第128話 魂縛水
「サクセスさん! カリーは? カリーはどこですかっ!?」
俺がセイメイを抱きかかえてライトプリズンまで戻ると、ロゼが鬼気迫る勢いで詰め寄ってくる。
「安心してくれ。カリーは無事だよ。今、シロマと一緒にイモコを探しに行っている。」
「そ、そうですか……。すみません、取り乱しました。」
安心して力が抜けたのか、その言葉を聞いてロゼはそのまま座り込んでしまった。
遠くからとはいえ、ここからでも大量の龍頭が見えただろうし心配するのも当然か。
「カリー達が戻ってきたら一旦撤退するからそのつもりでいてくれ。それとサスケ。一応聞くけど何もなかったか?」
「こちらは何もなかったでごじゃる。しかし……失敗したでごじゃるか……。」
サスケはそう言うと顔を下に俯かせる。
今後起こりうる最悪の未来についてでも考えているのだろうか?
「話の途中申し訳ございません。サクセス様、これはこれで嬉しいのですが、そろそろ下ろして頂けると助かります。」
「あっ! ごめんごめん。悪かったなセイメイ。」
ハッと自分の状態に気付いた俺は急いでセイメイを腕から降ろす。
「とんっでもございません! このような時でなければ、一生あのままでも私は構わないでございますが……」
「いやいやいや、それはおかしいだろ。」
セイメイのまた意味不明な言動に冷静にツッコミを入れる俺。
普通男に抱っこされて喜ぶ男はいない。
やはりこいつは変態か……
「それよりも今後俺達はどうすればいいんだ? 何か次の策は考えてあるのか?」
とりあえず変な雰囲気になったから話を戻そう。
「申し訳ございません。今の段階ではどうすることもできないかと。しかしながらイモコ殿であれば、何かわかった可能性がございます。全てはイモコ殿から話を聞いてからがよろしいかと。」
さっきまでとは打って変わって冷静なセイメイ。
まじでこいつはなんなのだろうか?
考えるだけ無駄か……。
「確かにそうだな。そしたら最悪俺が奴を引き付けるから、その間に何か考えておいてほしい。」
「わかりました。とりあえず今はウロボロスの状況を……!? あれは!!」
セイメイが突然驚いた声を上げると、俺はそれにつられてセイメイの視線の先に目を向けた。
「なんだよ……あれ。まさか、実は倒していたとかある?」
なんとウロボロスの本体から卑弥呼の顔が消えている。
そして龍頭達も本体に引き込められたのか、ウロボロスは黒い卵の様に丸くなっていた。
「それはありえません。しかしこれは……」
「何か知っているのか?」
「いえ……ただ、ウロボロスの姿は伝承に描かれていた姿と違っていたのです。ですから……もしかしたらですが……」
「まさか!? 今までのは完全体でなかったという事か? 嘘だろ?」
セイメイの言葉に俺は驚きを隠せない。
ただでさえクソ強くて反則級に無敵なのに、あれが完全体でなかったとしたら……
「信じたくはありませんが……とりあえず今は様子を見るしかございません。そしてイモコ殿の無事を祈りましょう。」
未だセイメイの顔からも驚愕は消えてはいないが、そういって言葉を締めくくった。
すると今度はサスケが俺に近づいてくる。
「サクセス殿。これを。」
突然サスケは俺に瓶を渡してきた。
「これは?」
「魂縛水という物らしいでごじゃる。卑弥呼様からサクセス殿に渡すように言われていたものでごじゃる。」
「卑弥呼から? いや、ならなんでもっと早く渡さなかったんだよ? つうか、魂縛水ってなんだよ?」
「わからないでごじゃる。しかしながら、卑弥呼様からは黒き卵が現れたら渡すように言われていたでごじゃる。卑弥呼様が見える予知未来は断片的なものでごじゃる故、詳しい話はわからないでごじゃる。」
卑弥呼の予知?
つまり卑弥呼はこうなる事がわかっていたのか?
ならこれは一体……
「全くわからないのか? それについて?」
「全くわからないでごじゃる。」
自信満々にそう言い放つサスケ。
なぜかわからないが、その蛙面を殴りたくなった。
「サクセス様。そちらを私にお見せしていただけないでしょうか?」
「ん? セイメイはこれが何か知っているのか?」
「わかりませんが……私の力で中身がどのような物か解析することができます。少しお借りしてもよろしいでしょうか?」
解析っ!?
そんな便利な力があるなら……って別に使うような機会はなかったか。
「あぁ、頼むわ。」
俺はそう言うと、セイメイに瓶ごと渡す。
「これは……毒……いえ、猛毒です!!」
セイメイは詠唱を唱え終わり瓶の中身を解析すると、驚愕の声を上げた。
それを聞いた俺は真っ先にサスケを睨みつける。
「これはどういうことだ! サスケ!!」
毒と聞いて疑うのは、当然これをこのタイミングで渡してきたサスケだ。
しかしまさかここにきてサスケが俺達を騙そうとするなど予想できるはずもない。
完全に油断していた。
シロマがいない今、もし知らずにこれを俺が飲んでいたら……
「わからないでごじゃる! 本当でごじゃる!」
必死にしらばっくれようとするサスケ。
蛙面なので表情は読めないが、なんとなく本当に焦っている感じはする。
だが、これを許す訳にはいかないだろ。
「お前……俺達を騙す気か? もしそうなら言ったよな? お前を……殺すと!」
俺は剣を引き抜くと、ひとおもいに一撃でサスケを斬ろうとした。
ーーだが……
「待って下さい、サクセス様!!」
それをセイメイが止める。
「なんでだよ? 俺はこいつを完全に信用していないし、現に俺を殺そうとした。仲間が被害に遭う前に俺はこいつを殺す。だから止めるなよ?」
「すみません。私があんな事を言ったばかりに。しかしながら、サスケは裏切っておりません。」
サスケの前に立ちふさがるセイメイを見て、俺は一旦剣を納める。
「なんでだセイメイ? なぜこいつが裏切ってないと思うんだ?」
「はい。言葉足らずで申し訳ございません。先ほど、私はこの魂縛水というものを猛毒と言いましたが、それに間違いはありません。」
「ならっ!!」
「しかしながら、これは普通の毒ではないのです。常人が飲めば間違いなく強烈な作用により死に至り、更には魂が天に還ることなく、朽ちた肉体に宿り続けるでしょう。」
その話を聞いて俺はゾッとした。
今の話が本当なら、それは猛毒なんてもんじゃない。
絶対に飲んではいけないやつだ。
天国というのがあるのかわからないが、永遠に魂がその場に残るのいうのは死ぬよりも辛い事だけは理解できる。
「……やはり殺そう、セイメイ。そこを退いてくれ。」
あまりの恐怖から俺はその元凶であるサスケに、再び殺意を向ける。
ーーしかし
……セイメイは退かなかった。
「そういう訳にはいきません。今のはあくまで常人ならという事です。魂の器の大きい物であれば、その効果は一時的でしょうし、おそらくですがサクセス様なら特に変化はないかと。」
「なぜそう思う? 魂の器の大きさなんかわからないだろ?」
「はい。しかし、なんとなくですがそう感じるのです。それにこの瓶には見覚えがございます。これは卑弥呼様の持っていたもので間違いございません。故に、サスケが嘘をついているとは思えないのです。」
そういえば、誰かから俺の魂の器は大きいって聞いた事があったような?
しかしそうだとしても無事で済むという保証はない。
それに飲んでも意味ないなら猶更それは必要ないだろ。
「なぁ……どうしてもサスケを殺させるつもりはないのか?」
「はい。サクセス様の為に、私は絶対にここを退くつもりはありません。」
セイメイは頑なにそこを退こうとしない。
しかし俺の為?
確かに俺は仲間は大事だし、できれば人は殺したくない。
だけど、仲間が殺されるかもしれないなら話は別だ。
そのくらいの覚悟は俺にもできている。
「セイメイ殿。もう良いでごじゃる。ボックンの役目はこれをサクセス殿に渡すところまででごじゃるよ。故に、殺されても構わないでごじゃる。」
するとサスケはセイメイの前に出て俺に首を差し出してきた。
流石にそう言われて首を差し出されると、少しだけ殺すのを躊躇してしまう。
「セイメイ。一つだけ教えてくれ。なんでサスケを守るのが俺の為なんだ?」
「はい。サクセス様は心優しいお方。もしも自分の間違いで罪なき仲間を殺したとあっては一生引きずるはずでございます。そんな事を私は容認できません。」
「だが、もしこいつが裏切っていたら?」
「それはありえませんが……その時は私の命をもって償わせていただきます。」
どうやらセイメイは本気のようだ。
そこまで言われたら俺も引き下がるしかないだろ。
「……わかったよ。とりあえずサスケについては今は殺さない。だが! もしも俺の仲間に手を出してみろ! 俺は絶対に許さないからな!」
「わかっているでごじゃる。寛大な判断ありがとうでごじゃる。」
「ありがとうございますサクセス様。それではこれはサクセス様にお返しします。卑弥呼様が必要と言われたなら、必ず必要な時が来るはずです。それまでお持ちください。」
セイメイはそう言うと、俺に再びその瓶を渡してきた。
そして俺が丁度それを受け取った時、ライトプリズンの前にゲートが現れるのであった。
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