第7話 シャナクの戦い

 魔界四天王との闘いの後、しばらくするとシャナクは馬車の中で目覚めた。


 記憶は鮮明に残っている。


 どうやってビビアンが魔界四天王を倒したのかわからないが、最後の記憶は、ビビアンの優しい微笑みで終わっていた。


 つまり、ビビアンは無事という事だ。


 そしてシャナクは、誰もいない馬車の中で起き上がると現状の確認を始める。


 自分が寝ているのに、馬車が動いているということは、馬車を動かしているのは当然ビビアンであると気づいた。


 従者である自分がいつまでもこんなところで寝ているわけにはいかない。



 そう思ったシャナクは、まだダルい体に鞭を打って立ち上がった。



「勇者様、大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした! そして勇者様が無事であることを心より喜び申し上げます。」


 シャナクは馬車から飛び降りると、馬をゆっくり走らせているビビアンに謝辞を述べる。


 そして馬を走らせるビビアンをよく観察した。


 ビビアンに怪我は見られない。


 本当に勇者様は、あの伝説級のモンスター達を一人で討伐したようだ……。



 その事実に、シャナクは驚愕が胸を覆う。



 とはいえ、シャナクは気絶していた為、その後の戦闘は見ていない。


 しかし、それでもビビアンが敵を倒した事を確信している。



 なぜならば、自分が知るどんな方法をもってしても、あの状況で逃げれるはずがないからだ。



 であれば、もはや倒す以外生き残る術はない。



 そして今、自分も勇者様も無事という事は、単独で討伐したという事に他ならないだろう。



 シャナクは、改めて今代の勇者様の強さが規格外であることを思い知った。



 ーーこの勇者様ならば、必ず大魔王を倒せる。



 シャナクはそう確信すると同時に、尊敬の念を抱いた。



「あら、シャナク。目が覚めたのね。怪我はもういいの?」



 そんな眼差しを一身に受けたビビアンは、やっとシャナクが起きてきた事に気づいた。



「はい、勇者様のお蔭で傷は回復しました。これからは、従者である私が御者を代わらせていただきます。」


「あら、そう? なら、お願いするわ。」


「はい。喜んで。ところで、もしよろしければ、あの伝説の魔物をどのようにして倒したか教えてもらえませんか?」


 

 シャナクは知りたかった。



 あれだけの魔物を相手に、どうやって勇者様が戦ったのかを。


 しかし返ってきた答えは、なんとも大雑把なものだった。



「伝説? そんな大した奴らじゃなかったわ。適当に剣で切り裂いただけよ。」


「そ、そんなまさか! 少なくとも魔王バーゲンは剣だけで倒せるような相手では……。しかし、今私が生きているのが現実であれば、その通りなのでしょう。」



 あれだけの敵を前にして、大した事ないと述べる勇者様。


 まるで、道端に転がる石を蹴り飛ばしたが如くの物言いに、シャナクは畏怖すら覚える。


 とはいえ、実際ビビアンにしてみれば、本当にその程度にしか感じていなかったのだから恐ろしい。



「恐れ入りました勇者様、このシャナク、命ある限り勇者様に尽くす事を改めてここに誓います。」



 シャナクは仰々しく頭を下げた。



 しかし、それを見たビビアンは、あからさまに嫌な顔をする。



「嫌よ、むさ苦しいから尽くさなくていいわ。それにサクセスを見つけたら、もう近づいてこないでね。」



 勇者からいきなり放たれる、拒絶の波動。



 ビビアンの口撃!


 シャナクの心は128ポイントのダメージをうけた!



「グハ! 困ります! お願いします! 傍に……せめて大魔王を倒すまでは傍においてください!」



 必死に食い下がるシャナク。



「まぁ、それは考えておくわ。それよりシャナク、アタシに嘘をついたわね。」


「……嘘ですと? はて?」



 シャナクには、何のことかさっぱりわからない。



「とぼけないで! 一ヵ月でサクセスと会えると言ったわよね?」



 ビビアンはシャナクが気絶している間、暇だった為、今後の予定について復習していた。


 

 シャナクが説明したのは、ノアニールから次の大陸まで20日、そしてそこからマーダ神殿までは10日という事。


 確かに二つ合わせて30日なのだから、一ヵ月で間違いない。


 それなので、当然テーゼからノアニールまで一日で着くものだと思ってた。



 しかしシャナクが眠っている間、ビビアンが馬車を走らせなければならなく、その時初めて地図を確認したのだが……



「……嘘、何よこれ!?」



 それを見てビビアンは固まる。



 地図を見る限り、テーゼからノアニールまでは、どう見てもテーゼからアリエヘンよりも遠い。


 つまり1ヶ月というのは、あの日からではなく、ノアニールに到着してからという事。


 ただでさえ、1ヶ月という途方もなく長い月日に絶望していたのに、今になってそれ以上に日数が掛かると知り、怒りが沸々と込み上げてきた。



 そこで初めてシャナクは気づく。

 己の過ちに……。



 し、しまった!

 あの時は勢いで、ノアニールからの日数をお伝えしてしまった!


 こ、これはまずいですぞ……。



 焦ったシャナクは、何と返せば良いか分からず、濁した答えを口にする。



「は! いえ、会えるとまでは……」



 しかし、これが逆にビビアンの地雷を踏む事になった。



「なぁにぃ~?」



【シャナク画面】



 目の前に般若の面を被ったモンスター(ビビアン)が現れた。


  たたかう(反論)

  じゅもん(言い訳)

  ぼうぎょ(謝罪)

 ▶にげる

  どうぐ


 シャナクは 逃げ出した。

 しかし まわりこまれてしまった!


 ビビアン は ぶきみにほほえんでいる。



【ビビアン画面】



 ビビアンの こうげき!

 シャナクに 150の ダメージ!!

 ビビアンは、シャナクをたおした。

 


(顔面ボコボコ……。)



 なんとシャナクは たちあがり

 ゆるしてほしそうに こちらをみている。

 ゆるしますか?  はい  ▶いいえ




「ま、まことに申し訳ございません! もう二度と誤った事を口にせぬ事を誓いますので、ひらに! ひらに!」


 その後、シャナクは数時間に渡る防御(謝罪)を繰り返す事で、なんとかビビアンは許してくれた。



「で、実際には後何日かかるのよ?」


「そうですね、ノアニールまではテーゼから10日くらいですので、それから港で船が出る時間を……。」


「そんな事を聞いてないわ! いつ! あたしは! サクセスに! 会えるの!? って聞いてるの!」



 以前シャナクは、強い意思をもって必ずサクセスに会わせると誓い、それを言葉にした。


 しかしある程度予想はできるものの、今現在どこにいるのかもわからない人物と、いつ会えるかなどわかるはずもない。


 そして、それを言って納得する勇者ではなかった。



 禿げてしまうのでは? 


 

 と思う程、頭を悩ますシャナク。


 しかし、ふとある事を思い出した。


 これにかけるしかない!



「勇者様、いつ会えるかまでお約束をする事ができない私をお許しください。ただ! ノアニールには、有名な占い師がいると聞いております。その者に会えば、勇者様の素敵な恋人も見つかるでしょう。」



 シャナクは学んだ。


 賢者の知恵を最大限に活用する。


 ここで重要なのは、占い師という言葉ではない。



 【勇者様の】

 【素敵な恋人】



 であった。



「え? 恋人って、あんた……。まぁそうよ、サクセスは素敵よ。なんといってもあたしの恋人だからね!」



 今の言葉で、一瞬にしてビビアンの表情が般若から恋する乙女に変わる。



 どりゃっしゃーー!



 シャナクは年甲斐もなく、心の中で叫んでいた。


 しかし、明らかに雰囲気の変わったビビアンに歓喜するシャナクであるが、続くビビアンの言葉で背筋が凍ることとなる。



「わかったわ、じゃあノアニールに着いたら、すぐにその占い師を見つけるわよ。そしたら、そいつがサクセスを見つけるまで拉致するわ。わかった!?」



 ここにきて勇者様からの犯罪予告。



 これには、なんと答えていっていいかわからないシャナクであるが、もちろん答えは決まっている。



「はい! 勇者様!」



 清々しい程、満面の笑みで答えるシャナクであった。



 シャナク(精神) 残りHP5

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