつの間にか森からオークとシャーマンたちが迫ってきていたのだ。

 更に最悪な事に、向かってきている敵は上位種ばかり。


 オークキング オークロード 

 シャーマンキング レジェンドシャーマン


「嘘ですわ! まずいですわね……。あれは強敵ですね。」


「サクセスさん達が倒すまで、逃げましょうイーゼさん。」


「無理ね。相手にシャーマンキングがいるわ。それに、レジェンドまで……。」


 イーゼ達の絶望的状況に、まだサクセス達は気づかない。

 巨大なスライム達に囲まれて、視界を遮られているのだ。


「仕方ありません。私が……やります! シロマさんは、私がダメージを受けたら回復をお願いします。ゲロゲロは、シロマを守って。」


 イーゼはそういうと、単独で強敵たちに向かって歩き始め、グリムダルトの鞭を取り出した。


 ヒュンヒュン!!


「かかってらっしゃい! 豚ども!」


 遂に女王様が戦場に降臨するのだった。

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