第4話 サクセスはどこ?

「サクセス! サクセス! 今助けに行くからね!!」



 そう叫びながら草原を駆け抜けるは、勇者ビビアン。



「邪魔よ!!」



 彼女が剣を振る度に、草原の地形が変化していく。


 彼女の持つ剣は、伝説の勇者装備


   【大王者の剣】


 その剣は、一振りする毎に竜巻を起こし、地形ごと付近のモンスターを一掃していった。


 草木はなぎ倒され、土は舞い上がり、敵は瞬く間に塵となる。


 モンスターにとって彼女は、正に歩く天災。


 そして、その後ろを馬で追いかける賢者シャナク。



「今代の勇者は化け物か!!」



 シャナクは必死に馬へ鞭を入れる。



 それでも、ただ走っているだけのビビアンに付いて行くのが精一杯だった。



 しかし如何に勇者とて、飯も食わず、水も飲まず進めば限界が来るだろう。


 そう考えていたものの、いつまで経ってもビビアンの速度は落ちない。



「このまま行けば、間違いなく森が消える……。」



 焦るシャナク


 焦るビビアン。



 二人は違う意味で焦燥に駆られていた。




 そのままビビアンは森に入ると、そこで急に停止する。


 そして、なにやら周囲をクンクンし始めた。


 その姿は、


 さながら獲物の匂いを嗅ぐ野獣そのもの。



 そこに何とか追いつくシャナク。


 ビビアンはシャナクに気づくと、血走った目で睨みつけた。



「シャナク! 遅いじゃない! サクセスに何かあったらどう責任をとるつもりよ!」



 いつの間にか、


  シャナクさん


ではなく


  シャナク


と呼んでいるビビアン。


 しかし、シャナクは何も言わない。


 それよりも、いつになったらその探し人が見つかるかで、頭は一杯だ。


 もはやこの勇者を止められる者は、サクセスとかいう奴以外は考えられない。


 できるなら今すぐ現れて欲しいものだ。


 とはいえ、この森は深い。

 簡単に見つけることはできないだろう。



 そう思ったシャナクは、ビビアンに助言した。



「勇者様、闇雲に探しても見つからないと思います。ここは一度野営をし、明るくなったら再度捜索が良いかと。」



 もう既に辺りは真っ暗だ。 



 ここに来るまでに日は落ちており、更に森の暗闇が周囲を覆う。


 常人なら、目が慣れないうちは何も見えないだろう。


 とはいえ、人間離れした知覚能力のビビアンには問題ない。


 闇の中でも、はっきりと周囲が見えていた。


 そしてシャナクの言葉にキレる。



「ふざけないで! 休むなら勝手に休みなさいよ! 私は行くわ。あっちからサクセスの匂いを感じるわ。」



 ビビアンは、シャナクの助言を聞かずに突き進んだ。



 ……当然、魔物と木々をなぎ倒しながら。



 シャナクはそれを見て思った。



 もしかして彼女は、勇者じゃなくて魔王なのでは?



 そのくらい、ビビアンの行動は狂気じみている。



 しかしながら、従者として勇者に従うよう王から命令されたシャナクは、ビビアンを追わざるを得ない。



 深いため息を吐きながらも、シャナクは再びビビアンを追いかけた。



 しばらくして、ビビアンは綺麗な泉に辿り着く。



「ここにいる! 間違いない! 草木にサクセスの匂いがするわ!」



 ビビアンが指差す場所は、まさにサクセスが水浴びを覗くためにほふく前進した場所だった。



 恐るべし、勇者の嗅覚。



 しかし残念な事に、サクセスは当の昔にそこから離れていた。



「はぁはぁはぁ……。そ、そうですか。見つかるといいですね。」



 息も絶え絶えになりながら、満身創痍のシャナク。


 馬が途中で倒れてしまった為、森に入ってからは補助魔法を行使して走り続けていた。


 流石にその姿を見たビビアンは、少しだけ考えを改める。



「シャナク。夜はどこかに隠れて休んでいる可能性が高いわよね?」


「そ、その通りかと……。」


「わかったわ。それなら今日は一旦捜索を打ち切るわ。野営にするわよ。」



 シャナクは、その言葉に心の底から安心した。



「そ、それがよろしいかと。後、森を探すのもいいですが、ここまで来たら北にあるテーゼの町に既に向かっている可能性もあります。テーゼの町で聞き込みをするのもよろしいかと……。」



 ビビアンはそれを聞いて考え込む。




 確かにここで捨てられてないなら、その町までつれ拐われている可能性もあるわね。



 そう考えながらも、ビビアンは意識を集中させて周囲の匂いを嗅ぎ始める。



 匂いが薄くなってるわ。

 ここにはもういない可能性が高いわね。



 ということは、



……サクセスは生きている!


 

 そう結論づけたビビアンは、ホッとするあまり緊張の糸が切れて意識を失う。


 如何に勇者とて、今回の捜索は異常過ぎた。


 ビビアンの限界は、とっくに越えている。


 しかしサクセスを思う気持ちが、彼女を突き動かし続けたのだ。


 そんな彼女を、倒れる前に抱き止めるシャナク。


 そのまま眠りについたビビアンの顔は、年相応に幼くも美しかった。



「やっと寝てくれましたか。さて、テーゼでいい情報があるのといいのですが……。」



 シャナクはそう呟くと、周りに結界魔法【ホリフラム】をかけて眠るのだった。

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