第5話 ビビアンの涙
アタシは現在、寂れた町に来ている。
あの後、森をくまなく探してみたけど、やっぱりサクセスはいなかったわ。
シャナクは、生きていればこのテーゼという町に来ているはずと言っていたから、とりあえず来てみることにしたの。
でも、「生きていれば」なんてふざけた事を言うもんだから、一発殴ってやったわ!
サクセスは生きてる!
絶対生きてる!
アタシにはわかる!
アタシは早速ギルドに行くと、受付の親父からサクセスの情報を聞いたの。
それなのに、そのオッサンはアタシの話を聞こうともしないで、一方的に話してきたわ。
アリエヘンで、勇者様のパーティを募集しているから、早く戻ってきて欲しい。
ですって。
みんなして勇者、勇者って、本当になんなの?
そんな事よりアタシの質問に答えなさいよ!
アタシはムカついて、親父の首元に剣を突きつけてやったわ!
そしたら、色々白状してくれた。
本当かどうか疑わしいけど、サクセスはかなり強くなってるらしい。
ダンジョンのボスモンスターを倒したとか……。
あの弱いサクセスがそんなはずは無いから、多分たまたま強いパーティに入ったのね。
だとしたら荷物持ちや雑用をやらされて、酷い目に遭ってると思うの。
だから、早くサクセスを助けてあげたい。
どうやらサクセスは、マーダ神殿に向かってるようだから、私も早速そこに行こうと思うわ。
「ねぇ、シャナク。どうすれば一番早くマーダ神殿に行けるかしら?」
「そうですね。ここから北西側にノルニーアという港町があります。そこから船に乗って20日もすれば、マーダ神殿の北側の町に着くでしょう。」
「えっ?」
アタシは20日と聞いて、その長さに驚きの声をあげた。
しかし、話にはまだ続きがある。
「更に、そこから馬車に乗って10日でマーダ神殿に到着するかと。ですから、急いでも一ヶ月はかかりますね。」
「一ヶ月……。また一ヶ月待たないといけないの!?」
シャナクの言葉に、アタシは発狂しそうになった。
その様子を見たシャナクは、咄嗟にガードを固めたが、どういう事か拳は飛んでこない。
不思議に思い目を開けると……
そこにはさっきまでの怖い勇者ではなく、とてもか弱そうな少女がいた。
「ゆ、勇者……様?」
ビビアンは泣いていた……。
それに戸惑うシャナク。
「シャナク……本当にそれが一番早いのね? そこまでいけば……絶対会えるのね?」
ビビアンは懇願するような目で、泣きながらシャナクに尋ねた。
その返答にシャナクは悩む。
普通に考えて世の中に絶対はない。
それに、この広い世界で人を一人見つけるというのは、決して簡単なことではなかった。
しかしこの目の前にいる、儚くも悲しみに溢れた少女の前で、そんな事は言えるはずもないだろう。
故にシャナクは拳を握りしめ、力強く言った。
「会えます! 必ず会えます! 私が必ずや見つけてみせましょう!」
ビビアンがこれまで怖く見えていたのは、サクセスを思って焦っていたせいだった。
愛する人を探しても探しても見つからない。
その辛さは、胸が張り裂けるくらいの苦しみをビビアンに与え続けていた。
それに気づいたシャナクは、誓う。
この少女の為に、全力で力になろうと。
そして、シャナクの答えを聞いたビビアンは
……泣きながら笑った。
「絶対だよ、シャナク」
その笑顔は眩しいほど光に溢れており、
ーーそして美しかった。
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