第3話 ドワカジ協会

 俺は、ペポシの後ろに続いて、町の中(通路から広間)に入って行くと、その光景に目を奪われた。


 そこは、洞窟の中にも関わらず、上を見れば群青の空が広がり、町中には青々強い木々や植物が溢れ、遠くには、なんと湖まで見える。


 とてもここが山の中とは思えなかった。

 正直全く意味が分からない……。



「嘘……だろ? なんだよここ? 山の中だよな……?」


「がははははっ! びっくりしただろ? ここに初めて来る連中は、みんなお前さんと同じような顔をすんだよな! がっはっは!」



 ペポシはしてやったりといった顔で俺が驚く姿を見て、大笑いしている。



「だって……あれ、湖ですよね? というか、なんで空が?」


「あぁ、あれは山から下りてきた湧き水の集まりだ。言うてみれば、でっかい水たまりって感じだな。といっても、あの湧き水は冷たくて、栄養も豊富でうまいぞ! あれで作る酒は最高だぜ。」


「水たまりってレベルではないような……。それよりも、あの空は?」


「あれはな、この山の鉱物で陽光クリスタルっちゅうて、外の光を吸収して反射する珍しい鉱石の集まりだ。外が晴れていればこの町も晴れるし、外が暗くなればここも暗くなる。どういう原理かはわからないが、詳しいことは気にすんな。」



 ふむふむ、つまりこの広間の天井には、そのクリスタルが沢山付いていて、中を照らしているということか。

 すげぇな、本当に外の町と変わらねぇ。



「ところで、この町には冒険者ギルドとかはあるんですかね?」


「ん? あぁ、昔はあったらしいが今はねぇ。ここにあるのは、ドワカジ協会だけだ。そして、俺はそこの最高責任者っちゅうわけだな。」



 ドワカジ協会?

 よくわからないが、このおっさん偉いっぽいな。



「え? ペポシさん、そんなに偉い人だったんですか?」


「さんづけはやめてくれ。ペポシでいい。俺はそういう堅苦しいのは嫌いなんだ。それに責任者といっても、この町に上下関係なんてのは、ほとんどねぇ。みんな好きに鉱石掘って、武器や防具を作って暮らしてるだけだ。俺は、何かトラブルがあった時にまとめるだけにすぎねぇからよ。」



 ふむふむ、流石ドワーフの町。

 確かに至る所に、鍛冶場が見える。

 というか、酒屋と鍛冶屋しかねぇわ。



「ところで、そのドワカジ協会ってのは何ですか?」


「あぁ、そのまんまだ。ドワーフの鍛冶屋協会だ。別に取り仕切ってるわけではねぇけど、ここには無数に鍛冶屋があるからな、誰かが纏めねぇといけなくてできた協会だな。協会といっても、大層な建物なんかはねぇ。普通に俺んちに集まって、話合ったりするだけだ。」


「なるほど。アットホームな協会というわけですね。それじゃあ、今向かっているのは……。」


「そうだ、俺んちだ。つまりはドワカジ協会本部。まぁ、そんなに固くなる事はねぇ。とりあえず、まずは俺んちで一杯やろうや。」


「わかりました。お世話になります。」



 俺達はそのまま、町の中を10分程歩いていくと、目の前に大きな三階建ての鍛冶場が見えてきた。

 ここに来るまで、沢山の鍛冶屋を見てきたが、ここが今までで一番デカい。


 一階は工場になっているのか、10人位の男達が「キーン! カーン!」と高い音を鳴らせながら、槌で武器を叩いている。

 洗濯物が二階に干されているのが見えるので、どうやら二階と三階が居住スペースのようだ。



「サクセス、あれが俺んちだ。どうだ?」


「いや、かなり立派ですね。あそこで鍛冶をしているのは弟子とかですか?」


「あぁ、弟子っていえば弟子だな。だけど、あれは全員俺の息子だ。」



 なんだと??

 どう見ても、ペポシと同じくらいのおっさんにしか見えないんだが……。

 年齢聞くのが失礼かはわからないが、気になるぞ。

 うん、聞いてみるか。


「ペポシさんって今いくつなんですか?」


「お? 俺は今年で98歳だな。ドワーフはエルフと同じで長寿なんでな、人族でいうところの30代か40代ってところだな。」


「まもなく100歳ですか。それだけ生きていれば、お子さんも沢山いますよね。」



「あぁ……まぁ、な。それよりも、さっさと家に入って酒飲もうや! 今夜は宴会だ!」



 なぜか子供の事を聞いた時、一瞬、ペポシは悲しそうな顔した。

 

 ドワーフに子供の事を聞くのはまずいのだろうか?

 とりあえず折角歓迎してくれているんだから、余計な詮索はしないように気を付けるかな。

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