第三部 オーブを求めて

第1話 女神の導き

「これでよしっと。必要な物は揃ったな……後は、ひたすらこの導(しるべ)の光が差す方へ進むだけだ。」



 俺は誰に話しかけるわけでもなく、何となく独り言を呟いていた。

 今までならば、その声に答えくれる仲間達がいたが、今はいない。


 例え傍に誰もいなくても呟いてしまうのは、寂しさを紛らわすためなのだろうか?



 現在俺は、女神から与えられた新たな力?【女神の導】に従ってオーブを探す旅に出る準備をしていた。


 以前なら、俺の仲間であるシロマ、リーチュン、イーゼの三人が、それぞれ分担して、食料品、回復アイテム、野営グッズ等を購入していたのだが、今はそれらの事を一人でやらねばならないのである。


 人数が四人から一人になったのだから、必要な量こそ減りはしたが、必要なアイテムの種類は変わらないため、やはり負担は大きい。


 当初は、冒険者ギルドで臨時のパーティを募集することも考えた。

 しかし、それはすぐに俺の中で却下される。


 今、仲間達は強くなるために、全員一人で頑張って試練を受けているのだ。

 その中で自分だけが甘える等という事は、俺にはできない。

 俺だって、みんなに負けるわけにはいかないし、そんな情けない男にはなりたくはなかった。


 そういう訳もあり、やっとこさ、荷物の全てを馬車に積み込んだところである。


 特に今回は、野営するにあたって、聖域魔法や壁魔法を使う事ができないため、聖水は多めに買い込んだ。

 実際、今の自分にダメージを与えることができるモンスター等はいないかもしれないが、やはり不意打ちは怖い。

 


 油断大敵 

 いのち大事に



 は、俺のモットーだ。


 そんなわけで、泣き言はそこまでにしておいて、俺はマーダ神殿の町から出るべく、馬車を走らせようと馬に鞭をいれるとーー後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。



「おおーい! サクセスくーーん! ちょっと、黙って旅立たないでよ! 寂しいじゃない!」



 俺はその声を聞いて、一度馬車を止めて振り返ると、そこには俺の幼馴染、勇者ビビアンのパーティであるミーニャとマネアがいた。


 ミーニャは、ダイナマイトボディを隠す気がさらさらない、セクシーな服装に身を包んでいる女性で、逆にその姉のマネアは、おとなしめの服装で礼儀正しい淑女である。



「あぁ、すまない。なんか準備が整ったら気持ちが逸っちまって、うっかり挨拶しに行くの忘れてたわ。二人とも、色々面倒をかけてすまなかった。そしてありがとう。」



 俺は馬車から降りて、ミーニャ達に告げると、二人も俺の前まで来た。



「こちらこそありがとね。でも本当に一人で行くの? サクセス君に何かあったほうがビビアンは悲しむわ。やっぱりパーティを募集した方がいいわよ。」


「心配ありがとう。でも、俺は一人で行くって決めたんだ。もしも旅の途中で仲間がどうしても必要になれば、そこで募集するさ。それまでは、一人で頑張りたいんだ。」


「まぁ、サクセス君が決めたのなら仕方ないけど……でも、本当に無理だけはしちゃだめだからね。」



 俺に近づいてきたミーニャは、明るい笑顔を向けて話しかけるも、その声は心配を含んでいる。

 綺麗なおねぇさんにそんなことを言われると、思わずドキッとしてしまうのは、男のサガなのだろうか。



「わかってる。俺も自分の命は大切にするさ。それよりも二人の方こそ大丈夫なのか? ビビアンがいないんだから、戦闘力的にかなり厳しいだろ?」



 元々ミーニャ達のパーティは、勇者ビビアンという突出した戦力があることで成り立っていたパーティだ。

 ビビアンが大魔王に攫われた今、ビビアンの代わりになるような仲間は……いたな。ブライアンか。



「大丈夫、私達もそれなりに戦えるし、ブライアンさんもいるからね。当然ビビアンの代わりにはならないけど、私らも無理をするつもりはないわ。ビビアンを救えるとなったら、無理するかもしれないけどね。」



「無理をする」と堂々と言い放つミーニャの目には決意の意思が見て取れる。

 それだけビビアンの事を大切に思ってくれているのだ。

 ビビアンの幼馴染として、俺もその言葉を嬉しく思う。



「そうだったな。あの魔法戦士がいれば、そこらへんの魔物に後れを取ることはなさそうだな。まぁなんにせよ、お互い気を付けような。」



 俺がミーニャにそう告げると、今度は隣にいたマネアが話し始めた。



「サクセス様、どうか無理をなさらないように気を付けて行ってきてください。私達も、明朝には出発します。一か月後に、またこの町でお互いの状況を報告しましょう。」



 マネアが言っているのは、以前、二人で取り決めたルールだ。

 俺はオーブを探す。

 マネア達は、パーティメンバーであるモンスターになってしまった賢者シャナクを人間に戻すため、この世界にいると思われる天空職の人間に会いにいく。

 

 やる事は違えど、目的は同じ。

 世界を救う前に、まずはビビアンとシャナクを元に戻す。

 魔王となってしまったビビアンを救う術はまだ見つかっていないが、それを見つけるのも俺達の目標だ。

 そして、定期的にお互いの情報を交換することで、その都度やるべきことを確認し合うといった取り決めである。



「あぁ、わかってる。大丈夫、ちゃんと覚えているさ。マネアも色々ありがとうな、来月、お互いがいい報告をできるように祈っているよ。」


「はい、こちらこそサクセス様にはお世話になりました。私も、女神様に旅の無事を祈っております。」



 女神様って……ターニャだよな……。

 あの駄女神に祈りを捧げてもあまり意味はなさそうだが、あえて口にするのはやめておこうか。



 マネアが祈りを捧げているのは、この世界の元聖女ターニャ。


 その昔、勇者トンズラと共に大魔王マーゾと戦い、それを封印するために、命を使って石となり、そして現在はこの世界における転職の女神として崇められている。


 そんな誰もが崇拝する女神様であるが、俺は違う。

 なぜならば、みんなと違い、直接、素の女神様と会話をしたことがあるからだ。


 俺の装備に転生することになった勇者トンズラの魂によって、俺は女神と普通に話せる。

 そして、その女神は、とても女神とは思えないほど、人間っぽい性格というか、正にビビアンみたいな女性だったのだ。


 だが、そんなことを女神信者であるマネアに告げるわけにはいかない。

 


「ありがとな、マネア。それじゃあ二人とも、俺はそろそろ出発するわ。じゃあ、また来月会おう!」



 俺はそれだけ二人に告げると、再び馬車を走らせて、マーダ神殿の町の門をくぐり抜けた。


 女神の導は、マーダ神殿北西を指している。

 つまり、そっちの方角に目的のオーブがあるということだ。


 俺の盾に装着された青い球(女神の導)は、俺が心の中で目的地の方向を尋ねることで、青い光がその方を指し示す。


 最初こそ、これの使い方がわからなくて困ったものであったが、普通に「どこに行けばいいんだよ」って内心で呟いた瞬間、盾の玉(導)が発光して、光が方向を指し示したのだ。

 光は10秒ほどで消えてしまうが、特に回数制限なども無さそうなので、1時間おきに使うことで、目的地までは迷わず着くことができそうである。


 光が指し示した方角の先には、森があり、その先には長く続く大きな山脈、更にそれを越えていくと、【ルーズベルト】という港町がある。


 とりあえず、どこにオーブがあるかまではわからないが、一旦は、その港町に向かうことにするのであった。




 現在のパーティ


 サクセス 聖戦士(魔心) LV45


 攻撃力    510  

 みのまもり  575


 力      470

 体力     470

 すばやさ   445

 知力     445

 うん     445


 総戦力値   2275

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