第6話 魔界四天王

 ビビアン達は、サクセスが向かったと思われるマーダ神殿に行くため、馬車に乗ってノルニーアという港町に向かっていた。


 道中の雑魚モンスターは、馬車に全く近寄って来なかったので難なく進めていたが、突然そいつらが空から現れる。



「見つけたぞ! 勇者! まだ光が弱い内に、私自らが殺しに来てやったぞ!」



 そいつは、神官のような服を着た半魚人だった。


 更に、その後ろには、



 一つ目の巨人


 紫色した猿みたいな魔物


 悪魔のような翼を生やした化け物



の三匹が現れる。


 

 そいつらは、普通の魔物と雰囲気が全く異なる。



 それもそのはず、今ビビアン達の前に現れた魔物は、その全てが伝説クラスの魔物と呼ばれる最凶のモンスターだった。



 ビビアンはそいつらを目にしても、特に動じた様子はない。


 知識の無いビビアンからすれば、喋る事ができる魔物としか認知出来なかったからである。



 しかし、シャナクは違った。



 目の前の光景に目を疑い、全身の穴という穴から体液が吹き出している。



 シャナクは知っていた。



 目の前の敵がどれだけ恐ろしい魔物であるかを……。


 最初に話しかけて来たのは


 【魔王バーゲン】


 この魔物は、古の魔王として君臨した最強最悪な魔王であり、当時勇者ですら倒す事が出来ず、命をかけて封印した相手だ。


 次に一つ目の巨人


 【アトラクプス】


 サイクロプス族の王であり、その暴虐な力で滅んだ国は数えきれない。


 紫色をした猿は


 【パズル】


 氷の国を支配したと呼ばれる古の化け物。


 見ただけで相手を凍らせることができる他、その爪は、全てを切り裂くと恐れられていた。


 そして最後に


 【シリアル】


 こいつはデカい図体のくせに、様々な凶悪なブレスや最強の魔法を連発してくる魔界のプリンスと呼ばれる魔物。



 勝てるはずがない。


 何故だ! 何故今なんだ!


 まだ勇者様のレベルも低ければ、仲間もいない。


 とにかく逃げねば……いや、せめて勇者様だけでも逃さねばならぬ!



 シャナクは焦りながらも頭をフル回転させた。



「ビビアン様! 私が時間を稼ぎます! 今すぐ走って逃げて下さい!」


「なによ? なんで逃げなきゃならないのよ!」


「いいから逃げてください! 私が一秒でも時間を稼ぎます! とにかくどこでもいいから、強い結界のある場所へ!」



 シャナクは必死にビビアンを説得する。


 しかし、目の前の化け物はその隙を見逃すはずも無かった。



「ふはははは! 逃げられるはずがなかろう。大魔王様より、ここで勇者を必ず殺すように命じられ、我ら魔界四天王全員が集まったのだぞ!」



 バーゲンはそう言うと、口から激しい炎を吐き出した。


 その勢いは凄まじく、辺り一面が一瞬で火の海となる。


 これでビビアン達の逃げ場は塞がられてしまった。



「かくなる上は……【ミガッテ】を使って隙を作るしかないか……。」



 シャナクは、既に戦闘を諦めている。


 今考えているのは、どうやってビビアンを生き残らせるかだけ。


【ミガッテ】とは、己の全ての生命力を魔力に変えて、自爆する最低最強の呪文。


 普通の魔法では、目の前の敵に大したダメージは与えられないだろう。


 しかし、この魔法ならば倒せるとは言わないが、かなりのダメージを与えられるはず。


 そしてその隙があれば、勇者様は逃げられるはずだ。



 そう考えたシャナクは、覚悟を決める。



「ビビアン様、約束を守れなくて申し訳ございません。ですが、この命にかけて、少しでも時間を稼ぎます。どうにか逃げ延びてください!」 



「いきなりどうしたのよ、シャナク?」


 

 突然のシャナクの言葉に困惑するビビアン。

 しかし、シャナクは止まらない。



「生きていれば……生きてさえいれば、必ず会えるはずです! 短い間でしたが、勇者様に会う事ができて……この、シャナク! 幸せでした!」



 シャナクは燃え盛る炎の間を、魔物達に向かってゆっくりと歩いて行く。


 死を覚悟したその顔は、歴戦の勇者のように勇ましかった。



「お前達を勇者様には一歩も近づけさせぬ! 喰らえ! 我が生涯、最後にして最強の魔法! ミガ……ぐはぁぁぁぁぁ!」



 シャナクは呪文を唱え終える直前に、アトラクプスの棍棒に薙ぎ払われて吹き飛ばされてしまった。



「オマエ、ウルサイ、ハナシナガイ」



 吹っ飛ばされたシャナクは、手足が変な方向に曲がり、一撃で意識を失う。



 それは、あまりにも強力な一撃だった。



 だが、それを見てもビビアンは動じない。


 むしろ、違うところにムカついている。



「ちょっとアンタ! 敵の言葉はちゃんと最後まで聞くものよ!」


「オデ シラナイ オマエ シネ」


「アンタも何言ってるかわからないわね! まぁいいわ。シャナクの仇は私がとる!」



 ビビアンはそう叫ぶと、伝説の魔物に向かって走り出した。



「ふふふ、面白い。普通は、我ら一人に対してオマエらが複数なんだがな! だが手加減はせぬぞ! おい、オマエら! 一斉にあの勇者を殺すぞ! 塵も残すな!」



 バーゲンがそう叫ぶと、敵は一斉に攻撃を始める。



 最初に動いたのは、この中で一番素早さの早いパズル。


 その口からは、絶対零度の息が吐き出される。


 周囲に吹き荒れる白く輝く息。


 その息を一度浴びれば、生きとし生けるものはたちまち凍りつき、その命をも凍らせる……はずだった。



「何故だ!? 何故凍らぬ?」



 パズルの放ったブレスは、ビビアンの前で霧散する。



 それは、ビビアンが装備する【伝説の盾】が、全てのブレスを無効化していたからだった。



 故にビビアン相手には、そのブレスは全く意味をなさない。



「ちょっと! 汚い息吹きかけないでよ!」



 ビビアンは吹きかけられた息を気持ち悪そうに振り払うと、驚き戸惑うパズルを上段袈裟斬りで一刀両断した。



 次に動いたのは、魔王バーゲンだ。


 バーゲンは遠距離からの闇魔法を得意とするため、最初から最強の魔法を放つ。



【ドルマゲドン】



 それはあらゆる物体をチリも残さず無に還す、魔法抵抗を無視した最凶の魔法。



ーーしかし、


 

 無に還ったのは、バーゲンの方だった。



「な、なんだとぉーーーー!」



 その言葉を残して、バーゲンはチリも残さず消滅する。


 何故ならば、ビビアンの装備【七光のドレス】は、全ての魔法を反射するスキル


【攻撃魔法全反射】


がついていたからだ。 


 その結果、最凶最悪の呪文は、ビビアンに到達した瞬間、自分に返ってきてしまう。



 本来ならば、この四匹の中でも頭一つ抜けた強さをもっており、普通の攻撃も魔法も効かない魔王。



ーーだが……闇魔法だけは違ったのだ。



 防御不能の闇の魔法こそが、魔王バーゲンにとって唯一の弱点であった事を、バーゲンは最後に自分の死をもって知ることとなる。



「あれ? 何か今一匹消えなかったかしら? まぁいいわ。」



 哀れ魔王バーゲン。

 その死は、倒した勇者にすら気付かれない。



 そして、次の犠牲者は魔界のプリンス


 シリアル


 この魔物は、

  

  爆発系最強魔法

  炎系最強魔法

  風系最強魔法


の三つを同時に放つ事ができる凶悪な魔物だ。


 しかしこれもバーゲンと同じく、その魔法は全て反射されてしまう。


 そしてシリアルの場合、ある意味バーゲンよりも最悪な死となった。



 シリアルは全身が大爆発した後、更に極大の炎に包まれ、最後には激しい真空の竜巻により全身が切り刻まれて絶命する。


 一瞬で死んだバーゲンと違い、様々な痛みが襲いかかった分、その死は壮絶といえるだろう。



 しかし、それを横目で見たビビアンは、



「あいつ何やってんのかしら? まぁいいわ。自滅なんてみっともないわね。弱いくせに無理するからよ。」


 

 と呆れた表情で呟く。



 結局三匹もの伝説の魔物は、ビビアンにダメージすら与える事出来ず、一瞬で魔石に変わってしまった。



「オメ ナニシタ オメ オメ オメ」



 残された一つ目の巨人アトラクプスは、あまりの惨劇に上手く言葉を発せられない。


 故に、ひたすら「オメ!」を連呼している。



「アンタねー! 仲間が死んでるのにオメオメ褒めてんじゃないわよ!」



 ビビアンは、大王者の剣を何度も振り回した。


 するとアトラクプスは、ビビアンから発せられた真空の竜巻に包まれ、ジワジワとダメージを受ける……がしかし、このくらいでは倒れない。


 

 巨人族の王は伊達ではなかった。



「オマ タオス オマ チョ オマ」



 アトラクプスの言語がおかしい。


 一人でつっこんでいるようにすら聞こえるその言葉も、奴の焦りの現れ。


 しかし、流石は伝説の魔物。


 アトラクプスは竜巻に巻き付けられながらも、圧倒的な力で棍棒を振るった。



 風圧を纏ったなぎ払いは、激しい轟音を響かせながらビビアンに直撃したかのように見えたが、そこにビビアンはいない。


 その時既に、ビビアンは上空に飛んでいた。


 そして落下と同時に、アトラクプスの右手を切り落とす。


 アトラクプスの腕から大量の血がほとばしると、巨大な棍棒が地面に落ちた。



「ガァぁぁぁ!」


 

 アトラクプスは、久しぶりに味わった強い痛みに吠える!



「なかなかしぶといわね、こうなったら奥の手よ!」



 一撃で倒せなかったビビアンは、幼少の頃に勇者ごっこで編み出した必殺技の体勢をとった。


 その時はまだ勇者に覚醒しておらず、ただの剣の横なぎであったが、今は違う。



 ビビアンの剣先に勇者の光が集約する。



「トドメよ! ビビストラッシュ!」



 ビビアンの斬撃により発生した青い光の刃は、アトラクプスの上半身と下半身を真っ二つに分断した。



「オ オ オデ オメメ」



 そして、アトラクプスは訳の分からない言葉を残して魔石に変わる。



「何よ、シャナク。随分ビビってたけど、雑魚じゃないの! あ、そうだ。シャナク! 生きてる? シャナク!」



 ビビアンは、瀕死のシャナクを思い出す。


 シャナクは既に虫の息だが、まだ生きていた。



「シャナク、今助けるわ! 【ハイヒール】」



 ビビアンは、今使える最大の回復魔法を使うと、シャナクの体はゆっくりと回復していくが、まだ瀕死には変わらない。

 


 しかし、何とか意識だけは戻り始める。



「ビ、ビビアンさま……ご無事で……」


「喋らないでシャナク! 口が臭いわ!」


 

 顔を近づけ過ぎたビビアンは徐に鼻をつまんだ。


 野営続きだったシャナクの口臭は、僅かながらもビビアンにダメージを与える。


 これはある意味で、伝説の魔物達にすら出来なかった偉業とも言えた。


 そんな感動的ではないワンシーンに、シャナクは泣きそうになったが、突然頭をビビアンに撫でられて驚く。


 

「あなた弱いのね……。もうゆっくり休みなさい。よく頑張りました。」


「勇者様……。」



 優しくそう言い放つビビアンの顔は、まるで聖母のような優しい笑みを浮かべている。


 その表情を見て、母親の愛に包まれたかのように感じたシャナクは、再び目を閉じた。



 そしてビビアンは、シャナクが眠ったのを見て馬車に運び入れると、そのままノルニーアに向かうのだった。



ビビアン 勇者 レベル14→32

シャナク 賢者 レベル31→31

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