第2話 ドワーフの町

 ガタンガタンガタン……


 今、マーダ神殿北西の森の中では、馬車が駆け抜ける音だけが鳴り響いている。

 先の第二次人魔大戦の影響なのか、森の中には動物も虫もほとんどいなくなっており、とても静かだった。


 森の中の生き物達は、モンスターの大移動によって、食いつくされていたのである。

 しかし、そのモンスター達も人族に敗れ、今では元々森に生息していたモンスターすらも消えていた。

 それが原因で、森の中は異様な程に静かであった。


「あぁ……暇だな。まさかこんなに何もいないとはな。スライム一匹いやしないわ。なぁイーゼ、後どのくらいで森を抜けられるかな……って、俺は何を言ってるんだ……。」


 つい、いつものように、仲間に声をかけてしまう俺。

 俺が御者をやっていると、いつもイーゼがちょっかいを出しに来ていた。

 あの時は、色々面倒だと思ったりもしていたが、いざいないとなるとやっぱり寂しいものである。


 その時、突然、俺の胸にしまっている魔石が光った。



 げろぉ!(元気だして!)



「あぁ、心配かけてすまない。俺は元気だよゲロゲロ。だって、お前がいるもんな。」



 俺は、胸にしまった魔石を取り出して撫でると、魔石に話しかける。

 この魔石には、ゲロゲロの魂が入っているのだ。

 魔心という職業に転職した俺は、魔石の中にある魂と会話することができる。



「そういえば、ゲロゲロも俺が御者をしていると、いつも俺の足元にいたな。もう大丈夫だよ、ゲロゲロ。お前がいれば、俺は寂しくはないさ」



 げろろん!(僕もだよ! サクセス!)



 俺はそれだけいうと、もう一度魔石を胸にしまい、馬を走らせる。

 寂しくないとは言ったものの、やっぱり寂しいのが本音だ。

 しかし、ゲロゲロを感じることができるだけ、俺は救われている。



 それから数日すると、やっと森の切れ間が見えてきて、高く聳え立つ山が現れてきた。



「うん。導の光は、山の向こうを指してるな。しかたない、この山を越えるか。」



 俺は、装備している盾についた導で、オーブの在処を確認すると、光は山を貫通してその先を示している。

 山を登るのはあまり好きではないけど、迂回する道もないし、地道に登っていくしかない。

 そして運がいい事に、山には馬車が通れるくらいの道がある。

 どうやら、この山を誰かが整備してくれているみたいだ。

 つまり、この道を進んで行けば山を越えられる。

 そう考えた俺は、迷うことなく、馬車を走らせることにした。


 

 俺は、二日かけて山を登り切り、更に一日かけて山を下る。

 やはり、俺が通っている道は山の向こうに繋がっていたらしい。

 山の道も、森と同じで木や草などの自然は溢れているが、動物は見当たらない。

 たまに、鳥が飛んでいるくらいだった。

 当然モンスターもいないので、戦闘もなく、順調に進んでいた。



「いやぁ、山脈とは言え、こう山ばかりだと飽きるなってなんだあれ?」



 一つ目の山を下り、次の山を見据えると、その山の中腹に不自然な穴が開いているのに気付いた。



「穴? いや、ん? あれは……人!?」



 遠目からではあるが、たまたまその穴から出てくる人が目に入る。

 どうやら、山の中に人の住処があるようだった。



「うーん。よくわからんけど、とりあえず行ってみるか。」



 こんなところに住んでいる人がいたところで、俺には関係はないのだが、何となく気になった。

 とりあえず次の山の中腹まで行ったら、その穴のところまで行くことに決める。


 2つ目の山は、一つ目の山よりも道が整備されているのか、比較的登りやすく、三時間程登る事で中腹に辿り着いた。


 遠くから見えた穴は、近づいて行くと思ったよりも大きく、洞窟のようになっている。

 洞窟の壁にはランプが設置されていて、穴の中は明るかった。

 俺が洞窟に入ってしばらくまっすぐ進んで行くと、道の先に広い空間が見え、そこは何故か外の様に明るい。



「どういうことだ……。ここは一体……?」



 俺が訳の分からない光景に呟くと、突然、前から誰かが近づいてきた。



「おい、お前! ここに何の用だ!!」



 そいつは低身長であるが、がっちりした体格で、髭もじゃの男だった。



「す、すいません。山を越えようとしたら、こんな所に洞窟があったものですから気になって……。」



 突然、声をかけられて驚いた俺であるが、とりあえず正直に話すことにする。

 いきなり襲い掛かってこない辺り、盗賊とかではなさそうだ。



「ふむ、見たところ普通の人間だな。驚かせる気はないんだが、俺達ドワーフはどうも声がでかいようでな。」



 そいつは自分の事をドワーフだと説明する。

 どうやら、ここはドワーフの住処のようだ。



「ドワーフ? ここは、まさかドワーフの洞窟なんですか?」


「違う!! 洞窟じゃない! ここは俺達の町だ! 洞窟と一緒にするな。ここはドワルゴンという名前の立派な町なんだぞ。」



 急に目の前のドワーフが敵意を現わし、怒りだしてしまった。

 どうやら、町への誇りがあるらしく、地雷を踏んだようである。

 ここは誤魔化すしかない。



「すいません! そうですよね、こんな立派な通路があるんだから、洞窟な訳がないですよね。あはは。」


「ふむ、そうだろう? 通路もそうだが、この先からが町だ。俺達の町はいいぞ! うまい酒にうまい飯が沢山あるからな! それで、お前は当然酒くらい持っているよな?」



 酒? 

 酒買ってたかな……?

 あ! 料理酒がある!



「と、当然ですよ! 酒を持ち歩くのは当たり前じゃないですか。後、挨拶が遅れましたが、俺はサクセスと言います。一人旅をしているただの冒険者です。」



 俺がそう言うと、目の前のドワーフは急に眼を輝かせて、機嫌がよくなった。



「おお! そうだよな! 冒険者と言えば酒だ! お前分かってるな!! 俺の名前はペポシだ、よろしくな。」



 どうやら、この男は俺を気に入ってくれたようだ。

 やはり、ドワーフは酒好きという情報は正しかった。

 以前、イーゼからドワーフと会うことがあったら、必ず酒の話題を振るように言われていたのだ。

 イーゼ様様だな。


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


「うむ、気に入った! よし、サクセス。今日は俺の家に泊まれ! 町を案内してやるぞ!」


「え? いいんですか? じゃあ今晩だけお世話になろうかな。ドワーフの町も見てみたいし。」


「おう、ここでは悪ささえしなければ、誰でも歓迎してくれるぞ。気の良い奴らしかいないからな! じゃあとりあえずついて来い。」



 そういうと、ペポシはずんずんと広間に向かって歩き始める。

 俺は再度、馬車に乗ると、ペポシの後ろをゆっくりと付いて行くことにした。



 こうして俺は、ドワーフの町【ドワルゴン】に入って行くのであった。

 




 


 

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